隠れ家-かけらの世界-

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「笑い」がボクを救う~映画「ピエロの赤い鼻」

2008年03月08日 16時26分39秒 | 映画レビュー
☆「ピエロの赤い鼻」 (2004年、フランス)

監督 : ジャン・ベッケル
出演 : ジャック・ヴィユレ/アンドレ・デュソリエ/ティエリー・レルミット/ブノワ・マジメル/シュザンヌ・フロン  


 コンパクトなDVDレコーダーの小さな画面に、思いっきり泣いてしまった映画。
 人間の情けなさやいい加減さや、そして、たまの勇気が、優しく描かれる。悲惨な戦争の日々にも、普通の人が生きていたことを、あらためて感じる。当たり前のことが深く重いことだと知る。



●シンプル
 凝った構成も意図もない。ビックリするくらいシンプル。
 最近、ひねりをきかせた映画ばかり観ていたせいか、疲れもなく、これみよがしのカタルシスもない展開に、ちょっときれいな涙が流れる。
 なぜか休日になると赤い鼻をつけたピエロになって、街のみんなを笑わせる父親ジャック。そんな父親がなんとも恥ずかしくて受け入れられない少年。
 観客が抱腹絶倒するなかで一人気難しげな少年を見て、父親の親友アンドレは「君には話しておいたほうがいいね」と、父親が赤い鼻のピエロになる訳を話し始める。
 それが映画の導入。
 そして、第二次世界大戦末期、ドイツに占領されたフランスのある街に舞台が移り、ジャックとアンドレの二人が好きな女性の気が引きたくて、ひょんなことから思いついた行動がとんでもない事態を引き起こす。

●人が生きるうえで、「笑い」がどんなに…
 ちょっと軽薄な、でもユーモアをたっぷりもった愛すべきジャックと、その友人アンドレ。この二人の交わす言葉がいい。若い頃も、そして戦後の日々も。
 人生がどのくらい輝いているかは、きっとどんな友をもっているかによるかもしれない、そういうことを思わせてくれる。
 そして、ドイツ軍に捕らわれた二人は、いろいろな人の思いに導かれて、自由の身になる。
 その中で出会ったのが、赤い鼻をつけて我らを笑わせてくれたドイツ兵。メガネ越しの知的な目、落ち着いたきれいな声、「生きていれば、なにかいいことがあるさ」と、絶望の淵にいる彼らに伝えてくれる人間性。
 彼らの前で上官に殺された、そのドイツ兵への思いから、戦後、ジャックは休日に赤い鼻をつけてピエロになり、人々を笑わせる。
 そのドイツ兵への感謝、生きていく上で笑いがどんなに人を救ってくれるか、それを知ったジャックはせめて、人をひととき笑わせることで、何かを償っているのか(彼ら二人の行動によって、一人の男が命を犠牲にしている。そのエピソードの崇高だ)。



 あえて、戦争がテーマではない、きっと。占領下にあっても、街の人々は明るい。
 それでも、一瞬のうちに普通に生きる人々を思わぬ世界に陥れる。
 どんな状況にあっても、普通に生きる人々がいるということ、真摯に気高く生きる人々がいるということ。そして、それは決して特別な人々ではなく、選ばれた人々でもなく、弱さもいい加減さも身勝手さも持ち合わしていて、そして限りなく「人間らしい」ということなのかな。
 言葉で語らずとも、誰もがいろんな過去を背負って生きていると思えば、人間は捨てたもんじゃない、という気がしてくる。
 ピエロの扮装をしたジャックのステージがステキだ。そして、アンドレの話を聞いた幼い息子が「ブラボー、パパ!」と叫ぶところ。
 ピエロのジャックの目が一瞬、息子の笑顔をとらえる。息子の後ろにいるアンドレと、ステージ上のジャックは、目と目でどんな言葉をかわしたんだろう。


ドイツ兵が歌い、そしてエンドロールで流れたフランスの歌がいい。
 春の暖かな光景が目の前を通り過ぎていくような歌詞。夢から覚めて、ああ、なにも状況は変わっていないんだと失望するけど、でもいいんだ、ボクはこの歌を作れたんだから…。
 ドイツ兵の穏やかな歌声が今もここに残っている。

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