母の「自分の部屋」とは？

2023.06.28（水）



　蒸し暑い一日。風は心地いいんだけど、歩いているだけで汗が噴き出す。
　仕事の前に、母の面会。
　「事前に予約して、入り口の広いホールの片隅に設置された場所での面会」という制限付きではあるけれど。
　次の大台を目前にして、「いつまでこうやって生きているのかしらね」と冗談めかして言うようすは2週間前と少しも変わらない。肌の色つやもいい。
　美味しいという食事のこと、好きなスタッフさんたちのこと、そして相方の名前を出して、「何か好きなものを買ってあげてね」と何度も言う。
　そこまでは少しも変わらない。
　だけど、なんとなく少しずつ、母は先に進んでいくような気がする。うまく言えないけれど。
　いつもどこか前のめりに暮らしていた母が、ゆったりと深く腰を下ろして座っている・・・という感じか。この年齢だもの、そんなこと当たり前なんだろうけど。
　最後まで続けるのかなと思っていたお肌の手入れ（お気に入りの化粧水やクリームを駆使する）も「面倒だからやめたわ」と。そういえば、ここしばらく「買ってきてね」がなかったな。
　そして、「最近自分の部屋に行かなくなったから、どうなっているのか気になるんだけど。今日も行こうと思ったんだけど、行き方もわからないしね」と言っていた。
　どうも今の部屋ではないところに、本当の自分の場所があると思っているようだ。
　否定はせずに、そこがどういうところなのかと尋ねてみる。実家のことかと思ったが、そうではないと言う。
　「そこに行ってそこで暮らしたいの？」と問うと（娘としては、そこがいちばん気がかり）、「違うわよ。荷物が置いてあって狭いから、どうなっているか気になるだけで。そこに行きたいわけじゃないわよ」と。
　それで話は終わってしまったけれど。
　母には何が気がかりなんだろう、と帰り道、ずっと考えていた。どこを思い描いているんだろう。

　仕事中に友人から電話があり、そのことを話してみたら、「そんな部屋はないわよ」と否定しなかったことだけで「〇をあげる」と褒められた（笑）。
　母にしか見えない場所もあるんだから、きいていてあげなさい、と。


『ラストマン～全盲の捜査官』
　　https://www.tbs.co.jp/lastman_2023_tbs/
　皆実さんとシンディ、同じ母から生まれてきた異父兄弟なんだろうとは思っていたけれど、幼いころに短くとも共に暮らしたこともある、正真正銘の兄と弟だったとは・・・。家族団らんの光景が秀逸だった。
　父の最期に「ごめんね」・・・は反則ですよ、心が揺さぶられてしまったではないか、シンディ。
　100％カッコいいわけではないけれどハンデを受け止めて、ちょっとおふざけも心地よい福山さんも、いつもよりはコミカルちょい控えめなマジな大泉さんも、よかったですね。
　一話完結のストーリーとドラマ全体を覆う根深いストーリーが、どちらも心に残りました。もちろん、長い時間を犠牲にした悲劇を美談っぽくとらえることはできないけれど。
　毎回、画面が暗転してからの二人の会話（アドリブなの？）にクスッとしながら、次の週を楽しみに待つ、という感じかな。


『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』
　　https://www.tbs.co.jp/p_train823_tbs/
　当初から、大人版『十五少年漂流記』だと思いつつ見ていたので、ラブストーリー的な匂いが薄くてよかった。
　もちろん『十五少年漂流記』はタイムスリップのお話ではないし、友人は「そこに行きつく？」と呆れていたけど。
　子どものころ、夢中で何度も何度も読んでところどころ会話（もちろん翻訳本ですけど）も完ぺきに覚えていた身としては、何十年ぶりかの興奮でした（『漂流教室』はまったく通ってこなかったので）。群像劇も嫌いじゃないし。
　追い詰められた人間たちのサバイバルドラマとはちょっと異なり、人間同士の関わりや現実の社会での生きにくさとか、そんな社会的な意味あいの濃いドラマではあったけれど。
　主人公三人があまりにカッコよくて、それに気づいてからは、シリアスな生き残り劇としてより、そのカッコよさをいい気持で楽しむ、・・・というふうに変化していった。ほかの登場人物たちの誰かに感情移入して見ることのできるドラマでもあったかな。
　ラストをどうするのか、回を重ねるごとに気になっていた。タイムスリップドラマでの大きな難しい課題。
　結局見ている人それぞれに委ねたのは、ちょっとずるい気もするけど正解なのかな。