佐藤主任の話は続く。
「オイルシェールから石油を採ることとは別に、石炭液化の開発も行っている。」
鈴木は田口先生の講義を思い出した。
「ベルギウス法による人造石油の生産ですか?」
「そうだ。しかしベルギウスは研究室での実験を行ったに過ぎない。」
「この方法による工業化には、多くの課題の解決が必要だ。」
ベルギウス法:
450℃、200気圧前後の高温高圧装置で、石炭に水素を加えると、石炭が液体になる。
「我々はドイツの石炭液化工場を見学したり、攪拌装置を購入したりして、昨年、自前の石炭液化パイロットプラントをつくりあげた。」
「何とか石炭の液化には成功した。」
「しかし、10日以上連続運転を続けると、反応装置が爆発する事故が立て続けに起きた。」
「反応を早めるために使用した触媒で、装置材質の金属に腐食が起こったためだった。」
「今、他の触媒での試験を行っているところだ。」
「君には、早く、このプラントの内容を把握し、開発チームに加わってもらいたい。」
鈴木の机の上には、プラントの設計図や今までの試験報告書が積み上げられた。
1時過ぎ、同じグループの杉山研究員と昼食に行く。
研究棟を出たところにテニスコートがあり、その後の管理建屋の一階に食堂があった。
「試験所というと大学の研究室のような所を想像していましたが、全然違いますね。」
「ああ、ここは産業に直結する開発を目指しているからね。博士でもヘルメットをかぶり、油まみれになっているよ。」
「本土の会社と違い、自由な空気があり、上下の風通しも良いんだ。」
参考図:「満鉄中央試験所」、杉田望、徳間書店、1995
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