環境分析研究所

全部又は一部の複写・頒布できません。
利用の結果、損害等一切責任を負いません。

東日本大震災がれき処理物語 (その2)

2015年09月19日 22時23分53秒 | まちの環境
東日本大震災がれき処理物語 (その2)   
                           
 はじめに
 平成23年3月11日14時46分三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の東日本大地震が発生しました。
あれから3年過ぎましたが、地震と津波により約2,000万トンのがれきを広域処理するため、愛知県内の3候補地の震災がれき受け入れ対応について、前回に引き続き収集資料と取材から各市の対応について掲載します。
なお、平成24年6月21日に愛知県は震災がれきの広域処理対応の新設焼却炉設置を中止し、8月23日には被災地でのがれき処理の目途がついたとして受け入れを撤回することを発表しました。

第3章  愛知県内の震災がれき受入対応について

愛知県が独自のがれき置き場や焼却施設と最終処分場設置候補地として、知多市、碧南市と田原市の3自治体と、東海市のご理解により福島第1原子力発電所事故による放射線物質の影響を受けた姉妹都市である釜石市のがれき等現地調査の結果を専門家の評価を掲載しました。  
(1) 災害廃棄物の受入れ基準策定支援業務委託業者決定
平成24年4月24日に愛知県が平成24年4月9日専決処分により「受入れ基準策定支援業務」について、受託業者を発表しました。
業務内容は災害廃棄物の受入れ基準、埋立基準の提案、放射性物質等の検査体制の提案などを指名競争入札により、株式会社テクノ中部と契約金額2,470千円(消費税抜き)で契約しました。
愛知県は平成24年6月15日にがれきの放射能濃度に関する埋立基準、受入基準を発表しました。

1 知多市の震災がれき受入対応
(1) 知多市の概況 
知多市は知多半島の北西部に位置し、西は伊勢湾に面し約15kmの海岸線を有し、地形は平坦地に中部から東部地域にかけて丘陵地となっています。
農業、漁業、繊維産業が主な産業であったが、昭和37年10月より始まった臨海部の名古屋南部臨海工業地帯の南3区、南4区に、火力発電、石油精製、都市ガス供給、造船、食料品及び飼料製造などの企業が進出しています。
知多市は昭和45年9月に市制を施行しました。
知多市の基本データ
総面積   45.76 平方Km 製造品出荷額等 110,385[百万円](H24) 
人 口   85,751人 (H26.4.1現在) 財政力指数   0.96 (H25 単年度) 

 知多市役所
(2) 知多市名古屋港南5区埋め立て候補地
知多市の名古屋港南5区Ⅱ工区は名古屋港管理組合(管理者は愛知県)が所有しており、平成22年に一般廃棄物と産業廃棄物で埋め立てが完了しています。
今回は埋め立て地一部を掘り返して50万トンのがれきを受け入れようとするもので、仮置き場と焼却施設の建設するほか焼却灰の最終処分場を整備するものです。 

(3) 知多市のがれき受入対応 (知多市議会会議録から) 
 1 基本的な姿勢 
南5区Ⅱ工区の災害廃棄物の受け入れについて、広域的な処理は必要であるが、放射性物質による健康被害や風評被害が心配される中で、受け入れの正式な要請もなく愛知県が一方的な計画の進め方に苦言を申し入れをする。
県が主体性を持って説明会の開催や地域住民や県民の理解と同意により、市は民意を尊重しつつ市民生活の安心・安全を第一に慎重に判断する。

2 災害廃棄物の受入量調査(愛知県が実施)
平成23年4月に知多市は年間約1,500トンの受け入れが可能と、県へ報告したが、岩手県及び宮城県の災害廃棄物から放射性セシウムなどが検出されたことから、平成23年10月の時点では受け入れには白紙である。

(4) 放射線量測定器の購入
現時点での購入の予定はないが、災害がれきが持ち込まれるとなれば、市民の安全確保の観点から検査態勢を整える。

(5) 市民説明会の開催
  住民説明会は県独自の受け入れ基準やボーリング調査等に基づく受け入れ施設の工法など、災害廃棄物の受け入れに向けた各種の調査結果がまとまり、科学的データが取りそろった段階で住民説明会を開催されるので、市が市民説明会を開催する考えはない。

