私的メモ(他人は見るべからず)

自分用に思いついたことやインターネット上の記事などをメモっています。(著作権どうなる?)皆さん見ないでくださいね。

eラーニング授業の満足度は何が規定するか

2005年07月20日 | e ラーニング

目次

eラーニング授業の満足度は何が規定するか:早稲田大学人間科学部eスクール1年目の全授業評価の分析

What determinates satisfaction of college e-learning courses? An analysis of course evaluation of e-School of Waseda University

向後千春・松居辰則・西村昭治・浅田 匡・菊池英明・金 群・野嶋栄一郎

Chiharu KOGO, Tatsunori MATSUI, Shoji NISHIMURA, Tadashi ASADA, Hideaki KIKUCHI, Qun JIN, and Eiichiro NOJIMA

早稲田大学人間科学部

School of Human Sciences, Waseda University

<要約>

 2003年に開設された早稲田大学人間科学部通信教育課程(eスクール)は、一部のスクーリング授業を除き、ほとんどの授業をブロードバンド通信を利用したeラーニングシステムによって実施している。本研究では、1年目に実施されたすべての授業に対し、統一的に行われた、学生による授業評価のデータを分析した。データケース数1234(回答率48.8%)のうちの欠測値のない有効データ約850ケース(全回答数の7割程度)を用いて、重回帰分析が適用された。その結果、eラーニング授業の満足度は、授業の理解のしやすさ、教員の話のうまさ、教員への仲間意識、全体としてよく考えられていることなどによって規定されることが明らかになった。一方で、学生同士の仲間意識はまだ低く、学習コミュニティをどのように形成するかが今後の課題となることが明らかになった。学生同士の仲間意識には、BBSの雰囲気や、発言による活性度が関わっており、BBSの使い方や運営方略に工夫が必要となることが示唆された。

<キーワード> 大学教育、遠隔教育、授業評価、eラーニング、満足度、電子会議(BBS)

1. はじめに

 早稲田大学人間科学部は、2003年4月に通信教育課程(愛称「eスクール」)を開設した。これは、ブロードバンドネットワークとeラーニングシステムを活用したフルサイズのeラーニング課程である。現在、開設2年目に入り、海外在住の学生を含めて、1学年約150人の学生を擁して運営されている。その全体像については、向後他(2004)で報告された。また、配信される授業(オンデマンド授業)の作り方については、向後(2004a)で、コスト分析については、向後(2004b)で報告されている。

 本報告では、1年目の春学期と秋学期に開講された、レクチャー型授業を中心としたすべての授業に対して統一的に行われた、学生による授業評価のデータを分析する。

2. 方法

 早稲田大学人間科学部通信教育課程で、2003年度(春・秋学期)に開講されたeラーニングによる授業のすべてにおいて学生による授業評価を実施した。授業評価は、各学期の終了付近で開設されたオンラインによるアンケートによった。学生は無記名により、任意でアンケートに回答した。評価項目は、表1に示す43項目であり、それぞれ7段階のリッカート尺度であった。

 43項目の評価尺度は次のような観点で作成されたものである。これらは、eスクールの授業を構成する各要素および全体の評価視点を網羅したものである。

  • 授業全体について
  • 授業コンテンツ(動画)の品質について
  • 講義について
  • 小テストについて
  • レポートについて
  • 資料について
  • BBSについて
  • 教育コーチについて
  • 教員について
  • 学習コミュニティについて
  • 全体の印象として

表1 授業評価項目とその平均、不偏分散、標準偏差(N=845)

3. 結果

3.1 基礎統計

 データケース数は、延べ1234件であった。回答率は48.8%であった。得られたデータの中には一部欠測値(無回答)が含まれており、すべての評価項目に回答されていた有効データ数は845ケースであった。これは、全回答数の7割程度にあたる。授業評価項目とその平均、不偏分散、標準偏差を表1に示した。

 各評価項目の評価平均値(4.0が中心)を見ると、「全体としてよく考えられていた(5.70)」、「教員の話し方のうまさ(5.53)」、「全体としておもしろかった(5.55)」、「全体として役に立ちそう(5.72)」という項目で高い評価を得たほか、ほとんどの項目で4.0を上回る評価を得ていた。

 一方、評価の低かった項目は、「BBSでの自分の発言数(2.63)」と「学生同士の仲間意識ができたか(3.19)」であった。前者は、「教育コーチの発言数(4.73)」や「教員の発言数(4.18)」に比較してみると、かなり少ないと認識している。また、後者については、「教育コーチに仲間意識ができたか(3.80)」や「教員に仲間意識ができたか(3.80)」に比較して低いことがわかる。

3.2 因子分析

 全ての評価項目のデータを使って、因子分析をした。固有値の落ち方(順に、12.51, 5.26, 2.50, 1.91, 1.86, 1.57)を見て、5次元解を採用し、バリマックス回転をした。

 第1因子には「教員の話し方、全体としてよく考えられていたか、満足したか、おもしろかったか、科目の内容は理解できたか、スライドや板書の提示」などの項目が含まれ、「授業全般の良さ」因子と考えられた。第2因子には「教育コーチのBBSの運営、教員のBBSの運営」などの項目が含まれ、「BBSの運営」因子と考えられた。第3因子には「講義の分量、レポートの分量」などの項目が含まれ、「授業のペース」因子と考えられた。第4因子には「学生同士の仲間意識、教育コーチへの仲間意識」などの項目が含まれ、「仲間意識」因子と考えられた。第5因子には「小テストの分量、頻度、難易度」などの項目が含まれ、「小テスト」因子と考えられた。

