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香港以外でも領土拡大の動き、習主席がまい進。 中国の指導者は国際社会から抵抗に遭ってきた問題に大胆な手を打ちつつある

2020-06-01 20:48:44 | 中国・中国共産党・経済・民度・香港

香港以外でも領土拡大の動き 習主席がまい進

中国の指導者は国際社会から抵抗に遭ってきた問題に大胆な手を打ちつつある。

2020 年 6 月 1 日 17:06 JST   WSJ  By Jeremy Page and Chun Han Wong

中国の全人代最終日、議場に到着する習近平国家主席(5月28日、北京) 

 

【北京】4カ月足らず前、習近平国家主席は指導者として最大の危機に直面した。中国は

初期の新型コロナウイルス対応に失敗し、同氏の指導力は傷ついた。

 

 その後、米国など多くの民主主義国家が新型ウイルスに苦しむ中、中国は感染の

抑え込みに成功したとされたことで習氏は意外なまでに勢いを取り戻した。米国を

追い抜かないまでも、米国と肩を並べる強力な統一国家を実現するという「中国の夢」

の核となる地域に進出するチャンスをつかんだ。一方で、政府の欠点は無視した。

 

 米国と同盟国が新型ウイルスとその経済的影響に気を取られる中、習氏は香港、

台湾、南シナ海、インドとの境界争いなど、これまでしばしば国際社会からの抵抗に

遭ってきた問題に大胆な手を打ちつつある。

 

 国務院顧問で中国人民大学国際関係学教授の時殷弘氏は「最高指導部は中国が今、

米国と比べてどちらかと言えば強いと考えている」と話す。

同氏によると「当然、指導部はこのことを好機と受け止めている」。

 

 中国政治の専門家によると、習氏は中国が領有権を主張する地域への支配確立を

自身の政策課題に組み込んでいる。そして、公約していた経済発展が新型ウイルスの

制約を受ける中、政治エリート層のタカ派に加えて国民からも、領有権に関わる目標で

前進するようますます迫られているという。

 

 専門家によると、習氏の動きは今のところ成果を挙げているように見えるが、

国際社会の反中感情を刺激しかねない。反中感情は新型ウイルスの流行下で激化しており、

危機が収束したとたん、協調行動に発展する恐れがある。

 

 5月後半、その中でも最も思い切った動きとして、中国政府は治安維持のための

国家安全法を香港に導入すると発表した。同法は政府に香港内の反対派を狙い撃ちする

幅広い権限を与えるものだ。

反政府デモの参加者を拘束する香港の警官隊(5月24日)

 

 米国務省は27日、香港はもはや中国から独立した高度な自治を維持していないと

宣言し、香港に認めている貿易優遇措置の取り消しや公民権を抑圧していると見な

される個人への制裁など、さまざまな措置への道を開いた。ドナルド・トランプ米大統領は

29日、「直接または間接的に香港の自治侵害に関与する」中国と香港の政府関係者に対し、

制裁を発動することを示唆した。

 

 李克強首相も全国人民代表大会(全人代)の初日に、台湾に対してより攻撃的な

姿勢を示した。台湾は民主主義体制を採用し、自治を行っているが、中国は自国の

領土と見なしている。毎年行われている政策演説で台湾の扱いに触れた際には、

これまで30年近く続いてきた表現を踏襲せず、「平和的」な方策を訴えることはなかった。

他の最高幹部も平和的な解決を望むが、力による支配権の奪取は選択肢でありつづけると

述べ、台湾の独立を求める動きを改めてけん制した。

 

 中国軍の艦船や航空機は今年、これまでに複数回にわたって台湾周辺で訓練を実施

している。台湾国防部(国防省)は訓練について、脅して主権問題で譲歩させたり、

ウイルス対応の初期の失敗から注意をそらしたりするための動きだと主張している。

 中国国防省は台湾周辺での訓練は国家主権を守り、独立派の活動家から台湾の住民を

保護するためのものだと説明している。

 

 軍事面で米国との差を縮める決意を表すかのように、中国は22日、今年の国防費が

6.6%増加すると発表した。伸び率は昨年の7.5%増より小さいが、政府総支出額が

0.2%減の見通しであることを考えると相当の額だ。

 

 中国とインドの国境をめぐる長年の争いもここ数週間で再燃した。インドが

インフラの更新を行っている地域に近いヒマラヤ地方の係争地に中国軍が侵入し、

両国軍兵士の殴り合いに発展した。

 

 中国政府はここ数週間で南シナ海の現状にもさらなる混乱を引き起こした。中国は

係争海域に2つの新たな行政区を設置し、80の地形に名前を付けた。中国が地形に名前を

付けたのは1983年以来初めて。ベトナム沖やマレーシア沖の海域にも船を派遣した。

 