(6) 寄せられた意見の件数とその内容
1 南5区Ⅱ工区での災害廃棄物の受け入れを表明した平成23年3月24日から、市内外から電話やメールが届いた。
平成24年6月議会までの総数は1,167件である。
2 意見内容は、賛成は極めて少数で大半が計画を疑問視するものと不安や反対をするものである。
主なものは、広域処理による放射性物質拡散に対する批判。地元の意見も聞かずに受け入れを表明した県の対応への批判。廃棄物の受入基準に関する意見、放射性物質の子どもへの影響や食物を通じての内部被曝を心配する不安の声。知多半島の農業や水産業、観光地に及ぼす風評被害を心配するものなどである。

(7) がれき推計量の見直
平成24年5月21日環境省が、岩手・宮城両県の災害廃棄物の推計量の見直しを行い、広域処理の必要量が当初の推計量から約4割減になると明らかにした。
また、木くずは、協力を表明している全国の自治体でほぼ処理できるとの見通しが発表された。
愛知県は、災害廃棄物の受け入れに向けた検討・調査中であり、精査・整理した後にしており具体的な見直しの方向性は示されていないが、知多市は当初の想定とは変わったことから、県へ受入計画の見直しを訴えた。

(8) 風評被害
愛知県は風評被害について、国と連携しながら県独自の基準の設定や、きめ細かなモニタリングを行うなど、安心安全の確保のための対策を行い、風評被害を生じさせないよう万全を尽くすとしたが、風評被害は人の心に起因するものであるとして臨むこととしている。

(9) 人的支援
知多市も震災直後から救出・捜索活動、健康相談、家屋等の被害調査、土木復旧、選挙事務などに、平成23年度末までに延べ51名を宮城・岩手・福島の各自治体に派遣しており、現在も職員1名が福島県南相馬市において道路等公共施設の災害復旧業務に当たっている。派遣先からは知多市の職員の活躍を高く評価され、感謝が伝えられている。

2 碧南市の震災がれき受入対応  
(1)  碧南市の概況 
碧南市は、県内唯一の天然湖沼(歴史的には異なる資料もある)と言われている油ケ淵と矢作川、衣浦港に囲まれ、碧海台地と矢作川沖積地からなり、窯業、鋳物、醸造の伝統産業と農業、漁業に輸送用機器関連産業とともに調和のとれた産業構造となっています。
碧南市の誕生は昭和23年で、新川・大浜・棚尾・旭の4か町村が合併して愛知県で第10番目の市として誕生し、その後昭和30年に明治村大字西端を合併しました。
昭和32年には衣浦港が重要港湾の指定をされて、臨海工業地域2号地には発電能力410万KW/hの石炭火力発電所が立地しています。

 碧南市の基本データ
総面積  35.86平方Km 製造品出荷額等 766,769[百万円] (H22)
人 口  72,207人(H25.3.31現在)   財政力指数    1.00 (H25 単年度)

  碧南市役所
(2)  碧南市川口地町内会の震災がれき受入を問う投票
碧南市川口町内会は愛知県が東日本大震災がれき受け入れ候補地にした中部電力碧南火力発電所に隣接しており、市内で一番南に位置し矢作川の河口にある。
川口町内会は平成24年6月3日に法的拘束力はないが、無記名で投票する方法により町内会員の98世帯等の合計105票を1票ずつ、がれき処理の受け入れをするかを問う投票を行いました。
投票結果は反対87票、賛成8票、白票3票で、投票率は93.3%で反対が88.8%であった。これは、愛知県が具体的な説明がないまま新聞発表されたため、住民の意思に関係なく計画を進められていくことへの危機感と、この地区は農業の盛んな地区で碧南火力発電所に隣接していることから、農作物等への風評被害が懸念されるため。

