*** june typhoon tokyo ***

Especia 『CARTA』~detras~


 メジャー初のフル・アルバムという記念すべき一枚であり、現5名体制での最後の作品ともなるEspeciaにとってのエポックメイキングとなるアルバム。本来ならば早速アルバムを聴いてレヴューするところだが、作品は作品として冷静に言及したいという勝手な考えにより2月末までは『CARTA』のレヴューを取りやめ、アルバム・レビュー前に「“Antes”(前)」という記事をエントリーした……という先日の記事「Especia 『CARTA』~Antes~」を受けての後編「“detrás”(後)」をお送りします。当記事が一応、アルバム『CARTA』のレヴューということになります。

 ただし、思いのまま書き殴っていくと、内容は全く冷静なレヴューにはならず、CDレヴューとしても体のなさないものとなってしまったものの、ひとまず現時点での『CARTA』を聴いた感想をアップしておこうということで暫定的にエントリーすることに。
 後日、余力があれば“冷静ヴァージョン”をエントリーする予定です(おそらく余力はない…)。

 かなり的外れな個所も多くあると思いますが、そこは単なる一個人の感想ということでご容赦ください。

◇◇◇



 It's hard to say“Good Bye” 声には出さないで --

 全て手に入らぬ恋だと解かっていても、逢瀬の夜は愛が欲しくなる……そんな胸の内を都会的でグルーヴィなフュージョン・ファンクで描いた5曲目の「Saga」。そのフックが耳に入るたび、感傷を呼び起こすのは何故なのだろうか。

 2月末でメンバー3名が卒業し、これまでの5名体制の活動に終止符を打ったガールズ・グループ、Especia。その5名体制活動終了直前にリリースしたのが、メジャー初となるフル・アルバム『CARTA』だ。卒業するのは三ノ宮ちか、三瀬ちひろ、脇田もなり。偶然か意図的か、この「Saga」ではEspeciaに残る冨永悠香と森絵莉加のメイン・ヴォーカルがフィーチャーされていて、“さよならなんて言えない”と歌い告げる。リリースから1週間が経たないうちに、メジャー初のフル・アルバムからの5名での期待や野望は、あっという間に消え去っていってしまった。

 タイトルの“CARTA”はスペイン語で“手紙”の意味だという。以前ほど手紙が頻繁に行なわれなくなった昨今、手紙と掲げて語られるのは、おおよそ“別れ”か“感謝”のどちらかだろう。そして、いみじくもこの“CARTA=手紙”によってファンやリスナーへの別れと感謝が伝えられようとは、全国ツアーの傍らアルバムを鋭意制作中を聞いた時には思いもしなかったに違いない。
 2015年10月から幕を開けた全国ツアー〈Especia “Estrella” TOUR 2015〉で新たな野望に挑み続けた彼女たち。各公演でのSEには『宇宙戦艦ヤマト』のテーマが流れたように各会場を惑星にたとえ、2016年1月17日の東京・新木場STUDIO COASTを銀河を超えた“イスカンダル”と見据えて走り続けてきた。その苦悩と成長との証が、本来ならばこの『CARTA』となるはずだった。だが、それはいつの間にか5名体制としてのラスト・アルバムという位置付けにすり替えられ、特色である洒脱で大人びたアーバンな詞世界は、合間からこぼれる1フレーズを聴くにつけ、Especiaの世界観としてあるべき非日常から“集大成”という現実へと引き戻されるものとなってしまった。

 その哀切に拍車をかけたのが冒頭の「Clover」。作詞に山根康広、作曲に藤井尚之というビッグネームを配して作られたのは、ジャーニーやボストン、TOTOあたりのUSロック全開の従来Especiaには無縁だった曲風だ。自らの意志や思いを掲げて夢への希望を語るという体裁は、メジャー・デビュー・ミニ・アルバム『Primera』の冒頭に収められた若旦那プロデュースの「We are Especia~泣きながらダンシング~」でも経験済みだったが、同曲は前半約3分のモノローグ的なパートを除けばパーティ・ディスコ/ファンクとして馴染むものであり、その後のライヴでも“ゴッソ”の掛け声とともに盛り上がるパーティ・チューンにまで成り上がった。

