隠れ家-かけらの世界-

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静かな映画~『デッドマン・ウォーキング』

2007年06月28日 20時02分41秒 | 映画レビュー
デッドマン・ウォーキング』(Dead Man Walking)1995年制作(監督:ティム・ロビンス)
アカデミー主演女優賞受賞(スーザン・サランドン


■死刑囚からの手紙
 「希望の家」という施設に住み、親のいない子どもらと生活をともにしているシスター・ヘレンのもとに、カップル殺害と強姦の罪で死刑の判決を受け刑を執行を待つ死刑囚マシュー(ショーン・ペン)からの手紙が届くところから、この映画は始まる。そしてマシューが処刑されるまでのほんの短い間の二人の交流が静かに描かれる。
 その間に、死刑の判決に不服をもつマシューのために、ヘレンは弁護士とともに特赦を求め、退けられ、州知事への直訴も認められず、そして刑が執行されるまで、ヘレンは精神アドバイザーとしてマシューに寄り添う。
 途中までは、実はマシューは冤罪なのか、実際は無期懲役の判決を受けた仲間が単独で起こした犯罪なのか、などとサスペンスの要素を期待したりもしたのだが、この映画にはそういうどんでん返しはない。
 刑への不服ばかりを口にするマシュー、それに対して、ヘレンは彼のために奔走しながらも、マシューが真実を口にすること、犠牲になったカップルやその親たちへの思いを自分の中で見つめ懺悔することを願う。もし殺人も強姦も仲間がやったとしても、その場にいて何もしなかったことへの思いはどうなのか、と、強い言葉ではなく、静かにマシューに問う。
 ヘレンは、こういう状況に慣れている人物ではない。何もかも初めての経験の中で、うろたえ、迷い、それでも進む。
 被害者の親たちにも会いに行き、救いの手を差し伸べられないかと話をする。親たちに罵倒され、「あなたに何がわかるか」と責められ、悲しみと困惑の表情を浮かべる。

■「最後まで、あなたのそばにいる」
 刑の執行があと少しに迫ったとき、マシューは電話で家族に別れを告げ、そして泣きながらヘレンに言う、「カップルの男を殺したのは自分で、強姦もした」と。そして懺悔の言葉を初めて口にする。堰を切ったように、後悔の言葉が語られる。
 絶望的な表情を浮かべたヘレンは、偽らずに事実に向き合ったマシューには神の加護があること、そして自分は最後までそばにいることを誓う。
 無宗教の私にはわからない部分もあるが、ヘレンが最後まであきらめずに、刑を受けるマシューの心の声を引き出し、毅然と死に向き合おうとする彼の支えとなるところに、深く心を動かされた。
 死刑の是非はここでは語らないが、マシューはヘレンとの出会いがなければ、おざなりの神父の付き添いだけだったなら、ただ不満を口にし、自分の運命を呪い、死への恐怖に脅え、そして死んでいっただろう。残忍な犯罪者の末路として当然だ、とする見方もあるだろうが、それでは死刑は国が裁判が実行する殺人でしかなくなる。それでいいのだろうか、という思いは残る。
 
■死刑をめぐるさまざまな思い
 この原作者(ヘレンのモデルとなったシスター)も監督も、死刑廃止論者だろう。しかし、この映画は、死刑囚と犠牲者への公平な目を忘れていない。
 刑の執行で注射を打たれる前、マシューは立ち会った犠牲者の親たちに深く謝罪の言葉を口にし、それでも、「俺は人による殺人も、国による殺人も認めない」と言う。親たちの表情には、なんとも複雑な思いが浮かぶ。
 マシューは意識が遠のくまで、立会人の席に着いているヘレンの目を見続け、「I love you.」とつぶやき、ヘレンも「私も…」と応える。短い間の交わりであったが、二人の間に流れたものがその言葉に象徴されて、そしてマシューはこときれる。
 マシューの意識が遠のくときに、残忍な犯行のようすが流れる。そして、犠牲になった二人の若者の姿がマシューのそばにうっすらと現れる。あれはどういう意味だったのだろうか、とずっと考えている。
 死をもってしても償いきれない罪、犠牲となった者は決して報われることなどないこと、などなど、さまざまな思いや疑問ややりきれなさ、そして、どんな形にせよ、死刑という手段で決着をつけられた一人の人間の最期、ということか。


■スーザン・サランドンとショーン・ペン
 スーザン・サランドンが最高! どんな人へも深く広い心で接し、決して先入観をもたないシスター・ヘレンの柔らかさと、戸惑いと、人としての優しい視線を、そのまま自然に演じていて秀逸。
 ショーン・ペンは、前半の突っ張ったマシューのいやらしさと、母親や幼い弟への優しさ、そして最後に真実を語ったあとの素直な人としての後悔を演じ分けていて、これもすばらしかった。
 この二人がいて、この映画の静かな訴えと公平さが浮き彫りにされたように思う。



 『Dead Man Walking』のタイトルの意味は?とずっと思っていたのですが、マシューが処刑室につれていかれる場面で、看守が儀式のように大声で、「Dead Man Walking!」と叫んでいた。字幕は「死刑囚が行くぞ!」だったかな。
 まだ死んでいないのに「dead man」? 古い『RANDOM HOUSE』には「死刑囚」の訳はないなあ。「不能郵便物係」なんて訳は載っているけど。
 調べてみようかな。

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