![]() | 母系社会の構造―サンゴ礁の島々の民族誌紀伊國屋書店このアイテムの詳細を見る |
1989年8月21日 第1刷
著者は須藤 健一。1946年新潟生まれ。1975年東京都立大学大学院博士課程中退(社会人類学専攻)。国立民族学博物館助教。文学博士。
1978年国立民族学博物館のプロジェクトとして母系社会調査をヤップ島の離島サタワル島で調査を行う。1978.6~9予備調査。1979~1980本調査。
沖縄海洋博覧会のおりサタワルの男たちは6人でカヌーをこぎ3000キロの海をのりきり沖縄までやってきた。1987年5月にはアジア太平洋博覧会のプレイベントとして8人の男たちが福岡までの航海を成功させている。1976年以降、ハワイからタチヒ、クック、ニュージーランドへのカヌーによる実験公開を指揮し成功したのもサタワルの航海者だった。
航海術だけでなく経済・社会・文化の面においてもサタワルは伝統性を維持している。伝統が維持できた理由は孤島だからではない。大航海時代の欧米人との接触は数百年前である。何故欧米の影響を排除できたかというと彼らトラック諸島の人々の好戦的狂暴さからだという。彼らは欧米人から怖れられ、避けられていたのだ。
トラック社会では15歳~35歳までの男性は村の防衛や他島への戦争をしかける先兵としての役についていた。平時でも生産活動に従事せず、軍事に従事していた。勇敢さと日常生活での攻撃性を抑制した礼儀正しさが良い男の評価基準だった。
この勇猛果敢な男性たちが暮らすのは女性中心の母系社会なのだ。
【母系社会】
祖母・母・娘、代々女性の血縁関係(出自)をたどって社会集団をつくり、相続・継承の方法を決定する。男性の血縁というものは全く役にたたない。トラックでは男性にとっては自分の母系の血を同じくするのは実子ではなくて彼の妹や妹の子供である。甥や姪にも実子と同じく気をくばらなければ男性は自分の母系一族の人々から相手にされなくなる。
【母系社会の多様性】
≪妻問い・訪妻婚≫
インド ケララ州 ナーヤル・カースト
インドネシア アマトラ ミナンカバウ族
男は母系家族に跡継ぎを残すだけの存在。経済的にも一切貢献しない。
≪妻方居住(婿入り婚)≫
夫婦の紐帯も弱い。地位の低い婿は婚家の付け足し成員。
インドのアッサム地方のカーシ族。日本の一時代前の「嫁づとめ」などよりはるかに厳しい。
≪夫方居住(一見普通に見えるが・・・)≫
男性は嫁をむかえると母方のオジがいる自分の村へ移って生涯を終える。
【母系社会の分布】
アメリカ 人類学者 ジュージ・P・マードック
全世界5百六十三民族(集団)
母系出自社会 84
父系 223
双系 199
牧畜民社会にはほとんど存在しない
ミナンカバウ族のように小王国をつくり出した社会もあるが、大規模な王国ないし高文化をつくり出した社会はない。
報告ではユーラシア大陸にはほとんど母系社会が存在しない。例外は中国のナーシ族、インドのナーヤル。
北部アメリカ、南部アメリカ、アフリカ、オセアニア、太平洋に分布。
東南アジアは0。
【母系社会の研究】
母権先行説は空想にすぎない
民族学調査の進むなか、女性の出自によって集団を編成する社会であっても女性は政治的権力を手中におさめていないことがあきらかになった。
女性が直物の栽培を営む原始農耕社会で農地を母から娘へ相続させる慣行が母系社会へ発展したという説も、多くの反証が出されている。
母系社会を母処婚(母方居住)と関連付ける視点。女性たちが自分の家に住み続ける社会。この説の支持は多いが、夫方居住の母系出自社会の説明ができない。
【思春期と性】
サタクルやトラックを中心とするミクロネシアんP中央カロリン諸島では思春期の男女の自由な性行動が認められている。
結婚後においても男性は妻以外の女性と秘密裏に性関係を持つということに情熱を燃やす。
しかし、多くの性的禁忌を守らなければならない。
※宮本常一の「忘れられた日本人」とほぼ同じ。
若者が性関係を持つ相手が寡婦であることが多い。
※これも日本と似る。
夫婦間でなく未婚の男女間で生まれた子供は「藪の中の子」と呼ばれるが、なんら社会的差別をうけることもない。
親たちは思春期の子供たちに性行動については干渉しないが、性関係禁止する相手については十歳のころまでにはっきり教える。女性の場合、実の兄弟、母系クランの同世代の男性、母系交差イトコや父方の平行イトコ。
【性的歓待】
島を訪れる外部の男性
性的行動による儀礼的歓迎
自由に性関係を持つこともできる
通常、島内では禁止されている性的表現が客人の前では規制されることはない
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P268 女性の自立は経済的裏づけのもとに家事・育児の共同、女性の社会的連帯というしくみを女性自身がつくりだすことであろう。