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第1話(6)

基地進出(6)
 訓練が始まった。 敵の制空権下では、魚雷艇の行動は夜間となる。 小林隊長が訓練の概要を艇隊長と艇長に説明する。 島影に隠れ、味方の駆逐艦を敵艦に見立て、第1艇隊は右舷方向から、第2艇隊は左舷側から攻撃を加え、第3艇隊は時間をずらせて攻撃する。 島にラバウルから補給に来た輸送駆逐艦がターゲットだ。 もちろん駆逐艦には連絡済のはずだ。

 第1艇隊を率いるのは高橋少尉、海軍兵学校をでたばかりのハリキリ・ボーイだ。 久保田兵曹長の403号艇は第1艇隊の3番手だ。 前の兵の後姿がぼんやり見える暗闇の中で艇に乗り込む。
「行くぞ! 真田、前の艇を見失うなよ。」
「微速前進」
ブルブルとエンジンが始動し、ガゾリンの匂いが鼻をつく。 黒い塊となって、単縦陣で暗い海に乗り出していく。 2Kmほど離れた入り江に身を潜める。 ピタピタと船底を打つ水の音だけが聞こえる。 突然、左前方に黒い艦影が現れ、船首に白波を立てながら進んできた。 隊長艇の信号灯が点灯する。

「始動始め、全速前進!」
「魚雷戦用意!」 「砲戦用意!」
「イヤッホー!」

 艇の船首がぐっと浮き上がって飛び出す。 エンジンの轟音で何も聞こえない。 隊長艇と2番艇の白い後流を追っかける。 照明弾があがり、目標艦を一瞬見失う。 艦は避退行動を始めた。 隊長艇が間をつめ、発射機動をしたのが照明弾の明りの中で、ちらっと見えた。 2番艇は見えない。 目標艦の斜め側面が迫る。

「発射始め!」
「テー!」
「退避、取り舵一杯!」

 転覆しそうになりながら回頭し、全速で退避を始めた。 他の艇は見えない。 突然、暗闇の海面から黒い影が飛び出してきた。 第3艇隊の先頭艇だった。 

基地に帰った後、大目玉をくらったのは、言うまでもない。
     
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