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北朝鮮「最後の支援」の担い手:米キリスト教団体 人道支援は政権延命につながるとの疑念も

2018-03-22 14:54:00 | 北朝鮮

北朝鮮「最後の支援」の担い手:米キリスト教団体

人道支援は政権延命につながるとの疑念も

2018 年 3 月 22 日 09:45 JST   THE WALL STREET JOURNAL

北朝鮮の食糧支援のために寄付された七面鳥の缶詰

 クリス・ライス(57)氏は昨秋、自らの信念に基づいて北朝鮮に渡った。米ノースカロライナ州出身のキリスト教徒で支援活動に

従事する同氏は、寄付された53トン分の七面鳥や大豆を同国の児童養護施設に届ける作業を行っていた。現地入りしたのはそれを

確認するためだ。


 地元で同じ教会に通う教区民の多くは通常、こうした慈善活動を支援している。だがライス氏の出発前にはこう質問せずに

いられなかった。北朝鮮に爆弾が作れるのなら、なぜ国民の食糧を賄うことができないのか?


 ライス氏のような人道支援グループの活動は、独裁国家に支援を与えることへの深刻な疑念を再燃させている。

議論の的となるのは、貧困者を支援すれば、別の邪悪な目的に国家の資源をふんだんに回せるようになると考えられる点だ。

北朝鮮の場合、支援を与えることで、現政権が米国やその同盟国の脅威となる核兵器開発により多くの資金を費やすのではないか

という疑念が生じる。


 ライス氏が医療用品をスーツケース一杯に詰め込み、北京空港から平壌行きの便に乗り込んだのと同じ日、ドナルド・トランプ

米大統領は韓国を訪ねた。対北朝鮮制裁を強化する必要性について協議するためだ。

 

弱まる支援国連の北朝鮮への人道支援は年々縮小


「核兵器の開発資金のために自国民を飢えさせるなどあってはならない」。同じ頃、トランプ政権の国連大使を務める

ニッキー・ヘイリー氏は国連安全保障理事会でこう訴えた。


 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が強力に推進する核弾頭搭載可能な長距離ミサイルの開発に対し、国際社会は

商取引を制限し、外国からの支援を減らすという対抗措置を取った。その結果、北朝鮮の支援活動に占める比率がかつては小さかった

宗教系団体が、今では突出した役割を担うようになった。


 国連の支援額は3900万ドル(約41億円)と、2001年の10分の1程度の規模に縮小した。これに対し、米国の一握りのキリスト教

団体は年間およそ1000万ドルの支援を提供していることが公表資料から分かる。国際的な制裁や米国の渡航禁止措置をかいくぐる

これらの団体は、北朝鮮の大勢の貧困者(特に子どもたち)や高齢者、病気を抱える患者にとって最後の支援ルートの一つと

なっている。


 キリスト教関係者が大半を占める支援活動家は、北京経由で北朝鮮に入り、診療所の運営や井戸の掘削、食糧の供給や

支援プログラムの監視などの活動を行う。


「汝の敵を愛せよ」

 ライス氏が平壌に到着すると、活動家仲間の数人が同じホテルに宿泊していた。その中の一人がユージーン・ベル財団の

スティーブン・リントン氏(67)だ。同財団は長老派教会の一員として1895年に朝鮮半島で宣教活動を始めた同氏の曽祖父の名を

冠した団体だ。


 これらの人道支援活動家は、米国の渡航禁止措置の適用を除外され、両国民が直接顔を合わせる活動に従事するごく限られた

米国人だ。彼らは過去1年にわたり、瀬戸際外交や、最近では米朝首脳会談が開催される可能性に翻弄されてきた。


 キリスト教徒の支援活動家は、「汝の敵を愛せよ」といった聖書の教えが動機づけになっていると話す。支援団体はキリスト教の

さまざまな宗派に起源を持つ。クエーカー教徒が創設した米国フレンズ奉仕団(AFSC)や、モルモン教の末日聖徒イエスキリスト教会、

再洗礼派の流れをくむメノナイト中央委員会、宗派を超えたワールド・ビジョンなどだ。


北朝鮮にある倉庫で寄付された大豆を手にとるクリス・ライス氏 

 

