*** june typhoon tokyo ***

〈Local Green Festival〉Day 2 @横浜赤レンガ


 ベイエリアに流れる心地よき時間とグッド・ミュージック。

 MUSIC(音楽)、GREEN(緑)、WATER(水)をキーワードに“緑が増えれば、もっと楽しく、もっと美味しく、生活が豊かになる”をコンセプトとしたエコロジカルなフェス〈Local Green Festival〉が、横浜・赤レンガ地区野外特設会場にて8月31日、9月1日の二日間開催。その二日目となる9月1日に足を運ぶことにした。ライヴは一番広いステージとなる「CACTUS」、それと対面する「SOL」、フリーエントランスの「RED BRICK CLUB」の3エリアで開催。それ以外にケータリングが並ぶ「LOCAL FOOD」エリアや、さまざまな店舗が並ぶフリーエントランスの「GREEN MARKET」などを設置。青い空や海からの風、緑が映えるロケーションで音楽に身を任せて過ごしたいという音楽好きが、時にドリンクを片手に、時にフードを頬張り、時に芝生で横になりながら、思い思いのスタイルで音楽を愉しんでいたようだ。

 二日目は、ラストを飾ったくるりをはじめ、m-flo、Nulbarich、大橋トリオ、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDなどがラインナップされていたが、個人的な目当ての筆頭は、何といってもマレーシア・クアラルンプール出身、米・ロサンゼルスを拠点に活動するユナだ。2012年にファレル・ウィリアムスのプロデュースによって全米デビューして以来、米ポップ・カルチャーへ多く露出。2016年のアルバム『チャプターズ』にはアッシャー、ジェネイ・アイコ、DJプレミアらが参加するなど、アジア出身のR&B/ソウル・シンガーとして耳目を集めている存在だ。そのユナの初来日ステージとデビュー当初から愛聴してきたm-floの2組がラインナップになければ、おそらく訪れることはなかっただろう。プログラム自体は12時よりJazztronikなどを皮切りにスタートしたが、ややゆっくりと15時前後に到着。まだ、陽射しが強く、湿気も多いなか、ゲートを潜り抜け、ドリンクを片手に、音の鳴るNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのステージの方へと近づいて“My Local Green Fes”がスタート。意識的に食い気味で観賞したのは、時系列で言えば、Kan Sano、YUNA、m-floの3組。「CACTUS」エリアでのNulbarichやヘッドライナー的な立ち位置のくるりは、周囲と適度な空間をもったやや遠めからのリラックスしながらの観賞となった。Kan Sano、ユナ、m-floという「SOL」ステージ演者がメインディッシュとなる自分は、このフェスではおそらく少数派なのかもしれない。

◇◇◇

 まずは佐野観ことキーボーディスト/プロデューサーのKan Sanoのステージ。Kan Sanoのサポートやブラック・ミュージックを下地にしたサウンドが特色のバンド、Mimeの中心として活動するYuki Morikawa(森川祐樹)をベースに、ネオソウル・バンドのGhetto塾や無礼メンなどで活動するSo Kanno(菅野颯)をドラムに従えてのトリオでの登壇。いまや異珍しくもなくなった、米・ボストンのバークリー音楽大学出身のジャズ/ソウルな出自はもとより、マンデイ満ちる、Shing02、Nao Yoshiokaあたりの作品で彼の名前を目にしていながら、何故か彼の作品をしっかりと聴いたことがなかったこともあり、これを機会にとステージへ馳せ参じた次第。

 アーティスト写真を見るに寡黙な人かと思っていたが、MCで「先ほど大橋トリオさんにあったんですが(自身の丸メガネ姿に)〈韓国のお母さんか〉と突っ込まれました」と語ったりと、衒いのない好青年という印象。キーボーディストというが、トランペットに加え、バンドメンバーとパートチェンジしながら、ベースやドラムまでも演奏。ライヴでは、ベースをブリブリ鳴らしながらのスタイリッシュなジャズファンクほかジャズマナーを活かしたソウル・ミュージックが軸か。パートチェンジもそうだが、楽曲の解釈が非常に自由闊達というかフリーキーでアブストラクトなところがあるのは、ジャズの濃度が強いのだろう。終盤で披露したマーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイング・オン」のカヴァーでは、ヴォーカルはオケを使って演奏に特化した形だったが、連綿と続くコード弾きからコーラスパートで激しく狂乱的な鍵盤叩きへと展開するなど“鬼才”ぶりを垣間見た感じ。それでも表情はあくまでも爽やかなのだから、これはモテる要素がふんだん。野外の開放感がポジティヴに働いたところはあったにせよ、屋内外関係なく具象と抽象を往来する幅を持った音楽性が魅力。ラストは“do you remember? still remember?”のコーラスが耳に残る、アルバム『Ghost Notes』からのシングル「Stars In Your Eyes」。ウィスパーヴォーカルと明度の高いネオソウル的なアプローチが好反応を呼ぶセンチメンタルな佳曲だ。ジャズとネオソウルと、ヒップホップやビートミュージック的アプローチが万華鏡のように鮮やかに混ざり合う音像は、従前にほんの少しだけ抱いていた堅苦しさとは無縁のそれ。いつか単独公演も体感してみたい。

