建築設計について

建物を建設するときに何が大事かということを考えてみました。

シリーズ共同住宅をつくる 第13回 「住まい」としてのマンションの平面計画(10)

2012年12月20日 | コンセプト

前回までにコーポラティブ方式の長所と短所について説明しましたが、今回は短所の中でも最も建築主にとって問題となる点を取り上げて解決方法について考えてみます。

コーポラティブ方式は建築主にとって非常に有利な建設方式ですが、建築主の集まりが組織的な組合を作って運営していくとき、中心となる人の建築に対する知識の程度によって、時間がかかったり、業者管理ができなかったり、完成後の責任の執らせ方が分からずにメンテナンスができず、工事の瑕疵を修正することもできずに泣き寝入りをしてしまうか、裁判を起こすほかないような無残な状態になっているコーポラティブ方式のマンションが都市近郊にはあるとのことです。

コーポラティブ方式ではコーディネーターが中心となって事業の企画、土地探し、開発行為、業者発注、建物引渡し等にわたって事業主である組合の代理となって交渉や管理を行いますが、代理者のため、法的責任については全て事業主である建設組合が負わなければなりません。

例えば交渉事が始まって近隣説明会を行なった時点で、近隣から「階数を減らすか、迷惑料を支払え」等の苦情があれば、コーディネーターはそのことを組合に報告するだけで、その対応は組合で考えて対応しなければならず、対応を間違えれば莫大な迷惑料を支払うような結果になるか、夢に見ていた「住まい」を建設できないような状況になってしまいます。

このことはコーポラティブ方式の隠れたリスクであり、本来コーデネーターが対応について組合と協議して組合に有利な方法で解決していくことではありますが、コーディネーターがコーポラティブ方式を悪用して分譲マンションの「青田売」を仕掛けているような人であれば、組合が土地を買った状態で問題を察知して体良く理由を付けて逃げ出してしまい、土地を買った組合にすべての責任を押し付けて、責任逃れをしてしまいます。
現在日本の法律ではコーディネーターの業務を規制する法律がないため、コーディネーターが行う法律行為は全て組合が負うことで成立しており、コーポラティブ方式の難しい点でもあります。

では、この責任をできるだけ負わずに自由設計のできる集合住宅を建設する方法はないのでしょうか?
その方法については次回で説明します。


シリーズ共同住宅をつくる 第10回 「住まい」としてのマンションの平面計画(7)

2012年12月16日 | コンセプト

コーポラティブ方式の考え方

マンションの住戸を個人のライフスタイルに合わせて創るためのコーポラティブ方式について説明します。

住宅需要者が集まって組合を結成して、その組合が事業主となって、土地取得から設計者や建設業者を決めて、建物の建設を行う集合住宅建設方式です。一般的には、コーディネーターや設計者が企画して住宅需要者を募集し、建設組合を結成して共同で土地を購入(あらかじめ決まっていることも多い)を行い、設計事務所等に依頼して各組合員の希望を取り入れながらプランを練り、建築会社に発注して、建設を行い、完成後も共同で管理するという仕組みです。事業主が個人の集団ということで事業の進捗が難しい為、コーディネーターがサポートしますが、完成までに時間が掛ることが普通です。

コーポラティブハウスは、デベロッパーが分譲する一般的な“レディメイド”のマンションの対極にあるもので、設計の自由度という点では戸建ての注文住宅に近く、居住者の趣味趣向を反映させられる“オーダーメイド”の集合住宅といえます。建設スタートの時点でほとんどの入居者が決まっているわけですから、通常マンションの販売価格に含まれているモデルルームの運営費用や過度の広告宣伝費用も省け、その費用分を住戸設計の質的なグレードアップに充てることもできます。

● 愛犬と一緒に暮らしたいならペットにも居心地の良い空間を・・・
● 心置きなく趣味に没頭できる空間が必要なら趣味の趣向に合わせた空間を・・・
● お年寄りやお体の不自由な方が同居されるのなら完全バリアフリーの空間を・・・
● アレルギー体質のお子様がいらっしゃるのなら新建材を使用しない天然素材の快適空間を・・・
● 書院作りや数寄屋作りの和風が好きな人には本格的な和風空間を・・・

