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*** june typhoon tokyo ***

国岡真由美 with ice BAND @ BLUES ALLEY JAPAN

 

 魅惑のアレンジで描き出す、エレガントでグルーヴィなICEワールド。

 秋から冬の季節の移ろいは早いもので、9月の公演からあっという間の2ヵ月。演奏が始まるまでは非常に長く感じたが、山下政人のクラッシュ・シンバルが鳴り、タタタンとリズムを刻み出すと、もう前回のライヴがつい昨日のように感じてしまうから不思議だ。
 目黒のBLUES ALLEY JAPANにて、国岡真由美 with ice BANDの名で行なわれるライヴの第2弾は、前回と同様、いやそれ以上に濃密なICEワールドを堪能した夜となった。

 前回は国岡曰く「足手まといになるので」ということでギターレスとなったが、今回は数曲でギター弾き語りも披露。以前のスタンディングのオーディエンスを前にしたエネルギッシュなバンド・スタイルとは異なるものの、時を重ねさまざまな経験を得た者だからこそ奏でられる、艶と粋を兼ね備えた、存分に音を嗜むことが出来るステージとなった。

 「今回は……お話はあまりなく、いこうかな」と、普段もそれほど多くはないMCを極力避けて、楽曲演奏に注力したステージングを心掛けようとする国岡に、それでもシーンとした瞬間があると「間がめちゃくちゃ怖いねん」と思わず口を開いて、トークを展開しようとする山下。そんな山下に「もう、巻きが入ってるからさ……」と崩場将夫が諫めたかと思うと、その崩場に「真司、お前も黙ってないで何かしゃべれよ」とツッコまれる小川真司……ちょっとした他愛もない会話のなかにも、このメンツでしか成立しえない関係性が垣間見られるのは、ほんの僅かな瞬間ではあるけれど、微笑ましい限りだ。



 本公演も前回(記事→国岡真由美 with ice BAND @ BLUES ALLEY JAPAN)同様の2部構成。9月公演時はレゲエなどのアフタービート系の楽曲もあったが、今回は全体的にアダルトなジャズ~ロック・テイストにまとめたこともあり、この4名でのコンセプトとしての濃度がグッと高まったアクトに。それに輪をかけたのが、「前回とは違う曲もやろうかな、と」という国岡の言葉以上の重みを感じる選曲のセレクト。第1部冒頭の「NIGHT FLIGHT」からして、麗しい鍵盤、心地よく鼓動を揺るがすファットなベース、小気味よく軽やかにさせるドラミング、そしてエレガントにアーバンな夜へといざなうヴォーカルが折り重なり、オーディエンスの脳裏を夜の空港へ、日常から非日常へといざなってくれる。それだけでも秀抜なのだが、3曲目にはジャズ・ボッサ風のイントロから「SLOW LOVE」を。冒頭に歌われる“フゥ~”のファルセットに従来のライヴのように歓声のレスポンスは出せないが、心の中では大きな歓喜の声を上げていた。さらに、第2部の序盤には国岡のギターも交えての「MOON CHILD」が。「SLOW LOVE」「MOON CHILD」のICEファンにとっては極上に異論がない名曲が、このスタイルでも聴けるとは予想していなかったゆえ、驚きと同時に胸が高まっていたのは、言うまでもない。

 もちろん、大名曲が選曲されていたから、即ち感情が高ぶったという訳ではない。「SLOW LOVE」直後に披露された、翳りや哀愁を携えながら躍動を見せる未発表曲(「JAZZ」と題されていた)や、小川の滋味深いベースが響くなかで妖しげなムードを幕を開ける「TABOO」では、穏やかな波が突然そそり立つかのごとく、鍵盤とドラムが交互に打ち鳴らされ、諦観と希望の狭間の心情を見事に映し出した「I saw the light」では、傷ついた心をゆっくりと癒すとともに再び前を向くための励ましを届けるような、文字通り肌身に沁みる演奏を繰り広げていく。



 第2部でもしっとりとしたリラクシンなムードで始まった「MOON CHILD」を皮切りに、ジャズ・ボッサな「BABY MAYBE」や「C'est la vie」と洒落たカフェ・テイストといった風のアレンジで和やかなムードを醸し出せば、軽やかに鳴る鍵盤といきいきとしたドラム&ベースが走る「WHISPER」、大人のためのララバイともいえる「GOOD NIGHT」など、肩肘張らずに聴かせていく。

 前回から引き続きセレクトされたのは、第1部の最後を飾った「Love Makes Me Run」をはじめ、「LIVIN' IN THE CITY」「BIG BEAT FROM THE CITY」「WAKE UP EVERYBODY」「kozmic blue」の5曲。そのなかではゴリゴリとしたベースが先導し、カンカンという高音とグルグルと蠢くようなドラム、波が騒めき立つような鍵盤でジャズ・ロックに描く「LIVIN' IN THE CITY」、スタイリッシュなジャズ・モードから、メンバーも見入るほどの大地を鳴らすようなアーシーなドラムソロで一気にフロアのヴォルテージを高めた「BIG BEAT FROM THE CITY」は、全体的にスタイリッシュな構成のなかでもアクセントとなるロッキンかつ刺激的なステージングで、この公演シリーズでも継続的に演奏していっても良いのではと思えたアクトだった。



