夜明けのダイナー(仮題)

ごった煮ブログ(更新停止中)

SS:REGRET<その5(最終話)>

2011年08月18日 17時06分19秒 | ハルヒSS:長編

  (その4より)
 

 それから約半月過ぎて、三月初旬。
 卒業式。
 振り返るには時間がどれだけあっても不足する程の想い出を胸に、三年間通い慣れた校舎を後にする。
 「もう、最後ね」
 「あぁ」 
 暦の上では春だが、相変わらず吹きつける風は冷たく、坂を流れるその風に背中を押される様に俺とハルヒは坂を降り始める。
 


 他愛も無い話をして
 出会った頃を振り返って
 そして
 擦れ違った日々を埋め合わせて
 もう、この制服に袖を通す事も無いんだ、と互いに言い聞かせながら……


 
 坂を下り終わり、光陽園駅前のベンチに腰掛ける。
 「何か飲むか?」
 「う~ん、ホットミルクティ」
 自販機に小銭を入れて商品を取り出す。
 「ほらよ」
 「サンキュ。 あつっ」
 「ははっ」
 「ありがとね」
 「ん? 良いって、これ位」
 「違うわよ。 高校三年間……」
 「俺もだよハルヒ。 最初は嫌だったけどな、SOS団も含めて」
 「んもうっ!」
 「でも、楽しかったぞ」
 「当然でしょ! あたしも楽しかったから」
 「なぁ、ハルヒ」
 「何よ」
 「復活させる気、無いか? SOS団」
 「…………」
 プルトップを見つめ、ハルヒは
 「出来たら、良いね」
 何故か微笑んでいた。
 
 ハルヒも古泉も、そして長門も……古泉はハルヒと付き合った時に決め、長門は『ハルヒの観測』で――東京の大学に行く事を決めてるし、俺の願いが叶うのは無理って解ってるけれど。
 
 「さて」
 ハルヒは立ち上がり
 「あたしは行くわ」
 空き缶を、くず入れに捨てた。
 「じゃあ『また』ねっ!!」
 「えっ?」
 もう、行っちまうのか。 ハルヒ!
 「バイバイっ!!」
 100wの笑顔を浮かべ
 「は、ハルヒ……」
 そのまま躊躇わず背中を向けて、立ち止まる事も無く線路沿いの道へと姿を消した。
 
 え? これから四年間、離れ離れになっちまうんだぞ? 良いのかよ、そんなアッサリした別れで。 それこそ今まで通りの「また明日」って感じに見えるじゃねーか!
 「あいつは不安じゃねーのか?」
 そりゃ遠距離恋愛になったからってハルヒと別れる事は無いって思ってるが
 「やれやれ」
 『後ろを振り返る気は無い』ってか? 
 思い返してみればハルヒって元々そんな女、なんだっけ? 忘れかけてたよ。
 尤も、ハルヒが笑顔でこの時、別れた理由が別の所にあった。 って事を知るのは、それから約一週間後の事だったがな。
 
 
 
 そりゃあ、あの後ハルヒを追いかけて理由を聞いたり、携帯電話があるんだから通話やメールで問いただせば、このモヤモヤは直ぐに飛んで行ったって言うのに。 そんな思考に辿り着けなかった自分を恨むぞ、この野郎。
 

 

 
 三月中旬のある晴れた日の午後、俺は北口駅前に向けて自転車を走らせた。 
 その日の朝、突然ハルヒに電話で呼び出されたからだ。 
 駐輪場に自転車を停めて待ち合わせ場所に向かえば
 「よう」
 「遅い、罰金!」
 「やれやれ……喫茶店のおごりで勘弁してくれ」
 「冗談よ。 あたしが誘ったんだから、行くわよ」
 そんな会話の後に『SOS団御用達』であった喫茶店に入ったが、此処に来たのは何時以来なんだろう。 妙に懐かしく感じてしまったのは、こいつと居た時間が濃密だったから、だろうな。
 「さて、何の用だ?」
 ウェイターに注文を告げた後、ハルヒに会話を切り出す。
 「ねぇキョン。 あんた『SOS団を復活させたい』って言ってたわよね」
 「あ、あぁ。 言ったぞ?」
 もしかして「東京支部を作るわ!」とか言うんじゃないだろうな。 そう俺が思ったと同時に、ハルヒは持っていた鞄から大き目の封筒を取り出した。
 「何だ、そりゃ」
 「東京の大学の願書よ」
 「で、それがどうかしたのか?」
 「今日って何日?」
 俺は店内にあった日めくりカレンダーに表示してあった日付を告げた。
 「正解。 ちなみに、この願書の締め切りって……」
 ハルヒが答えた願書の締め切りの日付は昨日の日付だった。
 「ふ~ん」
 そうか。 と、一旦軽く返事をし、ウェイターが運んで来たエスプレッソに口をつけようとした瞬間、思い返した。
 「ん?」 
 待てよ、待て待て。 今、ハルヒは何と言った? 
 昨日が願書の締め切り? そしてハルヒの手元には願書の入った封筒がある……そ、それって
 「は、ハルヒ?」
 カップから視線を上げ、目の前に座るハルヒを見れば
 「ふっふ~ん♪」
 やったなコイツ。 あぁ、間違いない。
 確信犯だ。
 オノマトペで表現するなら「ニヤリ」と言う音しか浮かばない、そんな笑顔で
 「出し忘れたのよ」
 「おい、出し忘れたって、ハルヒ」
 「みくるちゃんや鶴屋さんが行ってる地元の大学に行くわ!!」
 「そ、それって」
 「そう、あんたが四月から行く大学よ」
 「マジか」
 「大マジよ。 古泉君も有希もオッケーだって」
 「それよりも、お前の両親は……」
 「賛成したわ。 建前は東京の大学に行って欲しかったみたいだけど、本音は娘が心配で行かせたくなかったみたい」
 何だよ、あれこれ考えてた時間は無駄だったって事か。
 「何よ、その顔。 これからも、ずっと一緒なんだから、もっと喜びなさいよ」
 オーケー解った。 だが先に、一言言わせてくれ。
 「やれやれ」
 
 
 
 かくして四月、大学のキャンパス・ゲートの先に待つ朝比奈さん・鶴屋さんの元へ
 「行くわよ!」
 「はいはい」
 桜吹雪の舞い散る中、歩いて行く影があった。
 
 長門――
 
 古泉――
 
 朝倉――
 
 ハルヒ――
 
 そして、俺。
 
 

 ハルヒのチカラ? ふん、そんな物、どうでも良いんだよ。 あってもなくても俺には関係ない。
 隣に並ぶ俺の彼女が涼宮ハルヒって事、それだけで良いんだよ。 
 二人が願い続ければ、ずっと一緒に居られるんだろ? なぁ、ハルヒ。
 まだ今は青くて、つたない二人だけどな――
 

 
   <REGRET>  ~THE END~
 

コメントを投稿