(3) 碧南市のがれき受入対応経緯         (碧南市議会会議録から)
平成24年 がれき受入対応
3月18日 中日新聞の朝刊に震災がれきを碧南火力に処理施設を設置の記事が掲載される。
3月24日 愛知県が知多市名古屋港南5区に県独自のがれき仮置き場、焼却施設、最終処分場の設置を検討
3月26日 愛知県担当者から知多市名古屋港南5区での処分について説明を受ける。
4月5日 愛知県が県内3ヵ所の候補地にトヨタ自動車の田原工場、知多市名古屋港南5区と中部電力碧南火力発電所に焼却施設と最終処分場、仮置き場を建設するための調査や設計等の費用6億円を専決処分により予算措置された。
4月5日 愛知県担当者からトヨタ自動車の田原工場、知多市名古屋港南5区と中部電力碧南火力発電所の3ヵ所での処理の検討について状況説明を受ける。
4月9日 愛知県の中部電力碧南火力発電所への受け入れ表明と受け入れを検討する経過及び状況説明のため、副市長が近隣市町を訪問した。
各市町とも連絡調整を密にし、歩調を合わせたいとの意向
4月10日 愛知県が災害廃棄物に関する情報連絡会を開催。災害廃棄物の受け入れに向けた取り組みについて報告。地元説明もなく計画を進めるのは強引であるなどの批判的な質問や意見があった。
4月17日 愛知県市長会の勉強会が開催され、愛知県から災害廃棄物の受け入れに向けた取り組みについて報告。市長会に受け入れ課題を協議する研究会を設置する。
4月24日 愛知県が受け入れ基準の策定支援業務、委託先を入札で決定したと発表
4月24日 愛知県担当者から専決処分した6億円で、候補地に焼却施設と最終処分場、仮置き場を建設するための調査や設計調査に入いる説明を受ける。
4月27日 愛知県が搬入手法等調査検討業務、委託先を入札で決定したと発表
4月27日 愛知県市長会で、市長から既存の焼却場で浅く広く処理をと主張した。
5月15日 愛知県が碧南地区での生活環境影響調査業務の委託先を入札で決定したと発表
5月16日 愛知県が碧南地区での地質調査基本検討業務の委託先を入札で決定したと発表
5月16日 愛知県市長会の研究会で放射線に関する基本事項と人体への影響について講演会
5月17日 愛知県担当者から受け入れのための調査に入る説明を受ける。
5月30日 市議会協議会に碧南火力の震災がれき処理施設設置の設置について、中日新聞朝刊に掲載以降の経過について報告
5月31日 愛知県の担当者から碧南市大浜下区町内会長に碧南地区での調査に入る説明
6月5日 愛知県の担当者から碧南市の連絡委員幹事会に、大浜下区町内会と同様の内容で碧南地区での調査に入る説明をした。
6月7日 大浜漁業協同組合に県の担当者が出向いたが説明できなかった。農業関係者にも説明はできていない。
(4) 市民へ環境放射線測定器を貸出
福島第1原子力発電所事故による放射線物質の放出の影響を市民が直接測定するめ、簡易型空間放射線量測定器の貸出をしています。
また、市内4カ所で環境放射線測定結果を碧南市のホームページで公表をしています。

 (5) 碧南市内4カ所の空間放射線量の経過
   市ホームページから市内公共施設4カ所の平成24年7月~平成26年12月までの空間放射線量測定結果は、概ね0.06~0.09μSv/hの範囲内にありました。これは環境省が定めた基準の0.23μSv/h以下でありました。
 (0.23μSv/h=第4章を参照、μSv/h=マイクロシーベルト/時)
測定機器:シンチレーション式サーベイメータ
日立アロカメディカルTCS-172B   (単位:μSv/h)
     ※ 市ホームページの空間放射線量測定結果からグラフを作成しました。
 あおいパーク体験農園ハ-ブ園
         
