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三船敏郎という男。テレビ朝日放映『天国と地獄』

2007-09-10 00:36:37 | テレビ番組
 テレビ朝日で放映された黒澤映画のリメイク『天国と地獄』を見た。黒澤映画の『天国と地獄』とは別物に仕上がっていて、これはこれでいいのではないか、と思って見た。
 これはこれでいいのではないか、と思った最大のポイントは、黒澤映画は、時代を背負っていて、そこに映画の衝撃があったのではないかと思うからだ。
 有名な後半部分、暗黒街を描いた長い長いシーンは、現在とは比べものにならない衝撃があったと推察される。

 また黒澤映画の時代、犯人の住むバラックに似た貧しい者の住む家は、実際に軒を連ねていたであろうし、そこから見える権藤邸は、今よりも強烈に富める者と貧しい者を分け隔てる象徴として機能していたに違いない。もっと言えば、戦後の混乱期に、なんとか伸し上がった権藤という男の、強さと弱さは、今、現代に置き換えたところで、表現できないように思う。

 強いて言うと、三船敏郎という役者は、戦後、経済復興目覚しい日本のその中で、古き良き時代を彷彿とさせる象徴ではなかったか。これまた冬に公開される黒澤映画のリメイク『椿三十郎』にしても、若い侍たちに肩入れする姿は、損得を越えたものを表現していた。三船が出演した「男は黙ってサッポロビール」のCMも、失われつつある男像がうけたように思う。
 また、最後に若い侍が行かないでくれというのも聞かずに去っていく姿は、今の時代に自分の生きる場所はない、ということを表していたように思う。
 三船という男は、失われ行くある種の「日本像」を体現していたのではないだろうか…

 是非、黒澤映画『天国と地獄』を見て欲しいので書き足すと、脚本と演出が誠に良い。脚本に関して言えば、前半部分、誘拐された被害者の緊張を解すためなのか、警察連中がやや間延びしたと思うほど、おもしろおかしく描かれ、そのため権藤の焦りが際立つ。そして誘拐された子どもが帰ってくると、権藤の焦りはなりを潜め、逆に警察連中の執念が際立つ。
 また前半の権藤宅のシーンは、ロングのショットが多用され、一人権藤が苛立ち、廻りの皆がなす術もなくその苛立ちに、動きを止めて付き合う。かと思うと、人質救出以後、会社で失脚した権藤が、歩む術を失い穏やかに宅で過ごす姿を尻目に、先ほどまで動きを止めていた者達が、苛立ちを携えて、歩みを止められないかのように、動き回る。
 物語ののりかわりが、非常に良くできている映画なのだ。

 そして何よりも、社会の行き詰まりを描いた社会派の物語でありながら、娯楽映画になっている。
 白黒映画に、カラーを混ぜた煙のシーンが有名なこの映画。トリックの面白さももちろん楽しみな一つだが、何かもう一つも二つも、違った読みが出来そうな、興味深い映画だ。