といった具合に、“ご家族のライフスタイルを反映させ、なおかつ納得できる価格で手に入れたい”という
「合理的なわがまま」を実現させてくれるのが、「コーポラティブハウス」ならではの魅力だと思います

 


住まい作りの原点 その2

2012年07月11日 | コンセプト

「住まいを作る」ことは必ずしも「住宅建設」と同義語ではありません。

「住まい」とは何かと考えた時、それは物理的な建物を指すのではなく、そこに生活する家族の結びつきや家族愛があり、そこにいる家族の精神的支えとなって安心感を与え、子供たちを大きく成長させる空間であると思います。

今、いじめの問題でTVや新聞報道がされていますが、いじめをする子もいじめをされる子も家庭環境が必ずしも愛情の満ちた状況でないことがあります。私の長男も一時期いじめられたことがありましたが、親が子供の発する注意信号を早めにキャッチすれば、自殺をするまで追い込まれることはないと思います。いじめる子にしても普段から親の愛情がしっかり注がれている子はいじめをするような状況にはならず、むしろ、庇うことができる正義感の強いやさしい性格の子に育っていくと思います。親が生活に汲々として余裕のない生活の中ではなかなか中学生の子供のことまで気をかけてやることはできませんが、せめて憩いの空間を作ることで子供に接する時間を取るようにすれば、それぞれの気持ちが通じ合って、人の気持ちが分かる子になると思います。

このような環境を作りをするには家をつくるような家族の大事業を行うときがちょうどよい切っ掛けになります。
家を作るときには子供部屋や居間、台所、老人室、水回り等の生活のすべてを家族が寄り集まって一生懸命に考えるようになるからです。普段何も言わない子供たちが自分の部屋をどのようしたいかを親にお願いすることで親や兄弟とのコミュニケーションをとり、親は子供たちの成長の過程を考え、どのように育てていくかを考えて、経済的な安定も考慮して使い勝手の良い家の平面計画を考えて作るろうとします。 このような家族全員の考え方を建物に反映させることで家族の意思疎通が図られて建設される建物には愛着が生まれ、家族の居所として位置つけられ、子供が成長してその家を出た後も、心のよりどころとしての自宅となるような空間が「住まい」といえる住宅かと思います。

私はそんな「住まい」を作るためのお手伝いができることを喜びとしております。


ジャズと空間のコラボレーション

2012年07月07日 | コンセプト

 

  

長野県北安曇郡松川村に建設したジャズ喫茶です。
オーナーが若いころから趣味で収集したジャズレコードを聞く施設として趣味と実益を兼ねて建設したものです。

ジャズ喫茶ということで音楽を聴く為の部屋と喫茶店というコミュニケーションの場としての部屋を結び付けて、より良い空間として存在させるための音楽とコミュニケーションの結び付き、喫茶店として機能させるための社会との結びつきを良くするための装置を結界空間として作り出そうと試みた建物です。

音楽を聴くための装置では外部からの雑音と建物内部の雑音に注意することが重要です。特にスピーカーから出る重低音の振動が建物の各部に伝わった時にその振動が雑音になってしまいます。
この建物では特に重低音が建物各所に伝播させないようにする為、スピーカーを置くステージ部分の基礎を他の基礎とは完全に分離して振動が伝わらないようにし、壁はステージ以外の壁を平面曲線として、天井は垂木および野地板表しの直仕上げとして無駄な反響をさせないように空間を作り出しており、壁は吸音材を埋め込み、有孔ボード下地の上にクロスを張って仕上げています。 

地域の中でジャズ喫茶として位置つけることはなかなか難しい問題で、ジャズ喫茶を外観でイメージつけるような形態をとれば、返って違和感が出てしまうと思い、一見和風住宅風な雰囲気を醸し出す形とすることで、地域に溶け込ませ、玄関周りに日本人が好む結界空間を作って、地域との人々に好まれる空間にしたことで、誘客装置として十分に機能しています。

音に気を使った空間構成ができたことで、外観からは想像の出来ない豊な空間の広がりがうまれ、ジャズ音楽とのコラボレーションができ、そこに身を置く人々を豊潤な世界に導くことができたと思います。また、人々はジャズ音楽を聴くことを目的として訪れるばかりではなく、その豊な空間の中でジャズ音楽をバックグラウンドとして、マスターのおいしいコーヒーを飲みながらのコミュニケーションの場として地域の憩いの場として利用しています。

