*** june typhoon tokyo ***

m-flo @Zepp Tokyo


 光速で駆け抜けた20年。絶え間ない変化で導いた未来進行形のスタイル。

 狂、共、京、響……さまざまな“キョウ”を経て“今日”があるというコンセプトのもと、LISAが復帰して再び“トライポッド”となったm-floのオリジナル9thアルバム『KYO』のリリースと併せて、20周年を記念したスペシャルライヴ〈m-flo 20th Anniversary Live "KYO"〉が、11月22日・23日の2日間、Zepp Tokyoにて開催。その初日となる22日の公演を観賞した。

 個人的には、9月に横浜赤レンガで行なわれた〈Local Green Festival〉のステージへ足を運んでいることもあって、懐古的な感傷というものはなかったが、それでも単独公演となると2014年の〈m-flo TOUR 2014“FUTURE IS WOW”〉以来5年ぶり。当時はDJセットにステージ全面を覆うLEDやレーザーとシンクロした演出で魅せたライヴというよりクラブ・スタイルという印象が強かっただけに、鍵盤中心とはいえバンド・セットとなったのは嬉しい限りだ。エレクトロ・ユニットの80KIDZからALI&が中央後方で、アニエス・ベーやメルセデスベンツなどのブランドとのコーポレーションや資生堂「インテグレート」のCMソング「Tout en rose」でも注目された日仏ハーフのシンガー・ソングライター/トラックメイカー/DJのマイカ・ルブテが左手で、それぞれ鍵盤/シンセを操る。右にはドラムの山下賢。m-floの“3人”は、ケミカルなシルバー系の宇宙服スーツを身に纏ってステージに登場。遠目からは判りづらかったが、左胸には“グローバルアストロライナー”のマークが施されていたようだ(当日、自分は周りからは見えなくとも、インナーにグローバルアストロライナーロゴ入りのTシャツを着用)。
 事前にゲストも公表されていて、YOSHIKA、日之内エミ、Emyli、melody.のいわゆる“m-floファミリー”をはじめ、“loves”シリーズの端緒となったCrystal KayやMINMI、再始動後にヴォーカルや共同作曲を務めたMinami(CREAM)、『KYO』からはJP THE WAVYと、オールタイムな客演陣が参加。20周年を祝すに相応しい豪華なラインナップとともに執り行われる饗宴(“KYO-EN”とでもいおうか)が始まりの時を告げるのを、Zepp Tokyoのフロアを埋め尽くしたオーディエンスが今や遅しと待ち構えていた。

 m-floファミリーや“loves”の面々などが集結となれば、普通に考えれば“loves”期を中心としたオールタイムベスト的な曲構成になるところだが、そこは常に未来を走る進取性の高い彼ら。9thアルバム『KYO』と既存曲とを交互に取り込むスタンスで、ステージを展開。☆Takuいわく「曲間を繋げるのが非常に難しかった」とのことだが、過去のヒット&人気曲を単に連ねるのではなく、現在進行形となる新曲と往来させることで、過去と現在、さらに未来を瞬時にタイムワープさせ、その時空をm-floの楽曲が結び付けているという意識づけを企図したに違いない。それはこれまで築き上げてきた軌跡を誇るのと同時に、グループや楽曲の“旬”はあくまでも今なのだという矜持も窺える。さまざまなトライをし、リスクを背負い、時には自分たちのスタイルにすら異を唱えながら、常に新鮮さを失わずに独自の世界を創造してきた自負に似たようなものが、この曲構成からは感じられた。

 だからといって、過去を蔑ろにしている訳ではなく、そもそもトライポッド期、loves期の楽曲群は胸を高ぶらせることに充分な破壊力を持っているゆえ、ひとたび音が鳴り出せば即座に歓喜の渦をなすフロアのリアクションを見て、m-flo自身も興奮という波に乗っていたはずだ。彼らがこれまでに築き上げてきた世界観、例えば『ASTROMANTIC』で登場し、『KYO』でも再登場した矢島正明のナレーションや、“ポーン”というインフォメーション・サインのビープ音に続いて発せられる、Lori Fine(COLDFEET)のアテンダントコールなどを耳にするだけで、期待と興奮が体内を巡り、当時の熱狂も呼び起こされるから不思議だ。



 今回は『KYO』収録の「No.9」「E.T.」の流れから本格的に幕を開けると、フロア熱を一気に上昇させたのはパーティ・アップの「prism」。その空気を2019年産の「MARS DRIVE」で受けると、熱度もトップギアに。“if you gonna do it go Cadillac! go Cadillac! go Cadillac! ”のフレーズとともに、オーディエンスが(キャデラックの)ハンドルを回す振りが連なる光景は、圧巻だった。「How You Like Me Now?」から初期曲をショート・ヴァージョンで繋げた後は、エモーショナルなラヴ・バラード「EKTO」へ。踊らせるキラー・チューンから一転、センチメンタルなバラードで、LISAの幅広いヴォーカルワークの才が表われた。