◇◇◇

 

 次に個人的最大の目玉のユナは、新作アルバム『ルージュ』の楽曲を中心とした構成。初来日となったステージは、バックにシカゴを拠点とするソウル/ポップ・シンガー・ソングライターのナイロをDJに起用したデュオ・スタイルとなった。

 アンビエントやアーバンな要素をしたためたメランコリックなネオソウル「フォーエヴァーモア」を皮切りに、ヴェルヴェットに肌を滑らせていくような上質な心地よさと感情へ溶け込んでいく浸透力に長けた楽曲群を展開。新作『ルージュ』意外の楽曲に目を向けると、2012年リリースのユナの初のフル・アルバムとなったセルフ・タイトル作『ユナ』のオープナー「ララバイ」という懐かしい楽曲で以前からのファンと思しきオーディエンスに声を上げさせたかと思えば、「レーン」ではデスチャの「セイ・マイ・ネイム」、エカリへの客演曲「リーヴィング」ではマリオ「レット・ミー・ラヴ・ユー」という2000年前後のR&Bを引用して、自身の音楽的趣向ともリンクさせながら、オーディエンスとの接点を広げていく。浮遊するような大らかなメロディラインと内に秘めた蠢きを微かに感じさせる「クラッシュ」ではオーディエンスとのシンガロングで触れ合いを高め、「ユースト・トゥ・ラヴ・ユー」ではコール&レスポンスとともにミスティックな雰囲気を醸し出していく。
 
 これらは一様にしっとりとした趣きがあったが、単にスムーズ&シルキーなムードを作り上げていたというのではなく、そこにはしなやかさと艶美が寄り添う、芯の強さが伝わってきた。バンド・セットでもないゆえ、音圧が高いとか、音の輪郭が明瞭だとかはないが、ヴォーカルに内包する意志の強さとそれを存分に活かせるネオソウル/ジャジーソウル・マナーの楽曲性には、派手な飾りを装わずともズシリとした重厚な訴求力を感じざるをえなかった。

 ロサンゼルスのネオソウル・バンド“ムーンチャイルド”の面影を想起させる軽快なテンポとライトなメロディが特色の「ライクス」以降は、再び『ルージュ』曲に重心を戻して、どこかマーク・ド・クライヴ・ロウ的なジャズやハウス、ディスコ路線のビート・トラックにも近似性がありそうな(考えてみれば、マーク・ド・クライヴ・ロウもLAシーンの中心にいた)「ピンク・ユース」を経て、颯爽とした推進力を感じる「ブランク・マーキー」へ。『チャプターズ』まではメロウなソウルを深く掘り下げていた感のあるユナが、情熱の色彩“ルージュ(=赤)”をアルバムに冠した『ルージュ』では能動的に働きかけるアップ・テンポなサウンドやサンプリングワーク、多くの客演陣を駆使して音楽的充実を示したが、その新境地を体現する代表的な2曲でフィニッシュしたのも、現在の心境の表われか。そういえば、ステージの衣装は赤を基調としたシャツ・パンツに銀のコートジャケット風で、ここでも“ルージュ”の心境を“主張”していた。日本ではまだ知名度はそれほど高くはないが、海外での評価を考えると、今回のようなコンパクトなステージで観られる機会は、そうそうないのかも。

<SET LIST>
01 Forevermore (*R)
02 Does She (*R)
03 Lanes(include“Say My Name”by Destiny's Child) (*C)
04 Lullabies (*Y)
05 Tiada Akhir (*R)
06 Crash (*C)
07 Used to Love You (*C)
08 Likes (*R)
09 Leaving(Original by Ekali feat. Yuna / include“Let Me Love You”by Mario)
10 Pink Youth (*R)
11 Blank Marquee (*R)

(*R): song from album“Rouge”
(*C): song from album“Chapters”
(*Y): song from album“Yuna”

<MEMBER>
Yuna / Yunalis binti Mat Zara'ai(vo)
Nylo(DJ,key)

◇◇◇

 そして、「SOL」エリアのラストはm-flo。ライヴで観たのは、おそらく2014年のZEPP DiverCity TOKYO公演(その時の記事はこちら→「m-flo@ZEPP DiverCity」)以来だから、5年ぶりの生m-floか。しかも当時はLISA不在の2名体制だったゆえ、“トライポッド”のm-floを肉眼で見るのは、相当久しぶりということになる。

