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ロヒンギャ問題、ミャンマーを取り込もうとする中国  / 【WSJ社説】中国がビルマに提案した「解決策」

2017-12-26 23:58:04 | 民族・人種問題・宗教・人権問題(差別・迫害)

ロヒンギャ問題、ミャンマーを取り込もうとする中国

2017年12月25日   WEDGE Infinity

 中国の王毅外相がミャンマーを訪問、ロヒンギャ問題への新提案をしたことについて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の

11月21日付け社説は、中国の提案は不適切であると批判しています。要旨は次の通りです。


 中国の王毅外相は11月19日、ミャンマーを訪問、ロヒンギャの人道危機の解決策を提案した。中国はその影響力を、軍を抑制する

ために行使していない。中国の提案はミャンマー政府による少数民族の誤った扱いを助長するだろう。

 


 ミャンマー軍は8月下旬、ロヒンギャの小規模武装勢力による陸軍施設への攻撃を理由として、掃討作戦に踏み切った。

目撃情報によれば、兵士は多くの文民を殺害し、レイプした。衛星写真からは、約300のロヒンギャの村が焼かれたことが確認できる。

過去3か月、60万人以上のロヒンギャが隣国バングラデシュに流入、さらに数千人が脱出を試みている。


 中国は当初、ミャンマー軍の行動を「国家安定の維持」に必要として支持、国連安保理による暴力非難決議に拒否権を行使した。

対ミャンマー制裁や国際刑事裁判所への付託の圧力が高まっているが、王毅は中国のミャンマー支持が確固たるものであることを

示した。


 王毅の新提案は、まず停戦と安定の回復を求めている。それに異を唱えるのは難しいが、ミャンマーには迫害対象のロヒンギャは

ほとんど残っていない。12万人からなる最後の大規模グループは、2012年以来シットウェ郊外のキャンプに収容されている。


 同提案は第二に、ミャンマーとバングラデシュが、他国や他のグループの同席無しで、危機の解決策を話し合うよう求めている。

これは、ミャンマーが国連の関与を拒否するのを助長する。バングラデシュとの対話は既に始まっているが、バングラデシュ

のみではミャンマーに象徴的な数の難民の帰還を認めさせる以上のことはできないであろう。


 第三に、中国は、あらゆる政治的不安定に対する同国の標準的対応、すなわち経済発展を提案している。王毅は、雲南省、

ヤンゴン、ロヒンギャが住むラカイン州を結ぶ経済回廊についての新計画を公表した。


 西側諸国は、ロヒンギャ問題でミャンマーに圧力をかけるべく制裁を検討しているが、中国のミャンマー支持は、制裁が限られた

梃子にしかならないことを意味する。アウンサン・スー・チーの側近は本紙に、制裁はミャンマーを中国の影響下に押し戻すだろう、

と言っている。


 しかし、ミャンマーの民族浄化を放置するのにもリスクがある。スー・チーは軍に接近し、批判するジャーナリストを弾圧している。

ミャンマーの他の民族グループは、権利の縮小に直面している。ロヒンギャ危機はミャンマーの政治的軌道を変え、中国による支援は

極端なナショナリズムへの動きを加速し得る。


 ロヒンギャ問題は人権尊重の問題です。国際社会は第2次大戦後、紆余曲折をしながらも、人権問題は国際的関心事項であるという

考え方を形成してきました。

 


 中国は、こうした考え方に真っ向から異議を唱え、「人権問題は国内問題である。外国が容喙するのは内政干渉である」と言って

きました。中国は世界の潮流に反した行動をしており、これについては、批判をしていくということでしょう。

 

 アウンサン・スー・チーのロヒンギャ問題についての対応は、人権の尊重を含む民主化の旗手としての彼女にふさわしいものとは

とても言えません。

アウンサン・スー・チー自身、米国その他の「人権問題は国際関心事項」という考えに基づく支援によって支えられてきた歴史が

あります。

軍事政権当時、西側が彼女の問題はミャンマーの国内問題であるとの姿勢をとっていたら、今の彼女がいたかどうかも分かりません。

 

 アウンサン・スー・チーは12月1日、3度目となる訪中をしています。また、ミャンマー政府が11月23日、「近隣国間に起きた

問題は2国間交渉で解決されるべきである」という王毅提案をなぞった報道官声明を出していることを見ると、アウンサン・スー・チー

政権の対中傾斜は明らかです。国際社会の容喙を嫌っているのです。

 

 それでは、日米欧はどう対応すべきなのでしょうか。

 