 新旧楽曲を交互に配してきた前半を終え、中盤はゲストを迎えての“loves”期セクションへ。流麗なストリングスをバックにしたLori Fineのナレーションをフィーチャーした『BEAT SPACE NINE』のイントロダクション・トラック「BEAT」を用いながら、“m-floファミリー”が順にステージイン。そこから“ファミリー”がマイクリレーする「love comes and goes」への流れは、代々木第一体育館で行なわれた10周年記念のステージでの登場形式を踏襲した形だ(Ryoheiが不在だったのが残念だったが)。
 歌が“始まればdon't stop”なYOSHIKAと“動けば she don't stop”なEmyliを配した「Loop In My Heart」、Emyliを残してグルグルと回すタオルがエナジーを高める「DOPEMAN?」を経て、Crystal Kayがステージイン。“loves”期の幕開けとなった「REEEWIND!」から「Love Don't Cry」、さらには☆TakuがプロデュースしたCrystal Kayへの提供曲「Boyfriend part2」を20周年記念ということでパフォーマンス。Verbalが「Crystalとは長い付き合いで、彼女が最初にコラボしたのが僕との〈Ex-Boyfriend〉という曲なんですけど(Ex-Boyfriend=元カレの意)、僕は“Ex-Boyfriend”だったんですけど、☆Takuとは〈Boyfriend〉という曲を一緒にやって。しかも“Part2”まで!」と語ったくだりが面白かった。元来はCrystal Kayをフィーチャーした「gET oN!」はCrystal Kayとはやらずに、Verbalと☆Takuでパフォーマンス。



 ゲスト・セクションは“loves”期を抜けて、クラブ色を高めた3rdステージ楽曲へ。CREAMのMinamiを迎えて「Perfect Place」「All I Want Is You」の『SQUARE ONE』の代表曲を。当時はそのサウンドに正直それほど高まらなかったが、特に「All I Want Is You」は壮大なメロディラインとクラップによって、切なさと高揚、新鮮と哀愁とがミックスされた斬新さを今になって認識。楽曲の嗜好の良し悪しは別にして、m-floの楽曲は時を重ねても鮮度を失わないという意味では、それを良く示した楽曲の一つなのかもしれない。

 以降は、前半同様に新旧楽曲を交互に演じていくスタイルへ。ライヴとしての“ノリ方”が難しそうな「STRSTRK」で壮大な宇宙を前にした儚さを描くと、Lisaと☆Takuとのデュエット曲(LISAが「次はね、☆Takuとのデュエットなの」と話した嬉しそうな表情が印象的)「PULSE」から三角関係を歌った2001年の「orbit-3」へ。「PULSE」ではブックレットに歌詞が乗ってないことについて☆TakuとVerbalの二人がLISAに訊ねると「〈KYO TO KYO〉を聴いて、何かビビビと刺激を受けて。もう文章で説明するとかいう次元を超えちゃって、もう曲を聴いてフィールしてくれればいい、愛は感じるものでしょう」との回答に、オーディエンスも万来の拍手で応えていた。
 『KYO』収録曲からは唯一のゲストとなるJP THE WAVYを迎えてのトロピカルなスティールパンが耳に残る「Toxic Sweet」、日之内エミがステージインし、☆TakuがRyohei役を務めた「Summer Time Love」、興奮が渦巻くフロアをさらにエキサイティングに煽ったMINMIとの「Lotta Love」を経て、終盤は『KYO』セクションへと展開。背後にJ・バルヴィンとm-floの面々がアニメ化された映像が流れるなかでの「HUMAN LOST」から「against all gods」、『KYO』のコンセプトとなる“パラレルワールド”をテンポが異なる要素を組み合わせた「KYO TO KYO」の流れで、音と歌によるm-floのメッセージをしたためた後、m-floクラシックス「come again」で本編は幕。


 ここまででもかなりのヴォリュームだったが、フロアにアンコールクラップが鳴っている途中からスクリーンに、グローバルアストロコンビナートでワームホール研究をしているLISA、VERBAL、☆Takuの異次元奮闘物語というコンセプトで放送されたラジオ番組『Mortal Portal Radio』のトークをアニメ化したm-flo3人のキャラクターが登場。☆Takuが「もう今どきアンコールやるって分かってるでしょ」などと毒を吐きながらアンコールまでの時間を埋めているアイディアも彼らならではの仕掛けだ。

 ゲストの最後に登場したのは、現在は活動していないmelody.がアメリカから来日。以前と遜色ない歌声での「miss you」でフロアを盛り上げると、m-flo随一のメランコリックで深遠なラヴ・バラード「let go」ではYOSHIKAがはち切れそうな想いを絶妙に歌い上げる。ラストは“トライポッド”に回帰したm-floの3人で「No Question」へ。“誰がどう 何を言おうと関係ねぇ ねぇねぇねぇ”というフレーズには、紆余曲折を経て辿り着いた20年の意地とプライド、そして感慨が凝縮されている気がした。

