■ ICE@下北沢GARDEN

音楽ユニット“ICE”の20周年を記念した新曲を含むベスト・アルバム『HIGHER LOVE~20th Anniversary Best』のリリースを祝したライヴ、〈ICE 20th Anniversary ~“HIGHER LOVE”Release Party~〉を観賞。会場は下北沢GARDEN。公式では600人収容の下北沢最大のキャパシティを誇るライヴハウス(さすがに600人というのはほとんどぎゅうぎゅう詰めでどうかといった数字だろう)で、後方まで観客で埋まっていた。
ICEのライヴを観たのはいつ以来になるだろうか。おそらく、2004年のSHIBUYA-AX公演だと思う。1993年にデビューし、ソウルやファンクといった要素を散りばめた都会的なポップ/ロック・サウンドで人気を誇った。そのクールでアーバンな佇まいもあり、渋谷系とされたことも。2007年、中心的存在の宮内和之が夭逝。ヴォーカルの国岡真由美がギターレスの“ice”として活動再開を経て、2012年にギタリストを招いて復活。2013年は4月に渋谷duo MUSIC EXCHANGEでライヴを開催したが、それ以来となる公演だ。その時は不参加だったパーカッションの大石真理恵も参加。ゲスト・ギタリストにはMONDO GROSSOやMONDAY満ちる、m-floをはじめ数多くのアーティスト作品に参加している田中義人が加わった。
19時を5分ばかり過ぎたところで暗転。メンバーが次々とステージに登場すると、胸にある期待が収まり切らずにいた観客たちから歓声と喜びの表情がステージへ送られた。(全盛期ではあまりなかったと思うが)冒頭は名曲「SLOW LOVE」から。ヴォーカル国岡の艶やかなハミングを聴いた瞬間に、一気に時が遡る。大人で洒脱で粋で都会的な空間が眼前に繰り広げられたのだ。
個人的に思い入れが強いユニットということもあるが、ICEの音楽はいつ聴いても不変だ。なんというか、しばらく聴いていない時間があったとしても、触れれば一瞬にして意識の底に眠っていたものが覚醒するというか。くすぶっていたものが細胞や素粒子単位で活性化し始めるような、エネルギーが湧き出てくるのだ。
刹那的でない洗練された音楽性ということもあるが、古臭さが全くない。それは、人の心を揺るがすグルーヴが常に鳴り響いているからなのかもしれない。名うてのバンド・メンバーを揃えて、心地よいグルーヴを演奏する。ただそれだけなのかもしれないが、ただそれだけを長くやり続けることがいかに難しいか。中心の宮内和之はステージに立っていないけれども、その意志はしっかりと消えずに受け継がれている。
今回のベスト・アルバムに収録された新曲「HIGHER LOVE」で共演・共作した田中義人がMCでこんなことを言っていた。いつもはそんなことないのだけれど、「HIGHER LOVE」のギター・ソロ・テイクが何度やっても納得出来ずにいて、宮内のギター・ソロをどのように表現しようかと知らずと重圧になっていたのかもしれないと。だが、しばらくして、宮内から「お前らしく弾けよ」という声が聞こえた気がして……そうしたら上手くいった、と。
そう、宮内は姿には見えないけれど、彼が作り出したメロディやバンドの佇まいは、しっかりと染みついているのだ。だから、場所がどこであろうと、いつもそこにはICEたるべきサウンドやグルーヴが流れるのだ。
ギタリストには田口慎二がいる。ルックスや演奏でのシルエットなど、たまに宮内を想わせる瞬間もあるが、彼ももちろん宮内の代理ではなく、彼のスタイルでギターを鳴らす。スタイルは田口イズム。でも、サウンドはICEイズムなのだ。
今回、アンコール・ラストで国岡が「じゃあ、あの曲をやりましょう」と言って始まった「PEOPLE, RIDE ON」。歌詞にある
ニュースで知ったことだけど
あのロックンロールスターはもういない
車のシートに横になり 涙を流した
夢は消え 歌は残る
が現実になった時の感傷はもう薄らいでいるけれど、何か思いがこみ上げるのかと思いきや、そんなことはなく、純粋にその曲を堪能していた自分がいた。
というより、「Love Makes Me Run」や「ECHOES」では宮内のバック・コーラスが聴こえていた。もちろん、実際は違う。でも、自分の身体の中では彼の声もグルーヴも体感した。確かに、そこにあったのだ。そして、歌は残っている。夢だって消えていない。“ICE”というバンドが活動している限り、夢は続く。
冷静に、第三者的に見れば、途中からはスムーズになっていった国岡のヴォーカルを含め、まだ全盛期の状態には足りないのかもしれない。人間には避けられない“老い”という問いもあるだろう。だが、時間とは超越したところにあるスピリットは錆びていない。錆びるどころかむしろ、熟練さを増しながらさらなる自在性を得ていて、まだ成長を遂げるのではないかと思わせるくらいの輝きを放っていた。
だからこそ、観客も時を忘れて笑顔で歌い、踊る。「Analog Queen」での観客からの“シャリラリラー”のコールは、実に至極の空間だった。その光景にステージ上のメンバーも微笑み、身体を揺らし、歌い、楽器を鳴らす。素晴らしい楽曲や演奏を介してICEメンバーと観客が一体となった、実に恍惚な融合だった。
以前、ステージで宮内が「30代の歌」といって紹介した「ECHOES」。
夢を見よう 叶わぬ夢でも
今の僕に出来る事は、そう
あの日聴こえたはずのECHO
田中義人が情感を込めてギターを鳴らしたこの日の「ECHOES」も、この詞がグッと今の自分に問いかけてきた。何とも言えない感慨に耽りながら、下北沢の夜の喧騒をあとにしたのだった。
◇◇◇
<SET LIST>
ICE 20th Anniversary ~"HIGHER LOVE" Release Party~
01 SLOW LOVE
02 BABY MAYBE
03 Love Makes Me Run
04 I saw the light
05 BIG BEAT FROM THE CITY
06 SHERRY MY DEAR
07 HIGHER LOVE(Special Guest with 田中義人)
08 Love Keep Us Together(Special Guest with 田中義人)
09 ECHOES(Special Guest with 田中義人)
10 IT'S ALL RIGHT
11 JUNKFOOD JENNY
12 GET DOWN, GET DOWN, GET DOWN
13 LIFE~STANDIN' ON THIS WORLD
14 No-No-Boy
≪ENCORE #1≫
15 MOON CHILD
16 ANALOG QUEEN(Special Guest with 田中義人)
17 PEOPLE, RIDE ON(Special Guest with 田中義人)
≪ENCORE #2≫
18 kozmic blue
<MEMBER>
国岡真由美(vo)
山下政人(ds)
小川真司(b)
田口慎二(g)
崩場将夫(Key)
大石真理恵(perc)
柴田章子(cho)
鈴木精華(cho)
田中義人(g)
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ICE - 「HIGHER LOVE」Video Clip (ショートVer.)
ICE - HIGHER LOVE~20th Anniversary Best トレーラー
ICE/HIGHER LOVE~20th Anniversary Best
2013年9月11日(水)Release
TOCT-98015 / 3,500円(税込)
CD(Blu-specCD2)+DVD(2枚組)
ICEをリアルタイムで知らない若い人にも是非聴いてもらいたいですね。