地域と空間とジャズ音楽が見事にコラボレーションして地域に密着して安定した経営の店舗として成功しています。


住まいの本来の姿

2011年11月01日 | コンセプト

最近完成した当事務所の設計した住宅です。この写真は建築主の了解を得て公開しています。

会社員のご夫妻の住宅です。奥様が茶道をしている関係で、和風住宅にしてくださいとのご要望があり、外壁は漆喰と腰壁に下見板を施しており、和風の住宅としての雰囲気を作り出しています。内部の日本間では茶道の雰囲気が可能な造作をしましたが、もともと客間として設計しており、書院作り風に長押を取り付けていたため、ちょっと違和感のある茶室となっていますが、水屋も本格的に設置して茶道の教授にも十分にできる環境となっています。既存の門柱や塀・庭木をできるだけ残して田園風景の屋敷林のある周囲の雰囲気に溶け込ませました。

設計を開始するときに、建築主の周囲の人の勧めで私の話を聞いていただけることになり、今回の建物設計の受注につながりました。

提示された企画プランを確認させていただいたところ、ご夫妻の雰囲気とは違和感を感じたため、「具体的にどんな要望で作図したのですか?」と質問をしてみました。回答は「部屋数と部屋の大きさだけです。」との答えにびっくりしてしまいました。

私は紹介されたときに、建設に係る金額の話から切り出しました。住宅の建設費用は個人が支出する最大の金額となるため、その覚悟をしていただくことで、住宅建設を他人まかせでなく、自分の住まい作りに真剣に取り組んでいただくためにお話していますが、、私との話は相当な違和感があったように聞いています。

私は建築主に「あなたの住宅についてどんな家が欲しいのか各部屋ごとに要望を紙に書き出してください。」「できれば自分たちで平面計画を紙に書いて考えてみてください。」とお願いし、「その要望に従って企画プランを相談しながら作っていきましょう。」と提案させていたいて、お別れしましたが、数日後A4の用紙3枚ほどに要望を書き出した用紙をもって、当事務所を訪ねて来ていただきました。

私たちはその要望をもとに毎週午後7時過ぎから午前12時過ぎまでたたき台の企画プランを2案ずつ提示して議論を重ねました。初対面から3ヵ月掛かって双方の意見がまとまって企画プランが写真の建物のように決まりました。この間に提案した企画プランは約30通りに達し、我々と建築主との絆がしっかりと結ばれ、当事務所のコンセプトでもある結界の空間を作り出すことに成功しました。

建物の企画プランは詳細は記述できませんが、ご夫妻の要望をはるかに超えた内部立体空間とご両親と同居するための生活環境の確保、ご夫妻が趣味の世界を楽しむライフスタイルの空間を組み合わせることができ、ご夫妻にも大変喜ばれ、設計者としても満足のいく空間構成が出来たと思っています。予算との関係で工務店に無理なお願いをしたことで、完成検査において手直し工事が出てしまったことは多少残念ですが、ハウスメーカーの住宅が中心の現在の住宅建設情勢の中で、自分の個性に合わせた独自の住まいを作り上げた建築主に賞賛の意を表し、協力させていただいたことに深甚なる感謝を申し上げます。

住宅建設には建築主の要望を十分取り入れて、既製の枠を乗り越えて個性を醸し出し、ライフスタイルに合わせた家を皆が現場で協力して作りあげることで愛着が生まれ、末永く自分の「住まい」として大事にしていただけるものと信じています。ハウスメーカーの企画に合わせた同じような家では本来の住まいとしての機能は果たせません。建築主の個性と心情を十分に取り込むことが大変重要かと思います。

今回の建物の建設ではそういう意味で大変うまく出来たと自負しています。


住まい作りの原点 その1

2011年05月03日 | コンセプト

「家」を手に入れる前に
自分達はどんな時間を過ごすのか”、“どんな生活をしたいのか
必ず家族で話し合ってもらいたいと思います。
そうでなければ、ただ単に箱物を手に入れただけになってしまいます。
大切なのは、家に自分達の生き方を重ね、子どもたちにどんな空間を提供してあげることができるのかという空間の質を問うことではないかと思います。