3 田原市の震災がれき受入対応
 (1) 田原市の概況       
田原市は海岸延長約100kmに及ぶ風光明媚な三河湾、太平洋と伊勢志摩を臨む伊勢湾に囲まれた渥美半島のほぼ全域が市域となっています。
昭和43年の豊川用水全面通水以来、電照菊・ガーベラなどの花き、キャベツ・ブロッコリーなどの野菜、肉用牛・豚などを中心に収益性の高い農業により平成18年に農業産出額は全国第1位となった。
田原町、赤羽根町との平成の大合併により、平成15年(2003年)8月20日に市制施行により田原市となりました。さらに、平成17年(2005年)10月1日渥美町の編入合併により新「田原市」が誕生しました。
田原市の基本データ
総面積  188.81 平方Km 製造品出荷額等 1,795,251[百万円](H24) 
人 口   64,740人(H26.4.30現在) 財政力指数    0.96 (H25単年度)      

   人口はトヨタ自動車(株)田原工場が操業開始後の昭和55年の6万人余から  
  増加した。
  田原市役所

(2) 田原市のがれき受入対応経緯 (田原市ホームページから)
(東日本大震災による災害廃棄物(がれき)受け入れに関する田原市の対応より)
    
平成24年  がれき受入対応
4月5日 1 愛知県が東三河地域8市町村で構成する東三河広域協議会に対し説明
2 東三河広域協議会による災害廃棄物への対応の意見要旨は次のとおり(一部要約)
・ 災害廃棄物(がれき)の受け入れは、住民の安全の確保と、放射能汚染を拡散させないことが大原則
・  国は広域処理の合理性の再検証し、汚染がれきの定義や処理方法など、災害廃棄物(がれき)受け入れの安全性に関して説明を。
・ 愛知県は、受け入れ基準と安全管理体制等の具体的な受け入れの手順を示し、県の責任で地域住民の理解を得ること。
・ 国内外の風評被害の影響が懸念されるため、国・県は十分配慮を。
・ 東三河広域協議会は、被災地における災害廃棄物(がれき)の現状と処理を把握するため、被災現地の調査を行い 、国の説明や愛知県が示す受け入れ基準等を勘案し、受け入れの可否を検討する。
3 田原市は上記意見要旨の方針に基づき対応をする。
4月10日 「東日本大震災の災害廃棄物に関する情報連絡会」開催(主催:愛知県)
議題1:災害廃棄物の広域処理について(説明者:環境省中部地方環境事務所)
議題2:災害廃棄物の受け入れに向けた愛知県の取組について
(説明者:愛知県環境部資源循環推進課)
4月17日 「災害廃棄物の処理についての愛知県市長会勉強会」開催
(主催:愛知県市長会)
内容1:災害廃棄物の現状と国の処理計画について
(説明者:環境省広域処理推進チーム)
内容2:愛知県の取り組みについて(説明者:愛知県環境部)
決議事項:愛知県市長会として、災害廃棄物の処理に関し必要な調査、研究を行い県内各市間の情報共有を図る研究会を設置する。
4月23日~25日 「東三河広域協議会 被災地調査派遣チーム」による被災地現地調査
(主催:東三河広域協議会)
派遣先:宮城県仙台市、石巻市、南三陸町ほか岩手県陸前高田市
調査項目:災害からの復興状況、災害廃棄物の処理状況、被災自治体の要望等
4月24日 「第157回愛知県市長会議」開催(主催:愛知県市長会)
内 容:大村秀章愛知県知事との意見交換  
4月26日 被災地調査派遣チームから東三河広域協議会へ報告       

