2日目の夜はサイゴン川でディナークルーズ。
ウェイトレスは水兵のコスチューム。
船内の同じフロアにはボクたちの他に、ロシア人の団体、中国人の一家がいらっしゃった。
ボクがあくまでもマイペースに、ビールをがぶがぶ飲みながらベトナム料理に舌鼓を打っていると、同じテーブルに同席していた上司たちが口を揃えてこう言って来た。「おい、何かやれよ!」と。フロアには小さなステージがあって、そこで余興をやれ、みたいなことを言うんですよ。
いやいやいや、このひとたち何言ってんの。
あんね、屋形船じゃないんだから。
周りにはボクたちだけじゃなく、他の国のお客様もいらっしゃるわけですよ。そんな中で宴会芸なんておっぱじめたら、旅先で羽目を外す日本人の典型的な悪例じゃないですか。ボクは酒癖は良い方なんで、酔いに任せて非常識なことは決してしないのです。
そりゃ確かにボクは社内でもキング・オブ・モノマネと称えられて久しいけれど、こんな場違いな場所で悪乗りして「ぶら~り!途中下車の旅~!」つって故・滝口順平と瓜二つのモノマネとか披露した日にはドボリ途中下船させられるなんてことになりかねないじゃないですか。
で、「いやです。絶対しません。」ってごねていたら、ひとりの男がテーブルの間を縫って颯爽とステージへ歩み出た。新人教習指導員のヤマネである。
おいおいおい、アンタ何する気だ?
外国人たちもなんだなんだとヤマネに注目している。
大丈夫かよ、下手なことをしたら日中、日露戦争再びみたいになって船から放り投げられるぞ、とハラハラしてたら、彼ね、片手で持ったタオルを振って一瞬で結び目をつくる、っていうすげー地味な一発芸をやりだした。
そんで9回目くらいで成功してました。
身内は「おぉー!ヤマネなかなかやるなー!」とか歓声を上げてましたけど、ボクにとってはそんなくだらないことよりもヤマネを見る外国人のポカーンとした顔が印象的でした。
ヤマネの余興が終わるのを待っていたかのようなタイミングで、民族楽器を持ったバンドがステージに登場しました。もしかしてヤマネってこれの前座だったのか、ってタイミング。
対岸の夜景、揺れる木造船、異国情緒溢れる音楽。
しばらくするとふたりの踊り子ニーニャが登場して民族音楽に合わせて踊りを披露しました。ふたりともすごく綺麗な方でした。
特にこの2番目のニーニャがボクとK谷さん的にどストライクでした。
画像じゃちょっと分かりませんけどもすごく美しい方で、小池栄子を三日三晩真水で塩抜きした感じのベッピンさんでした。
彼女たちはセクシーかつお上品な衣装を身にまとい、大きな扇子をひらひらさせながら優雅に踊ります。客席は皆うっとりとした表情で彼女たちの踊りに見とれていました。ここは竜宮城かと思うほど素敵なひと時でした。
夢のような時間はあっという間に過ぎ、踊り子ニーニャが舞台を去りました。その後もバンド演奏は続き、ボクたちに気を遣ってなのか『北国の春』など日本の曲を演奏してくれました。曲の途中でバンドのリーダーが客席に向かって「どなたかタンバリンを叩いてくれる方~?」みたいなことを言ってます。
上司たちはまたもや口々に「お前、前に出て叩けよ!」とボクに言ってきました。
いやいやいや、そういうの、良くないよね。そういうのって、どうせただの笑い者にされるか、やらすだけやらしといて「お前面白くねーな」って感想をさらりと述べられるかのどっちかしか無いよね。
パワハラとかアルハラとか世間ではよく言われますけど、こういうのをヤレハラ(ヤレヨ・ハラスメント)と定義してボクは強く糾弾していきたい。
で、頑なに断っていたら、いつの間にかある社員がタンバリンを渡されてて、うわー可哀想だな、って思ってたらそのひと、河本準一よろしくの手さばきでジャパニーズ太鼓持ち芸を披露しだした。
新人教習指導員のヤマネである。
ヤマネ、すげーリディミカル。下積みホストみてぇ。
曲が変わって『上を向いて歩こう』が演奏されました。
ヤマネはタンバリンを叩きながらついに歌いだしました。頼まれてもないのにセンターに置かれたマイクスタンドを握り締めて。
歌の最後の「ひとりぼっちの夜」の所なんて、バンドが次第にスローに演奏するのにうまいこと合わせて結構良い感じでアレンジしてたし。おまえらリハしてたんかっちゅーぐらいハマッてました。
ヤマネに触発されたのか、ジャパニーズに負けてなるものかとスレンダーなロシア人熟女が前に出てきてノリノリで踊り始めました。
おいおい、誰だよ、こんなにウォッカ飲ませたやつは、って心配するほど踊り狂ってます。彼女の狂乱ぶりに周囲は明らかに引いてたんだけど、身内のロシア勢ですら明らかに引いてたんだけど、女性をひとりにさせてはならないと思ったのか、ひとりの紳士がスマートな感じでスッと美熟女の横へと歩み寄った。
新人教習指導員のヤマネである。
ふたりは目を合わせ、お互いこくりとうなずくと一緒に踊りだした。美熟女が魅せるとヤマネも魅せる。それはもう呼応するように息のぴったりと合ったディオダンシングだった。
もうこのあたりからヤマネフィーバーが止まりませんでした。
会場に巻き起こるヤマネコール。
それまでバラバラだったフロアの全てのひとたちがステージに群がり、手を叩き、腹を抱えて笑い、写真を撮り始めた。
こうなると宴は止まらない。
興奮した観客がひとり、ステージに飛び込んで踊りだした。
教習所の売店のオバチャン、I戸さんである。
でもそこはヤマネとロシアン熟女のゴールデンコンビが完全に出来上がってて、もはや日本人熟女代表I戸さんの立ち入る隙は全く無い。行き場を無くした彼女はこともあろうかボクの所へやって来て「行きましょう!」って腕をぐいぐいと引っ張ってきた。
ボクは目を閉じ、首を横に振って石像のように決して椅子から離れませんでした。
勘弁してくれよ!
