マクロン仏大統領が豪州を訪問した理由
2018年5月18日 WEDGEInfinity 岡崎研究所
フランスのマクロン大統領は、5月1日~3日、豪州を訪問した。5月2日には、シドニーにおいて、ターンブル豪首相とともに、
共同記者会見に応じた。その際、記者から、太平洋地域における中国の台頭に関する質問があり、ターンブル首相、マクロン大統領が
それぞれ答えている。その内容を紹介する。
ターンブル豪首相
・中国の経済的台頭を歓迎する。この規模と早さは人類史上まれに見るものである。このお蔭で大勢の人が貧困から脱出できた。
この中国の成長を可能にしたのは、この地域におけるルールに基づいた秩序である。
・この地域の平和と相対的調和は、法の支配によって可能となった。リー・クワン・ユーの言葉を借りれば、大魚が小魚を食べ、
小魚が小エビを食べてしまってはいけないと言うこと。
・我々が求めているのは、法の支配であり、ルールに基づく国際秩序である。この地域の全ての参加国、大魚から小エビまでが、
利益を享受できることが重要な目的である。
・中国の地域への一層の投資を歓迎する。中国の成長から得られる利益を歓迎する。が、我々は、ルールに基づく国際秩序の維持、
良き統治に関与する。この地域の全ての国家が、法の支配によって可能となった繁栄の弧を享受し続けられるように。
マクロン仏大統領
・小エビと言うと、「ニュー・カレドニアの小エビ」を思い出すように、これはとても重要なことである。私は、豪首相の見解を
共有する。中国の競争に反対することは何もない。中国の競争は皆にとって良いことである。中国の中間層にとっても良いことだし、
世界や地域の経済成長にも良いことだ。
・ここで重要なのは、特にインド太平洋地域では、ルールに基づく発展を守ることである。この地域で、必要な均衡(balances)を
守ることである。
・この新しい状況で重要なのは、この地域における覇権(ヘゲモニー)を許してはならないということである。だからこそ、
このパートナーシップが、進展に重要である。インド、その他パートナー諸国との構想も、何かに反対するものでも
対応するものでもなく、前向きな構想である。それは、「我々には共通するものがある。」ということだ。
我々は、このインド太平洋地域に、自由の行動を起こしたい。
・我々は、「共通の主権、自由と自由主義」を守りたい。この言葉は、昨年パースでターンブル首相が述べたことでもある。
だから、この地政学的、防衛、経済、科学技術、教育等でも協力する構想が重要なのである。
・この(中国の台頭を含む)新しい状況は良いことだが、それは新しい秩序に沿うものでなければならず、すなわち地域の均衡を保ち、
法の支配を遵守するものでなければならない。
マクロン大統領も述べたように、フランスにとって、オーストラリアは、地球の裏側の国である。フランス大統領の豪州訪問は、
2014年のオランド大統領に次いで、歴代2人目とさえ言われる。それだけ、普段は、EUの一か国であるフランスにとっては縁遠い
国なのである。
今回、マクロン大統領が豪州を訪問した理由は幾つかある。一つは、2016年に、豪州が次期潜水艦の共同開発国としてフランスを
選択したことである。実は、この件に関しては、日本も売り込みを行ったが、経験不足等から、残念ながらフランスに及ばなかった。
マクロン大統領は、豪州の潜水艦メーカーとも会っているが、この案件をきっかけに、フランスとしては、豪州との関係を深め、
貿易拡大等を求めて行きたいのだろう。
二つ目の理由は、フランスの海外領土の一つであるニュー・カレドニアで、今年11月に行われる独立を問う国民投票である。
その投票を前に、フランスの大統領としては現地を訪れ、フランスが良い国であることをアピールしたい。
そのすぐ隣に位置するのが豪州ということである。
そして、三つ目の理由が、最も重要である、戦略的理由である。マクロン大統領は、豪州訪問前には米国を訪問し、
さらに今年3月には、インドを訪問している。どちらも国賓待遇で、大歓迎を受けた。マクロン自身が語るようにフランスは今回、
インド太平洋地域の平和と繁栄に関与することを宣言した。フランスはBrexit後、EUで唯一この地域に領土を有する国である。
そのフランスにとって、インド太平洋地域が自由で開かれ法の支配に基づいた国際秩序が維持された所であることは重要である。
上記の中国に関する質問への回答においても、マクロン大統領の回答はターンブル首相の回答以上に明快である。
地域の均衡(バランス)を崩すものを許さない、覇権(ヘゲモニー)を求めるものを許さない、と述べている。
マクロンには、自由主義思想への強い思い入れがあるのかもしれない。そう言えば、中国共産党が敵視していた
ノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏が亡くなった時、マクロン大統領は、すぐに自らのツイッターで、哀悼の意を述べていた。
出典:Prime Minister of Australia ‘Q&A at the Joint Press Conference with His Excellency, Mr. Emanuel Macron, President of the French Republic’ (May 2, 2018)
https://www.pm.gov.au/media/qa-joint-press-conference-his-excellency-mr-emmanuel-macron-president-french-republic)
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