「ダイヤモンド・プリンセス号」に続き、同じカーニバル社が運航している「グランド・プリンセス号」で新型コロナウイルスによる集団感染が発生し、対応にあたるカリフォルニア州とCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の動きが注目を浴びている。
「ダイヤモンド・プリンセス号」については、船内感染が拡大したり、陰性の乗客を下船させた後さらに2週間隔離させなかったりしたずさんな危機管理対応が、アメリカのメディアから大きな批判を浴びた。
そのアメリカが「グランド・プリンセス号」の乗船者たちに対して、どのような危機管理対応のお手本を示すのか? 「ダイヤモンド・プリンセス号」の二の舞になるのではないかと危惧する声もある中、実際、どんな対応が取られているのだろうか?
ダイヤモンド・プリンセス集団感染のさなかに出航していた
事の始まりは、2月11日に始まったメキシコ・クルーズだった。
2月11日というと、日本では「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客がすでに2週間の隔離に入っており、その状況はアメリカでも大きく報道されていた。それにもかかわらず、この日、「グランド・プリンセス号」はサンフランシスコ港から出航、メキシコへ向かったのである。運航しているカーニバル社や乗客には、感染に対する危機意識がなかったのかという疑問が浮かび上がる。
「グランド・プリンセス号」はメキシコ・クルーズを終え、21日にサンフランシスコ港に帰港。同日、今度は、2422人の乗客と1111人の乗員を乗せて、ハワイ・クルーズへと向かった。
“感染可能性”62人が船内を自由に動いていた
ハワイ4島をめぐり、帰港するメキシコへと向かっている途中、前のメキシコ・クルーズに乗船していた71歳の男性が下船後、新型コロナで亡くなったという一報を受ける。また、下船した別の乗客も感染し、入院していることがわかった。
船内でも、11人の乗員と10人の乗客が、新型コロナの症状ともいえる風邪やインフルエンザのような症状を訴えるという異変が起きていた。3月4日、船は、急遽、サンフランシスコへ向けて方向転換することになった。
ハワイ・クルーズには、サンフランシスコから乗船した客以外に、死者と感染者が出たメキシコ・クルーズに参加していた62人の乗客も、引き続き参加していた。CDCは、感染している可能性が考えられる62人に対し、自室から出ないよう指示を出した。
しかし、ここで問題なのは、62人の乗客は、隔離命令が出されるまでは自由に船内を動き回っていたということだ。サンフランシスコ港を発ち、隔離命令が出た3月4日までの13日間は、普通にクルーズ旅行を楽しんでいたのである。
また、隔離命令が出されたのは62人に対してだけだったことにも疑問を感じる。サンフランシスコから乗船した客も自室に留まって自主隔離していたのか、また、乗員が乗客にどのような形で食べ物などをサービスしていたかは不明だ。
「ダイヤモンド・プリンセス号」の場合、適切な防護装備を与えられず、ガイダンスやトレーニングも受けていない乗員が乗客に対応していたことが問題だった。乗員は同じ手袋を身につけたままで多くの部屋に食べ物を運び、乗客と対面していたことが、船内感染が広がった原因ではないかと言われている。
サンフランシスコ港ではなくオークランド港が選ばれた“裏事情”
サンフランシスコ沖まで近づいた「グランド・プリンセス号」だったが、サンフランシスコ港から寄港を拒否されてしまう。CDCはまず、症状のある人々のウイルス検査をするというのだ。それは、船を着岸させて検査するのではなく、検査キットを沿岸警備隊がヘリで空輸し、乗船している医療チームに検査させるという大胆な手法だった。この検査では、検査を受けた46人中、19人の乗員と2人の乗客が陽性、24人が陰性で、1人は判定不能という結果となった。
しかし、このやり方では時間がかかるという理由から、他の乗客は下船後、隔離場所で検査されることになった。「グランド・プリンセス号」を非商業用の港に寄港させることになったが、すぐには寄港先が見つからず、4日間も洋上を漂流した後、3月9日、サンフランシスコ郊外のオークランド港に寄港したのである。