あんな双頭竜のモンスターみてぇな最強のコンビの横で、ボクたち二人がしゃしゃり出たところで、絶対火傷するだけじゃないか。
「お願い!ねぇお願いよぉ!」つって、痴情のもつれみてぇにI戸さんはなおも泣きついてきましたが、ボクは心凍らせて愛を凍らせて鬼神のごとく彼女の手を振り払いました。
ほんとごめんな、I戸さん。
ボクは上司のヤレハラを軽くいなすことは何とも思わない。でもさすがにいつもお世話になっているI戸さんの懇願を無下に拒否するのは心苦しかった。
ただ、上司の命令は断っておいて、女性の頼みはすんなりと受け入れるってのが本当の紳士のすることなのだろうか。
いくら女性の頼みといえども「ええい!」と振り切って、自分の意志を曲げずに貫くのが真の男というものではないだろうか。
結局、I戸さんは不完全燃焼のまま自分の席へと戻って行った。
一難去ってまた一難。ホッとするのも束の間、後ろから誰かに肩を叩かれた。
どうせまた上司かI戸さんだろうと思って、「だから!ボクは絶対に嫌ですってば!」って言いながら振り向いたら、そこには小池栄子似の踊り子ニーニャが立っていた。
キョトンとするボクに向かってニコッと笑いかける彼女。
う!うるわしすぎる!
それはまるで大切な宝物を授けに天女が地上に舞い降りたみたいな衝撃だった。彼女が宝物の代わりにボクに差し出してきたのはそう、タンバリンだった。
気が付いたらボクはヤマネとロシアン熟女の間で激しく踊ってました。
気が付いたらヤマネからロシアン熟女を奪い取るようにして踊ってました。
気が付いたらロシアン熟女の足元を這うようにしてタンバリンを叩いたりしてました。
気が付いたらロシアン熟女の背後から両腕を前に回して腰を抱くようにしてタンバリンを叩いたりしてました。
で、ついでに、ロシア人団体の中に多分あれが旦那だろうなって感じの大男がいらっしゃるのにも気が付きまして。
なんか腕とかもすげー太くて、絶対あの人、両腕の力こぶのとこに碇のタトゥーとか入れてらっしゃるな、とか思って頃合いを見て逃げるようにして舞台を降りました。
まぁボクの出演時間は3分に満たないと思いますけど、会場のみなさん動画を好き勝手に撮ってらしたんで、ボクの破廉恥な姿がYouTubeとかにアップされて全世界に発信されていないことを祈るばかりです。
ボクが場を荒らして去ったその後も、ヤマネは各国の美熟女たちと一緒に踊り続け、会場を大いに盛り上げていました。堂々たるオンステージ。どっから来るんだその自信と余裕。
下船の時。ヤマネは何人もの外国人に写真撮影を求められ、最後にロシアン熟女と肩を抱き合い、別れを惜しんでいた。
日中露のボーダレス。
かくしてヤマネは国境を越え、みんなをひとつにまとめたんだ。
もう尖閣諸島とか北方領土とかも、オザワなんかよりヤマネが解決すればいいのに、と思った。
しかし、レポ面白過ぎです(笑)
郷に入れば郷に従え、まさに有言実行できたのはヤマネさんであると思います。
いんすくんも、Mランドの帽子を何個か持ってきてやればよかったのに。ニーニャもほれなおしたかも。
おもしろい書き込みで
携帯片手に笑っちゃいました(^-^)
すぐに取り返したりして
ヤマネと勝負する気は無いから。
ヤマネに勝てるのは多分、虎とか龍とかになると思う。
>ぽへくんさん
ヤマネはこんな山陰の隅っこで燻っててはいけない男です。
アカデミーとかイグノーベルとか狙える男です。
>栞さん
初めましてのコメントをいただいてから半年経ったあたりの初めまして!
>月子さん
ヤマネは親善大使だけで食っていけるかもですね。
感動しました。
いんすくんのタンバリンも、さぞかし、すごかったことでしょう。
うふふ。
お嬢ちゃん、タンバリンはね、腰で振るもんなんだよ。