合衆市ヘンテコリン構想関連の条例案の中身は皆目見当がつかないが西尾先生の地方政府基本法に対する意見書を読み解いた上で、
再度、花巻市まちづくり基本条例を熟読することを奨めたい。
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地方政府基本法についての意見(抄) 西 尾 勝
日本国憲法が制定される直前の1947年3月に制定された旧教育基本法を嚆矢として、基本法と銘打つ「形式上の基本法」はすでに
30法律以上に増えて来ているにもかかわらず、通常の法律に優越する法的効力を有するとみずからの法文上に明記している基本法も、
このような法的効力を有すると最高裁判決によって認定された基本法も、これまでのところ一つとしてない。
それ故に、基本法と銘打つ法律を制定することによって、当該基本法に関連する通常の法律の制定及び解釈適用に際しては当該基
本法に準拠してこれを行うように国会及び裁判所、並びに内閣・各府省に対して配慮を要請するという点において一定の事実上の効
果は認められているものの、国会がみずからこの種の基本法を制定したにもかかわらず事後の国会が当該基本法に違反する(あるい
は当該基本法の一部条項を修正または適用除外する)通常の法律を制定した場合には、いかに基本法と銘打っていても、その他の
通常の法律の場合と全く同様に、「後法は前法を打ち破る」とする後法優先の一般原則から免れることはできないとするのが、学界の
通説である。
したがって、当会議の主催者側が後者のような性質の地方政府基本法の制定を目指しているのだとすれば、当会議に問われるのは、
上記のような限界をもつことを承知の上で、従来型の基本法として地方政府基本法を制定しようとするのか、それとも、敢えて上記の
ような限界を突破する何らかの方途を模索し、通常の法律に優越する全く新たな類型の基本法として地方政府基本法を制定しようと
試みるのか、である。
私見によれば、後者の方途として唯一残されているのは、以下のような論理構成に立脚するものではないかと考える。すなわち、地
方政府基本法は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」と規定してい
る日本国憲法第九二条の明示的な委任に基づいて、同条にいうところの「地方自治の本旨」を解釈し補充した憲法実施法(または憲
法附属法)というべき性質のものであること、それ故にまた、地方公共団体の組織及び運営に関する諸制度の詳細を設計する諸々の
通常の法律はこの地方政府基本法に違反しないかぎりにおいて制定され解釈適用されなければならない旨を、みずからの法文上に
明記することではないか、と考える。
ちなみに、日本国憲法が明示的に法律に委任している条項を調べてみると、別紙に示したとおり、①第九二条と同様に「法律でこれを
定める。」と規定している条項、②「法律の定めるところにより、」と規定している条項、③「法律の定めるOO」と規定している条項の、
三類型がある。そして、これらの憲法条項に規定されている事項を調べてみると、①政府の組織に関する事項と、②権利義務の規律に
関する事項と、いずれも法律主義(または法定主義)の原則を確立することが不可欠と判断されている、二種類の領域に限定されてい
ることが判明する。
そこでさらに、これらの憲法条項のうち、政府の組織に関する憲法条項に基づいて制定された法律を調べ、これを列挙してみると、皇室
典範、国籍法、公職選挙法、国会法、内閣法、国家公務員法、裁判所法、会計検査院法、地方自治法等々と並ぶ。しかも、これらの諸
法は、憲法と一体をなすものとして、憲法の制定・施行とほぼ同時期に相前後して制定・施行されているのであって、これらの諸法こそ
政府組織に関する「実質上の基本法」そのものである。
以上の諸点を考慮すると、地方自治法を含むこれらの諸法は、いずれも憲法の明示的な委任に基づいて制定された憲法実施法(また
は憲法附属法)と称しても決して不自然でない法律なのであって、同じく国会によって制定された法律ではあるものの、その他の通常
の法律とは別格の法的効力を有する法律として制定され解釈適用されることも、あながち全く根拠のないことではないのではなかろうか、
と愚考する次第である。
この種の全く新たな類型の基本法として「地方政府の組織及び運営に関する憲法実施法」を制定する余地が開けるのであれば、その
際には、国における憲法→憲法実施法→法律→政省令の法体系の確立に併せて、地方公共団体の自治立法権の世界についても、
自治憲章(または憲章)→条例→規則の法体系の確立を許容すべきである。
なぜなら、2000年12月に北海道ニセコ町で「まちづくり基本条例」が制定されて以来、同種の運動が急速に全国各地に波及し、地
方公共団体においても自治基本条例や議会基本条例を制定する動向がますます顕著になってきているが、これらの基本条例と通常
の条例との関係は、国における「形式上の基本法」と通常の法律との関係に見られる限界と全く同様の限界を抱えていて、自治基本
条例や議会基本条例を地方公共団体の最高規範に位置づけることに難渋しているからである。
また、地方議会が制定する条例と長等の執行機関が制定する規則との関係は、国における国会が制定する法律と内閣・各府省大臣・
各行政委員会等が制定する政省令・規則等との関係と完全に同列にはなっていないので、この点も、この機会に併せて改革すべきで