なぜ、オークランド港が選ばれたのか? 客船を寄せる十分な幅があること、一部の乗客が隔離されるトラヴィス空軍基地が近いことが理由だと説明されているが、それに対し、地元の医療関係者は、ロサンゼルス・タイムズ紙で異を唱えた。
「ウエスト・オークランド地区には、昔から、声高に強く反対しない、低所得のマイノリティー層が居住しているからでしょう。そんな理由で、オークランド港に寄港を決めたんだと思います」
約2400人乗客「全員下船」はダイヤモンドの教訓か
無事寄港した「グランド・プリンセス号」だったが、「ダイヤモンド・プリンセス号」とは違い、まず最初に、寄港後、乗客全員を下船させることとなった。これは、乗員乗客を船内で検査し、船内で隔離したために船内感染が発生、697人の感染者と7人の死者(3月13日現在)を出した「ダイヤモンド・プリンセス号」から得た大きな教訓かもしれない。
しかし、CDCは、単に、医療ガイドラインに従っただけとも考えられる。
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、医療ガイドラインでは、感染している可能性がある乗客は船内で検査せず、下船させることが推奨されているという。「ダイヤモンド・プリンセス号」は医療ガイドラインを無視して、船内で検査を行ったことが問題だったというのだ。
「グランド・プリンセス号」の場合、医療ガイドラインに従ってか、乗客のウイルス検査を船内ではなく、下船後に搬送される場所で行われることになった。
2400人は「病院」「ホテル」「米軍基地」に振り分け
下船した乗客は体調により、搬送される場所が振り分けられている。
まず、体調が悪い乗客は病院に搬送された。病院で治療を受けて退院した人々は、いくつかのホテルに振り分けられ、14日間の隔離に入ることになる。
感染しているかは不明だが、病院での治療までは必要がない軽い体調不良を見せている24人の乗客は現在ホテルで隔離されている。ホテルは、一般客が宿泊するところからは分離されているので安全だと州知事は説明している。
体調に問題がない乗客は、4つの米軍基地の施設に振り分けられることになった。乗客の大半を占めるカリフォルニア州の住民は州内のトラヴィス空軍基地かミラマー海軍基地に、それ以外の住民はテキサス州の基地とジョージア州の基地に送られて検査を受け、14日間の隔離に入っている。
外国籍の乗客はチャーター機で自国へと送還されることになった。
船内では「牛のように並んで順番を待っていた」
ただ、下船作業はスムーズに進んでいるとは言えない。寄港2日目の3月10日までに1407人が下船したものの、10日時点ではまだ1000人以上が船内に取り残されていた。
また、下船風景を見た乗客からは感染を恐れる声もあがっている。
「乗客がまるで牛のように並んで降りる順番を待っていたわ。みな1カ所に集められ、体が触れ合っている人もいた。タラップは渋滞状態だった。彼らは、チャーターバスに乗せられて行ったわ。それを見て、とても怖くなった。あれでは感染してしまうわ。あんな風に下船して安全ということなら、なぜ、私たちは5日間も部屋に閉じ込められていたわけ?」
100万ドル以上の訴訟を起こした夫婦の言い分は?
カーニバル社に対して100万ドル以上の訴訟を起こした夫婦も現れた。夫婦は、同社が安全よりも利益を優先し、適切なスクリーニング検査を行わなかったために、精神的不安やトラウマを与えたことを理由に訴えたのだ。この夫婦によると、サンフランシスコで乗船する際、体調の良し悪しを確認するための書類に記入を求められただけで、スクリーニング検査は行われなかったという。
また、訴状には「同社はダイヤモンド・プリンセス号での経験を踏まえて、乗客を保護する対策を考案すべきだった」とある。つまりは、「ダイヤモンド・プリンセス号」での教訓が生かされていないことも問題視しているのだ。
ところで、下船後、乗客はどんな対応を受けたのか?
