心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

安全こそ治療だ!? 自由こそ治療だ!?

2019-09-20 23:35:00 | 身体・こころ・社会

ポリヴェーガル理論のS・ポージェスは、心身の治療において、安全さ(safety)ないし安全感(feeling of safety)の意義を特に強調します。その立場は、2011年の大著を刊行した後も、2017年のポケットガイド版にかけて、ますます前面に押し出され、「私たちが安全であるとき、マジカルなことがおこる(When we're safe, magical things occur)」とか 、「この安全感こそが治療なのだ(This feeling of safety is the treatment)」と喝破しています 。

それはちょうど、イタリア全土の全公立精神病院の廃絶の法制化を推進したフランコ・バザーリアたちのスローガン、「自由こそ治療だ!」( La liberta' e' terapeutica : Freedom is therapeutic!)の、あたかも向こうを張るかのごとき口ぶりです。

「安全感こそ治療」と「自由こそ治療」。おそらく、「安全・安心」も治療的必要条件なら、「自由・自律」も治療的必要条件でしょう。「安全」派は、安全なければ自由なく、安全さえあれば自由もあるかのように主張し、「自由」派は、自由なければ安全なく、自由さえあれば安全もあるかのように主張しますが、しかし実際には、「安全・安心」ならただちに「自由・自律」とは限らず(“愛という名の支配”!)、「自由・自律」ならただちに「安全・安心」とも限りません(“自由という名の牢獄”“自由からの逃走”!)。

自由が究極的には安全からの自由であり、ある意味で安全の否定でありながら、しかもなおそれが、今までとは異なる新たな形の安全の追求にほかならないところに、安全と自由の複雑な対抗的相補関係があるのです。「安全・安心」だからこそ「自由・自律」であり、「自由・自律」だからこそ「安全・安心」であるような、互いに相乗的な不可欠の条件としてこの2つが働くとき、真に治療的な時空が花開くのでしょう(そしておそらく初期には「安全・安心」がメイン、「自由・自律」がサブ、後期には「自由・自律」がメイン、「安全・安心」がサブとして、相乗的に進行するでしょう)。

それはちょうど私たちヒトにおいて、哺乳類に萌芽する二者関係(安全・安心)が確立してはじめて三者関係(自由・自律)が成立し、霊長類に萌芽する三者関係(自由・自律)が確立してはじめて二者関係(安全・安心)も安定するのと、パラレルに照応するのではないでしょうか。

 


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口にペンをくわえて作る笑顔は幸せを生じるか!?

2019-09-15 13:25:00 | 身体・こころ・社会

2019年のイグノーベル賞が9月13日(日本時間)に発表されました。 心理学賞の受賞者は、ドイツのフリッツ・ストラック(Fritz Strack)。

 ストラックは1988年に、口にペンをくわえると、必然的に顔が笑顔になり、気分も幸せになることをユーモラスな実験で発見し、当時は大きな話題となって、「プライミング効果」の実例としても非常に評判になりました。さらには、2002年に心理学者としてノーベル経済学賞を受賞したあのダニエル・カーネマンが、『ファスト&スロー』でこの発見を紹介したのも大きかったのかもしれません。

 ところがその後ストラックは、2017年、別の研究者がこの実験を大規模に追試したところ、同じ結果が得られなかったことを報告するに至ります。このイグノーベル賞授賞式でも、ストラック自ら出席し、このことを(わずか2分の時間内で)報告したとのこと。事柄の衝撃の大きさと、ご本人の誠実さとが印象深く私たちの心を打ちます。何より・・・心理学の科学的な実験とはいったい何か!? もちろんこの深い問いが、重く響きを残します。

マシュマロ・テストの顛末に続く、衝撃的なトピックです。

Strack, F., Martin, L. L. &Stepper, S.,1988 Inhibiting and facilitating conditions of the human smile: a nonobtrusive test of the facial feedback hypothesis,in Journal of Personality and Social Psychology, vol.54, no.5, pp.768-777.

Strack, F., 2017 From Data to Truth in Psychological Science. A Personnal Perspective”,in Frontiers in Psychology.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2017.00702/full



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