隠れ家-かけらの世界-

今日感じたこと、出会った人のこと、好きなこと、忘れたくないこと…。気ままに残していけたらいい。

しばし立ち上がれませんでした~『マグダレンの祈り』~

2007年04月21日 14時56分56秒 | 映画レビュー
マグダレンの祈り』ピーター・ミュラン監督(2002年、イギリス-アイルランド合作)

●事実に基づく驚愕の世界
 性的に問題を抱えたとされる女性を戒律の厳しい修道院に隔離し、非人道的な生活と過酷な労働を課して虐待とも思える戒めの毎日を送らせる…。そういう施設(カトリックの教えのもとに「修道院」という名前を与えられ)が1996年までアイルランドに存在していた、という事実にまず驚愕する。
 DVDにおさめられたノンフィクション『マンダレンの真実』によると、この映画は事実をもとに制作された、とあり、1940~50年代にここに収容された70代あるいは80代と思われる女性が、そこでの驚きの生活を語っている。
 性教育など考えられず、中絶が許されなかった時代に、未婚の母が増えるのは当然のこと。結局、生まれた赤ん坊を養子に出し、若い母親をこのような修道院に入れる…、そういうことが当たり前のように行われていた。
 そして、汚らわしい女としてさげすまれ、修道女たちのいじめとも思われる好奇の対象になっていたという話をきくと、かつて宗教とはどんな存在だったのかと、怒りを通り越した思いを抱いてしまう。生きている人を救うことより、規律や道義を守ることのほうが優先されて、なにが宗教だ。精神を病み亡くなった女性もいるという。
 そこを脱走し新しい生活を始めた女性が最後まで敬虔なカトリック教徒だったという事実に、複雑な思いになる。

●あきらめない三人の女性
 重いテーマを抱えてはいるけど、映画は思いのほかおもしろい。おもいろいというか、流れについつい乗ってエンドロールまで一気に進み、観終わったあと、どっと重くなる。『カッコーの巣の上で』や『ディアハンター』を観たときのような、からだ全体に錘をつけられてしまったかのような…。
 映画の舞台は1964年。ビートルズがすでに活動していた時代、と思うと、まるで別の惑星での物語のようだ。
 中心となる三人の女性(少女と言ってもいいかもしれないけど)がみんな魅力的。ちょっと制作意図が伝わりすぎるかのようにタイプ分けされているけど。
 バーナデット(演じているノーラ・ジェーン・ヌーンは新人だそうだけど、目に力のある女優)は孤児院で子ども時代を過ごしていた美しい女性。自分の美しさを十分にわかっている賢さと世の中への反抗心をしっかりもっている。その美しさが若い男たちを惑わせて「道を外さぬ前に」ということで収容された。紆余曲折ありながら、感情に流されることなく、非情とも思える姿勢で最後まであきらめない。
 結婚パーティーに出席していたとき、いとこに犯され、被害者であるはずなのに、家族によって収容されたマーガレット(アンヌ・マリー・ダフ)。暴行を受けたという事実がパーティーの席上、にぎやかな音楽をバックに、気難しそうな(なんて、やっかいなことを!とでもいうような)表情の大人たちによって伝えられていくさまを不安そうに見守るマーガレットの表情が印象的。その後の彼女の運命を暗示するかのよう。知的で潔癖な女性の典型。収容されている女性に性的な行為をさせている神父への抗議のしかたも彼女らしい。バーナデットなら真っ向から抗議するだろうけど。優しさと毅然とした雰囲気を兼ね備えた女性。
 結婚前に出産をし、子どもを奪われただけではなく、親によって収容されたローズ(ドロシー・ダフィ)。母性の人。決してあからさまに強さは見せないけれど、真の強さはこういう人に宿るのかもしれない。若くして「母」の強さを思わせる。ローズという女性はすでに施設内にいるから、という理由でパトリシアという名前を与えられたが、脱走して名前を聞かれたとき、「ローズ」と誇らしげに名のっていたのが印象的だった。
 子どもを残して収容されたクリスピーナという女性は、すこし知的に障害があるのかもしれない。状況を把握するのが苦手だったり、パニックを起こしたりする。彼女は理不尽な理由で精神病院に移され、その後、拒食症になり、21歳の若さで亡くなったという。当時の精神病院の実情を思えば、入院させられたことが死の原因とさえいえるかもしれない。
 そんな絶望的な状況の中で、三人の女性は健気に生きていく。人生をあきらめても無理ないと思えるなかで、最後のプライドは失わない。
 全裸にして並ばせて、その体つきをおもしろおかしく評しあう修道女の醜さ。泣いている女性に気づいて、「あら、これはゲームよ、ゲームなのに」と戸惑ったように言う。麻痺してしまった権力者の愚かさ、くだらなさ。人間はやっぱり、そうは気高くないのだろうか。

●その後の三人は…
 マーガレットは大人になった弟が迎えにきてくれて、あっけなく解放される。あとの二人は、決死の覚悟で脱走する。その場面は文句なくスリリングだ。
 そしてエンドロールの前に、三人のその後が紹介される。
バーナデットは希望どおり美容師になり、マーガレットは小学校の教師に。ローズは結婚し二人の子どもの母親になり、養子に出されていた子どもとは30年ぶりに再会できた、という。
 安堵の気持ちと、それに加えて、あの若い頃の数年間の異様な経験が彼女たちのその後の人生にどんな影をおとしたのかと…。


 映画の原題は“The Magdalene Sisters”。
 「マグダレン」はキリストによって改心した娼婦マグダラのマリアに由来し、「マグダレン修道院」は性的に堕落した女性を更生させる、という目的で作られたという。
 対象が女性だけ、というところに時代を感じるし、「性的に堕落」という言葉の意味を追求すると、もう大変なことになるので(笑)、ここまでで。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« キミがいなくても笑える | トップ | 久々のリリースなので~スピ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。