日伊国交樹立150周年特別展
アカデミア美術館所蔵
ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち
2016年7月13日~10月10日
国立新美術館
前記事では、ティツィアーノおよびティントレットに触れたが、本記事では、ティツィアーノおよびティントレット以外の私が期待していた画家について記載する。
1章:ルネサンスの黎明-15世紀の画家たち
No.1 ジョヴァンニ・ベッリーニ
《聖母子(赤い智天使の聖母)》
1485-90年
77×60cm
ヤコポから始まり、その息子ジェンティーレとジョヴァンニで全盛を迎えるベッリーニ一族からは、一族で最も著名なジョヴァンニの作品が1点出品。
智天使(ケルビム)は、キリスト教の天使界における全9階級(内の世界では、さらに細分化されるらしい)の厳しい階級制度のなかで第二位に位置付けられる高位の天使。高位なので頭部しか描かれていない。それだけでも不気味なのに、赤いのでさらに不気味。
幼子イエスの服装に注目する。普通の白シャツ。その首周りがヨレているのを面白く思う。聖母の白い被りもののシワにも目がいく。
ベッリーニ一族からは結局1作品。ジェンティーレの風俗画の出品はやはり無理か。ジョヴァンニも、ヴェネツィア・ルネサンス展と名付けるからには、出品作と同レベルかそれ以上の作品がもう1点出品されるとよかったのだが。ベッリーニ作品はやはり貴重ということか。
なお、ヴェネツィアのベッリーニ工房とともに二大工房とされるヴィヴァリーニ一族からの作品の出品はない。ヴェネツィア・ルネサンス展としては、非常に残念なこと。作品が貴重なのだろう。
No.2 ラッザロ・バスティアーニ
《聖ヒエロニムスの葬儀》
1470-80年
211×264cm
初めて名を聞く画家。
床に横たわる聖ヒエロニムスを除くと、18人の人物が登場するが、その身長が2種類しかない。16人が同じ背の高さ、それより低い残り2人が同じ背の低さ。不自然。その不自然さも含めて面白い作品。
カルロ・クリヴェッリ
No.3《福者ヤコポ・デッラ・マルカ》
70×33cm
No.4《聖セバスティアヌス》
70×33cm
カルロ・クリヴェッリはヴェネツィア生。ヴィヴァリーニ工房出身とされる。姦淫罪で禁固刑に処せられてヴェネツィアを追われたあとは、ダルマチア地方(クロアチアのアドリア海沿岸地域一帯)やマルケ地方を放浪して制作する。
本2作は、多翼祭壇画の一部とされる小品。クリヴェッリらしい硬質で神経質な描写。
聖セバスティアヌスの矢は12本。両者の光輪の形状がことなるのは、聖者と福者の差? 足の指の形状が両者全く同じなのが面白い。両者とも緑色の柄違いのタピストリーを背にしている。
クリヴェッリ作品の出品としては、よしとすべきレベルなのだろう。
No.5 アントニオ・デ・ザリバ
《受胎告知の聖母》
1480-90年頃
47×34cm
アントネロ・ダ・メッシーナ(1430年頃 - 1479年)の代表作《受胎告知の聖母》のコピー作品。
アントネロは、その生涯の大部分を故郷メッシーナで過ごしたが、1475年からその翌年までヴェネツィアに滞在、フランドル風の本格的な油彩画技法をヴェネツィアにもたらしたとされる。
アントネロによる《受胎告知の聖母》オリジナルは、シチリア・パレルモのシチリア州立美術館が所蔵する。当然私はオリジナルを見たことはない。
本展出品のコピー作品の画家アントニオ・デ・ザリバにとって、アントネロは伯父にあたるとのこと。
残念ながら、本コピー作品よりも、画集に掲載されるオリジナル作品の図版のほうが、緊張感があって見応えがある、という印象。
アントネロ・ダ・メッシーナの作品は、そもそもヴェネツィアには、コッレール美術館にただ1点あるだけなので、本展への出品は叶うことはない。
こうしてコピー作品が来日してくれたことで、ヴェネツィア美術におけるアントネロ・ダ・メッシーナの重要性が認識できることはありがたい。
No.6 ヴィットーレ・カルパッチョ
《聖母マリアのエリザベート訪問》
1504-08年
128×137cm
ヴェネツィア、ジョルジョ・フランケッティ美術館(カ・ドーロ)
カルパッチョといえば、まずはイタリア料理のカルパッチョを思い浮かべる人が多いだろう。
その料理名は、画家カルパッチョに由来するという。
画家がその料理を好んだことから、彼の名を取って呼ばれるようになった、という説。別の説では、1963年のヴェネツィアのカルパッチョ生誕500年記念回顧展に因んで考案された料理で、画家の色彩の特徴とされる赤と白の対比を表現したものという。
さて、カルパッチョの作品といえば、同信会のために描かれた連作が有名。
代表作としては、聖ウルスラ同信会のために描かれた《聖ウルスラ伝》9点連作(アカデミア美術館蔵)や、福音書記者聖ヨハネ同信会のために描かれた《リアルト橋の奇跡》(アカデミア美術館蔵)、スキアヴォーニ同信会のために描かれた三人の守護聖人のエピソード9点連作(《竜を退治する聖ゲオルギウス》ほか。現在もスキアヴォーニ同信会館に展示)など。
また、コッレール美術館蔵の代表作《二人の婦人》が2011年の江戸東京博物館の「ヴェネツィア展」で来日したのも記憶に新しく、新しい分、本展に対する期待は高く、評価は厳しくなる。
本展出品は1点で、アカデミア美術館所蔵の作品ではなく、ジョルジョ・フランケッティ美術館の所蔵作品。ジョルジョ・フランケッティ美術館は本展に計3点出品してくれている。
本作品も、アルバニア人のためのアルバネージ同信会のために描かれた《聖母伝》連作6点のなかの1点とのこと。
カルパッチョに期待する、細部描写や叙情感に欠けるなあ、という印象。
アカデミア美術館所蔵の代表作の連作から1点持ってくるのはやはり無理か。
本展への評価
ティツィアーノ:○
(大作祭壇画は三重丸。出品作品自体は素晴らしい。ただ、肖像画が1点欲しい)
ジョルジョーネ:ー
(出品を期待するのが無理)
ティントレット:◎
(出品点数は豊富)
ジェンティーレ・ベッリーニ:×
(出品を期待するのが甘いのだろう)
ジョヴァンニ・ベッリーニ:○
(あと1点同レベル以上の作品が欲しい)
カルパッチョ:△
(叙情感に不足)
アントネッロ・ダ・メッシーナ:ー
(コピー作品の出品は評価できる)
カルロ・クリヴェッリ:○
(来日を期待できるのは小品限り)
チーマ・ダ・コネリアーノ:×
(出品なし。本展の対象外だったようだ)
ロレンツォ・ロット:×
(出品なし。本展の対象外だったようだ)
ヴィヴァリーニ一族:××
(ヴェネツィア・ルネサンス展として出品なしは寂しい。)
以上、ヴェネツィア美術における各画家の重要度は別として、画家個別に閉じて見た場合の私の期待に対する充足度による評価を一旦記載した。本展は、10/10までの開催。しばらく時間を置いて再訪したうえで、本展全体としての評価をしたい。