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東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

シニョレッリ《パンの饗宴》 - 焼失したカイザー・フリードリヒ美術館所蔵作品

2018年05月27日 | 西洋美術・各国美術
シニョレッリ
《パンの饗宴》
 
 
 
   かつてベルリンのカイザー・フリードリヒ美術館の至宝として、世に知られていたこの絵画は、このあいだの大戦の際、1945年に、焼失してしまったからである。
 
   高階秀爾著『ルネッサンスの光と闇』より。1971年発刊。雑誌連載は1966〜69年だというから、今となっては歴史的出来事である1945年の焼失は、1932年生まれの氏にとって、執筆時から見るとほんの20数年前の出来事、つい「このあいだ」の出来事であっただろう。
 
 
 
   最大の悲劇はベルリンのフリードリヒスハイン高射砲塔で起きた。1945年5月2日、首都はソ連軍に占領された。ヒトラーは、その2日前にすでに自殺していた。高射砲塔もソ連軍の監視下に入れられたが、そこで何が起きたのかは正確にはわかっていない。ただ、5月6日に最初の火災が発生し、その約10日後に発生した大火災で内部のすべてが灰になった。おそらくその前にソ連軍が美術品をいくつか持ち出したはずだが、火災で失われたものも相当数あるはずだ。事実、同高射砲塔に運び込まれたことがわかっていて、その後行方がわからない作品は少なくない。
池上英洋著『「失われた名画」の展覧会』より。
 
 
   この「フリードリヒスハイン高射砲塔」に、シニョレッリ《パンの饗宴》は運び込まれていた。
 
 
   400点以上の「ルネサンスからバロックにかけての大画家のものが少なくない」作品が保管されていたとされるフリードリヒスハイン高射砲塔。池上英洋氏の著によると、以下のような作品がフリードリヒスハイン高射砲塔にて失われている。
 
 
カラヴァッジョ
《フィリーデ・メランドローニの肖像》
 
ゴッツォリ
《聖母子と聖人たち》
 
アロンソ・カーノ
《聖アグネス》
 
ルーベンス
《バッカナーレ(シノレスの行進)》
《ラザロの蘇生》
 
フリードリヒ
《雪の修道院墓地》
 
 
   なお、カラヴァッジョ《聖マタイと天使》第1作は、同じく火災で失われたと考えられているが、その場所はフリードリヒスハイン高射砲塔ではなく、テューリンゲンの岩塩坑であるようだ。
 
 
   他にも、手持ちのベルリン・ダーレム美術館の画集によると、以下のような作品が、フリードリヒスハイン高射砲塔なのかテューリンゲンの岩塩坑なのかは場所までは確認できないが、やはり失われている。
 
コズメ・トゥーラ
《玉座の聖母》
 
 
アルヴィーゼ・ヴィヴァリーニ
《玉座の聖母》
 
カラヴァッジョ
《ゲッセマネ園のキリスト》
 
スルバラン
《聖ボナヴェントゥーラと聖トマス・アクィナス》
 
ゴヤ
《修道士の肖像》
 
 
 
   さて、シニョレッリ《パンの饗宴》。
 
 
   作品の題名は「パンの饗宴」のほか、「パン」ではなく「牧神」、「饗宴」ではなく「王国」「教育」「勝利」などとも呼ばれることがあるようだ。
 
   サイズは、194×257cm。サイズの対照例として、高階氏の著書でボッティチェリ《春》を挙げている。《春》は203×314cm、《ヴィーナスの誕生》なら172×278cm。確かに大作である。
 
   画面の中央に山羊の脚をした半獣神が座っている。ギリシャ神話に登場する神の一柱、「パン(牧神)」である。
   パンを取り囲む裸体の男女5人。
   画面左端、裸体の若い女性はニンフ(精霊)。
   パンの向かって左手に、パンに熱心に話しかける(論を説く)壮年の男性。
   向かって右手に、パンのために笛を吹く(音楽を奏でる)若い男性。
   画面右端に、杖をついて、ぼっと裸体の女性を眺めているように見える老年の男性。
   画面下部に、横たわり、口に長く細い木の棒を加え、やはり目の向きは裸体の女性の方向にあるに若い男性。
   主役「パン」は、向かって左からの論や右からの音楽には関心を示さず、その目は、老人や横たわる若い男性と同じく、裸体の女性の方向にある。
 
   なんだかよく分からないが、この「パン」の世界が、「不動」「静寂」「憂愁」であることだけは感じる。
 
   実物が現存しないことが残念である。写真が残っているだけになおさら失われたものの大きさが感じられて、一層残念である。
 
   その中で、今ベルリン美術館に所蔵される作品、例としてカラヴァッジョ作品を挙げると、《勝ち誇るアモール》が現存することは実にありがたいことである。
 


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