 だが、この「Clover」はUSロックに終始。全くEspeciaの旨味を活かせないスパイスになってしまっている。前作アルバム同様、冒頭曲にファンを裏切る飛び道具を持ってくる“遊び”をしただけという解釈もあるだろう。しかしながら、Especiaという素材を引き立てるための“変わり種”アクセントなら“遊び”と言えるが、「Clover」にはそれが感じられない愚曲にしか成り得ていない。
 誤解されないように言うが、悪曲や駄作ではなく愚曲というのは、彼女たちの楽曲として愚かな選択ということであって、「Clover」自体が駄作ということではない。Especiaが産業ロック・フォロワーだったり、織田哲郎やWANDSなどビーイング・サウンドを追い求めているグループだったら、寧ろ“天晴れ”と頷いているかもしれない。

 ならば、Especiaが80年代サウンドを標榜しているグループゆえ、問題ないだろうと考える人も少なくないかもしれないが、はっきり言っておきたいのは、EspeciaはディスコやAOR、シティ・ポップなど80年代サウンドをモチーフとした楽曲を特色とはしているが、80年代サウンドを現代に単に具現化しているグループではないということ。レトロな質感のサウンドを重心に据えてはいるものの、それは単なる懐古主義ではなく、最先端のポップ・ミュージックとして成立させる要素を採り入れ、アップデートしている“進行形”の楽曲群であるということだ。

 ドラムンベースとブラスを基調としながらもスカ、レゲエあるいはジューク/フットワークまでをも含有した雑食性の高い「Interstellar」はその顕著な例の最右翼だが、ジャズ・ファンクから洗練を増したアシッド・ジャズをさらにソフィスティケイトさせたような「Sunshower」はアシッド・ジャズ・ムーヴメント隆盛の“80年代の彩色”ではなく現代の音として奏でているし、本作で最もジャケットデザインの世界観を示しているような「Saga」は、シンセのウワモノの広がりが耳を引きながらもボトムで漆黒のグルーヴが響く、近年ジャズ✕ブラックなどの融合で目を引く“ブラック・クロスオーヴァー”を提示している。
 一聴するとオールドスクール・ソウル回帰のような「Rittenhouse Square」もビラルやエリック・ロバーソンなど気鋭ネオソウル陣営が好みそうな細やかなに刻まれるビート使いや音鳴りを見え隠れさせ、「Fader」ではネオソウル寄りR&Bにエレクトロなヒップホップ・ビートを噛ませながらライトなシンセとホーン・セクションでフュージョン感覚を醸し出すという手の込みよう。
 ライヴでは既に〈バーサーズー〉で披露されたウェッサイ「サタデー・ナイト」も、泥臭い日常観のリリックをSchtein & Longer/Hi-Fi Cityのさりげなく小粋なアレンジ・コーティングによりウェッサイ特有のガサツさを取り払ったりと、あちらこちらにEspeciaの世界観を保つ巧妙な工夫がなされている。

 さらに、楽曲群の緻密さだけでなく、歌唱においても大きな成長が見て取れる。特に「Interstellar」「サタデー・ナイト」などでの三ノ宮ちか、三瀬ちひろはようやくしっくりくる歌唱パートの一つが得られたようで、自信の一端とともに存在感を増したといえる。冨永悠香は彩りの濃淡が移ろう声色を以前よりリラックスした形で披露し始め、脇田もなりは唯一無二のパワフルなヴォーカルに力の強弱、出し入れを身に付けて奥行をもたせることに成功。そして、最大の成果はやはり森絵莉加。ラップ・パートにメイン・ソロと冨永、脇田のWメイン・ヴォーカルに肉薄する活躍ぶり。まだ盤石の安定性には届かないものの、そのユーティリティな才能を開花させ始めているといっていい。
 従来のEspeciaの世界観を踏襲したような「Over Time」では、それぞれ5人の個性とバランスが絶妙に昇華。『AMARGA』期のシティ・ポップ感覚を持つが、ヴォーカルワークの完成度を聴けば、その質差は歴然だ。その意味では、サウンド的にはこれまでの作風に追従したスウィートなディスコ・ポップ「Mistake」も、ヴォーカルバランスの精度が高まっているがゆえ、そのクオリティの伸びしろに驚かされるのだ。