 一方で、中国の外交官は西側に対してさらに挑発的な発言をするようになった。

同時に、他国への支援を言い触らし、習氏をグローバリゼーションと多国間主義の

新たな擁護者として印象付ける動きを強化している。

中国とインドは国境をめぐり長年争ってきた。写真は係争中のラダック(旧ジャンム・カシミール)地方

 

 中国外務省はファクスで声明を寄せ、中国政府は自国の主権と安全を常に守ると述べ、

米国の内政干渉をけん制した。また、新型ウイルスの流行においては人を最優先し、

「政治的操作に全く関心はなかった」と述べた。

 

 王毅外相は24日の記者会見で、中国の外交官には「悪意ある中傷」に強く抗議する

権利があると擁護し、新型ウイルスを利用した南シナ海への進出を否定した。

台湾については、中国から独立するために現状を悪用していると非難した。

 

 習氏は23日の人民政治協商会議で、中国が新型ウイルスの経済的影響やグローバリ

ゼーションへの反発などさまざまな課題に直面していると指摘し、逆境の中で機会を

模索するよう訴えた。

 

 国営メディアによると、習氏は「世界の不安定性、不確実性が高まる中、われわれは

自国の発展を追求しなければならない」「われわれは危機の間に新たな機会を育てる

ため懸命に努力しなければならない」と語った。

 

 中国の活動が活発化していることについて、習氏が自身のイメージの強化、戦略的

利益の確定、初期の新型ウイルス対応の失敗のごまかしを狙っていると受け止める

向きは多い。

 

 中国の政治エリートを養成する中国共産党中央党校の機関紙「学習時報」で

副編集長を務めた鄧聿文氏は「習近平氏にとって、新型ウイルスは当初、災難だった」

と指摘する。「しかし東側と西側の感染状況が逆転したことで習氏の権威が強まった」

という。

武漢で医療関係者と話す李克強首相(1月27日)

 

 鄧氏によると、習氏は米中対立がさらに悪化する前に「全ての穴を埋め、欠点を修正」

したいと考えているという。「香港の場合、欠点は国家安全保障にある」と鄧氏は言う。

 

 香港をめぐる習氏の行動は特に、熱心なナショナリストで決断力のある指導者という

習氏が作り上げた自らのイメージの強化に役立った。共産党の主要紙は先週、

このイメージを美化し、習氏を「最高司令官」として一面で称賛するという異例の

対応を取った。

 

 習氏は2012年末に権力を掌握した直後に「中国の夢」を打ち出し、中国共産党による

統治が100周年を迎える2049年までに強力かつ豊かで現代的大国を建設すると約束した。

 

 政策の専門家によると、「中国の夢」という目標は中国が大国として世界の覇権を

握るということではなく、アジアにおいて多くの分野で優位性を確立し、米国に

匹敵する――または米国をしのぐ――ことだ。また、香港、台湾、南シナ海の大半、

東シナ海の一部、インド国境周辺の広い地域、中国政府が分離独立運動と戦っている

西部のチベットと新疆ウイグル両自治区を含む、中国が領有権を主張している地域の

完全支配を確立することでもある。

 

 

 中国指導部は貧困撲滅や、来年の中国共産党結党100周年に向けて10年前との比較で

経済規模を倍増するなど、経済に関する目標も示している。

 

 しかし新型ウイルスの影響でこうした経済目標の多くを達成できるか怪しくなり、

中国は今年の経済成長率目標の設定を見送った。

 

 このことは習氏のさまざまな野心にとっては打撃ではあるが、これまでの失敗の

隠れみのにもなっている。経済改革の遅れや地方政府の過剰債務、習氏が提唱する

世界規模のインフラ整備計画「一帯一路」の停滞などの失敗は今なら新型ウイルスの

せいにできる。

 

 新型ウイルスの流行は2021年の共産党結党100周年と2022年の党大会の前に他の分野で

約束を果たす動機にもなっている。2022年には習氏は国家主席の任期は2期までという

既定路線から外れて、3期目(5年)を目指すとみられている。

 

 香港の調査会社「オフィシャル・チャイナ」のマネージングディレクター、

ライアン・マニュエル氏は「誰もが習近平氏は終身指導者だと言うが、保証されて

いるわけではない」と話した。中国の最近の動きは習氏が直接権限を持つ分野で

起きたと同氏は指摘する。「習近平氏は物事を自分の手柄にしたがる。自分の名前を

刻みたがっている」

 

 明らかな例外は新型ウイルスへの対応だ。習氏が1月末に李首相を責任者に任命した

ことについて、多くのアナリストは国民の怒りから自身の身を守るためと受け止めた。

感染拡大が収まったとたん、習氏は自分の手柄を主張した。

香港の女性を拘束する警察隊(5月27日)

 