北朝鮮の児童養護施設では野菜スープに缶詰の肉を加える

 

メノナイトが提供した七面鳥の缶詰を使った昼食をほおばる児童養護施設の子供たち


トランプ政権は過去の米国の支援や関与を失敗だと見なす。米国は2009年に北朝鮮が核軍縮に関する6カ国協議から離脱した後、

支援を取りやめた。トランプ氏は昨秋、「わが国は25年間、北朝鮮対応に失敗してきた。数十億ドルを与えながら何も得ていない」と

ツイートしている。


 2月に開催された平昌冬季オリンピックの後、トランプ政権は制裁を通じて最大圧力をかける姿勢を強調。その一方で北朝鮮と

非核化協議を始める道も模索している。何らかの対話が実現すれば、こうした人道支援の有効性に一段と厳しい目が向けられるだろう。

北朝鮮は交渉の一環として食糧などの支援を要求すると多くの専門家が予想しているからだ。


 リントン、ライス両氏はともに父親がかつて宣教師として韓国に赴任していた。人道支援によって友好関係を築くことができる

という共通した信念を抱く。


 「平和を築くことは、敵に話しかける勇気を持ち、そのことで批判を受けるのをいとわないことを意味する」。

こう話すライス氏は、メノナイト中央委員会が韓国に拠点を置く人道支援プログラムを運営している。メノナイトは平和主義の

キリスト教団体として、危険な地域で奉仕活動を行ってきた長い歴史がある。


 リントン氏は1970年代以降、北朝鮮に80回余り渡航した。同国にまん延する「多剤耐性結核」の治療プログラムを運営しており、

同氏によると北朝鮮政府から昨年、プログラムの活動範囲を倍増させてほしいと要請されたという。


 これに対し、北朝鮮に見切りをつけた人道支援活動家もいる。「こうした資金は全て現政権のポケットに直行する」と話すのは、

フィラデルフィア地区出身のナンシー・パーセル氏(68)だ。同氏は2000年、キリスト教系の非営利団体の一員として初めて訪朝した。

現地生産された食糧の配布に従事していたが、04年に軍部が寄付金を流用しているとの結論に達した。支援によって「政権を延命

させている」と同氏は指摘する。


 ミシガン州出身のティム・ピーターズ氏(67)が最初に同国に渡ったのは、1990年代の飢饉(ききん)の時期に食糧を届ける

ためだった。同氏は新訳聖書の「ローマ人への手紙」にある「もしあなたの敵が飢えるなら、彼に食わせなさい」という一節に

触発されたという。現在は脱北者を支援するキリスト教団体「ヘルピング・ハンズ・コリア」を運営している。


 「北朝鮮のような全体主義の体制下では自由な活動ができない」と同氏は話す。


飢饉支援を流用か

 キリスト教団体が北朝鮮で活動を始めたのは1990年代初め、著名な福音派伝道師の故ビリー・グラハム氏が平壌を2度訪れたころだ。


 北朝鮮は1995年、飢饉に対する支援を国際社会に要請し、年間約100万トンの食糧を受け入れる世界有数の被支援国となった。

米国は1995年~2008年に13億ドル相当の食糧や燃料を提供している。


 だがその後の調査で、飢饉に対する支援の多くが北朝鮮のエリート層や軍関係者に横流しされたと疑われている。飢餓問題に

取り組む団体「アクション・アゲインスト・ハンガー」のメンバーは1990年代後半、粗末な施設の中で放置されたまま死亡したと

みられるやせ細った子どもたちを発見したと報告。この団体は2000年に同国から撤退した。「国境なき医師団」は政府が食糧を

貧困者に渡していないと判断し、1998年に撤退した。


 専門家によると、北朝鮮は今も食糧と医薬品を喫緊に必要としている。だが北朝鮮に支援を届けるには、理屈抜きにひたすら

信用するしかなく、また現地に足を運ばなければならない。支援プログラムや物資がそれを最も必要とする人々の助けになって

いることを確認する唯一の方法は、自分の目でじかに見ることだからだ。


 キリスト教団体の活動家は、寄付した物が意図した受益者に届くことを確信していると話す。北朝鮮当局は食糧や医薬品を

配る支援者には、通常の外国人旅行者が制限される地域への立ち入りも認めている。