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島成園を観る - 「決定版!女性画家たちの大阪」(大阪中之島美術館)

2024年01月29日 | 展覧会(日本美術)
決定版!女性画家たちの大阪
2023年12月23日〜2024年2月25日
大阪中之島美術館
 
 
 明治から大正、昭和時代にかけて活動した大阪ゆかりの女性日本画家59名による作品186点を紹介する展覧会。
 
 大阪の女性画家をテーマとする展覧会は、2006年のなんば高島屋「島成園と浪華の女性画家」展、2008年の大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室「女性画家の大阪-美人画と前衛の20世紀」展に続く、3回目だという。
 
 「決定版!」というのは、2008年の展覧会図録での「将来開かれるべき決定版の展覧会(実現するならば近代美術館の開館後であろう)への布石と位置づけたい」との「予告」に由来しており、決して「本展で大阪の女性画家の全貌が明らかにされるわけではなく」、「現時点において最善を尽くした成果という風に捉えて」ほしいとのこと。
 
 
 2021年の東京国立近代美術館「あやしい絵展」にて島成園に関心を持った私。
 2023年の東京ステーションギャラリー「大阪の日本画」展にて、島成園のほかにも興味深い女性画家がいることを知り、また本展の開催予告を見る。
 遠征するつもりはなかったが、島成園の作品が前後期あわせて42点も出品されると知って、首都圏ではそんな機会は望めそうもない、と急遽日帰り美術旅行を敢行する。
 
 
 「テート美術館展 光」が終了したばかりで「モネ 連作の情景」展が始まる前の平日の大阪中之島美術館のチケット売場は閑散としている。(ただし、本展会場には相応に人がいる。)
 
 
【本展の構成】
第1章 先駆者、島成園
第2章 女四人の会 - 島成園、岡本更園、木谷千種、松本華羊
第3章 伝統的な絵画 -南画、花鳥画など
第4章 生田花朝と郷土芸術
第5章 新たな時代を拓く女性たち
 
 
 冒頭に島成園の代表作《祭りのよそおい》、そして《おんな(原題・黒髪の誇り)》が展示され、テンションが上がる。
 
 
 島成園(1892-1970)。
 大阪・堺生まれ。職業画家である父と兄のもと、絵を独習する。
 大正元年、20歳のとき、《宗右衛門町の夕》により、大阪の女性画家として初めて、文展に入選する。「”若い””大阪”の”女性”と珍しい要素が三拍子揃い、かつ入選作が愛らしくも艶っぽい作品だったこともあり、その名は一躍有名に」なる。京都の上村松園(17歳上)、東京の池田蕉園(6歳上)とともに「三都の三園」と並び称される。翌年(大正2年)、《祭りのよそおい》で連続入選し、その実力を示す。
 その活躍に、次々と女性たちが成園をロールモデルとして本格的に画家を目指すようになる。
 成園は、生涯独身で絵に邁進する考えでいたが、大正9年、父と兄の勧めに屈し、横浜正金銀行の社員との縁談を受け入れる。夫は妻が画業を続けることに同意し、制作環境に大きな変化はなかったが、この世界とは無縁の普通の人との生活は、成園をスランプに陥らせる。夫の転勤による上海と大阪との往復生活、小樽や大連への同行。夫の退職により大阪に落ち着いたのは昭和21年。その間もその後も絵筆から離れることはなかったが、「人形のような美人画に留まって第一線から退く」こととなったようである。
 
 
 第1章が島成園。
 私の訪問時の前期の成園作品展示数は30点。
 以下、主に見た作品。
 
《祭りのよそおい》
大正2年、大阪中之島美術館
 4人の少女の愛らしさと経済的格差。
 大正2年の第7回文展入選作。
 
《おんな(原題・黒髪の誇り)》
大正6年、福富太郎コレクション資料室
 身丈ほどもある豊かな黒髪を櫛で梳く、思い詰めたような眼差しの半裸の女性。
 
《宗右衛門町之夕》
大正元年頃、個人蔵
 柵にもたれかかる、幼くも艶麗な舞妓。
 大正元年の第6回文展入選作《宗右衛門町の夕》(所在不明)の姉妹作。
 
《燈籠流し》
大正5年、関和男氏蔵
 享保時代。燈籠流しの二艘の船。一艘には若衆と幼児と女性。一艘には女性3人と、橋の欄干で姿を一部遮られた尼僧2人。
 
《無題》
大正7年、大阪市立美術館
 成園26歳の痣のある自画像。「痣のある女の運命を呪ひ世を呪ふ心持ち描いた」と成園は語る。
 当時の新聞で、成園の求婚広告であると揶揄されたという。
 
《伽羅の薫》
大正9年、大阪市立美術館
 縦に引き伸ばされた姿態と強烈な色彩により表現される年増の太夫の「傷ましい妖艶さ」。成園の母がモデルを務めたという。
 
《鉄漿》
大正9年、大阪市立美術館
 鏡を手にお歯黒に集中する太夫の表情。
 
《爪弾》
大正13年、福富太郎コレクション資料室
 三味線の爪弾きを披露している芸者。
 
《上海にて》
大正14年頃、大阪市立美術館
 上海時代の作品。舞台化粧をして赤い中国服を着た女性像。背景の幕の青色と、直線に垂らした髪で分断される頭部が印象的。
 
《上海娘》
大正13年、大阪市立美術館
 現地の上海女性をモデルとした、手に花型の灯籠を持った若い中国服の女性の立像。
 
《囃子》
昭和2年、有形文化財 神田の家「井政」
 太鼓を演奏する舞妓。きつめの色彩。
 
《お客様(原題・祭りの客)》
昭和4年、高島屋史料館
 礼儀正しく座布団に座り、出された菓子に手をつけず神妙な面持ちで待つ二人の少女。
 
 
 
 以上は、第1章。
 第5章のみ撮影可能の本展。
 第5章の最後には、成園の《自画像》が展示される。
 
《自画像》
大正13年、大阪市立美術館
 32歳の成園。髪は乱れ、両目の周囲には隈があり、病床にあるかのように重ね着し、顔は蒼白。
 過剰なまでに演出された「疲れた女」。
 
 
 フロントランナー成園から始まる本展は、成園で締められる。


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