汚れなき悪戯 1955年スペイン映画の傑作
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これで一応終了という事になります。長い間、有難うございました。
パブリート・カルボ少年が演じるマルセリーノ坊やのあどけない表情、澄んだ瞳、可愛らしくて、ほほえましかった。
物語:
その日、スペインのある小さな村では聖マルセリーノ祭を迎え、村人たちは楽しげに丘の上の教会へと向かう。その時、人気のない村の貧しげな家に一人の僧侶が病に臥す少女に、聖マルセリーノ祭にまつわる美しい奇跡の物語を、当時を偲ぶように話して聞かせるのだった・・・・・。
かって戦争で荒れ果てたこの村が、再び平和を取り戻し始めた頃、三人の年老いた僧侶が村にやってきて、丘の上の廃墟に僧院を建てたいと村長に頼んだ。心の広い村長は助役の反対にもかかわらず快諾した。三人の僧侶のたどたどしい仕事を見かね、どこからともなく数人の農夫が現れて力を貸し、程なく僧院は出来上がった。やがて十年も過ぎた頃、僧侶たちは十二人となり静かな信仰の生活を送っていた。
ある朝の事、門番の僧侶は僧院の前に赤子が捨てられているのを発見。単調な信仰生活の僧侶たちには、重大事だった。僧侶たちは赤子が天からの授けもののように自分たちで引き取り養いたがった。そして赤子の両親が共に今はない事を知る。たまたまその日は聖マルセリーノの日だったのでマルセリーノと名づけ、世話を始めた。慣れないながらも、彼らは一心に愛情を注いだ。僧院長も思いは同じだったが母親なしに育つ孤児の将来を心配した。僧院長の命令で僧侶たちは赤子を引き取ってくれる先を探した。善良な農夫の家は子供が多く、貧しかった。引取りを申し出た助役の鍛冶屋は悪意をもっていた。僧侶たちは失敗した。でも密かに喜んでいた。
五年の月日のうちにマルセリーノは、僧侶たちの愛情に育まれ素直で快活な少年に育っていた。マルセリーノは天使のように無垢で可愛い悪戯っ子。スペインの山々を眺め、僧院を自分の世界とし十二人の父親を相手に可愛い悪戯をするマルセリーノ,夢か詩のような生活。マルセリーノは僧侶たちを「お粥さん」とか「病気さん」「鐘さん」などと呼んでいた。しかしいつか、悪戯っ子のマルセリーノも、自分の母は天国にいるのだと考え、母を思う日が多くなっていた。ある日、野原で会った美しい農家の若妻は、マルセリーノには母親のように感じられた。彼女にはマヌエルという自分と同じ年頃の男の子がいるときかされたマルセリーノは、その後マヌエルを空想の友達と考え、つぶやくようにマヌエルに話しかけて、一人ぽっちの遊びをしていた。
祭りの日が来て、マルセリーノは初めて村に連れて行ってもらった。マルセリーノの無邪気な悪戯が、思いがけない混乱を招き、負傷者が出てしまった。このことが僧侶達の不幸になった。僧院の良き理解者であった村長の後を引きついていた鍛冶屋は、かねてからの恨みをはらす機会と、僧侶達を攻めたて、僧侶達は一ヶ月以内に僧院を引き渡し退去するはめになった。
年老いた僧侶達は、自分たちのものにはならない収穫のため黙々と畑仕事に出た。マルセリーノは前ほど皆に構われなくなったのを感じていた。いつも相手をしてくれる「お粥さん」も、黙ってマルセリーノを見守るだけだった。
一人取り残されたマルセリーノは空想の友マヌエルと孤独な遊びをするだけだった。しかし少年の頬に明るい微笑みは消えなかった。「マヌエル、屋根裏に行こうよ」そこは悪戯が繰り返されるので、近寄る事を禁じられた場所。鎌や熊手など危険な道具があったから。「永遠にお前を連れ去る人がいるんだ」と「お粥さん」の言葉が聞こえる気がした。おそるおそる納屋に登った少年は、思いがけなく十字架にかけられたキリストの像を発見。びっくりして、逃げ出した。その後再び、勇気を出して、ここを訪れたマルセリーノは、飢えと寒さに苦しむように見えるキリストの像にいつしか友情を感じていた。マルセリーノは微笑んで話しかけ、パンやぶどう酒、毛布などを「お粥さん」の目をかすめて持っていった。嵐の晩、少年は目を覚ますと、寒さに震えるキリストの事が気になった。「恐れるな!」自分を励ますようにつぶやくと、屋根裏へとそっと出かけた。これが最後の悪戯だった。マルセリーノの好意に報いるためキリストは彼の願いを聞いた。少年は天国の母に会いたいと答えた。
古椅子に寄りかかり、可愛く微笑みを浮かべ、永遠の眠りについた少年の周りに光が輝いていた。「お粥さん」、「鐘さん」、院長も神の奇跡を畏れながらも、少年との別離に声を上げて泣く。
奇跡は村に伝わり,鐘の音が鳴り響くマルセリーノの葬儀には、村人たちに混じり鍛冶屋の村長も参列した。
・・・・・話し終わった僧侶が暮れかかった丘の道を戻る頃、教会から村人たちが帰ってきた。聖マルセリーノ祭も暮れようとしていた。