5月13日 「東三河広域協議会臨時役員会」(主催:東三河広域協議会)
  内容:震災廃棄物の受け入れに係る東三河8市町村の取り組みの基本的な考え方について(東三河における災害廃棄物の受け入れの可否を確認) 
6月15日 愛知県が市町村長会議において、東日本大震災による災害廃棄物の受入基準など説明。県内の自治体などに試験焼却についてのアンケート調査を実施依頼
6月21日 「東日本大震災に伴う災害廃棄物の受入れに関する愛知県の方針変更について」
愛知県が県内3か所で計画している災害廃棄物の処理施設(焼却施設、仮置場、最終処分場)は、可燃物の中長期的な見通しが立ちつつあり、新たな焼却施設は設置しない方向で検討 
7月28日 田原市役所で愛知県知事と田原市長が面談
災害廃棄物に関して今後の県の予定について説明を受ける。
知事説明要旨
8月末から地元説明会を順次開催したい。
説明会は災害廃棄物の受け入れ場所、種類、搬入ルート、最終処分場の工法、生活環境への影響等を説明したい。
市長発言要旨
地元・農業漁業者等に十分丁寧な説明と対応を。
8月10日 「災害廃棄物の試験焼却の実施に関するアンケート調査について」
県から試験焼却のアンケート調査に回答。【回答】試験焼却は実施しない。 
8月23日 「愛知県は災害廃棄物の受け入れを中止すると発表」
愛知県は環境省・宮城県から災害廃棄物処理の見込みについての説明を受け、これ以上受け入れを進めることにはならないと判断した。
8月28日 愛知県知事が田原市長・市議会議長に災害廃棄物の受け入れ中止に至る経緯を説明

(3) トヨタ自動車㈱ 田原工場にがれきを受入
   トヨタ自動車㈱が平成23年6月15日愛知県へ、地元の理解を前提に震災がれきの受け入れ候補地に認めることを発表した。

4 東海市の震災がれき受入対応
  東海市は震災がれき処理候補地である名古屋港南5区2工区(知多市)に隣接しており、東日本震災地復興の支障となる震災がれきの状況を把握するため、姉妹都市で  
ある釜石市の現地視察をしました。
この視察で得た震災がれきやクリーンセンターの焼却灰を採取し、放射性物質の分析結果を2人の専門家に評価を依頼しました。
測定結果と評価については平成24年5月1日・15日合併号と6月15日号の「広報とうかい」に掲載されました。

5 釜石市災害廃棄物の放射性物質の測定結果及び評価
東海市「広報とうかい」(平成24年5月1日・15日合併号、6月15日号)の記載内容等を東海市のご理解により引用しました。
  東海市役所

(1) 広島大学名誉教授・医学博士 早川 式彦 氏の評価
    放射能の量はベクレル(Bq)で表しますが、放射線を浴びる人体への影響度はシーベルト(Sv)で表します。今回視察した釜石市の災害廃棄物試料の放射性セシウム濃度の最大は、新工場(沿岸南部クリーンセンター)の飛灰の890Bq/kgです。実際は考えられませんが仮に、摂取量を最大限に考え、1年間毎日、1kgを経口摂取し、かつ1kgを吸入摂取した場合、人体への影響度シーベルト換算では15.185mSv/年となります。
    国は、災害廃棄物の埋立処分基準を放射性セシウム濃度の合計値で8,000Bq/kg以下と定めていますが、前述と同様に、放射性セシウム134及び137の濃度を各々4,000Bq/kg(合計値8,000 Bq/kg)摂取した場合、シーベルト換算では132.86mSv/年になります。また、放射性セシウム134及び137の濃度を各々100Bq/kg(合計値200Bq/kg)摂取した場合は3.323mSv/年になります。
   原爆被爆者では、1回の放射線被ばくが5mSv以下では被ばくしていない人と比べ、放射線の危険性は統計的な有意差は認められていません。
  以上のことから、災害廃棄物の受け入れにあたっては、市民の不安を鑑み、放射性セシウム134・137の合計値200Bq/kg以内のもので、焼却・溶融後の飛灰等の埋立処分はコンクリートで埋包するなど生態系と遮断すれば問題はないものと考えます。
    なお、関西広域連合等が示す災害廃棄物の放射性セシウム濃度の埋立処分基準2,000Bq/kgは、毎日被ばくしているわけではなく、基本的に人体への影響は問題ないものと思われますが、国の示す埋立処分基準8,000Bq/kgは、あまりにも高過ぎるものと考えます。