 なお、第5因子までの累積寄与率は、50.67%であった。

3.3 重回帰分析

 表2に、授業全体の満足度を従属変数、それ以外の項目(ただし<全体の印象>の4項目を除く)を独立変数としたときの重回帰分析の結果を示した。

表2 満足度を従属変数とした重回帰分析の結果(N=857)

 表3に、学生同士の仲間意識を従属変数、それ以外の項目(ただし<全体の印象>の4項目を除く)を独立変数としたときの重回帰分析の結果を示した。

表3 学生同士の仲間意識を従属変数とした重回帰分析の結果(N=870)

 ここでは、重回帰分析に必要な変数がすべてそろっているデータをすべて使用したため、データ数がそれぞれ857, 870となり、845よりも多少増加している。

4. 考察

4.1 授業評価からの示唆

 授業評価項目全体を見ると、「全体としてよく考えられていた(5.70)」をはじめとして、多くの項目で中間の4.0を越える評価を得た。「全体として満足したか」で5.09の評価を得ていることからも、悪くない評価を得ているといえよう。

 しかし、その一方で、「BBSでの自分の発言数(2.63)」は低い評価であった。これは、「教育コーチの発言数(4.73)」や「他の受講者の発言が役に立つ(4.79)」が高い評価であることを考え合わせると、さらにBBSでの積極的な発言を引き出すための工夫の余地が残されていると考えられるだろう。

 また、「学生同士の仲間意識ができたか(3.19)」は、「教育コーチに仲間意識ができたか(3.80)」や「教員に仲間意識ができたか(3.80)」に比較すると低い。これは、この段階では、教員とコーチが中心となって学習コミュニティが作られている途中の段階であることを示唆している。今後、学生同士の仲間意識を強めていくような授業方略やホームルームなどの活用が求められるだろう。

4.2 満足度を規定する要因

 満足度を従属変数にしたときの重回帰分析の結果から、満足度を規定する項目として、内容の理解、教員の話し方、教員への仲間意識、BBSの雰囲気などが挙げられることがわかった。これらの項目は、当初想定した評価視点の各分類に含まれているものであり、満足度が、コンテンツ、教員の対応、BBSなどによって複合的に規定されていることを示唆している。その中でも、授業内容が良く理解できることは、満足度を高めるための必須条件であることが言えよう。

 なお、動画の品質については、品質の低い方が満足度が上がるという常識とは逆の結果になったが、これは、スタジオ撮影よりも教室でのライブ収録のほうが動画の品質は落ちるけれども、満足度は押し上げているのではないかと推測することができるだろう。

4.3 学生同士の仲間意識を規定する要因

 評価項目の中で、評価の低かった、学生同士の仲間意識を従属変数にしたときの重回帰分析の結果から、それを規定するものとして、BBSの雰囲気や発言数が多くなることによるBBSの活性化、教員のBBSの運営の良さなどが挙げられた。これらのことから、学生同士が親密になり、ある種のコミュニティを形成するためには、BBSというコミュニケーションの場が大きな役割をはたしていることが示唆された。とりわけ、BBSの雰囲気や、他の学生の発言が多いことは、仲間意識を作るのに重要な点となっている。逆にいえば、BBSの雰囲気が悪いか、あるいは発言が少ない場合は、仲間意識をうまく作ることは困難であるといえよう。したがって、雰囲気を良くし、活発な発言が促されるような、BBSの運営の仕方が重要になってくる。

5. 結論

 1学年約150人に対して、eラーニングシステムによって開講されたすべての授業に対して学生による評価を行った。そのデータを分析した結果、全体としての評価は良いものが得られたが、学生同士の仲間意識の形成やBBSへの積極的な参加という項目では低い評価にとどまった。

 授業への満足度を従属変数とした重回帰分析の結果、満足度を規定するものは、コンテンツ、教員の対応、BBSの活性度など、複合的な要因で規定されることが明らかになった。また、学生同士の仲間意識を規定するものは、BBSの雰囲気や活性度であり、学生同士の仲間意識を高めていくためには、BBSの運用の工夫が必要なことが示唆された。

 以上のような評価は、eラーニング全体の評価が、ただコンテンツの良さだけに依存するのではなく、教育コーチなどの人的資源の配分や学習コミュニティの形成の促進が評価や満足度を高めていくということを強く支持するものである。

引用文献

  • 向後千春・西村昭治・浅田 匡・菊池英明・金 群・野嶋栄一郎(2004)早稲田大学eスクールの実践:大学教育におけるeラーニングの展望『日本教育工学会研究報告集』JSET04-3, Pp.17-23
  • 向後千春(2004a)対面授業の内容をオンデマンド授業に移し替える:その方法と効果『大学教育学会第26回大会発表要旨集録』Pp.128-9
  • 向後千春(2004b)大学におけるeラーニング課程のコスト分析:早稲田大学人間科学部におけるケーススタディ『日本教育工学会研究報告集』JSET04-4 Pp.35-40

付 記

 本研究は、平成15~18年度文部省科学研究補助金・基盤研究(B)(2)「ブロードバンドを利用した新しい高等教育の有機的モデルとプロトタイプの開発」(課題番号15300287)による支援を受けています。


Powered by YukiWiki 2.1.2a
Modified by Chiharu Kogo.

最新の画像もっと見る