須藤甚一郎ウィークリーニュース!

目黒区議会議員・ジャーナリスト須藤甚一郎のウィークリーニュースです。

576号 「犯罪人名簿」問題の波紋が全国に広まった!&国はその実態を把握せず!

2010-02-21 | 記 事
★「犯罪人名簿」の波紋だ全国的に広まった!

ぼくが「ウィークリーニュース」で「犯罪人名簿」を取り上げたのが契機で、全国的に「犯罪人名簿」への関心が高まっている。
前号(575号、2月15日更新)で、目黒区が管理・保管する「犯罪人名簿」の問題点について、定例区議会で目黒区長・青木英二に対して行う一般質問で取り上げる、とお伝えした。

その内容をざっと要約しておけば、目黒区は、区内に本籍のある者の犯罪歴、前科等を記載した犯罪人名簿を作成し、管理・保管している。けれど、こんな事実に関して、区の幹部職員でさえ犯罪人名簿の存在そのものを知らない者が少なくない。

犯罪人名簿は、究極の個人情報であり、プライバシー権利のうち最高の機密性を有するものだ。ところが、現在、犯罪人名簿を作成し、管理・保管を各市区町村に義務づける根拠法令はないのである。大正6年4月12日付の内務省訓令第1号で、市区町村が作成、管理・保管すべきとされた犯罪人名簿であった。

★「犯罪人名簿」保管は、法的根拠なく目的外使用だ!

が、戦後、内務省は解体され、昭和22年の地方自治法施行により、市区町村の事務から外された。それなのに、いまだに全国の区市町村が「犯罪人名簿」を管理・保管し、公務員の就職等で、犯歴・前科の有無の確認のために使用しているのだ。
そもそも「犯罪人名簿」の目的は、選挙人、被選挙人の欠格事由の確認のためであり、それ以外で使用するのは、目的外使用なのである。

犯罪人名簿を作成し、管理・保管し、運用するのは、かつては自治体にとって機関委任事務であった。しかし、地方分権一括法で、機関委任事務制度は廃止。その後、自治体独自の自治事務と法定受託事務の二つになった。が、「犯罪人名簿」の管理・保管は根拠法令がないのだから、法定受託事務ではない。自治事務なのだが、その法的根拠もないといういい加減さなのである。
究極の個人情報である「犯罪人名簿」が、こんな杜撰(ずさん)に管理・保管されていいはずがない。

「犯罪人名簿」の波紋が、全国的に広まったきっかけはこうだ。ぼくが「ウィークリーニュース」を更新した翌日の2月16日に、それを見た共同通信がぼくを取材しにきた。ぼくは取材に応じ、「犯罪人名簿」の問題点を話し、独自に調べたデータや「東京都目黒区犯罪人名簿取扱要綱」(昭和57年施行)のコピーなどを提供した。

★共同通信配信で、このように東京新聞が記事にした!

そのあと共同通信は独自取材をして、2月20日午後6時に全国の加盟マスコミ各社に配信した。昨晩中に地方の新聞各紙は、インターネットニュースで記事にした。新聞は、今朝(2月21日)の朝刊で記事にした。例えば、東京新聞は、第3面で3段見出しで、つぎの記事を載せた。

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犯罪人名簿“野放し”
市区町村 法根拠なく作成運用

罰金以上の有罪判決が確定した人の氏名や罪名、量刑などを記載した「犯罪人名簿」を全国の市区町村が法的根拠のないまま作成、本来の目的とされる選挙権の有無の確認だけではなく、官公庁からの犯歴照会にも常用しているのに、名簿の様式や運用が統一されておらず、国も実態を把握していないことが20日、分かった。

犯罪人名簿の本来の目的は、選挙権の有無の確認だが、東京二十三区の複数の戸籍担当者は「公務員を採用する際などに本籍地への犯歴照会は必須。市区町村は犯罪人名簿を整備せざるを得ない」と指摘。
各地で、官公庁からの犯歴照会にも常用しているとみられる。

総務省市町村課は、市区町村による名簿作成を認めた上で「根拠法令はなく、運用の詳細は分からない」と説明。市区町村の戸籍担当者らでつくる全国連合戸籍事務協議会は「法的根拠がない犯歴事務は個人情報保護法に抵触する」などとして早急な法整備を国に求めており、個人情報の管理の在り方に疑問の声も出ている。

現行の公職選挙法は、罰金や禁固以上の有罪判決が確定すると、選挙権・被選挙権を一定期間失うなどと規定。現在でも名簿作りは続いているが、手続きなどを明示した要綱を独自に定めているのは、23区では目黒区など少数だった。
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★ちなみに共同通信の記事はこうだ!

ちなみに、共同通信のネットニュースの記事はこうだ。
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犯罪人名簿、市町村任せ 国も実態把握せず

罰金以上の有罪判決が確定した人の氏名や罪名、量刑などを記載した「犯罪人名簿」を全国の市区町村が法的根拠のないまま作成、本来の目的とされる選挙権の有無の確認だけではなく、官公庁からの犯歴照会にも常用しているのに、名簿の様式や運用が統一されておらず、国も実態を把握していないことが20日、分かった。

総務省市町村課は、市区町村による名簿作成を認めた上で「根拠法令はなく、運用の詳細は分からない」と説明。市区町村の戸籍担当者らでつくる全国連合戸籍事務協議会は「法的根拠がない犯歴事務は個人情報保護法に抵触する」などとして早急な法整備を国に求めており、個人情報の管理の在り方に疑問の声も出ている。

東京23区の戸籍担当者らによると、名簿作成の根拠とされるのは1917(大正6)年の内務省訓令。選挙資格を調べる目的で、内務省が整備を指示していた。

現行の公職選挙法は、罰金や禁固以上の有罪判決が確定すると、選挙権・被選挙権を一定期間失うなどと規定。現在でも名簿作りは続いているが、手続きなどを明示した要綱を独自に定めているのは、23区では目黒区など少数だった。
2010/02/20 18:00 【共同通信】
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★照会先は限定しているが、しょせん目的外使用だ!