ある。
再度、花巻市まちづくり基本条例を熟読することを奨めたい。
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地方政府基本法についての意見(抄) 西 尾 勝
日本国憲法が制定される直前の1947年3月に制定された旧教育基本法を嚆矢として、基本法と銘打つ「形式上の基本法」はすでに
30法律以上に増えて来ているにもかかわらず、通常の法律に優越する法的効力を有するとみずからの法文上に明記している基本法も、
このような法的効力を有すると最高裁判決によって認定された基本法も、これまでのところ一つとしてない。
それ故に、基本法と銘打つ法律を制定することによって、当該基本法に関連する通常の法律の制定及び解釈適用に際しては当該基
本法に準拠してこれを行うように国会及び裁判所、並びに内閣・各府省に対して配慮を要請するという点において一定の事実上の効
果は認められているものの、国会がみずからこの種の基本法を制定したにもかかわらず事後の国会が当該基本法に違反する(あるい
は当該基本法の一部条項を修正または適用除外する)通常の法律を制定した場合には、いかに基本法と銘打っていても、その他の
通常の法律の場合と全く同様に、「後法は前法を打ち破る」とする後法優先の一般原則から免れることはできないとするのが、学界の
通説である。
したがって、当会議の主催者側が後者のような性質の地方政府基本法の制定を目指しているのだとすれば、当会議に問われるのは、
上記のような限界をもつことを承知の上で、従来型の基本法として地方政府基本法を制定しようとするのか、それとも、敢えて上記の
ような限界を突破する何らかの方途を模索し、通常の法律に優越する全く新たな類型の基本法として地方政府基本法を制定しようと
試みるのか、である。
私見によれば、後者の方途として唯一残されているのは、以下のような論理構成に立脚するものではないかと考える。すなわち、地
方政府基本法は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」と規定してい
る日本国憲法第九二条の明示的な委任に基づいて、同条にいうところの「地方自治の本旨」を解釈し補充した憲法実施法(または憲
法附属法)というべき性質のものであること、それ故にまた、地方公共団体の組織及び運営に関する諸制度の詳細を設計する諸々の
通常の法律はこの地方政府基本法に違反しないかぎりにおいて制定され解釈適用されなければならない旨を、みずからの法文上に
明記することではないか、と考える。
ちなみに、日本国憲法が明示的に法律に委任している条項を調べてみると、別紙に示したとおり、①第九二条と同様に「法律でこれを
定める。」と規定している条項、②「法律の定めるところにより、」と規定している条項、③「法律の定めるOO」と規定している条項の、
三類型がある。そして、これらの憲法条項に規定されている事項を調べてみると、①政府の組織に関する事項と、②権利義務の規律に
関する事項と、いずれも法律主義(または法定主義)の原則を確立することが不可欠と判断されている、二種類の領域に限定されてい
ることが判明する。
そこでさらに、これらの憲法条項のうち、政府の組織に関する憲法条項に基づいて制定された法律を調べ、これを列挙してみると、皇室
典範、国籍法、公職選挙法、国会法、内閣法、国家公務員法、裁判所法、会計検査院法、地方自治法等々と並ぶ。しかも、これらの諸
法は、憲法と一体をなすものとして、憲法の制定・施行とほぼ同時期に相前後して制定・施行されているのであって、これらの諸法こそ
政府組織に関する「実質上の基本法」そのものである。
以上の諸点を考慮すると、地方自治法を含むこれらの諸法は、いずれも憲法の明示的な委任に基づいて制定された憲法実施法(また
は憲法附属法)と称しても決して不自然でない法律なのであって、同じく国会によって制定された法律ではあるものの、その他の通常
の法律とは別格の法的効力を有する法律として制定され解釈適用されることも、あながち全く根拠のないことではないのではなかろうか、
と愚考する次第である。
この種の全く新たな類型の基本法として「地方政府の組織及び運営に関する憲法実施法」を制定する余地が開けるのであれば、その
際には、国における憲法→憲法実施法→法律→政省令の法体系の確立に併せて、地方公共団体の自治立法権の世界についても、
自治憲章(または憲章)→条例→規則の法体系の確立を許容すべきである。
なぜなら、2000年12月に北海道ニセコ町で「まちづくり基本条例」が制定されて以来、同種の運動が急速に全国各地に波及し、地
方公共団体においても自治基本条例や議会基本条例を制定する動向がますます顕著になってきているが、これらの基本条例と通常
の条例との関係は、国における「形式上の基本法」と通常の法律との関係に見られる限界と全く同様の限界を抱えていて、自治基本
条例や議会基本条例を地方公共団体の最高規範に位置づけることに難渋しているからである。
また、地方議会が制定する条例と長等の執行機関が制定する規則との関係は、国における国会が制定する法律と内閣・各府省大臣・
各行政委員会等が制定する政省令・規則等との関係と完全に同列にはなっていないので、この点も、この機会に併せて改革すべきで
ある。