隔離中なのに「歩き回る自由」がある
ある夫婦は、下船後、医療テントで、新型コロナの症状が出ていないか検査を受けた後、オークランド空港に送られ、チャーター機で隔離を受けるテキサス州サンアントニオのラックランド空軍基地に入った。この基地には、武漢から退避した米国民や「ダイヤモンド・プリンセス号」に乗船していた米国民も隔離されている。
夫婦は基地での対応をこう投稿している。
「大きな米軍機用格納庫で、体温を測られ、書類手続きをし、14日間の隔離が始まったことを告げられた。今、隔離されるアパート(ラックランド・イン)にいるが、1ベッドルーム、1バスルームで、小さなキッチンがついており、リビングルームには椅子が2脚ある。体温が毎日2回測定される。外に出て歩くこともできるが、他の人とは近づくことはできない」
つまり、隔離中でも同じアパートに隔離されている他の乗客と一定の距離を保つ限りは、アパートの敷地内を歩き回る自由が与えられているのだ。
この対応は大丈夫なのだろうか?
「ダイヤモンド・プリンセス号」でも、乗客は、一定時間、デッキに出ることが許され、他の乗客と一定の間隔を開ければ良しとされたが、アメリカのメディアからは、乗客がみなそれを遵守していたかは疑問だという指摘があがっていたからだ。
また、カリフォルニア州のトラヴィス空軍基地内のアパートに隔離されている乗客は14日間の隔離に入ったが、「まだウイルス検査を受けることができていない」と不満を訴えている。
“感染している”乗員19人も船内に留まっている
問題は他にも浮上している。
「グランド・プリンセス号」の場合、乗員は下船させず、船内で隔離されることになったが、感染がわかった19人の乗員もまた、他の1000人を超える乗員(多くがフィリピン人だという)とともに、船内隔離されることになったのだ。
乗員と乗客を切り離す作戦に出たのは、乗客が、多くの部屋を行き来する乗員を通じて感染したと考えられている「ダイヤモンド・プリンセス号」から得た教訓と言えるかもしれないが、果たして、感染した乗員を乗船させたまま、船内隔離していいのか?
感染している乗員も船内隔離する理由について、カーニバル社は「ウイルス検査で陽性だった19人の乗員は、無症状であるから」と話している。
しかし、無症状の感染者も感染力を持っているとする研究報告もある。JAMA(ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション。米国医師会が発行する医学雑誌)に、無症状なため感染していると自覚していない武漢市在住の女性が、安陽市を訪ねた際に会った5人の親族にウイルスを感染させ、発症させたとする研究論文が掲載されているのだ。
再びの「ウイルス培養皿」問題
また、乗員を船内隔離すること自体に問題はないのか? 「グランド・プリンセス号」が、「ダイヤモンド・プリンセス号」同様、アメリカのメディアが呼んでいたところの「ウイルス培養皿」と化す可能性はないのだろうか?
専門家からは「クルーズ船は隔離病棟ではない」「症状を見せていない人は下船させる必要がある」「クルーズ船の環境を考えると、ウイルスが拡散するのは起こりうる事態だ」などの声もあがっている。
サンフランシスコ~メキシコ間の往復クルーズの後、下船した乗客12人の感染も確認され、州衛生当局はこのクルーズに参加した約1500人の乗客の健康観察を行なっている。
「グランド・プリンセス号」は「ダイヤモンド・プリンセス号」とは異なるアプローチを取ってはいるものの、その対応には疑問も感じられる。遅かれ早かれ、その結果は、感染者数や死者数という数字で出てくることになるかもしれない。
飯塚 真紀子
「ダイヤモンド・プリンセス号」については、船内感染が拡大したり、陰性の乗客を下船させた後さらに2週間隔離させなかったりしたずさんな危機管理対応が、アメリカのメディアから大きな批判を浴びた。
そのアメリカが「グランド・プリンセス号」の乗船者たちに対して、どのような危機管理対応のお手本を示すのか? 「ダイヤモンド・プリンセス号」の二の舞になるのではないかと危惧する声もある中、実際、どんな対応が取られているのだろうか?
