香港デモ、徹底抗戦貫く学生たち「終日終夜戦う」
2019 年 11 月 16 日 03:05 JST WSJ By Steven Russolillo, Joyu Wang and John Lyons
12日、香港中文大学内で警察と衝突するデモ隊
【香港】半年近くに及ぶ香港のデモ隊と警察の衝突はここにきて、最も醜い事態に発展し、
市民に衝撃が走っている。中国からは秩序回復を求める圧力が一段と強まっており、香港指導部は
対応に追われている。
14日には、衝突の混乱時にれんがで頭部を負傷した70歳の男性が死亡。13日には、催涙ガスの
弾筒で負傷したとみられる15歳の少年が重体となった。11日には、警察が21歳のデモ隊に銃を発射。
その後には、民主化を求めるデモ隊が口論していた男性に火を放った。
中国の習近平国家主席は14日、訪問先のブラジルから「香港警察が厳格に法律を執行し、
司法機関が法律に沿って暴力犯罪を厳しく罰することを強く支持する」と表明。新興5カ国(BRICS)
首脳会議という国際舞台の場で、デモ隊への強硬姿勢を貫くよう改めて求めた。
今週のデモ隊と警察の衝突で、香港市内の大学は戦場と化した。高速道路やトンネルは封鎖され、
公共交通機関は乱れた。通常なら活気あふれる金融街は、催涙ガスの深い霧に包まれた。市内全体で
商店は営業停止を余儀なくされており、すでにリセッション(景気後退)入りしている香港経済の
さらなる足かせとなっている。香港の代表的な株価指数であるハンセン指数は下落し、週間の下げ幅
としては8月初旬以来の大きさとなった。
学校は休校となり、11月24日投票の区議会(地方議会)議員選挙が予定通り行われるかも不透明な
情勢となっている。
足元では、デモ隊、警察の双方が一段と攻撃的なスタンスを強めている。黒服に身を包んだデモ隊は
火炎瓶やれんがを投げつける一方、警察は催涙ガスやゴム弾、警棒、放水砲を総動員してデモ隊を
強制排除し、今週だけで653人(12~82歳)を逮捕した。
香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の閣僚メンバーは14日、ロンドンに向かう途中、
デモ隊に囲まれて転倒し、負傷した。
衝突激化は、警察にとっては評判をさらに落とす恐れがある一方で、デモ隊にとっても、市民の
支持を失うリスクがある。デモ隊は13日夜、北部地区の裁判所に放火し、香港法曹協会から
非難を浴びた。
林鄭氏ら政府高官は13日深夜に会合を開催した。張建宗(マシュー・チュン)政務官は翌日、
深夜に開催するのは初めてではないなどとして通常の会議だと説明。「現在の状況を緩和するための方策」
を検討するためだったと述べた。
弁護士でデモ隊に関する著書を近く出版するアントニー・ダピラン氏は、今週に入ってからの
情勢緊迫で、抗議活動に参加していない市民の生活にも大きな支障が出ていると述べる。
「怒りは収まるどころか、一段とひどくなっている」とし、警察の対応と政府の無策、親中派政治家の
発言がさらに状況をあおっていると指摘した。
容疑者の本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案をきっかけに始まった香港デモは、
改正案撤回でも収まらず、大規模な反政府デモへと発展した。デモ隊の間でくすぶるのは、
警察の残虐行為への怒りだ。デモ隊はこれまでは主に週末のみだった抗議活動を平日にも強行する
ことで香港を麻痺(まひ)状態に陥れ、事態をさらにエスカレートさせる戦略へと打って出た。
デモ隊の怒りをさらにあおったのが、ある学生の死だ。その学生は、警察が催涙ガスを発射していた
近くにあった駐車場から落下して死亡した。
香港市内の道路は15日時点で、依然れんがで埋まっていた。デモ隊は警察の侵入を阻止しようと、
その一部を固定し、壁などの障害物を構築。数千人規模のデモ隊が昼時に金融街に集まり、
ゴミ箱やれんが、三角コーンを使って道路にバリケードを構築した。
多くの企業は、社員に自宅勤務を指示。米金融大手ゴールドマン・サックスは14日、
「デモ周辺では厳重に警戒する」よう社員に促した。
ソーシャルメディアでは、警察が逮捕しようとした男性が「ここから500メートル先にある、
シティバンクの社員だ」などとやり取りしている動画が出回った。シティバンク広報は「この問題に
ついて認識しており調査を進めている。社員全員が法律に従うと想定している」とコメントした。
香港市内の複数の大学キャンパスは戦場へと姿を変えた。香港理工大学(PolyU)のデモ隊は14日朝、
警察官に弓矢を放ち、警察は催涙ガスで応戦した。他の大学では、構内に火炎瓶を大量に積み増すなどの
動きが出ている。今週最も激しい衝突の現場となった香港中文大学(CUHK)では、れんがで壁を構築。
そこにはスプレーで「われわれは終日終夜戦う」と記されていた。
15日までには、両大学ともほぼ無人状態となった。大学の多くが12月初旬に終了予定だった
今学期を前倒しで終了したためだ。数百人の本土出身の学生は、身の危険を感じて、香港を脱出した。
PolyU、CUHKの双方とも「要塞(ようさい)」は残っている。 PolyUでは、デモ隊が訪問者に
「越境地点」に足を踏み入れているとして、身分証明書や持ち物の検査を行っていた。
1週間に及ぶ激しい衝突を経て、15日の静けさがどの程度続くのかは見通せない。