(2) 名古屋大学教授・工学博士 井口 哲夫 氏の評価
   今回視察した釜石市の災害廃棄物試料の放射性セシウム濃度は、仮置場の可燃物で42~197Bq/kg、焼却により濃縮された溶融飛灰でも420~890Bq/kgに留まっており、国が安全に埋立・管理できる放射能濃度レベルとして設定した8,000Bq/kgを十分に下回っています。また、焼却に伴う濃縮係数は、溶融方法がシャフト式の場合、最大でも25倍程度を見込めばよいと考えられます。さらに、この飛灰の空間線量率も0.1~0.13μSv/hで、わが国で観測される自然放射線の最大値程度(岐阜県等山岳地域の自然放射線相当)であり、特に人体や環境へ影響のある放射線レベルではないものと考えられます。
    国は、放射性セシウム濃度の災害廃棄物の埋立処分基準を8,000Bq/kg以下、受入基準を240~480Bq/kg以下と定めていますが、国が法令等において放射能濃度基準を定める場合、対象となる放射性物質のある場所から、その最も近いところで作業や生活をされる人へ放射線が到達するさまざまな起こり得る経路を想定して被曝線量を評価しています。この方法論は国際的にほぼ確立されており、安全側に設定するのが常となっています。
    今回の災害廃棄物の放射性セシウム濃度の埋立処分基準8,000Bq/kgも、全く同様の手法で算出されており、その作業を実施する人の自然放射線に追加される年間の被ばく線量が「1mSv/年」(公衆被ばくの線量限度)を超えないこと、さらにその埋立処分場跡地に居住しない条件で利用する場合には、子どもを含む一般の人が受ける追加の年間の被ばく線量が「0.01mSv/年」(放射性物質であるか否かを判断するクリアランスレベル)を超えないことを条件に算出されています。
 従って、災害廃棄物の放射性セシウム濃度の埋立処分基準としては、国が示した8,000Bq/kg以下、焼却前に受け入れる可燃物の放射能濃度では、例えば濃縮係数を25倍として、300Bq/kg以下であれば特に問題ないと考えます。
    なお、災害廃棄物受け入れを先行して検討している自治体の中には、国の基準よりも低い値(関西広域連合等の埋立処分基準2,000Bq/kg)を独自設定するところも少なくありません。技術的な「安全」という合理性の観点からは、国の設定で十分安全と考えますが、作業条件や埋立面積等をより安全側に設定し、さらに住民の方の意向も反映して設定されたものと聞いております。

(3) 放射性物質の測定結果(平成24年5月1日・5月15日合併号)
市では、東日本大震災被災地の復興の大きな支障となっている災害廃棄物(がれき)の状況を把握するため、姉妹都市である岩手県釜石市を4月4日から6日まで視察しました。
現在、釜石市内には震災前の一般ごみの約40年分に相当する推定82万トンのがれきがあり、仮置場などに積み上げられています。
視察したがれきの仮置場や清掃工場において試料採取などを行い、持ち帰った試料について放射能濃度を測定しました。
放射能濃度の測定結果は、仮置場のがれきに含まれる放射性セシウムが1キロ
 グラムあたり最大で197ベクレル、清掃工場から排出された灰からは最大で890ベクレル検出されました。
    国(環境省)は、灰を埋め立てできる放射性セシウムの基準値を8,000ベクレル以下、がれきを受け入れる際のがれきに含まれる目安を240ベクレルから480ベクレル以下としていますが、愛知県では受入基準などは決めていません。
    市では、今回の測定結果について、放射能の専門家2人に評価を依頼しており、結果についても広報などでお知らせしてまいります。
今後の対応については、今回の測定結果や専門家のご意見などを参考にしながら市議会と協議してまいります。

(4) 放射性物質の測定結果
1 放射能濃度

① 仮置場                     単位:Bq/kg
区 分 ヨウ素 セシウム134 セシウム137 セシウム 合 計 主たる構成物 備考
鵜住居 ① 不検出 64 100 164 紙類、布類ほか 一次
仮置場
② 不検出 55 46 101 木材、プラスチックほか
③ 不検出 77 120 197 紙袋ほか
片岸 ① 不検出 不検出 不検出 不検出 木材 二次
仮置場
② 不検出 38 57 95 木材
③ 不検出 19 23 42 紙類ほか

