消費増税巡る景気懸念、日銀の支援は期待薄か
2019 年 4 月 29 日 06:55 JST
日本の政策金利はマイナス圏にあり、量的緩和も継続中だが、金融政策の先行きを巡る議論では
タカ派が優位に立っているようだ。
そこから読み取れるのは、安倍晋三首相が提案する消費税の引き上げが経済成長を頓挫させた
としても、投資家は日銀の支援をさほど期待すべきではないということだ。
日銀が先週の政策決定会合で示した3年後の消費者物価指数(CPI)の見通しは、黒田東彦総裁の
就任以来で最低の水準となった。黒田氏は2013年、2%のインフレ目標を導入した。
日銀は2022年3月までの会計年度について、CPI上昇率を1.6%と予想。最も楽観的な政策委員
でさえ、上昇率はわずか1.7%と予想している。
だが、これと矛盾するかのように、政策委員会による「政策金利の先行き指針(フォワード
ガイダンス)」はタカ派寄りに傾いた。2020年の春ごろまで短期金利をマイナス0.1%に据え置く
方針が明記されたが、従来指針では単に「当分の間」と、期限を定めずにその水準を維持すると
していた。
3年後に物価目標が達成できるとみる政策委員が一人もいないのに、日銀はなぜ今からわずか
1年後に短期金利の水準を再評価する指針を固めたのか。
他にも矛盾はある。日銀は金融緩和策の継続を明言しているが、これは国債買い入れプログラムの
実績に逆行している。あまり注目されていないが、日銀のバランスシート拡大は2015〜16年の
急速なペースに比べ約3分の1に減速している。
日銀の展望と行動、発表内容の相違については、最近公表された日銀の「金融システムリポート」
で一つの説明がつく。同リポートは、特に中小地銀の収益を巡る懸念を浮き彫りにしている。
低金利を背景とする日本の金融システムへの圧力は、雨宮正佳副総裁がとりわけ懸念してきた
問題だ。雨宮氏は今年に入り副総裁に就任したが、以前から日銀の陰の実力者と見られてきた。
銀行収益に対する懸念の強まりと並行して、日銀は物価目標の未達にも平静を装っており、
消費増税の影響を金融政策が相殺する可能性はほとんどないことがうかがわれる。
消費税が6%から8%へ引き上げられた2014年、日本の景気回復は予想通り減速したが、
日銀は異次元緩和に踏み切り、量的緩和の債券買い入れを大幅に増やした。
日銀が物価目標の達成をあきらめたかに見える中、増税による景気減速に対して以前のような
バズーカ級の措置が打ち出されるとは想像しにくい。
政府が増税を決行すれば、今度こそ景気に深刻な影響を及ぼす恐れがある。
https://jp.wsj.com/articles/SB11801284467205593465604585267603238972316
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アベノミクス第二の矢を折る消費増税
2019 年 4 月 10 日 08:04 JST
日本経済は減速しているが、政府は消費税率の引き上げに踏み切りそうだ。むしろ増税を撤回し、
ここ数年の経済発展を維持すべきだ。
調査データや消費者態度指数、機械受注統計はいずれも、日本経済がここ何年かで最もぜい弱な
状態にあることを示唆している。その一因は中国の減速だ。
それにもかかわらず、安倍晋三首相は人口高齢化に伴う社会保障費用の増加に対応するため、
10月に消費税を8%から10%へ引き上げなければならないと主張している。2014年に実施した
前回の消費税増税がリセッション(景気後退)入りの引き金を引いたことなどお構いなしだ。
アベノミクスの第二の矢である財政刺激策は、盛んに議論されたが全く威力を発揮していない。
国内総生産(GDP)に対する政府債務残高の比率は安倍氏が内閣総理大臣に返り咲いた12年以降、
ほとんど変化していない。安倍氏は今や、第二の矢を自身の足元に放つリスクを冒している。
日本が引き続き直面している最大のリスクは成長停滞であって、政府債務の負担ではない。
物価変動の影響を含む名目成長率は、第2次安倍政権の初期に改善したものの、その後は実質的に
ゼロ成長に鈍化した。
一方、債務返済コストはGDPのわずか1%程度にとどまる。現在は国債の半分近くを日銀が
保有しているため、投資家の動揺を発端に債務を巡るパニックに陥る可能性は一段と低くなっている。
日本政府は欧州が犯した過ちを回避すべきだ。欧州は成長鈍化に対する有効策を講じることに
後ろ向きで、マクロ経済の政策決定が中国政府の動きに影響されている。
確かに、日本では企業利益など他の歳入源に比べ消費税率は低い。だが政策転換は景気が
好調な時に、全体的な財政政策を引き締めることなくゆっくりと進めるべきだ。
キャッシュレス決済のポイント還元など、増税時の景気対策として打ち出された措置は不十分だろう。
中国を震源とする世界的な景気減速に見舞われた16年、安倍氏は消費増税の延期という適切な
判断を下した。日本には今一度、誤った増税を棚上げする余地がある。
【WSJ社説】不安出ずる国、日本の消費増税
2019 年 4 月 4 日 11:11 JST
日銀が1日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、警戒感を助長する内容だった。
企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業・製造業でプラス12となり、昨年12月の19から
悪化。7ポイントの悪化は2013年以降で最大となった。中小企業の業況判断も同様に暗くなった。
これより先に発表された2月の小売売上高と鉱工業生産もさえない内容だ。鉱工業生産指数は
1月までは数カ月連続で低下していた。2018年の国内総生産(GDP)成長率はかろうじて
0.8%増となったが、今年は同様の水準を達成するのも難しいかもしれない。
アジア経済を巻き込んでいる米中貿易戦争を含め、外圧は日本の助けになっていない。
輸出依存型の日本経済は依然として、欧州や中国の経済減速の影響を受けやすい。
加えて、国内問題もある。安倍首相の経済再生計画「アベノミクス」は8年目に入るが、
いまだに完全には実施されていない。財政支出の増加や異次元金融緩和は行われたが、
アベノミクス「第3の矢」だったはずの政策改革は全く始まっていない。これが投資と生産性の
伸びを圧迫している。
安倍首相は、今年10月に消費税率を現行8%から10%に引き上げることで日本経済に大打撃を
もたらそうとしている。企業も家計も、かつての経験から消費増税がどんな結果を生むか知っている。
1997年以降、政府が消費税率を引き上げるたびに景気低迷、あるいは景気後退が到来した。
安倍首相は2014年の消費増税(5%から8%)で経済が停滞した後、さらなる引き上げを延期した。
しかし、財政規律強化を求める財務省は安倍氏に対し、財政赤字および政府債務の削減のための
増税でプレッシャーをかけている。どういうわけか、増税後も債務は増え続けている。景況感指数が
悪化するのも無理はない。
日本はこれまで、毎年のようにケインズ主義的な財政支出やマイナス金利など金融政策の力で
景気停滞からの脱却を目指してきた。しかし、思うような効果はあげられていない。世界の
経済成長が加速し、米国発の貿易摩擦が緩和すれば、日本を後押しするかもしれない。
しかし、安倍首相の増税は自分で自分の首を絞めることになるだろう。
https://jp.wsj.com/articles/SB12068607819993324075404585221421922364664?mod=article_inline