※週刊誌ネタばれあり。
十年後骸+十年後綱吉です。
あてどもない道を突き進む。
誰かを騙し。
誰かを偽り。
誰かを裏切る。
そんな道を突き進む。
誰に決められた訳でも、誰に強制された訳でもない。
自分の意思で、この道を進むと決めた。
犠牲なき勝利などあり得ない。
そんな簡単なことに気がついたのは何時だろう。
そんな簡単なことに何故気づけなかったのだろう。
本当は知っていた。
知っていながら、気がつかない振りをしていたのだ、自分は。
それがなんと愚かで、浅慮なことか。
だが生憎今の自分には、その有無を判断できない。
その犠牲を、自ら作り出そうとしている自分には。
…そんな資格すらないのだから。
「今更、ですか。…相変わらず、甘い」
何もない世界。
あの世とこの世を繋ぐ境界線。
あるのはただ、…互いのみ。
そんな世界に侮蔑染みた言葉が降り掛かる。
「…骸」
静かに、綱吉は笑う。
こうして、骸から接触してきたのは何時ぶりだろう。
牢獄に繋がれている骸と回線が繋がる者は少ない。
しかし、綱吉はその数少ない1人だった。
そしてその事を知っている者は互いと、髑髏しかいない。
…現在、生きている人間の中では。
「そう、だな。俺は甘かったよ…その甘さが、今、皆を危険に曝している」
見詰める先には虚空。
その先には、修羅の道しかない。
その瞳は揺るがず、意思は固い。
本当は、骸とてそんなことを望んでいた訳ではない。
だが、骸は誰より今の状況を把握していた。
そして、沢田綱吉という人間を、ある意味では一番正確に理解していた。
沢田綱吉の周囲にいるお仲間や、家庭教師にも見せない部分を、骸は知っていた。
否、感じていた。
互いの意識を共有することは、相手と同調することと似ている。
事実、骸と髑髏にも同様の現象が起こっている。
だが、髑髏の場合骸との力の差や関係性も影響しており、骸側からある程度のシャットアウトは出来る。
しかし、綱吉の場合はそうはいかない。
綱吉の超直感は、その類い稀なる血統に刻み込まれた遺伝能力だ。
しかも綱吉はボンゴレ最強と謳われたボンゴレ一世に勝るとも劣らない能力を受け継いでいる。
血の発現は、その外見からしても一目瞭然。
そもそも、イタリアのボンゴレ本流は初代の弟にあたる人間が継ぎ、初代の正当なる血統と能力ははただ一人、綱吉に受け継がれているのである。
どう見ても、六道輪廻を操る骸の能力を持ってしても、綱吉の超直感には余裕をかませるレベルではない。
そもそも、そうでなければ骸は綱吉に負けてはいなかった。
彼の能力は、匣兵器なしで戦えるほどスペックが高い。
純粋な戦闘能力ならば、今や綱吉に敵うものはそうそういない。
雲雀恭弥や自分ですら、純粋な戦闘能力では後一歩彼に及ばない。
しかも綱吉は『大空』
全ての属性を操り、許容される。
闘い方の甘さを引けば、綱吉はほぼ無敵と言えた。
しかし、そんな綱吉とて白蘭には勝てない。
能力の違いもあるが置かれている環境や白蘭の非道さが、彼との圧倒的な力量の差を見せつけていた。
だからこそ、それ以上の何かがいるのである。
そして、綱吉は賭けた。
―――過去の、自分に。
―――自分達に。
その代償とするは、【沢田綱吉】の命。
計画として、入江正一と共謀していることを白蘭に悟られないため。
そして筋書き通りに行けば、一番【そこ】にいてはならないのは、【沢田綱吉】ということになる。
だからその存在は消滅させなければならない。
だからこそ、沢田綱吉を殺す必要があった。
それも、希望を残すような生温い方法ではなく、絶望をもたらすような方法で。
結果的に言えば、それは成功した。
結局、入江の裏切りを予見していた白蘭には綱吉の死は偽装だと気付かれていたかも知れないが少なくとも敵味方共に沢田綱吉の生を完全に否定した。
その事による計画の実行が開始される。
…いくら特殊弾を使っていたとはいえ、その時の状況如何では沢田綱吉の命がどうなるか不確定だったことは、過去の綱吉達には敢えて伝えるべき事ではないだろうが。
「結局、君は――今も昔も愚かなんですよ」
白蘭の強襲から逃げる、最後のその時まで綱吉は骸の心配をしていた。
昔から、本当に変わらない。
他人の、骸の心配をするぐらいなら、自分の心配をした方がどれ程建設的なことか。
だが、だからこそ・・・そんな彼だから、自分は彼に自分の領域に侵入することを許した。
さもなくば、いくら能力的な問題と言えども、自分に拒絶するだけの能力がない訳ではないのだから。
そして、慣れない【約束】なんかしてしまった。
幾らその場凌ぎのものとはいえ、幻覚を操る骸達幻術師は、事の他言霊には慎重だ。
それが、いくら有幻覚だからとはいえ、肯定の返事をしてしまうなどと。
しかも、それが能力のある綱吉が相手であれば直の事。
それだけで契約に縛られてしまう事になりかねないのである。
それでも、構わない。
そう、骸に思わせてしまった時点で、綱吉の勝ちは決まっていたのだろう。
骸は、嘗て夢渡りの世界で見た虚空に視線を這わす綱吉と先程見た、不安に揺れながらも希望を投げ捨てない綱吉の姿を思い出す。
そのどちらもが沢田綱吉であり、同一人物なのである。
どんな世界でも、どんなパラレルワールドでも。
けれど、決してその瞳の輝きだけは変わらない。
そんな綱吉に、骸はきっと、もう。
囚われていたのであろう。
だからこそ、こうして無茶を承知でわざわざ有幻覚を使ってまで彼らのピンチに駆けつけた。
らしくない、そんな事は百も承知。
けれど、この白蘭が支配する世界だけは、どうしても承服できるものではないから。
それならば。
自分は【彼】を選ぶ。
とても愚かで、生温い、どうしようもないこの【沢田綱吉】という、人間に。
彼の作り出す大空を、この先の路に見てみたいから。
だから、この路を歩む。
どんな時代。
どんな世界。
どんな立場でも。
彼の作る未来に想いを馳せて。
愚かな彼の、後ろに控える。
それが、素直じゃない自分の、ギリギリの意思表示だから。
「だから、お互い生きて、また逢いましょう」
路の先、初めての約束が守られるのは、後もう少し先のこと-----。
コメント:随分書いては止まって、買いては止まってを繰り返して携帯の保存フォルダに残っていたブツです。
先週の祝☆十年後骸とご対面記念に、無理やり繋げて見ました(笑)
しかしこうして見ると骸って外見そんなに変わってないのかしら・・・・?