心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

オキシトシンと交感神経

2022-09-26 22:43:14 | 身体・こころ・社会

オキシトシンの働きは、ポリヴェーガル理論等だけから知る人にはかなり意外なことかもしれませんが、

オキシトシンはポリヴェーガルでいう腹側迷走神経複合体だけでなく、

むしろその対極ともみられる交感神経系を賦活するのにも不可欠な役割を果たすものです。

現に、視床下部の室傍核で産生された脳内のオキシトシンには、エネルギー消費量を上げ、体温を上昇させ、心拍数を上げる作用もあることが

これまでの研究で知られています。

このたびその作用を引き起こす神経ルートが、名古屋大学の中村和弘教授らの研究グループによって確定されました。

彼らが室傍核から出力するオキシトシン・ニューロンの軸索の行先を丹念に調べたところ、

延髄の縫線核付近、すなわち「吻側延髄縫線核領域」(rostral medullary raphe region:rMR)という部位に伸びており、

軸索の終末から放出されたオキシトシンがこの rMR に作用して交感神経系を活性化し、その交感神経系が褐色脂肪組織の熱産生を駆動するとともに

心拍数を増加させることが、光遺伝学的手法を組み合わせた生理学的な実験によって明らかにされたのでした。

ちなみに褐色脂肪組織とは、脂肪細胞の中でも、白色脂肪細胞と同じく脂肪を蓄えるだけでなく、脂肪を分解して、そのエネルギーを熱に変える役割を持つ細胞で、

食物から摂取した過剰のエネルギーを燃焼させ、肥満を防ぐ機能があります。交感神経線維から放出されたノルアドレナリンが褐色脂肪細胞の受容体に結合すると、

褐色脂肪細胞内のミトコンドリアで熱が作られ、その熱が血流に乗って全身に運ばれるのです。

オキシトシンはさらに、寒冷刺激やストレスなどによる日常的な熱産生をも増強している可能性も示されました。これも言うまでもなく、

交感神経系の働きを媒介するものです。

 

<原著論文>

Fukushima, A., Kataoka, N. & Nakamura, K., 2022  An oxytocinergic neural pathway that stimulates thermogenic and cardiac sympathetic outflow, in  Cell Reports, vol. 40 , no.12 :111380, pp.1-7.

 


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鼻うがいのエビデンス

2022-09-19 18:25:03 | 健康・病と医療

鼻うがいについては、その効果と、コロナ対策でのおすすめについて以前に書きました。→鼻うがいとポリヴェーガル理論

 

興味深いことに、このところ、鼻うがいがコロナの重症化を防ぐ可能性についてのエビデンスが、以下のように、海外の権威ある雑誌に続々と発表されて

いるようです。

「鼻うがい」を英語では、"Nasal Irrigation with Saline Solution " というのですね。直訳すると、生理食塩水による鼻の洗浄といったところか。

 

The effectiveness of various gargle formulations and salt water against SARS-CoV-2 | Scientific Reports (nature.com)

Inhibition of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Replication by Hypertonic Saline Solution in Lung and Kidney Epithelial Cells - PubMed (nih.gov)

Frontiers | Hypertonic Solution in Severe COVID-19 Patient: A Potential Adjuvant Therapy (frontiersin.org)

Hypertonic saline solution inhibits SARS-CoV-2 in vitro assay | bioRxiv

 

さらに驚いたことに、こういう情報を、タイの医学界のニュースサイトが早くも報じているのです。

鼻うがいはもともと日本発の方法なのに、日本では未だなお単なる民間療法扱い。

アジアでも日本は、どんどん先を越されてますねえ~。

 


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「ひきこもり」(Hikikomori)が国際語に!

2022-09-08 21:44:04 | 健康・病と医療

今春にアメリカ精神医学会が発行したDSM-5のテキスト改定版『DSM-5-TR』の"Cultural Concepts of Distress"の章(p.876)に、

すでに先にDSM-IVから掲載されていた「Taijin kyofusho」に続いて、「Hikikomori」が掲載されました。

原文では以下のとおり。

 

Hikikomori (a Japanese term composed of hiku [to pull back] and moru [to seclude oneself]) is a syndrome of protracted and severe social withdrawal observed in Japan that may result in complete cessation of in-person interactions with others. The typical picture in hikikomori is an adolescent or young adult male who does not leave his room within his parents’ home and has no in-person social interactions. This behavior may initially be ego-syntonic but usually leads to distress over time; it is often associated with high intensity of Internet use and virtual social exchanges. Other features include no interest or willingness to attend school or work. The 2010 guideline of the Japan Ministry of Health, Labor, and Welfare requires 6 months of social withdrawal for a diagnosis of hikikomori. The extreme social withdrawal seen in hikikomori may occur in the context of an established DSM-5 disorder (“secondary”) or manifest independently (“primary”).

 

このことは、日本語の「ひきこもり」が国際的に認知されつつあることを意味すると同時に、

「ひきこもり」が単に日本に特有の文化結合症候群にとどまらぬ、

いわばグローバルな世界文化結合症候群としての「Hikikomori」へと昇格?したことをも意味するでしょう。

現に原文では、同様の状態が、オーストラリアでもバングラデシュでもブラジルでも中国でもフランスでもインドでもイランでもイタリアでも

オマーンでも韓国でもスペインでも台湾でもタイでも米国でも見られると明言されています。

 

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