 それ以外にも魅力的なアクトはふんだんにあって、第2部本編ラストとなった「WAKE UP EVERYBODY」は前回も第2部の最後に演奏してはいるが、何度聴いても沁みる。もちろん元ネタのフィリー・ソウル・クラシックスを好んでいるというのもあるが、優しいだけではなく、かといって背中を強く押したり、さらには喝というほどでもない、絶妙な頃合いで自らが前へ進む活力を与えてくれるテイストやアレンジに落とし込めているのが白眉だ。

 アンコールで披露されたインストゥルメンタル「TEA 4 TEE」では、グルーヴィに弾けるベースや、ハイハットを畳み掛けるドラムなどのソロパートを繰り広げた後、演奏途中に崩場に促された国岡が急遽スキャットを披露するといったサプライズも(途中で一瞬詰まってしまい笑ってしまったところはご愛敬)。また、この曲の演奏前、崩場がおもむろに「間違い探しってあるじゃないですか。このステージで何か変だって思うことありませんか」と客席へ投げかけ、小川の横にあるウッドベースにツッコミ。「オブジェ!」と小川が答えるものの、崩場に「ウッドベースあるのに、全然弾いてない。次まだ曲あるけど次も弾かないんですよ」と弄られると、小川が「すいません、以後気をつけます」「大きな飾りです」と苦しい言い訳(?)を。崩場が「恥ずかしいよね」と追い打ちをかけるところへ「でも、まあ寝てるから」と国岡がフォロー……といった場面もあった。丁々発止のソロなどを繰り広げた演奏後の国岡の「遊べるっていいね」の言葉に、ice BANDとしての充実を見て取れた気がする。



 さまざまな曲でグッとくるポイントがあったのだが、この公演で個人的に一番印象深かったのは、第2部の後半に披露された「IT'S ALL RIGHT」だろうか。国岡にはやや大きく映るギターを抱えながら歌う姿に、他の楽曲よりも強い活力というか生命力のようなものを感じたからだ。無力さに項垂れ、夢が遥かに遠のいても“大丈夫さ”と自身に問いかける歌だが、それが(ICEの核を失うという)望んではいなかった状況へなったとしても、こうやって歌を届けられることが大切ということをなぞらえていたのでは……と勝手に邪推してしまうほど、他の楽曲とは一つ抜けた意志の強さが感じられた、生動なヴォーカルに惹かれていた。

 アンコールラストは「kozmic blue」。“What a beautiful world!”のフレーズよろしく、盟友4名が奏でて創り出す“美しい世界”を名残惜しみながら、あらためてICEが生み出した卓抜な楽曲群に酔いしれたのだった。



◇◇◇

<SET LIST>
≪Section 1≫
01 NIGHT FLIGHT (*MS)
02 HIGHER LOVE (*HL)
03 SLOW LOVE (*IT)
04 JAZZ(unreleased song)
05 TABOO (*S1)
06 I saw the light (*S2)(*21)
07 LIVIN' IN THE CITY (*MS)
08 Love Makes Me Run (with guitar)(*SD)

≪Section 2≫
01 playing the recorder(English flute)only by Mayumi Kunioka
02 MOON CHILD (with guitar) (*WE)
03 BABY MAYBE (*WM)
04 C'est la vie (*21)
05 WHISPER (*MS)
06 GOOD NIGHT (*21)
07 BIG BEAT FROM THE CITY (*TR)
08 IT'S ALL RIGHT (with guitar) (*TR)
09 ラヴァーズ・ロック(Yeah! Yeah! Yeah!) (*SL)
10 WAKE UP EVERYBODY (*WE)
≪ENCORE≫
11 TEA 4 TEE  (*WE)
12 kozmic blue (*I3)

(*WE):song from album“WAKE UP EVERYBODY”
(*I3):song from album“ICE III”
(*WM):song from album“We're In The Mood”
(*SD):song from album“SOUL DIMENSION”
(*MS):song from album“MIDNIGHT SKYWAY”
(*IT):song from album“ICE TRACKS Vol.01”
(*TR):song from album“TRUTH”
(*S1):song from album“SPIRIT vol.1”
(*S2):song from album“SPIRIT vol.2”
(*21):song from album“Formula 21”
(*SL):song from album“Speak Low”
(*HL):song from album“HIGHER LOVE ~ 20th Anniversary Best”

<MEMBER>
国岡真由美(vo)
山下政人(ds)
小川真司(b)
崩場将夫(p)



◇◇◇

【ICEに関する記事】
・2013/10/04 ICE@下北沢GARDEN
・2015/03/19 ICE@BLUES ALLEY
・2019/01/26 ICE@横浜Bay Hall
・2019/10/12 My Favorite Songs of ICE〈prologue〉
・2019/12/16 My Favorite Songs of ICE〈epilogue〉
・2021/09/26 国岡真由美 with ice BAND @ BLUES ALLEY JAPAN
・2021/11/21 国岡真由美 with ice BAND @ BLUES ALLEY JAPAN(本記事)

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