で、男3人で恋占いをしに行ったよって話なんですけど。
ひとりは前日にお見合いを断られたS氏、
もうひとりは彼女が途切れたことが無いN氏、
そしてオッサンになった今でも過去を引きずるこのボクの3人で。
縁結びの神様で知られる出雲大社。
今やそれと並ぶ勢いで全国的に知名度を上げているのが八重垣神社である。
ヤマタノオロチを退治したスサノオノミコトとその妻クシナダヒメを祀る。
ふたりは非常に仲が良かったことからこの神社は縁結びの地として古くから信仰を集めていた。
それが現在のパワースポットブームや婚活ブームも手伝ってか、メディアに多く取り上げられ全国の若い女子の間にも知れ渡るようになった。
最近では北川景子も訪れたという。
ボクも以前から気になっていたんだけど、ひとりじゃなかなか足が向かなかった。
駐車場に着くと“なにわ”やら“福岡”やらの県外ナンバーが溢れていた。
たかが占いのためだけにわざわざ遠く山陰を訪れるとは…うう。怖いよ。
トラウマが甦る。
社の方へ行くと、神社仏閣におよそ似つかわしくないオネーサマたちがわんさかいた。
この場所は交通の便が悪くしかも分かりにくい所にあるため、
その光景には凄く違和感をおぼえた。あ、あと高揚感も。
こんな所、男ひとりじゃぜってー来れねぇ!
いくらこのボクでもぜってー来れねぇ!!
「すいませーん、写真撮ってもらえますか~?」
不意に、女性4人組に声を掛けられた。
うむむ!こいつらも占い目当ての女に違い無い…うう。怖いよ。
まぁでも断る理由も無いんで仕方なしにカメラを受け取ると、
ポーズをとった彼女たちにレンズを向けて
ハイ、オロチ!
つって即興の島根ジョークなどを飛ばしてみたら
これが案外好評でついデレデレしてしまった。
ボクのトラウマどこ吹く風。
ここって結構いいところじゃないの、と。
恋のパワースポットっていうよりむしろここで婚活できちゃうな、と。
境内の外れ、森の中を進むと、木々に守られるようにして“鏡の池”がある。
社務所で購入した薄い和紙に小銭を乗せ、そっと池の水面に浮かべる。
その和紙の沈み方で恋を占う。
沈む時間が短ければ短いほど早くに良縁があり、
沈む場所が近ければ近いほど身近に良縁があるという。
八重垣神社を訪れる若い女性の主目的はこの銭占いなのだ。
池の周りには自分の浮かべた和紙を祈るように見つめる女子たちでいっぱいだった。
うわーこれはとてもふざけれる雰囲気じゃねぇや凹
当初、3人のうち誰が早く沈むか勝負しようぜ!とはしゃいでたボクだったんだけど、
さすがに張り詰めた空気を察して厳かにやることにした。
ボクたちは女子たちの間に入り込み、せーの、と同時に和紙を浮かべた。
S氏がすぐに腕時計に目をやり、時間を計る。
ボクはふふんと余裕の笑みを浮かべつつ、
心の中で合掌し、こう祈ったんだ。
Sだけには負けたくないSだけには負けたくないSだけには負けたくないSだけには負けたくないSだけには…
昨日の友情どこ行ったー!?(前回参照)
そんで結果なんですけど、
15分以内に沈むと結構良いらしいんですけど、
N氏、3分も経たずして沈んだ。
うそー!すげー!早ぇーー!!
当たってるじゃないのこの占い!!!
ボクとS氏はちょっとびびってしまった。この池の力に。
ていうのもね、N氏、なんと来月結婚予定なんですよ!
占いをナメてたボクは動揺するのを必死に抑えつつ涼しい顔で
やっぱ特に沈むの早いんだな、出来ちゃった結婚は。
って言ってあげた。
N氏に次いで、3分ちょっとで沈んだのはね、
もはや皆様も展開読めてると思いますけど、
そうですよ、
そのS氏ですよ!
血圧が天竺みたいなとこにあるヤツに負けた。
さて、気を取り直して…
結局ボクは何分で沈んだのかという話なんですけど、
5分弱で沈んだ。
いやまぁ早いつったらまぁ早いんですけどね、
時間よりもその沈み方がね…ちょっと印象的だった。
色々想像はしてましたよ?
早く遠くに沈めば、未だ見ぬひととの運命の出会いがあるのかなウフフ、とか。
早く近くに沈めば、きっとS氏のお母様のことかなウフフウフ、とか。
でもまさかね、あんな沈み方をするとは思わなかった。
無風だったしN氏もS氏もほぼ浮かべた所で沈んだんですけど。
誰かが新しく和紙を投入した時の波紋のせいかも知れない。
ボクの和紙がゆらりゆらりと少しずつ水面を移動し始めてね、
なんか向こうからもゆらりゆらりと誰かの和紙が近づいて来てね、
え?え?え??って言ってる間に
ふたつコツンとぶつかって沈んだ。
えええええええ!?
何このロマンティック!!
これってどゆこと?
これってそゆこと??
ぶつかった者同士はもうその時点で成立ってこと?
初々しく一緒に手をつないで会場を後にするってこと??
周りで一部始終を見ていた観衆からはどよめきが起こり、
ボクはいやーどうもお騒がせしてますみたいな、一躍時のひととなった。
で、誰なんだ?と。
ぶつかった相手の女の子が誰なのかを多分充血した目でギョロリと探ってたら、
すぐに分かった。
あ!あのひと!
恥ずかしそうに照れ笑いしてる!!
それはね、まさかのね、
ひとりで来てるっぽいオッサンだった。
目が合ったんで会釈しといた。
トラウマが深まった、初夏。

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