 個人的には過去最高作や名盤という言葉は安易に用いたくない。少なくとも名曲や名作、名盤などと判断するにはある程度の熟成期間が必要だと思っているし、そう評価する時期としては早すぎる。だが、冒頭の“愚曲”を含め、貪欲にさまざまな音楽性を食んで行く姿勢を感じるにつけ、キャリア史上の怪作だということは言ってもいいだろう。周囲の期待感以上の“音速”で成長していく姿は、あらゆるものを呑み込みながら惑星から惑星へと進んでいく“宇宙船Especia号”そのものだ。前述のツアーではイスカンダルへ辿り着き、地球へと無事に帰還するはずだった宇宙船Especia号。ただ、その道程は存外厳しく、結果的には3名の貴重な船員も失うことになってしまった。
 しかしながら、彼女たちがメジャーという大海に出て紆余曲折しながら得られた宇宙航海という名の経験は、しっかりとこの『CARTA』という作品の中に詰め込まれているといっていい。タイトルが意味する“手紙”はファンやリスナーへの“置き手紙”などという軽いものでは決してなく、メジャーという荒波に打ちひしがれながらも切磋琢磨し、チームEspeciaとして培ってきた勲章という名の記録だ。その足跡が確かに充実していたことは、これだけ雑多な音楽性を厭わず抱合し表現した楽曲群が証明している。

 さらなる成長に期待を膨らませていたなかでの“クインテットEspecia”の終焉はあまりにも惜しい。声には出さないというより声にならない〈It's hard to say“Good Bye”〉が胸を去来するファンも多いだろう。それでも、奇しくも“手紙”という名のメッセージ集を最後に届けてくれたのもまた事実。そう考えると、彼女らの想いを実直過ぎるほどストレートに描いた「Clover」も、「We are Especia~泣きながらダンシング~」のように時を重ねるごとに受け入れられるのかもしれない。“そう夢は けして けして消えない”という叫びとともにEspeciaの第1章が幕を閉じた。ただそれだけのことだと。

 『CARTA』に詰まった消えない夢は途絶えたのか。その先の夢の答えはまだ見えない。解かっているのは、そのヒントが『CARTA』には散りばめられているということ。常に最先端を提示しようと戦った5人は、未完成ながらもしっかりとシーンに革新的な痕跡を残した。その評価と支持がなされる日は近い将来必ず訪れる、そういっていいアルバムだ。

◇◇◇







◇◇◇

 Especiaのメジャー初となるフル・アルバム『CARTA』は、2016年2月24日リリース。


■『CARTA』通常盤
通常盤(VICL-64501/VERSIONMUSIC)\2,315+税

□DISC 1
1. Clover
2. Over Time
3. Sunshower
4. Interstellar
5. Saga
6. Saudade
7. Rittenhouse Square
8. Mistake
9. Fader
10. サタデー・ナイト
11. Boogie Aroma (CARTA Ver.)
12. Aviator (CARTA Edit)


■『CARTA』Remix&Inst盤
初回盤/2CD(VIZL-924/VERSIONMUSIC)\3,241+税

□DISC 1
1. Clover
2. Over Time
3. Sunshower
4. Interstellar
5. Saga
6. Saudade
7. Rittenhouse Square
8. Mistake
9. Fader
10. サタデー・ナイト
11. Boogie Aroma (CARTA Ver.)
12. Aviator (CARTA Edit)

□DISC 2
1. Aviator (HyperJuice Remix)
2. West Philly (Tomggg Remix)
3. Security Lucy (Masayoshi Iimori Remix)
4. We are Especia~泣きながらダンシング~ (mel house Remix)
5. We are Especia~泣きながらダンシング~ (autoclef remix)
6. Clover (Instrumental)
7. Over Time (Instrumental)
8. Sunshower (Instrumental)
9. Interstellar (Instrumental)
10. Saga (Instrumental)
11. Rittenhouse Square (Instrumental)
12. Mistake (Instrumental)
13. Fader (Instrumental)
14. Boogie Aroma (CARTA Ver. Instrumental)
15. Aviator (CARTA Edit Instrumental)


■『CARTA』DVD盤
初回盤/DVD(VIZL-923/VERSIONMUSIC)\4,630+税

□DISC 1(CD)
1. Clover
2. Over Time
3. Sunshower
4. Interstellar
5. Saga
6. Saudade
7. Rittenhouse Square
8. Mistake
9. Fader
10. サタデー・ナイト
11. Boogie Aroma (CARTA Ver.)
12. Aviator (CARTA Edit)

□DISC 2(DVD)
SE. Intro
1. We are Especia ~泣きながらダンシング~
2. West Philly
3. Sweet Tactics
4. シークレット・ジャイヴ
5. さよならクルージン
6. Security Lucy
7. ミッドナイトConfusion
8. パーラメント
9. FunkyRock
10. YA・ME・TE!
11. アバンチュールは銀色に(PellyColo remix)
12. No1 Sweeper(nueva cocina)
13. 海辺のサティ(va Bien Edit)
14. Boogie Aroma
15. Aviator
16. きらめきシーサイド(12″ Extended Ver)





















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