日銀が1日に発表した全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業製造業の業況判断指数(DI)が前回3月調査のプラス11からプラス13へと小幅改善したことに内外メディアの関心が集まった。だが、本質的な問題点は別のところにある。本来なら円安メリットを享受すべき大企業でデメリットが意識されていたことだ。
端的に指摘すれば、円安による原材料価格の増加が企業経営の負担になっている構図が鮮明になっている。大企業非製造業の業況判断DIが前回から1ポイント低下のプラス33となったことが象徴的に示している。この先も自動車や電機などの業況感が目覚ましく改善しないなら、日本経済の停滞感が意識される展開が続くのではないか。
<自動車・小売りのDI悪化の意味>
円安時に業況判断DIが改善しやすい自動車が前回短観時の13から12へと小幅低下したのは、認証不正問題の影響が出たとはいえ、円安メリットを享受し切れない今の日本経済の実態の一端を示したかたちだ。
一方で、小売が同31から19へと12ポイントも悪化したのは、円安を起点にした価格引き上げに販売がついていけなかったことや、原材料価格の上昇が収益を圧迫したことが影響した。つまり円安によるダブルパンチに直面した現実を浮き彫りにした。
日米金利差があまり縮小しないとの観測から、ここから数カ月間は少なくとも円安圧力が残るとの見方が市場では多数派を占めている。今年度事業計画におけるドル/円の想定為替レートは143.45円と3月短観時の140.64円から円安の設定になっている。
ただ、足元で160円台まで円安が進んでいる状況とのギャップは相当に大きい。つまり、先行きの円安見通しは日を追うごとに強まっているが、6月短観における先行きの業況判断DIは大企業が14と足元比プラス1ポイント、非製造業は27と同マイナス6ポイントと停滞感の強まりをみせている。
このことは、最近の貿易収支において円安が進展しても、輸出数量が大きく伸びることがないという現象とと平仄(ひょうそく)があっている。
<緩和効果の調整と円安デメリット>
日銀はここまでの金融政策で、超緩和政策を維持することによって実質政策金利を大幅マイナス圏で維持し、企業活動の活発化を目指してきた。これを別の角度から見れば、超緩和策の継続による円安を追い風に製造業が輸出を増やし、企業業績が好転することで設備投資や賃上げ幅の拡大を後押しする狙いがあったと言えるだろう。
しかし、円安が企業の業況感好転に結びつかず、かえって原材料コストの上昇を促してマイナス点も多くなってきたと判断すれば、緩和効果の調整を狙った利上げを中期的に検討する材料の1つになるだろう。
筆者は7月利上げの可能性は低いとみているが、円安による企業業績のマイナス面が多くなるなら、それも9月以降の利上げ検討の1つの要因として加わることになるのではないかとみている。
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