ダイヤモンド・プリンセス集団感染のさなかに出航していた
事の始まりは、2月11日に始まったメキシコ・クルーズだった。
2月11日というと、日本では「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客がすでに2週間の隔離に入っており、その状況はアメリカでも大きく報道されていた。それにもかかわらず、この日、「グランド・プリンセス号」はサンフランシスコ港から出航、メキシコへ向かったのである。運航しているカーニバル社や乗客には、感染に対する危機意識がなかったのかという疑問が浮かび上がる。
「グランド・プリンセス号」はメキシコ・クルーズを終え、21日にサンフランシスコ港に帰港。同日、今度は、2422人の乗客と1111人の乗員を乗せて、ハワイ・クルーズへと向かった。
“感染可能性”62人が船内を自由に動いていた
ハワイ4島をめぐり、帰港するメキシコへと向かっている途中、前のメキシコ・クルーズに乗船していた71歳の男性が下船後、新型コロナで亡くなったという一報を受ける。また、下船した別の乗客も感染し、入院していることがわかった。
船内でも、11人の乗員と10人の乗客が、新型コロナの症状ともいえる風邪やインフルエンザのような症状を訴えるという異変が起きていた。3月4日、船は、急遽、サンフランシスコへ向けて方向転換することになった。
ハワイ・クルーズには、サンフランシスコから乗船した客以外に、死者と感染者が出たメキシコ・クルーズに参加していた62人の乗客も、引き続き参加していた。CDCは、感染している可能性が考えられる62人に対し、自室から出ないよう指示を出した。
しかし、ここで問題なのは、62人の乗客は、隔離命令が出されるまでは自由に船内を動き回っていたということだ。サンフランシスコ港を発ち、隔離命令が出た3月4日までの13日間は、普通にクルーズ旅行を楽しんでいたのである。
また、隔離命令が出されたのは62人に対してだけだったことにも疑問を感じる。サンフランシスコから乗船した客も自室に留まって自主隔離していたのか、また、乗員が乗客にどのような形で食べ物などをサービスしていたかは不明だ。
「ダイヤモンド・プリンセス号」の場合、適切な防護装備を与えられず、ガイダンスやトレーニングも受けていない乗員が乗客に対応していたことが問題だった。乗員は同じ手袋を身につけたままで多くの部屋に食べ物を運び、乗客と対面していたことが、船内感染が広がった原因ではないかと言われている。
サンフランシスコ港ではなくオークランド港が選ばれた“裏事情”
サンフランシスコ沖まで近づいた「グランド・プリンセス号」だったが、サンフランシスコ港から寄港を拒否されてしまう。CDCはまず、症状のある人々のウイルス検査をするというのだ。それは、船を着岸させて検査するのではなく、検査キットを沿岸警備隊がヘリで空輸し、乗船している医療チームに検査させるという大胆な手法だった。この検査では、検査を受けた46人中、19人の乗員と2人の乗客が陽性、24人が陰性で、1人は判定不能という結果となった。
しかし、このやり方では時間がかかるという理由から、他の乗客は下船後、隔離場所で検査されることになった。「グランド・プリンセス号」を非商業用の港に寄港させることになったが、すぐには寄港先が見つからず、4日間も洋上を漂流した後、3月9日、サンフランシスコ郊外のオークランド港に寄港したのである。
なぜ、オークランド港が選ばれたのか? 客船を寄せる十分な幅があること、一部の乗客が隔離されるトラヴィス空軍基地が近いことが理由だと説明されているが、それに対し、地元の医療関係者は、ロサンゼルス・タイムズ紙で異を唱えた。
「ウエスト・オークランド地区には、昔から、声高に強く反対しない、低所得のマイノリティー層が居住しているからでしょう。そんな理由で、オークランド港に寄港を決めたんだと思います」
約2400人乗客「全員下船」はダイヤモンドの教訓か
