中国の経済規模を表す国内総生産(GDP)は2014年に63兆6463億元となった。
10年前の2004年には16兆714億元だったので、この10で約4倍に成長したことになる。
2014年の平均為替レートで本円に換算すると約1094兆円(元=17.19)円)、米ドルに換算すると約104兆ドル(1元=0.1628ドル)となる。
また、米ドル基準で国際比較して見ると中国の経済規模は米国の6割程度で、世界第2位の経済大国である(図表1)。
2・・・昨年のGDP増加額はインドネシア一国分
中国経済は、数年前までは10%前後で成長していたが、ここ数年は7%台に低下し、2014年も前年比7.4%増に留まった。
しかし、長年の高成長で経済規模が大きくなったことや中国の通貨(人民元)が上昇したことから、
2014年に増加したGDPは4兆8444億元(米ドルでは約8709億ドル)と大きく、
中国で昨年増加したGDPは図表-2に示したようにインドネシア一国分のGDPとほぼ同じである。
3・・・地方と言っても巨大な地方もある
一方、中国の地方は31の省級行政区に分かれている(図表-3)。
経済規模が最も大きい広東省の域内総生産(GR)は6兆7792億元、第2位は江蘇省、第3位は山東省で、この3省のGRPはインドネシアのGDPを上回っている(図表-4)。
このように地方と言っても大きな地方もあればそうでない地方もあるので、経済への影響を見る上ではどの地方で起きたことなのかに留意する必要がある
4・・・中国の経済規模拡大が現行国際秩序に変化を迫る
今から5年前(2010年)のGDPシェアを見ると、世界では米国と欧州(EU)が2
大経済圏で、中国と日本はともに1割弱を占める存在だった(図表-5)。
しかし、2014年には中国のGDPが日本の2倍を超え、2020年には米国やEUに近い存在となりそうだ(図表-6)。
経済規模が拡大した中国は、国際金融機関などでの発言権拡大を求めたが、現行の国際
秩序を維持しようとする勢力も一方にあって、両者は対立を深めた。
中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に動いた背景には、こうした現行の国際
秩序に対する不満があり、今後も様々な局面で波乱の火種となりそうである。
図表でみる中国経済(所得水準編)
■要旨
本稿は、中国経済をこれから学ぼうとお考えの方々を対象に、新聞記事やレポートでは通常前提として省略されることが多い基礎的な経済データを、図表を用いて素人にも分かり易く解説し、理解を深めていただくことを趣旨としている。今回はその第二回目として、中国の「所得水準」を取り上げ、国際比較などの図表を用いて解説している。中国経済に関する新聞記事やレポートを読む上で、その一助となれば幸いである。
1・・・中国の所得水準は向上し、タイを上回る
国民の平均的な所得水準を表す一人あたりGDP1を見ると、中国は46,652元(2014年)。
2004年には12,400元だったので、この10年で約3.8倍に増えている。
平均為替レートで日本円に換算すると約801,848円(1元=17.19円)、米ドルに換算すると約7,595ドル(1元=0.1628ドル)となる。 改革
開放が始まった直後の1980年、 中国の一人あたりGDPは世界第120位に位置していた。その後も120位前後で推移した後、徐々に順
位を上げ、2011年にはタイを追い抜いている(図表-1)。
2・・・但し、日本の5分の1程度に留まる
このように世界順位は年々上昇してきたが、現在でも第80位と全187ヵ国・地域中では中央値よりやや上に 過ぎない。
G20諸国の中で見ても下から4番目で、日本に比べると5分の1程度に留まっている(図表-2)。
そして、世界順位がそれほど高くないということは、経済発展に向けたテコ入れの 余地がまだ多く残ることを示唆している。
3・・・中国には“3つの所得格差”がある
一方、地域別に見ると所得水準には格差がある。各地域の所得水準を見るため、31省級行政区毎の一人あたり域内総生産(GRP)を
見ると、2014年に最も高かったのは天津市で105,202元(17,127ドル)、最も低かったのは貴州省で26,393元(4,297ドル)と約4倍の格差
がある(図表-3)。
天津市、北京市、 上海市、 江蘇省、浙江省、内蒙古自治区の6地域で はマレーシアの一人あたりGDPを上回っている一方、西部地
区の5地域( 広西チワン族自治区、西蔵自治区、雲南省、甘粛省、貴州省)では天津市の3分の1以下に留まっている。但し、この5地
域で も、中国全体の経済発展の恩恵を受けており、インドネシアの一人あたりGDPを上回る水準に達している。
また、都市と農村の間にも所得水準に格差がある。都市部の一人あたり可処分所得は2014年に28, 844元(4,696ドル) だったのに対
し、農村部では10,489元(1,708ドル) と約3倍の格差が生じている。
さらに、都市内部にも所得水準に格差があり、上位10%の高所得層の一人あたり可処分所得は2012年に63,824元(10,111ドル)だった
のに対し、下位10%の低所得層は8,215元(1,301 ドル)と 約8倍の格差が生じている(図表-4)。
政府による長年の取り組みもあって“3つの所得格差”は改善傾向にある。特に、地域間の格差については中央政府が財政収入を貧し
い地方政府へ重点的に配分したことなどで顕著に縮小している。
しかし、所得格差は依然大きく、社会主義を掲げる中国ではなお一層の格差是正を国民は求めている。
4・・・所得の低い部分を底上げして格差是正!