この記事は、目黒区が「犯罪人名簿」の取扱いについて、要綱を定めているとある。しかし、23区内でも要綱よりもいわば格上の規則で定め、きちんと例規集に掲載している区もある。

目黒区の要綱の第9条(犯歴照会等)は、刑事処分の有無について回答するのは、警察、検察庁、裁判所から法の規定に基づく照会、国又は地方公共団体からの照会、法律上一定の資格登録機関が欠格事由を認定するための照会等を挙げている。
けれど、本来の選挙人・被選挙人の欠格事由の確認からは、目的外使用である。

★地方紙「中国新聞」も記事にした!

今朝の中国新聞(国内の中国地方です。念のため)も記事にしているが、共同通信配信や東京新聞にはない、つぎの個所がある。

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罰金以上の有罪判決が確定すると、各地検は本人の本籍地の市区町村に既決犯罪通知書を郵送する。通知書を手書きで紙に写して台帳にしたり、電子情報で記録するなどして名簿を作成。一部の区は通知書をとじて使っていた。

各区とも、選挙資格の調査を除けば、名簿の利用は禁固以上の刑を欠格とした公務員採用の際の調査など官公庁からの犯歴照会に限定していると強調。「本人にも見せない」とした区もあった。

宅建業法による欠格調査、叙位叙勲の調査などにも協力しており、千代田区は年間約2千件の照会があるという。
目黒区は82年から「犯罪人名簿等取扱要綱」を施行。施錠した書庫などに厳重に保管し、担当課の外への持ち出しを禁じている。
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★ 「前科照会事件」で最高裁が違法と判決!
  

犯罪人名簿に関しては、最高裁で違法とされた有名な「前科照会事件」というのがある。弁護士が、京都弁護士会を通じて、前科を照会したところ、京都市中京区役所が回答したため、その違法性が争われた民事事件である。
昭和56年4月14日、最高裁第三小法廷で、前科を回答したのは違法であるとの判決があった。

東大法学部教授から最高裁判事になった伊藤正巳裁判官は、なぜ違法なのか、つぎの補足意見を述べた。伊藤正巳氏は、憲法学者であり、プライバシー権利を唱えた先駆者だった。

★プライバシー権利の先駆者・伊藤正巳裁判官の補足意見!

伊藤正己裁判官の補足意見は、次のとおりである。
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(1)他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであつても、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開することは許されず、違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成するものといわなければならない。このことは、私人による公開であつても、国や地方公共団体による公開であつても変わるところはない。

国又は地方公共団体においては、行政上の要請など公益上の必要性から個人の情報を収集保管することがますます増大しているのであるが、それと同時に、収集された情報がみだりに公開されてプライバシーが侵害されたりすることのないように情報の管理を厳にする必要も高まつているといつてよい。近時、国又は地方公共団体の保管する情報について、それを広く公開することに対する要求もつよまつてきている。

しかし、このことも個人のプライバシーの重要性を減退せしめるものではなく、個人の秘密に属する情報を保管する機関には、プライバシーを侵害しないよう格別に慎重な配慮が求められるのである。

(2)本件で問題とされた前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、それに関する情報への接近をきわめて困難なものとし、その秘密の保護がはかられているのもそのためである。

もとより前科等も完全に秘匿されるものではなく、それを公開する必要の生ずることもありうるが、公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であつても、その公開が公正な裁判の実現のために必須のものであり、他に代わるべき立証手段がないときなどのように、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必要最小限の範囲に限つて公開しうるにとどまるのである。

このように考えると、人の前科等の情報を保管する機関には、その秘密の保持につきとくに厳格な注意義務が課せられていると解すべきである。

本件の場合、京都弁護士会長の照会に応じて被上告人の前科等を報告した中京区長の過失の有無について反対意見の指摘するような事情が認められるとしても、同区長が前述のようなきびしい守秘義務を負つていることと、それに加えて、昭和22年地方自治法の施行に際して市町村の機能から犯罪人名簿の保管が除外されたが、

その後も実際上市町村役場に犯罪人名簿が作成保管されているのは、公職選挙法の定めるところにより選挙権及び被選挙権の調査をする必要があることによるものであること(このことは、原判決の確定するところである。)を考慮すれば、同区長が前科等の情報を保管する者としての義務に忠実であつたとはいえず、同区長に対し過失の責めを問うことが酷に過ぎるとはいえないものと考える。

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★国が「犯罪人名簿」の実態を把握していないのは大問題だ!

究極の個人情報である「犯罪人名簿」を法的根拠もなく、全国の区市町村が管理・保管し、その実態を国の所管省である法務省、総務省も把握していないのだから、いい加減だ。国も地方公共団体も、「犯罪人名簿」の問題性を考えず、漫然を犯歴・前科を管理・保管している実態をこのままにしておいていいのか!
(2月21日午前10:50更新)

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