●採取日時…鵜住居仮置場 4月5日午前8時40分、片 岸  4月5日午前9時30分
※国の受け入れ目安 240~480 Bq/kg以下


② 清掃工場                     単位:Bq/kg
区 分 ヨウ素 セシウム134 セシウム137 セシウム 合 計 備    考
新工場 飛灰 不検出 360 530 890 シャフト炉式ガス化溶融炉 一般ごみに、がれき (畳・衣類など)を3~4割混合
スラグ 不検出 9.8 17 26.8
メタル 不検出 2.5 不検出 2.5
旧工場 飛灰 不検出 180 240 420 シャフト炉式ガス化溶融炉 がれき(木片など)のみ
スラグ 不検出 不検出 不検出 不検出
メタル 不検出 不検出 不検出 不検出

●採取日時…新工場  4月5日午後2時15分、旧工場 4月5日午前10時30分
※国の埋め立て基準 8,000 Bq/kg以下

2 空間放射線量                     単位:μSv/h
区 分 飛灰 スラグ メタル バックグラウンド
新工場 0.12~0.13 0.06~0.08 0.06~0.08 0.06~0.08
旧工場 0.10 0.07 0.05 0.06~0.07

  ●測定日時…新工場 4月5日午後2時15分  旧工場 4月5日午前10時30分
(参考)東海市内小・中学校等37か所の平均値0.07μSv/h(H23.11.1測定)
(平成24年5月1日・15日合併号 放射性物質の測定結果より)

第4章 参考資料

1 年間1ミリシーベルトの被ばく線量基準
  環境省は放射性物質汚染対処特措法に基づく汚染状況重点調査地域の指定や、除染実施計画を策定する地域の要件を、毎時0.23μSv(測定位置は地上50cm~1m)以上の地域としている。
  原発事故による追加被ばく線量の年間追加被ばく線量基準は1mSv
    0.19μSv/h (事故由来分)+0.04 (自然放射線分)=0.23μSv/h
 追加被ばく線量年間1ミリシーベルトは1時間当たりに換算すると、毎時0.19 マイクロシーベルトとなる。
1mSv/365日×(8時間 + 0.4 × 16 時間)=0.19μSv/h
   8時間=屋外に8時間
16時間=木造家屋内に16 時間
0.4 倍=木造家屋の遮へい効果  
参考資料:災害廃棄物安全評価検討会環境回復検討会資料

2 TCL(塩化タリウム)の内部被爆による減衰の経過 
  疾患を診断するため、放射性医薬品である塩化タリウム注射による内部被爆の減衰経過を測定してみました。
  放射性物質である医薬品塩化タリウム-TL201注射液による、一時的内部被爆では
代謝による減衰効果について、体表面10cm以内の近傍で簡易測定してみた結果、よく言われているように約1ヶ月間で測定範囲以下となり測定を終了しました。                        
   TCL(塩化タリウム)の内部被爆による減衰グラフ
      簡易測定:家庭用放射線測定器 エアカウンターS 
              (測定範囲 0.005μSv/h~9.99μSv/h)  
   
    
  あとがき
平成23年3月11日の東日本大震災から3年も過ぎ、4年目を迎えようとしています。最近では震災関連新聞記事も少なくなりましたが、今でも避難所生活が続いています。
かつて経験のない放射能汚染「震災がれき」の受け入れ対応を次に伝えるものとなればとの想いで、平成26年に引き続き2回目は各自治体がどのように「震災がれき」の受け入れ対応をしたかなど「東日本大震災がれき処理物語 その2」を掲載することができました。
まだまだ、伝えなければならないものもありますが、また機会があれば視点を変えて掲載ができたらと思います。
今回は、各自治体のホームページや広報等を参考させていただき、東海市の「広報とうかい」や「田原市の災害廃棄物受け入れ対応経過」等に引用の許諾をいたき掲載することができましたことに感謝申し上げます。

 参考資料
  中日新聞・毎日新聞(震災関連記事)
  環境省ホームページ
  放射線医学総合研究所ホームページ
 知多市、碧南市、田原市の市ホームページ及び議会会議録等
   広報とうかい(平成24年5月1日・15日合併号、6月15日号)