 こうした動きの一部について、中国は新型ウイルスの流行がなくても踏み切って

いただろう。香港国家安全法はしばらく前から準備されていたようで、新型ウイルスの

流行で遅れが生じていなければ、もっと早いタイミングで発表されていた可能性が

指摘されている。

 

 全人代の香港地区代表で香港行政会議のメンバーでもある陳智思(バーナード・チャン)

氏によると、中国政府にとっては国家安全保障をめぐる懸念は国のイメージが損なわれる

懸念よりはるかに重要だという。

 チャン氏は「中国はかなり自信がある」と話した。「短期的には痛みがあるだろう。

(中略)だが長期的には彼らは問題だと思っていない」

 

 上海・復旦大学国際問題研究院の呉心伯氏によると、香港などの主権がからむ問題で

中国が主に考慮しているのは対米関係よりむしろ国内政治と習氏のイメージだという。

 

 とはいえ、対米関係の急激な悪化で習政権は意思決定上の要因として西側の反発を

重視しなくてよいと考えたのだろうと呉氏は話す。中国政府が何をしようと反中感情は

高まり続ける可能性が高いからだ。

 

 一部の中国人専門家はまた、新型ウイルスの流行が始まってからも、トランプ政権が

米中経済の切り離しや、中国テクノロジー大手の華為技術(ファーウェイ)への攻撃の

動きを緩めていないことを指摘した。

 

 南シナ海では、米海軍の複数の艦船で新型ウイルスの感染者が発生したため、多くの

中国人アナリストは米海軍の効果的な運用能力が損なわれているとみている。感染者が

出たある空母は約2カ月間、グアムに停泊していた。

 

 米海軍は2月には南シナ海で目立った動きを見せなかったが、現在は活動を強化。

同海軍は航行の自由を支援するため同海域で存在を維持すると方針を示している。

南シナ海を航行するオーストラリアと米国の艦船(4月)

 

 ソーシャルメディアを中心に中国国内でナショナリスト的なムードが高まっている

ことに、中国国防大学教授の喬良氏など一部のタカ派でさえ不安を感じている。

喬氏は空軍出身で、1999年には中国が米国のような技術的に優位な敵を倒す方法に

関する本を共同で執筆した。

 

 喬氏は中国政府寄りの香港誌とのインタビューで先月、米国は新型ウイルスの流行で

弱体化しているが、それでも台湾をめぐる紛争には、貿易封鎖や経済制裁を通じ

て直接的または間接的に介入することは可能だと述べた。

 

 同誌によると、喬氏は「中国国民が再統一という大義を完遂することが正しいことに

疑問の余地はないが、それでも正しいことを間違ったタイミングでするのは間違いだ」、

「われわれは全てを失う結果を招く愚かなことをするべきではない」と語った。

同氏からコメントを得ることはできなかった。

 

 一部の中国人学者は政府が米国以外でも高まっている中国への反感を過小評価して

いる可能性があると懸念している。

 

 中国の国際関係を専門とする南京大学の朱鋒氏は「中国に対する国際的なムードが

今ほど敵対的だったことはない。米国人だけでなく、欧州人や他の人々もだ」と話す。

中国が短期的な外交上の利益を性急に求めれば、「悲惨なことになりかねない」と同氏は

指摘した。

 

 アフリカでは、新型ウイルスの流行下で中国在住のアフリカ人が差別の対象になって

いるとの報道に多くの人々が激怒。全ての外国人を平等に扱っているという中国政府の

主張にも納得しなかった。

 

 インドでは国境での直近の衝突――双方とも責任は相手にあるとしている――

の前から、中国に対する世論は硬化していた。タクシャシラ研究所(バンガロール)が

4月に公表した調査によると、回答者の約67%が新型ウイルスの世界的流行は中国に

責任があると考えていた。中国政府が新型ウイルス危機を利用して力を誇示しようと

していると考えた人は56%に上った。

 

 中国とインドの国境では毎年、暖かくなって通行が可能になるこの時期に緊張が

高まることが多い。ただ今回の衝突は1962年の中印国境紛争以来、最大規模で、

インド軍が長い間活動してきた地域に道路を建設したことに中国が異議を唱えている

ように見えるという点で珍しいとの指摘がある。

 

 対中姿勢は欧州連合(EU)でも厳しくなっている。ジョセップ・ボレル外務・安全

保障政策上級代表は先週、対中戦略の厳格化とアジアの民主主義国家との関係緊密化を

訴えた。

 

シンガポールの外交官を務めたビラハリ・コーシカン氏は「欧州の主要国が中国に

これ以上愛想を尽かしたら、状況は厳しくなる可能性がある」と指摘した。

 

 台湾や他の近隣地域との間で意図しない衝突が起きた場合、「習氏は自分が火を

付けた国内世論を考慮して、抑え込みは難しいと考える恐れがある」とコーシカン氏

は言う。「中国は実際には望んでいない道に追い込まれるかもしれない」

 


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