中国政府が最近打ち出した政策にも格差是正を意識したものが多い。特に、所得の低い部分(図表-4の内陸部、農村部、都市の低所
得層)では、経済発展余地が大きく残されていることから、所得の低い部分を底上げすることで、格差是正と 所得向上を同時に 達成し
ようとしている。「現代版シルクロード構想」で中央アジアとの交流に注力するのも、所得の低い内陸部との交易による経済発展を期待
したものと見られる。
「農業の大規模化」を進めるのも、分子となる農業生産に多くを期待できない中で、分母となる農業人口を減らすことで、農村部 の所
得向上を 目指した ものと見られる。「新型都市化計画」を打ち出したのも、都市部で低所得層を形成する出稼ぎ労働者(農民工)の生
活環境を改善し 所得格差を 是正する とともに、農村から地方都市への人口移動を起爆剤として、新たな経済発展を狙ったものと見ら
れる。
図表でみる中国経済(産業構造編)
第2次産業から第3次産業へのシフト
中国の今年1-9月期の成長率は、実質で前年同期比6.9%増と昨年の同7.3%増を0.4ポイント下回った。内訳を見ると、
第2次産業は昨年通期の前年比7.3%増から同6.0%増へ1.3ポイント低下した一方、第3次産業は逆に同7.8%増から同
8.4%増へ0.6ポイント上昇した。第2次産業が今年も含めて5年連続で減速したのに対し、第3次産業は4年連続で8%前
後を維持している(図表-1)。
一方、国内総生産に占めるシェアを見ると、2014年時点では第1次産業が9.2%、第2次産業が42.7%、第3次産業が
48.1%となっている。5年前と比較すると、第2次産業のシェアは2.9ポイント低下しており、特に工業は3.4ポイントも低下
した。一方、第3次産業のシェアは3.7ポイント上昇しており、特に卸小売業と金融業は1ポイントを超える大幅増加となっ
ている(図表-2)。
なお、第1次産業では4%前後の成長率が続いており、国内総生産に占めるシェアもじりじりと低下して2014年は9.2%と
なった。
国際比較から見えてくる現状と課題
中国の産業構成を諸外国と比べて見ると、第2次産業の比率が極めて大きい一方、第3次産業の比率が小さいという特徴がある(図表-3)。
第2次産業の中核を成す製造業に焦点を当てると、世界における製造業シェアは23.2%でGDPシェア(12.8%)より10.4ポイントも大きい(図表-4)。
米国や欧州ではGDPシェアの方が大きいのと比べると対照的である。製造業シェアの方が大きくても製品を輸出できれば問題はな
い。日本も製造業シェアの方が1.0ポイント大きく、欧州の中でもドイツは1.6ポイント大きい。しかし、輸出できないようだと、国内では生
産設備が過剰となって稼働率が落ち雇用不安に陥ることになる。従って、10ポイント超になった過大なギャップを、均衡点に向けていか
にソフトランディングさせるのかが、中国の産業政策においては最大の課題となっている。
課題解決の道筋と今後の注目点
それではギャップ解消の道筋では何が起こるのだろうか。楽観と悲観のシナリオが描ける。楽観的に見ればGDPシェアが製造業シェ
アに鞘寄せする形で調整し、この場合は製造業の成長率は低下するものの第3次産業が牽引してGDPシェアが上昇する。悲観的に見
れば製造業シェアがGDPシェアに鞘寄せする形で調整し、この場合は製造業の成長率が急激に低下して第3次産業だけでは支え切れ
ず極めて低い成長率になる。ここもと第3次産業は8%前後の高い伸びを維持しており、中国政府も製造業の失速を回避すべく「中国
製造2025」を旗印に高度化に取り組んでいることから、実際には楽観・悲観の中間にソフトランディングする可能性が高いだろう。但し、
かつて日本ではこのギャップが拡大して1991-93年に約4ポイントでピークを付けた。その後このギャップは徐々に解消していくが、GDP
シェアと製造業シェアがともに低下する結果となった(図表-5)。
製造業と第3次産業の動向は要注目である。