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アントキノイノチ(映画)

2012-03-31 20:20:00 | 映画
今回の記事は『アントキノイノチ』(2011年、監督:瀬々敬久)です。
さだまさし原作の小説を岡田将生、榮倉奈々主演で映画化した感動ストーリー。
それぞれに心に傷を持った男女が、“遺品整理業”の仕事を通して“生と死”に向き合い成長していく姿を描く。

■内容紹介 ※goo映画より
高校時代、友達を「殺して」しまった事がきっかけで、心を閉ざすようになった杏平は、父親の勧めで“遺品整理業”の会社「クーパーズ」で働く事に。
初仕事は、死後1ヶ月で発見された男の部屋だった。
先輩社員のゆきと二人で黙々と部屋の整理をしていると、ゆきの手首にリストカットの痕を見つける。
互いに心に傷を持っている事を知り、杏平とゆきは次第に強く惹かれ合うように。
しかし、ある日、ゆきは杏平の前から姿を消てしまう。

それでも、遺されたのは未来。

アントキノイノチ

アントキノイノチ

アントキノイノチ


■感想
はじめに。今回の映画レビューはかなりの長文であり、またそのほとんどが酷評となっています。
なのでこの映画を観て良かったという感想をお持ちの方はこの記事は読まない方がいいです。きっと気分を害します。
それでも構わないという人のみ以降は読み進めて下さい。

以下、感想。カッコ内空白はネタバレ反転です。

ファーストショットが全裸で屋根の上にいる岡田将生という衝撃は置いておいて、映画で描かれる物語は重く、とても感動的な作品なのだとは思う。
けれど微塵も感動出来なかった。なぜだろう。

物語の見せ方は、現在進行の遺品整理業に就いた主人公・杏平の影のある姿をメインに描きつつ、杏平が心を閉ざしてしまった原因となった過去の出来事が少しずつ語られていくというような形式をとっている。
真相が分かるのは終盤というようにプロットには多少の工夫は施されているとは思う。けど、それにしたってもう少し魅せる脚本に仕上げて欲しかった。
描かれるエピソードはどれも唐突に起こり絶対的に深みに欠けていたように思う。すなわち伏線が無いのだ。

演出も良くない。
感傷的で繊細なシーンを感動的で壮大な音楽で盛り上げているのだけれど、どういうわけかそれと反比例するように観客の心は冷めるのだ。何だろう、この演出の逆効果は。

またこの手の類の物語で主人公にあまり共感できないというのは決定的な致命打だ。
杏平が何をあんなに思いつめ心を閉ざしていたのかが分からない。
親友が自殺したことで心に深い傷を負ったことは分かる。けどそれでも(「同級生を山岳で突き落とそうとしたお前が悪い」というような冷たい意見しか僕には持てそうもない。

アントキノイノチがひねりも何もない無理のあるオヤジギャクがもとだというのも萎える。これなら別に普通に「アノトキノイノチ」でも良かった。


僕は山岳登山についての知識は持っていないのでよく分からないのですが、あんな落ちたら死ぬようなルートを命綱無しで、しかも高校生二人で行けるものなのだろうか。もの凄く驚きである。

杏平の親友が飛び降りるシーンは衝撃的だった。遠方からワンカットで見せることであまりにも呆気なく死を描き、あえて感情を排したような撮り方をしているので、短いシーンなのだけれど観客にはそうとうの衝撃を与える。
それだけにその後の彼が仰向けに死んでいるという極めて不自然なワンカットが残念でならない。あんなにはっきりと顔面から落ちて顔が潰れるシーンを見せているのに…。


物語・演出面は良いと思えるところは少なかったけれど、出演陣の演技の上手さは素晴らしかった。
中でも主人公の杏平を演じた岡田将生は本当に上手かった。吃音にコンプレックスを持ち、他人と話すことが苦手という繊細な主人公を見事に演じきっていた。
オドオドとした視線の泳がせ方というような表情の演技まで完璧だったと思う。
この手の役柄で気持ち悪くならないのは岡田将生という今をときめく俳優の役得でしょう。

ヒロインを演じていた榮倉奈々も良かった。杏平と同じく心に傷を持った女の子を魅力的に演じていました。
あまり感情的にはならずどこか淡々とした演技なのだけれど、びっくりするぐらい自然に映ります。
またこうした深刻な役柄を演じても暗くならないのは彼女の魅力なのだと思う。
それにしても榮倉奈々って本当にショートカットが似合います。

この映画において、良いアクセントとして効いていたのが原田泰造ですね。
何かいろいろな悲しみや世知辛いしがらみを経験した先に達したある種の諦めにも似た哀愁を感じた。
余裕のある笑みを常に浮かべてはいるけれど、心の奥では悪意こそ無いが確実に笑っていない。そんな一番深みのある役を演じていたように思える。お笑い芸人とはまるで思えない見事な雰囲気の出し方の演技は上手い。

映画終盤に杏平が担当した仕事の遺族に手紙を届けに行くシーンがある。
人には他人に踏み込んで欲しくない領域というものが少なからずある。たとえ間違っていること正すためであろうと、この方が幸せだという思いがあったとしても、土足で踏み込んで欲しくない領域がある。それを踏み込んではいけないよ。しかも初対面の人に。
自業自得とは言え、2回も同級生から殺されそうになってしまった松井には同情してしまうが、文化祭でカッターを持ち歩いている松井が何と無しに怖い。

主人公の仕事が遺品整理業という設定から、彼が最終的に誰か自分にとって大切な人の遺品整理に立ち会うだろうなということは何となく予想がついていた。それで絶望的な死を迎えた果てのゆきの遺品整理に立ち会うシーンをイメージした僕の考え方はたぶん歪んでる。
多くの人が批判しているようにラストシーンへと繋げるために強引に彼女を死なせてしまった筋書きははっきり言って相当に悪く感じる。

あまり共感することが無かった映画だけれど、ただひとつだけ映画で描かれていたことに感じ入る所があった。
それは、人は死んだ後にそう簡単には失くならないということだ。
本人が望もうが望まなかろうが、みんなに惜しまれ死のうが孤独に死のうが、この世に生きた傷跡を残していく。
綺麗に失くなってしまうなんてことはあり得ないのだ。


…今回のレビュー、重めになっています。すみません。
けどこの映画、軽い気持ちで観ることだけは避けた方が良い。映画に感動できる・できないは別にしても、重い映画だったことは間違いないので。

↓予告編


映画データ 
題名 アントキノイノチ 
製作年/製作国 2011年/日本 
ジャンル ドラマ 
監督 瀬々敬久 
出演者 岡田将生
榮倉奈々
松坂桃李
鶴見辰吾
檀れい
染谷将太
柄本明
堀部圭亮
吹越満
津田寛治
宮崎美子
原田泰造、他 
メモ・特記 PG12指定
原作:さだまさし 
おすすめ度★★★☆
(★は最高で5つです。★:1pt, ☆:0.5pt)

■Link
+公式HP(Japanese)
+アントキノイノチ - goo 映画

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