 トライポッドからlovesを経て再始動、そして新たなるフェーズへと歩みを進めるm-flo。オーディエンスからは懐かしさや良き青春の思い出といったような感想が多く耳に飛び込んできた(『KYO』収録曲ではloves期などと多少温度差を感じたという声が聞かれたのもそれに含まれるだろう)が、個人的には20年観て聴き続けてきて、彼らは常にエンターテインするためのチャレンジを、過去へ戻ってそのピースを見つけるのではなく、新たなものやこれまでにされなかったアプローチで取り組んできたのだなと実感。そういった視点から鑑みれば、当初はそこまで興奮を覚えなかった『SQUARE ONE』『NEVEN』『FUTURE IS WOW』期の楽曲も、従来とは異なる感覚で耳を騒がせてくるというか、自分自身がm-floのサウンドメイクに追いついたといった方が適切なのかもしれない。それからさらに変化を求めて完成した『KYO』には、未来を駆け抜けるm-floの軌道のヒントが存分に隠されているといえそうだ。トライポッドとlovesとの融合を含め、新たなケミストリーが生み出されそうな予感がステージ上にうごめいていた……そんなエナジーが横溢するパフォーマンスにも感じられた。

 惑星間を飛来する隕石が流れて辿り着いた先(“mediarite-flow”)には何があるのか。ライヴでの高揚と余韻が冷めやらぬなか、これから耳目に触れるだろう、未来という天空から熱く輝かしい光を放ちながら降り注ぐ楽曲群やパフォーマンスの破壊力に期待を高めながら、雨のベイエリアを後にした。

 

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 No.9 (*K)
02 E.T.(*K)
03 prism
04 MARS DRIVE
05 juXtapoz(*K)
06 How You Like Me Now?
07 been so long
08 Come Back To Me 
09 EKTO(*K)
10 BEAT(with YOSHIKA, Emi Hinouchi, Emyli, narration by Lori Fine from COLDFEET)
11 love comes and goes(with YOSHIKA, Emi Hinouchi, Emyli)
12 Loop In My Heart(with YOSHIKA, Emyli)
13 DOPEMAN?(with Emyli)
14 REEWIND!(with Crystal Kay)
15 Love Don't Cry(with Crystal Kay)
16 Boyfriend -part II-(with Crystal Kay)(Original by Crystal Kay)
17 gET oN!(Verbal, ☆Taku)
18 Perfect Place(with MINAMI)
19 All I Want Is You(with MINAMI)
20 STRSTRK(*K)
21 PULSE(☆Taku, Lisa)(*K)
22 orbit-3
23 Toxic Sweet(with JP THE WAVY)(*K)
24 Summer Time Love(with Emi Hinouchi)
25 Lotta Love(with MINMI)
26 HUMAN LOST(*K)
27 against all gods(*K)
28 KYO-TO-KYO(*K)
29 come again
≪ENCORE≫
30 miss you(with melody.)
31 let go(with YOSHIKA)
32 No Question(*K)

(*K): song from album “KYO”

<MEMBER>
m-flo are:
Lisa(vo)
☆Taku Takahashi(DJ)
Verbal(MC)

band:
ALI&(80KIDZ)(syn)
Maika Loubte(key)
山下賢(ds)

guest with:
YOSHIKA
Emi Hinouchi / 日之内エミ
Emyli
Crystal Kay
Minami (CREAM)
JP THE WAVY
MINMI
melody.


◇◇◇






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【m-floのライヴに関する記事】
・2005/10/08 m-flo@ZEPP NAGOYA
・2005/11/03 m-flo@日本武道館
・2005/12/15 ARTIMAGE NIGHT 2005@STUDIO COAST
・2006/03/21 STARZ@ZEPP TOKYO ※レビューなし
・2007/06/14 m-flo@ZEPP TOKYO
・2007/07/21 m-flo@横浜アリーナ
・2007/10/17 TAMM@恵比寿ガーデンホール
・2008/08/09 NEW CLASSIC GIG '08@東京国際フォーラム
・2009/11/14 m-flo@代々木第一 【1st Day】
・2009/11/15 m-flo@代々木第一 【2nd Day】
・2009/11/17 m-flo@代々木第一 【MVP】
・2009/11/18 m-flo@代々木第一 【MIP】
・2012/05/26 m-flo@幕張メッセ
・2013/07/12 m-flo@SHIBUYA-AX
・2013/08/11 OTO MATSURI 2013×m-flo TOUR“NEVEN” Special Final@代々木第一
・2014/05/30 m-flo@ZEPP DiverCity
・2019/09/01 〈Local Green Festival〉Day 2 @横浜赤レンガ
・2019/11/22 m-flo @Zepp Tokyo(本記事)
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