心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

鼻うがいとポリヴェーガル理論

2020-09-29 16:50:09 | 健康・病と医療

コロナ対策に「鼻うがい」はいかがでしょうか?

 

これだけで万全というわけにはいかないかもしれませんが、未だ特効薬もなく、マスクや手洗い、消毒、(口からの)うがいだけでは不安な方は、ぜひコ

ロナ対策のレパートリーの1つに付け加えてみてはどうでしょう。少なくとも私は、「Bスポット療法」[堀口 1984]が一世を風靡した1980年代から、体調

怪しい時などにしばしば「鼻うがい」のお世話になってきましたが、その効果には確かな実感を持っています。おかげで「鼻うがい」ですぐに対処をして

おくと、ふつうの風邪やインフルエンザでも、ほとんど罹ることはありませんでした。私は仕事柄、朝から晩まで、風邪やインフルエンザに罹っている

方々のお宅を訪ねて回る巡り合わせになることもありましたが、それでも大丈夫でした。コロナの場合も基本的に同じことが言えるのではないかと思われ

ます。

 

なぜ「鼻うがい」はこんなに効くのでしょうか? その生理的メカニズムを堀田修先生は最近、ポリヴェーガル理論によって説明されました[堀田

2020]。その説明には、ありがたいことに、多くを拙著『ポリヴェーガル理論を読む』[津田 2019]から採って下さいました。

 

ポリヴェーガル理論によれば、腹側迷走神経複合体の活性化が、さまざまの疾患に治癒に重要な役割を果たします。腹側迷走神経複合体は、迷走神経に加

え三叉神経、顔面神経、舌咽神経、副神経の5つの脳神経から構成されるため、多岐にわたる領域を支配しますが、この理論もあまり言及していない腹側迷

走神経複合体支配の重要な部位が、実は上咽頭部なのです。上咽頭部には、三叉神経第2枝(上顎神経)、顔面神経の副交感神経由来の翼口蓋神経節、そ

して舌咽神経、迷走神経と、腹側迷走神経複合体がほとんど一堂に会し、しかも求心性の舌咽神経・迷走神経の無髄神経線維も豊富に投射しているのです

[進 1992]。

 

上咽頭部――それは同時に、PCR検査を鼻から行なうときに採取する部位でもあります。なぜならここは、呼吸で鼻から入ってきた外気が最初に遭遇する関

門であり、外気とともに入ってきた異物や病原体が最初に付着して免疫細胞と戦う前線でもあるからです。そのためこの部位は、たえず炎症が軽度に起こ

っており、免疫系がたえず活性化しているのです。腹側迷走神経複合体支配の重要な支配領域であり、かつ免疫系がたえず活性化する重要な領域です。

 

そんな重要な部位を刺激すると、何と驚いたことに、耳鼻咽喉科の局所症状をはじめ、頭痛・肩こり・首こり・上背部痛、慢性咳嗽・慢性痰などの呼吸器

症状から、さらには関節リウマチなどの各種自己免疫疾患、慢性疲労症候群、起立性調節障害などの自律神経障害や、「機能性胃腸症」など一連の「機能

性身体症候群」など多彩な病状に効果があり、欧米の「迷走神経刺激療法」(VNS)と類似の有力な効果を示すことが、実は50年以上も前からこの日本で

はわかっていました。はじめは1960年代に、大阪大学の山崎春三[1961]や東京医科歯科大学の堀口申作[1966]による「上咽頭擦過療法」、そして私が

院生時代だった1980年代には「Bスポット療法」[堀田 1984]として、一世を風靡もしました。いわばそれは、日本発の迷走神経刺激療法!ということも

できましょう。ポージェスも恐らくご存じない迷走神経刺激療法です。

 

そしてこれを、患者自身が予防~疾病初期段階に容易にできる方法としたのが「鼻洗浄療法」、つまりは生理的食塩水による「鼻うがい」なのです。「鼻

うがい」は上咽頭という腹側迷走神経複合体支配の重要な支配領域、かつ免疫系がたえず活性化する重要な領域を、誰でもが日常的にできる簡単な方法で

刺激して、病原体を洗い流し、腹側迷走神経複合体を活性化し、免疫系も同時に活性化することができる、スグレモノなのです。

 

   <文 献>

堀口申作、1966 「全身諸疾患と耳鼻咽喉科――特に鼻咽腔炎について」『日本耳鼻咽喉科学会会報』補冊第1号、pp.7-78.

―――, 1984 『Bスポットの発見――現代医学が取り残した「難病」の震源地』光文社。

堀田 修、2020 『自律神経を整えたいなら 上咽頭を鍛えなさい』世界文化社。

進 武幹、1992 「臨床に役立つ局所解剖 上咽頭の血管と神経」『日本耳鼻咽喉科学会会報』第95巻11号、pp.1876-9。

津田真人、2019 『「ポリヴェーガル理論」を読む――からだ・こころ・社会』星和書店。

山崎春三、1961 「鼻咽頭症候群および症候と病理学的研究」『耳鼻咽喉科』第33巻、pp.97-101。

 

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