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卒論がアンカーになった72年の生涯 Pension 

2013年10月30日 | 読書

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 目 次 

一 白いワイシャツ

二 太平洋に雪崩込む丘陵

三 掩体壕

四 黄金の稲穂の波打ち

五 大山

六 志学元年の経験

七 ロッキーズ物語

八 ブレイクスルーな事態

九 童女のようにはしゃいだギリシャ旅行記

十 ソクラテス来迎

 Book Review

 著者略歴


抜 粋

一 白いワイシャツ 

 或る事件が十三才の時、校庭で起きた。 

 秋始めのある晴れた日、私は昼食後の満腹感で校庭を歩きはじめた。他の中学生達は既に校庭で遊んでいた。すると急に、風の音と彼らの遊び声が、ボリュームを落とし、あたりが静まり、私は白いワイシャツが風に揺れているさまを見続けていた。それは風の強い日の旗のように、バタバタと音をたてていた。その衣服の白さとバタバタという音だけに、私の意識は集中した。その時、ひどい孤独と共に私は叫んだ。―ああ! 彼らも人間だ、と。

 その白さ、バタバタという音は、私の意識に、他人としてそこに「ある……」という感じを、叩きつけた。 

 その色と音とは今も私の中にある。しかし、他人はそこに「ある」のであるが、それがどのように私に関係しているのか、どういう具合にしてそれはあるのか……等という疑問符をつけられたままの形で、存在している。

 その時から、私にとって他人は一つの謎のままである。

 私に立ち向かってくるもの、対象、私以外のもの、客観存在、それらが問題として誕生したのである。

 しかし、この謎の発生する因となった「白いワイシャツ」の経験は二十二歳頃まで、忘れられていた。偶然目に触れた次の文章が、私に先の経験を想起させたのである。 

 「彼はあたりを見まわした。すると自分自身の他に何ひとつ見えなかった。そこで彼は始めて叫んだ。―私がいる! と。……それから彼は不安になった。ひとりきりでいると不安になるからだ。」

                            ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド

 

出所―昭和四十二年 学部卒業論文「ヤスパースの暗号について」四百字詰め原稿用紙一〇〇枚


六 志学元年の経験 

 一般に、我々は孔子の言うように「十有五にして学に志す」と言われている。自ら意識的に学び始めるというこの志学の年、十五歳説は前後二、三年のズレはあっても客観的な事実として現代の実証的な心理学者もつとに認めているところである。

 これに関して、W・ジェイムズは次のように言っている。我々は、「普通十四歳から十七歳までに」「自分は未完成であり不完全であるという感じ、思案、意気阻喪、病的な内省、罪悪感、来世に対する不安、懐疑の悲しみ」等々の強い印象を残す経験をする、と。

 また、E・ミンコフスキーは、これを次のように述べている。「思春期は、それまでまどろんでいた力の荒々しい目覚めによって、単に幼少年期から成年期への移行期であるだけでなく、われわれの前に一つの生、つまりわれわれの生の展望を開きながら、われわれのうちでの〈人間〉の目覚めの時期ともなっている」のであると。つまり、俗に反抗期とか自意識の誕生とか言われるこの経験は少年期特有の経験なのである。

 この経験は外部世界の不意の登場によってもたらされる、という点に特徴がある。というのも、それまで〈見て見ず〉であった事象を誕生以来初めて意識を伴って、〈それ〉として〈そこ〉に見始めるのである。この新たな目、つまり意識を伴った目で万事万象を見始めることを指して、孔子は〈志学〉と言ったものと思われるのである。 

 ところで、昔から、このような特異な経験をする端境期の少年を対象にして地上のあらゆる地方に、その土地特有の大人の仲間入りを儀式化した入会式・イニシエィションが数多く執り行われているし行われていた。これは、この時期の少年のこの特有な経験に注目し、それを日常的な事件にしてしまわないため特異性を更に展開するために儀式化し、そこに教育的な配慮をこめた先人の知恵の成果なのである。

 しかし現代では、この儀式は影が薄くなり村落や共同体の導きは無くなり、先達は呆けてしまい、少年達は自ら一人一人が試行錯誤を繰り返しながら孤立した環境のなかで学びとって行かなければならないような状況に放り出されているのである。

 

出所―平成七年 哲学書『情緒の力業』(四百字詰め原稿用紙五五三枚)近代文藝社 



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  • 紙の本の長さ: 79 ページ
  • 出版社: 年金カウンセラー 高野 義博; 3版 (2013/10/27)
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  • 言語 日本語
  • ASIN: B00G8ULV90

 

*お尋ねは左サイドのメッセージ欄 からどうぞ!(年金カウンセラー)

 

 



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