うり坊なゆり坊です

うり坊なゆり坊です

私は認めたくない女6

2017-01-21 | 日記
前回から続いています。

「松の木にのぼって手入れをしてたときなんだけどね、横をくるっと振り向いたら、ちょうと松の葉っぱがこっちを向いてて、あの針みたいなのが左眼にグサッ!」
「うえ~、うえ~!」

カエル顔のAちゃんはなぜか片膝を浮かせて、おばあちゃんのように背中を丸めています。

「それで『痛え!』とか言いながら、思わず顔を横に向けたら、針みたいなのが刺さったまま、スーッとナイフみたいに横に移動して黒眼が切れちゃった!」
「うえ~、うえ~!」

「だいじょうぶ? 具合悪そうだけど」
「そんな話するからでしょ!で、どうしたの、そのあと!」

 やっぱり聞きたいくせに。

「一瞬は痛かったんだけど、目薬つけてそのままにしてたらなんでもないって言うから、ほおっておいたのよ。でも、次の日になったら「目が重くなってきて、なんだか視界もぼんやりする」とか言い出して救急病院で診てもらったの。ふつうの病院やってなかったから、お盆かなんかのときだね」
「どうなってたの?」

「化膿してるっていわれてさ、たしか目薬をつけて抗生物質を飲んでたね。でもさ、先生にいわれたんだって。『あんた、今が夏でよかったね。冬の松は枯れて先に毒をもってるからね、その毒は失明するくらい強いんだよ』だって」
「うえ~、うえ~!」

「だいじょうぶ?なに想像してるの?」
「そんな話するからでしょ!うえ~、うえ~!私さ、そういうの、ほんとダメなのよ!自分では認めたくないけど!認めたくないんだけど!想像しちゃうのよ~!うえ~うえ~うえ~!」

Aちゃんの鳥肌はしばらくおさまりませんでした。Aちゃん、ごめんね~。



                 The End

私は認めたくない女5

2017-01-11 | 日記
前回から続いています。おびえた表情で近くのロッカーにしがみつくAちゃん。

でも、耳をふさごうとしないのは、どうやら心のそこでは聞きたいという欲求があると見ました。そうなると、ニヤニヤして話したくなる私。

「やめて!こわい、やめて、こわい!」

Aちゃんは顔をしかめて、首をふります。それなのに、悲しいことに耳だけはしっかりとこっちを向いています。ちょっとMなAちゃん。

「ほら、松のチクチクする葉っぱ、あるじゃん?」
「葉っぱって、あの先のとがったの?」

「そうそう。私のお兄ちゃん、あの葉っぱが左目の黒眼に突き刺さったことがあるんだよね」
「えっ!?うえ~、うえ~!」

Aちゃんはさっそく顔をしかめて、えずいています。私も他人の話だったら、聞きたくないですよ。でも、身近で何回も聞いていたら慣れちゃったんですよね。それに1回だけじゃないし(笑)。

「お兄ちゃんがね、お母さんに『枝が混み合っちゃって虫がつきはじめたから、剪定してちょうだい』って言われて実家の松の木にのぼったのよ。で、手入れをしはじめたんだけど……」

またえずくAちゃん。

「うえ~、うえ~。やだ、やだ、聞きたくない~!」

そう言いながらまたロッカーにしがみつくAちゃん。でも、ここから逃げようとするわけでもないのです。



私は認めたくない女4

2017-01-08 | 日記
前回から続いています。

「うわ、困るじゃん」
「だからしょうがないじゃない、あわてて病院行ったの!絶対認めたくないんだけど、また眼科に行っちゃったのよ!」

Aちゃんの話は止まりません。

「眼科で調べてもらったら、まぶたのところに傷ができてたらしくて、バイ菌がたまってるんだって!で、まぶたをちょっと切って、そのかたまりを出したの!それからがたいへんなの!視力が落ちてきたのよ!」
「えっ、そんなことあるの?」

「私はそうなの!自分では認めたくないけど!認めたくないんだけど、視力が落ちてきたの!自分ではさ、視力だけは昔から両目とも2.0だったの、それがこの仕事やってたら、1.5になって、それから1.0にまで落ちちゃったのよ!」
「なんだ、1.0じゃいいじゃん」

「ダメ!私のなかではそんなに視力の落ちた自分はイヤなの!絶対、認めたくないの!視力だけはだれよりも自信があったの!それなのに、この私の視力がぁ~!」

いまいましそうに唇をかむAちゃん。あ、そうだ。Aちゃんの話を聞いていたら、私は昔の事件を思い出しました。

「あ、そうそう、私のお兄ちゃんも目をケガしたことがあったよ」
「えっ、やだやだ、なにそれ?」

おびえた表情で近くのロッカーにしがみつくAちゃん。



私は認めたくない女3

2017-01-06 | 日記
前回から続きます。

「ところでさあ、また花粉の季節になるじゃない」
「ああ、私はだいじょうぶだけどね」

「いいね~私、とうとう去年から始まっちゃった!自分では認めたくないんだけど!だから、会社でクシャミしても、涙目になっても、『ちがう、私は花粉症じゃない』って、言い続けてきたの!でもさあ、寝てるとさあ。あ、きたない話でごめんね!寝てると目ヤニがドロドロたれてくるし、朝起きるとその目ヤニが固まって接着剤みたいになって、目が開かないの!ウ~!って、力入れて目を開けなきゃいけないの!たいへんなのよ、認めたくないんだけど!」
「へえ~」

「しょうがないから、認めたくないんだけど、眼科に行ったのよ!で、薬もらって飲んだら、もうすぐに症状が消えちゃった!でもあれ、飲むと眠くてしょうがないの。よくないよね~、あれ!抗生物質かなんかも、入ってるのかなあ。でも、そのうちにもっとショックなことが起きたのよ!」
「なにが?」

「花粉症のあとでね、私、この前人生で初めて『ものもらい』もらっちゃったの!私が『ものもらい』なんて、認めたくない!認めたくないの!絶対認めたくないんだけど、もらっちゃったのよ!でも、くやしいから今度こそ眼科なんか行くもんか、って目薬つけてたら、だんだん腫れてきちゃったの!」