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素材抜粋-磯山 友幸著 国際会計基準戦争

2011年02月23日 | 読書
素材抜粋                    
2003/11/03


国際会計基準戦争

磯山 友幸著 
日経BP社 1999年




 白鳥は日本の会計制度が歪んでしまった大きな原因として、会計基準の目的についての考え方が日本と欧米諸国で大きく異なる点を挙げている。日本の場合、「会計の主たる目的は、株主と債権者の利害調整とする考え方が根強く残っている。(中略)しかし、こうした考え方は欧米諸国にない日本独自のものであり、日本と欧米諸国の間にギャップを生む一因となっている」というのだ。一方、国際会計基準では「会計の目的を利害関係者が経済的な意思決定を行う際に必要な情報を提供することと規定している。そのうえで、必要な情報とは、投資家(株主)が必要とする情報であると位置づけている。


 会計というのは、現実のビジネスで行われているものを、決算書にどう正確に表記するかが問題なのであって、現実のビジネスをつぶしてしまうようなことを、会計士が決めてはならないのだ」・・・・・・・。これが北村(日本公認会計士協会常務理事)の考え方だった。まず「現実ありき」であって、会計基準が先にあるのではない。会計基準を通して現実を変えてしまうような権限など、会計士は持っていないというのだ。


 こうした会計士の“言い訳”に共通しているのは、会計士の行動が実体経済に影響を与えることがあってはならない、影響が大きいから手を打てないという「基本姿勢」だった。
この「基本姿勢」こそが、日本の会計制度が大きく時代から取り残されることになった一因だ。しかも、この基本姿勢を貫いてきたのは会計士だけではない。大蔵官僚や学者、経団連に代表される財界、企業経営者にいたるまで、日本の隅々まで浸透していたのだ。重大な問題を抱えていることがわかったとき、それを白日の下にさらすことなく、影響をできるだけ小さくするように、毎年少しずつ問題を処理していく。
 こうした「問題先送り」の風土に日本はどっぷりと浸っている。成長が続く右肩上がり経済の中では、問題を先送りして分割処理する方法はうまくいった。成長ののりしろで過去の失敗を帳消しにするすることが可能だったわけだ。


 大蔵省の中でも、会計基準の担当だった企業財務課は蚊帳の外だった。
「(原価法と低価法の選択制は)商法が認めているもので、低価法に限ってきたのは銀行法を運用するうえでの行政の判断。そうなると担当は銀行課になるんでしょうね」
 企業財務課長の三国谷勝範は、まさにその時、日本の会計制度を国際水準に近づけるための「時価会計」の導入を準備中で、会計基準を巡る国際的な流れも理解していた。
 だが、所轄でない銀行行政に口を出すことは、避けていた。


 一方で時価を避け(保有株評価の原価法採用)、一方で時価を使う(土地再評価法)―。共通しているのは「損失の表面化を防ぐ」ということだけだった。内外の専門化が眉をひそめる、二つの相矛盾する会計マジックは、「緊急避難」を錦の御旗にほとんど議論されることなく、導入が決まった。 


 1998年6月16日、大蔵省内の記者クラブ「財政研究会」。その会見室で行われた記者会見は一見、専門的過ぎる内容ゆえにさほど注目されず、記者の質問もわずかだった。だが、後から振り返れば、日本企業や銀行に激震をもたらす、日本経済史上、極めて重要な会見だった。
 その会見では、日本の会計基準を決める場である企業会計審議会が五つの意見書・報告書をまとめて公表したのだ。重要だというのは、この年の4月1日から、曲がりなりにもスタ-トを切っていた「日本版金融ビッグバン」の大きな柱の一つだったためばかりではない。日本の会計基準をグローバル・スタンダードに大転換する姿勢を明確に示したもので、これまで「日本的経営」を守ろうとしてきた経済界や大蔵省にとっては、まさに「無条件降伏」の宣言にも等しいものだったからだ。


 大蔵省が発表したのは、「退職給付会計に係る会計基準の設定に関する意見書」「中間監査基準の設定に関する意見書」「監査基準、監査実施準則及び監査報告準則の改訂に関する意見書」「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書(公開草案)」の四つの意見書と、大蔵省と法務省が連名で出した「商法と企業会計の調整に関する研究会報告書」の五つ。大雑把に言えば、最初が年金会計の導入、二つ目と三つ目が連結決算をにらんだ監査基準の整備、四番目が株式など金融資産への時価会計の導入、五番目は、企業会計を税務会計から事実上分離する基本的な考え方をまとめたものだった。


 衝撃的だったのは、「金融商品」の会計基準で、時価会計の適用範囲に持ち合い株式が含まれていたことだ。・・・・・・・。(持ち合い株式は)帳簿価格が低いため、少ない配当でも表面上つじつまが合ってきたが、時価評価された途端、著しく非効率な資産に一変することになる。また、株価変動が資産の増減に直結するため、株式保有のリスクが大幅に高まる。時価会計の導入で株式持ち合い制が早晩消えていくのは自明だった。


 同様に日本経済を大きく揺さぶることになる退職給付会計、いわゆる年金会計の導入も打ち出された。企業が従業員に支払う退職金や年金を、毎期発生した段階で費用とするのではなく、将来にわたって発生するであろう費用をあらかじめ処理することを義務付けるもので、日本企業全体の積立不足は30兆円にのぼるとも60兆円だとも言われていた。金融機関の不良債権処理額に匹敵する、「もう一つの不良債権問題」といってもよかった。


 退職給付会計の導入は、高額の退職金を前提とした終身雇用や、年功序列型賃金制度を根底から覆す可能性を秘めていた。


 ただ、その前に官僚たちには抜きがたい「癖」があった。民に対する裁量権を失うこと自体に無条件に拒絶反応を示す、という癖が。会計の問題でも、もろにこの癖が出たというわけである。
 しかも、規制緩和の流れの中で権限そのものがなくなる、というのならばともかく、この会計基準については、官が握っていた権限を民間組織に移す、という話である。官から民に権限そのものが移る―これは大げさに言えば、明治以来の日本の官僚制で始めて起ころうとしている「事件」だった。


 企業会計なら債券の発行は「負債」だが、日本で一般的に行われている自治体の財政では「歳入」つまり収入になる。借金をすればするほど収入が増えるわけだ。日本の地方自治体の多くが破綻の淵で喘いでいるのも、一因はここにある。ニューヨーク市は決算書を整備した上で、民間の会計士による監査を導入した。自治体に企業会計の管理手法を大胆に導入し、「経営」を行うためのインフラを整備したわけである。
 財政再建の手本と日本から視察が相次いでいるニュージーランドや英国のエージェンシー(外庁)でも、企業経営の手法が生かされている。


 しかもニュージーランドの決算は連結ベースである。政府が関与する公益事業体なども決算の対象だ。そのうえ、ニュージーランドは四半期決算や月次の決算情報の開示まで始めている。
 最も影響の大きかったのが「発生主義」への変更である。というのも「現金主義」では国債や公債を発行して入ってくる現金も「収入」ととらえることになるため、際限ない借金依存へと陥ってしまう。


 近い将来、「発生主義」や「連結ベース」「時価主義」を前提とした公会計の世界統一基準を、各国に広げていくことが急務だというわけである。


 90年代以降の数多くのグローバル・スタンダード(世界基準)を巡る国際的なヘゲモニー争いの中で、日本が常に後手に回る結果となったのは、こうした「理念」が欠如していることが大きい。そして理念の欠如は、そのままヘゲモニー争いを勝ち抜く「戦略」の欠如につながる。


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【投稿者コメント】「借金が収入」のカラクリ!


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