 オープニングから「come again」を投下するという幕開けには時代の流れも感じたが、一度音が鳴りだせば“知ってる人はもちろん、知らない人も知ったふりして”楽しむ空間に早変わりする。Lisaの「ヤッベーェ!」の絶叫を挟んで「How You Like Me Now?」「been so long」と初期m-flo“クラシックス”をメドレー形式で披露。トロピカルな音色が耳に残るレゲエ調「Toxic Sweet」には、客演の湘南出身のラッパー、JP THE WAVYがゲストとして登場。懐かしさだけで纏めない現行“m-flo”のサウンドをジャブ代わりに繰り出せば、LISAがステージアウトしている間は「gET oN!」、メドレーで「Summer Time Love」「Lotta Love」を続けてパーティモードのギアを上げていく。

 再びLisaが戻り、その存在感を改めて意識させたのが、パッションを焚きつけるようなセンチメンタルなラヴ・バラード「EKTO」と、可憐なLISAのヴォーカルとエッジの効いたVERBALのラップがエモーションを高める「against all gods」の現在進行形m-floの楽曲群。ステージでの完成度という意味ではこれからというところもあるだろうが(この日は本人たちも言っていたように、夏の多くのステージで歌ってきたにも関わらず“今年の夏最もグダグダ”感が露見)、時流もしっかりと見据えながら、健在ぶりを示してくれた。クライマックスは、キャデラックを運転するハンドリングの振りで一体感を高めた、「prism」「Astrosexy」路線の「MARS DRIVE」から、15年ぶりに復帰したLISAを加えての再出発を“決意表明”した曲ともいえる「No Question」へ。自由度の幅を利かせながらも、結局は愉快痛快なステージにしてしまうパフォーマンスは、紆余曲折ありながら長年連れ添った3名の関係性が為せる業に他ならない。

 11月には久しぶりのワンマンライヴも決定。チケット争奪戦になるかと思われるが、チャンスを掴んで、自身の公演での再出発の晴れ姿を是非目にしたいところだ。

<SET LIST>
01 come again
02 How You Like Me Now?
03 been so long
04 Toxic Sweet feat. JP THE WAVY
05 gET oN!
06 Summer Time Love
07 Lotta Love
08 EKTO
09 STRSTRK
10 against all gods
11 MARS DRIVE
12 No Question

<MEMBER>
m-flo are:
LISA(vo)
VERBAL(rap)
Taku Takahashi(DJ)

Goodsan(a.k.a. 山口隆志)(g)

◇◇◇

 上記3組以外では、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDを最後の2曲、Nulbarich、くるりをエリアをふらふらゆっくり移動しながら観賞。Nulbarichはさすがの人気のほどを実感。リーダーJQの「結論を先に言うと、〇〇(たとえば、忙しい時に電話かけてくんなっていう)っていう曲をやります」などの曲紹介コメントが適当感満載で楽しかった。でも、楽曲&演奏は、腰や身体を即座に揺らしてしまうグルーヴの波のつづら折り。

 当初は観ることを考えていなかったものの、YUNAやm-floで心地よさが高まってか最後まで観賞してしまったヘッドライナーのくるりは、ロック・バンドというかライヴ・バンドとして熟達を実感。個人的な嗜好で言えば、抑揚がそれほど激しくない朴訥としたヴォーカルとクセがなく淡々とリズムを刻むトラック、そして何より黒っぽいグルーヴがない楽曲にはそれほど心に刺さらないのだが(簡単にいえば、いわゆるロックには食指が動かない)、それ以上に、そもそもくるりを自ら率先して聴いてこなかったので(感情で言えば、好きでも嫌いでもない)、退屈になるかとも思っていたが、実際生で聴いてみると、琴線に触れるエモーショナルな機微があちらこちらにあって、最後まで楽しめた。バンドとしての完成度や意思疎通という意味での一体感も味わい深かった。フロントマンの岸田繁が結局フェスの名称“Local Green Festival”を最後までちゃんと言えなかったとしても、だ。そして、インスト曲「Tokyo OP」や本編ラストに岸田が「横浜でのフェスでなんなんですが、〈東京〉という曲をやります」といって奏でた「東京」と、横浜ながら“東京”をテーマにした曲で本編の幕を開け閉めるというのも、なんだか印象に残った。


<くるり SET LIST>
01 Tokyo OP
02 琥珀色の街、上海蟹の朝
03 everybody feels the same
04 Morning Paper
05 ばらの花
06 Baby I Love you
07 ハイウェイ
08 虹
09 ブレーメン
10 東京
≪ENCORE≫
11 ロックンロール

◇◇◇



 

 



にほんブログ村 音楽ブログへにほんブログ村 音楽ブログ ライブ・コンサートへブログランキング・にほんブログ村へ

 

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事