優勢なイラク軍は、最大100キロ、イラン領内に侵攻し、クゼスターン州の半分を占領した。
しかし、イラン軍の必死の抵抗と、自軍の作戦指揮の不手際から、重要目標の奪取には失敗した。
イランの石油都市アバダン包囲戦では、イラクの戦車部隊は近接航空支援がなかったため、
イラン軍の武装ヘリコプター、AH-1Jコブラ(TOW対戦車ミサイル搭載)に攻撃され、大損害を出した。
こうして11月中旬には、両軍の戦いは砲爆撃を繰り返す陣地戦になった。
この戦争を巡る各国の対応は別れた。
イランのイスラム原理主義の波及を恐れるヨルダン、サウジアラビア、クウェートはイラク支援に回り、シリア、リビアなどはイランを支援した。
エジプト、PLO、イスラエル、アメリカ、ソ連は中立の立場を取った。
また、イラン、イラク両国のオイルマネーを充てに、各国の武器が大量に流れ込んだことも、この戦争を長期化させた原因の一つだ。
初田らは中途半端な状態に置かれ、図面を前にため息をついた。
「イラン、イラクとも、軍需産業がないんだから、弾を打ち尽くしたら終わる、と思っていたのに。」
「イラクは早く停戦して、交渉に入りたいようだ。」
「イランはイスラム共和国の存亡がかかっているんだ、簡単には引かないよ。」
「プラントは立ち枯れか。何と付いていないことだ。」
そして各々、別な仕事に散っていった。
1981年に入ると、イラン軍は機甲部隊を先鋒に総攻撃を開始した。
両軍とも300両以上の戦車を繰り出し、激しい戦いを展開した。
また、宗教的情熱に燃えるイランの革命防衛隊が、人海戦術による突撃を繰り返した。
こうして1年後には、イラン軍は失地を回復し、イラク軍を国境の外に追い出した。
しかし、戦争はこれで終わらなかった。
勢いづいたイラン軍は、イラクのフセイン政権打倒、イラクの解放を目指し、バスラ北方の湿地地帯で国境を越え、イラク領内になだれ込んだ。
バスラはイラクの重要な港湾都市であり、また、大きな製油所や海軍基地があることから、イラクにとり失ってはならない場所だ。
このイラク南部での消耗戦は、以後6年弱も続くことになる。
“イライラ戦争”と呼ばれる理由だ。
そして、この戦火はペルシャ湾へと拡大していく。
最新の画像もっと見る
最近の「ペルシャ湾波高し」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- クリミアの歴史(7)
- 「オリエント急行」バルカンを行く(9)
- ウイルスって何だろう(6)
- 不死身の通信ネットワークを構築せよ!(6)
- ヒトラーのいない第二次世界大戦(7)
- 不思議な病気(8)
- 秀吉の野望と挫折(9)
- 生命の源「アミノ酸」(6)
- 「ドイツ民主共和国」の消滅(8)
- ナイルの水争い(8)
- ドン・カザーク(19)
- 貧者の空軍(9)
- 地震って何?(7)
- 遥かなる海へ(16)
- 北軍兵士の見た「風と共に去りぬ」(12)
- 脳内麻薬を捜せ!(9)
- 19世紀パリの光と影(9)
- 若宮丸の航跡(9)
- 原爆スパイ(8)
- 「北京の55日」番外編(8)
- 「地球外生命」はいるか?(5)
- 「林彪事件」の謎(8)
- 金(きん)(8)
- 国歌いろいろ(6)
- 悪党(鎌倉末期)(6)
- 老化を防げ!(5)
- 森の中に消えゆくトラ(4)
- テスラー成功と挫折(0)
- 国境とは?(25)
- 日記(0)
- 大西洋(696)
- ソマリアの青い海(20)
- 吹雪のバルト海(24)
- ペルシャ湾波高し(24)
- ロック・オン(20)
- ワレ「雪風」ト共ニ(20)
- 騎兵隊、前へ!(26)
- 惑星の動きを探れ!(19)
- 東方見聞録序章(25)
- 元素を捜せ!(25)
- レアメタルは戦略物質だ!(6)
- 種はどこから?(17)
- 智の都、アレクサンドリア(20)
- 文化大革命の嵐(22)
- 世界は微生物で満ちている!(19)
- 連合艦隊の誕生(17)
- 鉄砲見参!(18)
- 成功は失敗の始まり(17)
- 黒船の影(19)
- 石油の一滴は血の一滴(15)
- 前門の虎、後門の狼(8)
- 月をめざして(18)
- 水の不思議と太陽の恵み(17)
- がんの正体をあばけ!(10)
- 旅行(0)
- グルメ(0)
バックナンバー
人気記事