カタカナ語概念について
過日(2014年8月13日)、わたくしのブログ「越境する教育学の創成」において「東京学芸大学教職大学院 キーワード・カタカナ語事典」についてふれたが、ここでは、カタカナ語概念について考えてみたい。:http://pedagogytocrosstheborder.blogspot.jp/2014/08/2013.html
講義でもふれるが、まずは、コンプライアンスComplianceについてふれたいと思う。
一般にコンプライアンスは、「法令遵守」と訳します。しかし、この訳だけではコンプライアンス概念はおさまらない。
コンプライアンス概念には、法令遵守に加えて「誠意性・倫理性」を含む。
単なる法令を守ればよいというものではなく、誠意性や倫理性を持つことなしに、コンプライアンスとは言えないと言ってよい。
*浜辺陽一郎(2005)『コンプライアンスの考え方―信頼される企業経営のために』中公新書
次に、日本語の「管理」という言葉について考えてみたい。
「管理」という言葉の英訳は何か?
これも講義でふれることがあるが、以下の多様性に注目してほしい。
① controlコントロール(統制)
② managementマネジメント(経営)
③ administrationアドミニストレーション(運営)
④ supervisionスーパービジョン(監督)
⑤ directionディレクション(指導)
⑥ chargeチャージ(責任)
そして、
⑦〔 〕などがある。
最後の⑦にはどんな英訳が入るのか。
この⑦の言葉に「管理」概念があることに驚きを禁じえない。
さらに、しばしば使われるケースCaseという語の訳語に注目したい。
1 対象 : 私たちの日常的な教育活動・・・
2 事例 : 事件・事故・災害の発生・・・
3 問題: 死傷・心的外傷・感染症・不登校・・・
4 事件 : 被害回避・縮減不能=クライシス・・・
5 真相 : 事実の把握・因果関係の究明・・・
6 症例 : 身体症状、心の病とその対応・・・
7 論拠 : 道義的責任、説明責任の根拠・・・
8 裁判 : 係争関係、裁かれる個人と組織・・・
たかがケース、されどケースである。
ケースの意義については、この至言!
「ケースは人を作る。ケースはルールと手続きを作り、そして、制度を作る。」 (憲法学者・角替 晃の言葉)
日本語の持つ豊かさを否定するものではない。
ただ、その限界にも目を向けたい。
国際化、グローバル化が進む中で、日本語をも問い直す必要はないだろうか。
言語活動の充実が叫ばれ、各教科・領域を超えて児童生徒への教育活動を見直さねばならない今、教師自身の言語感覚・言語活動を拡張・深化させる必要があるのではないだろうか、
日本語の豊かさ、面白さについてもふれておきたい。
かつて、「ことばの教師」を自認しておられた国語科の小林直樹氏が同僚にいた。
彼から実に数多くの刺激を受けた。
今日、わたくしがことばにこだわりを持つに至ったきっかけは、
彼の存在なくして語ることはできない。
そのひとつが「やまとことば(和語)」への注目であり、ひらがなへのふり漢字の妙である。
彼は常に中学生や同僚教師に「わしづかむ」ことの大切さを訴えておられた。
わしにはふたつのふり漢字をして用いる。
まさに猛禽類の鷲の如く鷲がつかむ。
だれでもない儂(私)がつかむ。
彼は、今、母国を離れ、異国でことばの《ひと》として暮らしている。
越境する教育学の創成には、ことばに関する感覚を研ぎすますことと、その限界も理解していることが大切だと思う。