知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

大量保有報告書

2011-04-07 08:02:01 | M&A

1 大量保有報告規制の概要

(1)規制の趣旨

上場会社[1]の株券の保有割合が5%を超えた株式保有者は大量保有報告書の提出義務を負う[2]。5%超の株式保有は、会社の支配又は株価に影響を与えるため、開示することが必要かつ適切と考えられるからである。さらに、大量保有報告書提出者の株券の保有割合が1%超変動する場合には、株式の需給に大きな影響をもたらすと考えられるため、大量保有報告書に係る変更報告書の提出義務が生じる[3]

 

(2)「保有者」の意義

前記のとおり、大量保有報告書の提出義務を負うのは、上場会社の株券の保有割合が5%を超えた株式保有者であるが、「保有者」の意義は実質的な概念であり、以下の者を含む[4]

① 自己又は他人の名義を以て株券を所有する者(本文保有者1)

② 売買その他の契約に基づき株券の引渡請求権を有する者(本文保有者2)

③ 株券の売買の一方の予約を行っている者(本文保有者2)

④ 金銭の信託契約等に基づき株券の発行者の株主としての議決権等の行使権限又は指図権限を有する者であって、株券の発行者の事業活動を支配する目的を有する者(1号保有者)

⑤ 投資一任契約その他の契約又は法律の規定に基づき株券に投資するのに必要な権限を有する者(2号保有者)

 

(3)共同保有者

 ア 共同保有者の意義

株券の保有者と一定の関係を有する株券の他の保有者は、「共同保有者」となり[5]、株券の保有者は、共同保有者の保有株券の数を合算して株券の保有割合を計算することになる[6]。また、共同保有者に関する情報は、大量保有報告書の記載事項である。

共同保有者の概念は、実質的共同保有者とみなし共同保有者から構成される。

 

イ 実質的共同保有者

「実質的共同保有者」とは、株券の保有者が、当該株券の発行者が発行する株券の他の保有者と共同して当該株券を取得し、若しくは譲渡し、又は当該発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合における他の保有者をいう[7]

 

ウ みなし共同保有者

「みなし共同保有者」とは、株券の保有者と当該株券の発行者が発行する株券の他の保有者が、株式の所有関係、親族関係その他「特別の関係」にある場合における当該他の保有者をいう[8]。なお、株券の保有者と他の株券の保有者のいずれかの保有株券数が0.1%以下である場合には、除外規定の適用により「みなし共同保有者」に該当しないことがある[9]

 

エ 共同保有者となることの効果

前記のとおり、株券の保有者は、共同保有者の保有株券の数を合算して株券の保有割合を計算することになるから、例えば、1%の株券保有者であっても、共同保有者が4%の株券保有者の場合、当該株券保有者は大量保有報告書の提出義務を負うことになる[10]。また、この場合、共同保有者が1%の株券を買い増した場合、当該株券の保有者は、自己単独の保有割合には変化がないにもかかわらず、変更報告書の提出義務を負うことになる。

 

2 公開買付開始時

大株主は、大量保有報告書の提出義務を負っており、既に提出済みのはずである。大株主の資産管理会社(対象会社の株式の保有者)は「共同保有者」であるから、仮に、自己単独の保有割合が5%以下であっても、大量保有報告書の提出義務を負い、大量保有報告書を提出済みであるはずである

そして、大株主と公開買付者との間の応募契約の締結は、「当該株券等に関する担保契約等重要な契約」の締結に該当するから、大量保有報告書に記載すべき重要な事項に係る変更があったと解されるため、大株主について変更報告書の提出義務が生じる。また、大株主の資産管理会社(対象会社の株式の保有者)は「共同保有者」であるから、仮に、公開買付者との間で応募契約を締結していないとしても、変更報告書の提出義務を負うことになる

ここで、公開買付者が大量保有報告書の提出義務を負うか否かについて検討するに、公開買付者と大株主との間には、応募契約上、議決権行使についての合意があるものの、公開買付者が「株券の保有者」に該当しない場合には、大株主は「共同保有者」には該当せず、公開買付者が大量保有報告書の提出義務を負わないと解される。この点は、公開買付届出書に記載すべき「特別関係者」の範囲と異なるので、留意が必要である。

 

3 公開買付終了時及び決済時

(1)二段階法

上場会社の株式には振替決済制度が適用される。従って、上場会社の株式は振替株式であり、その譲渡は、譲受人がその口座における保有欄に譲渡株式数の増加の記録を受けることによりその効力を生じる。以上を踏まえて、公開買付終了時及び決済時における公開買付者及び対象会社の大量保有報告書又は変更報告書の提出義務について検討する。

まず、公開買付終了時においては、応募が確定するから、公開買付者は応募株主に対して株券の引渡請求権を有することになる。従って、公開買付者は5%超の株券の「保有者」となり、大量保有報告書の提出義務を負う。

次に、決済時において、公開買付者が5%超の所有者となり、買付者と対象会社(通常、自己株式を保有している)との間で親子関係が生じ、対象会社がみなし共同保有者となるから、公開買付者は変更報告書の提出義務を負う。また、対象会社については、公開買付者がみなし共同保有者となるため、大量保有報告書又は変更報告書の提出義務を負う。

 

 

(2)一段階法

  以上に対して、煩雑さを回避するために、買付終了時において、対象会社が公開買付者のみなし共同保有者となると解して[11]、買付終了時において、公開買付者が大量保有報告書を提出し、対象会社が大量保有報告書又は変更報告書を提出すれば足り、決済時には、大量保有報告書又は変更報告書の提出は不要との見解及びこれに沿った実例もある。


[1] 厳密には、日本の金融商品取引所に上場又は認可金融商品取引業協会に店頭登録されている「株券関連有価証券」の発行体である法人等が発行する「対象有価証券」である(法27条の23第1項)。

[2] 法27条の23

[3] 法27条の25

[4] 法27条の23第3項

[5] 法27条の23第5項

[6]法27条の23第4項

[7]法27条の23第5項

[8]法27条の23第6項

[9] 法法27条の23第6項、大量報告府令6条

[10] 当該共同保有者についても同様。

[11] 買付終了時に株式移転があると解するのが合理的意思解釈との理由による(石井=関口「実践TOBハンドブック122頁」)。


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