 ミャンマー制裁を復活すべきとの声がありますが、これはミャンマーの中国接近をもたらすだけでしょう。これを避けるような

対応が必要です。

11月15日、ティラーソン国務長官が短時間ミャンマーを訪問、「民族浄化」に苦言を呈しましたが、米政権は今回のロヒンギャへの

民族浄化に直接関与した軍人など狭い範囲の人に限って制裁するが、広範な政治・経済的影響を持つ制裁はしないとしています。

賢明な対応です。

 

 西側はアウンサン・スー・チーにそれなりの投資をしてきたのであり、「民主化の旗手」としての彼女を大切にし、彼女の権力の

限界も踏まえ、辛抱強い対応が要ります。中国がミャンマーを取り込もうとしているのは王毅の訪問で明らかであり、対抗する必要が

あります。

 

 ミャンマーにアウンサン・スー・チー主導の政権ができた後、同国に進出した日本企業は多いです。ロヒンギャ問題でミャンマー

政権と西側との関係悪化はこれらの企業を心配させているでしょうが、まだ引き上げずに粘るべきでしょう。そうしないと、

「一帯一路」の成功例を支援することになりかねません。

 

 中国は、南シナ海でも関係当事者での話し合いを重視するとしており、自らの近隣への国際社会の関与を排斥しようとしています。

しかし、航行の自由も人権も、国際社会全体の関心事項です。

 

 

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【WSJ社説】中国がビルマに提案した「解決策」

ロヒンギャ問題で制裁圧力が高まる中、揺るぎない支援を強調

2017 年 11 月 22 日 16:16 JST     THE WALL STREET JOURNAL

 

中国の王毅外相(左)とミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相(20日、ミャンマー) 

 中国の王毅外相は19日、ビルマ(ミャンマー)を訪れ、ロヒンギャ問題に対する解決策を提案した。しかし中国はビルマ国軍の

抑制に向けて影響力を行使するのではなく、ビルマ政府に少数民族の不当な扱いを促すような策を打ち出した。

 

 ビルマ軍は8月下旬、小規模な武装勢力が陸軍駐屯地を攻撃したことを口実に「掃討作戦」を開始した。目撃者の報告によると、

兵士は大勢の民間人を殺害したりレイプしたりしたという。約300カ所のロヒンギャの村落が焼き払われたことが衛星写真で確認

されている。ここ3カ月で60万人を超えるロヒンギャ族が隣国のバングラデシュに逃れ、さらに数千人が避難を試みている。

 

 中国は当初、ビルマ軍の行動を「国家安定の維持」に必要だとして支持。拒否権を利用して国連安全保障理事会(UNSC)の

非難決議採択を阻止している。対ビルマ制裁や国際刑事裁判所(ICC)への付託を求める圧力が高まる中、王氏は中国の支持は依然、

揺るぎないとのメッセージを発している。


 王氏の新たなプランでは、まず停戦と安定の回復を提案している。これに異論を唱えるのは難しいが、ビルマには迫害の対象となる

ロヒンギャ族はほとんど残っていない。最後に残された12万人の大規模集団は、ロヒンギャ族との衝突が表面化した2012年以降、

西部ラカイン州の州都シットウェ郊外にある収容所に拘束されている。


 王氏が次に提案しているのは、ビルマとバングラデシュが危機の解決策を協議することで、その際、他国や他組織は参加させない

よう勧めている。そうすればビルマは国連の関与受け入れの求めに応じずに済む。バングラデシュとの協議は始まっているが、

バングラデシュだけでは形ばかりのわずかな難民の帰還をビルマに受け入れさせるにとどまるだろう。


 3つ目の提案は、あらゆる政情不安に対する中国の標準的な対応策である経済発展の拡大だ。王氏は中国・雲南省からビルマの

旧首都ヤンゴンとロヒンギャ族が住むラカイン州に続く経済回廊を構築する新たなプランを明らかにした。


 欧米諸国はロヒンギャ問題に関して制裁でビルマに圧力をかけることを検討しているが、中国の支援は制裁の影響力が限られる

ことを意味する。ビルマのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相の側近は今月、ウォール・ストリート・ジャーナルに対して

制裁は同国を中国に接近させるものだとくぎを刺した。


 しかし、ビルマの民族浄化を放置することにもリスクがある。スー・チー氏は軍寄りの姿勢を強め、同氏を批判するジャーナリスト

を弾圧している。ビルマの他の民族グループのメンバーは自分たちの権利が縮小されているのを目の当たりにしている。

ロヒンギャ危機はビルマの政治的軌道を変化させた。そして中国の支援はその極端なナショナリズムへの傾倒を加速させる可能性が

ある。