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マリインスキー・バレエ(キーロフ・バレエ)DVDガイド<2>

“宝石の舞い”
マリインスキー・バレエのキャッチコピーにもなっているこの言葉。
「ヴィシニョーワ・ガラ」「ロパートキナ・ガラ」で踊られる《ジュエルズ》からきています。マリインスキー・バレエの映像ではありませんが、秋の公演の前にご覧になってはいかがでしょうか?



ジュエルズ
参考DVD
《ジュエルズ》パリ・オペラ座バレエ 2005年録画 OA0951D

 ジョージ・バランシンの代表作のひとつで、〈エメラルド〉〈ルビー〉〈ダイヤモンド〉の3部から成る1967年初演の抽象バレエ。'99年にマリインスキー・バレエのレパートリーに入っており、今回〈ルビー〉がヴィシニョーワ・ガラ、〈ダイヤモンド〉がロパートキナ・ガラで披露されるが、日本での上演を待ちわびていたファンの方も多いのではないだろうか。
 このバレエには一つのエピソードが伝わっている。ある朝、バランシンはニューヨーク五番街の宝石店ヴァン・クリーフ&アーペルのショーウィンドーに飾られた、ロシア皇帝の財宝と見まごうティアラに目を留めた。そしてエメラルドにはフォーレ、ルビーにはストラヴィンスキー、ダイヤモンドにはチャイコフスキーの曲でバレエを作れないかというアイディアが浮かび、《ジュエルズ》が誕生したのだという。
 3つのパートはそれぞれ、異なる国のバレエへのオマージュとなっている。《ペレアスとメリザンド》《シャイロック》を使った〈エメラルド〉は、《ジゼル》に代表される19世紀フランスのロマンティック・バレエ。そして〈ルビー〉はバランシンの第2の故郷、20世紀アメリカのはつらつとした爽快なモダン・バレエだ。バランシンの愛する作曲家ストラヴィンスキーの《ピアノと管弦楽のためのカプリッチオ》にのせて、エレガントでコケティッシュなバレリーナを中心に、シャープでダイナミックな踊りが繰り広げられる。最後の〈ダイヤモンド〉はチャイコフスキーの交響曲第3番《ポーランド》の第2~5楽章を使い、19世紀、プティパがもたらしたペテルブルグ帝室劇場の黄金期のバレエが再現される。第2楽章の白いチュチュのバレリーナたちと第3楽章のパ・ド・ドゥは、もう一つの《白鳥の湖》と考えてよいだろう。第4楽章スケルツォは《くるみ割り人形》の幻想的な雪の精の舞を思わせる。第5楽章は《眠れる森の美女》の結婚披露宴のように、豪華絢爛で壮大なフィナーレとなって感動的にこのバレエを締めくくる。
 選ばれたバレリーナ、バレエ団にしか踊りこなせないこの20世紀のクラシック・バレエの傑作を、世界のトップに立つパリ・オペラ座バレエとマリインスキー・バレエがレパートリーとしていることには、大いに納得がいく。パリ・オペラ座バレエのDVDではマリ=アニエス・ジロー、オーレリー・デュポン、アニエス・ルテステュら人気のエトワールと美しいコール・ド・バレエが見事なアンサンブルを見せているが、マリインスキー・バレエでもヴィシニョーワ、ロパートキナというそれぞれのパートにぴったりのソリストと世界一のコール・ド・バレエが、バランシンを育てた劇場の歴史と伝統に裏打ちされた実力を披露してくれるに違いない。(R)


【新連載】 マリインスキー・バレエ(キーロフ・バレエ)DVDガイド<1>

11月の公演を待ちきれない、公演の前に予習を、という方に
マリインスキー・バレエ(キーロフ・バレエ)のDVDガイドを連載(全3回)でお届けします。

参考DVD
《海賊》全3幕 1989年録画 WPBS-95022

《海賊》は、マリインスキー・バレエを代表する人気作品の一つ。ギリシャのトルコ軍占領地区を舞台に、難破のために上陸した海賊たちが土地の娘たちと出会い、誘拐された彼女たちを取り戻してともに新たな冒険へ旅立つまでを、アドベンチャー風味、ロマンス、異国情緒を取り混ぜて描いた全3幕4場のグランド・バレエだ。
 主役が時間差で出てくることの多い全幕バレエには珍しく、第1幕1場で6人もの個性的な主要キャラクターが出揃う。コンラッド(エフゲニー・ネフ)は海賊とはいえ、信頼できるいい人だが、主役にしてはちょっと地味かも。その手下のビルバント(ゲンナジー・ババーニン)は銃や剣を手にしての踊りに、直情的で荒っぽい性格が読みとれる。アリ(ファルフ・ルジマートフ)は奴隷のはずが、第2幕では羽根飾りのついたヘアバンドや派手なネックレスを身につけ、まるで王子のようにメドーラと踊って拍手を独り占め。ストーリーでは脇役ながら、踊りの見せ場は一番かもしれない。ギリシャ娘のメドーラ(アルティナイ・アスィルムラートワ)は、コンラッドとお似合いの純情な正統派ヒロイン。その友人のギュルナーレ(エレーナ・パンコーワ)は大金持ちのパシャのハーレムに売られてしまうが、贅沢をしてけっこう要領よく暮らしているようだ。そして奴隷市場を仕切るランケデム(コンスタンチン・ザクリンスキー)は、ずるがしこく優秀な商売人で、物語も仕切っている陰の主役だ。彼がメドーラをパシャに売りつけようとして、コンラッドに妨害されるパターンがこの物語の基本。ランケデムの行動に注目しながら見ていると、より舞台が楽しめるはずだ。
 踊りの見所もたくさん。奴隷市場では女たちの中近東風ダンス、ランケデムとギュルナーレのパ・ド・ドゥ、第2幕海賊の洞窟ではビルバントの迫力たっぷりの踊り、ガラ公演などのグラン・パ・ド・ドゥとして有名なメドーラ、コンラッド、アリのパ・ド・トロワ、第3幕ハーレムはオダリスク3人の踊り、そして「生きている花園」と呼ばれる、プティパの振付らしい、メドーラを中心としたバレリーナたちの幻想的で優美な踊り。プロローグとエピローグでは、船も登場して臨場感を盛り上げる。
 音楽も踊りもいろいろな要素が詰め込まれていて、次は何が出てくるのだろうと最後までわくわくさせられる。テーマパークのアトラクションのような、娯楽性満点のスペクタクル・バレエ。それがこの《海賊》だ。(R)