無事寄港した「グランド・プリンセス号」だったが、「ダイヤモンド・プリンセス号」とは違い、まず最初に、寄港後、乗客全員を下船させることとなった。これは、乗員乗客を船内で検査し、船内で隔離したために船内感染が発生、697人の感染者と7人の死者(3月13日現在)を出した「ダイヤモンド・プリンセス号」から得た大きな教訓かもしれない。
しかし、CDCは、単に、医療ガイドラインに従っただけとも考えられる。
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、医療ガイドラインでは、感染している可能性がある乗客は船内で検査せず、下船させることが推奨されているという。「ダイヤモンド・プリンセス号」は医療ガイドラインを無視して、船内で検査を行ったことが問題だったというのだ。
「グランド・プリンセス号」の場合、医療ガイドラインに従ってか、乗客のウイルス検査を船内ではなく、下船後に搬送される場所で行われることになった。
2400人は「病院」「ホテル」「米軍基地」に振り分け
下船した乗客は体調により、搬送される場所が振り分けられている。
まず、体調が悪い乗客は病院に搬送された。病院で治療を受けて退院した人々は、いくつかのホテルに振り分けられ、14日間の隔離に入ることになる。
感染しているかは不明だが、病院での治療までは必要がない軽い体調不良を見せている24人の乗客は現在ホテルで隔離されている。ホテルは、一般客が宿泊するところからは分離されているので安全だと州知事は説明している。
体調に問題がない乗客は、4つの米軍基地の施設に振り分けられることになった。乗客の大半を占めるカリフォルニア州の住民は州内のトラヴィス空軍基地かミラマー海軍基地に、それ以外の住民はテキサス州の基地とジョージア州の基地に送られて検査を受け、14日間の隔離に入っている。
外国籍の乗客はチャーター機で自国へと送還されることになった。
船内では「牛のように並んで順番を待っていた」
ただ、下船作業はスムーズに進んでいるとは言えない。寄港2日目の3月10日までに1407人が下船したものの、10日時点ではまだ1000人以上が船内に取り残されていた。
また、下船風景を見た乗客からは感染を恐れる声もあがっている。
「乗客がまるで牛のように並んで降りる順番を待っていたわ。みな1カ所に集められ、体が触れ合っている人もいた。タラップは渋滞状態だった。彼らは、チャーターバスに乗せられて行ったわ。それを見て、とても怖くなった。あれでは感染してしまうわ。あんな風に下船して安全ということなら、なぜ、私たちは5日間も部屋に閉じ込められていたわけ?」
100万ドル以上の訴訟を起こした夫婦の言い分は?
カーニバル社に対して100万ドル以上の訴訟を起こした夫婦も現れた。夫婦は、同社が安全よりも利益を優先し、適切なスクリーニング検査を行わなかったために、精神的不安やトラウマを与えたことを理由に訴えたのだ。この夫婦によると、サンフランシスコで乗船する際、体調の良し悪しを確認するための書類に記入を求められただけで、スクリーニング検査は行われなかったという。
また、訴状には「同社はダイヤモンド・プリンセス号での経験を踏まえて、乗客を保護する対策を考案すべきだった」とある。つまりは、「ダイヤモンド・プリンセス号」での教訓が生かされていないことも問題視しているのだ。
ところで、下船後、乗客はどんな対応を受けたのか?
隔離中なのに「歩き回る自由」がある
ある夫婦は、下船後、医療テントで、新型コロナの症状が出ていないか検査を受けた後、オークランド空港に送られ、チャーター機で隔離を受けるテキサス州サンアントニオのラックランド空軍基地に入った。この基地には、武漢から退避した米国民や「ダイヤモンド・プリンセス号」に乗船していた米国民も隔離されている。
夫婦は基地での対応をこう投稿している。
「大きな米軍機用格納庫で、体温を測られ、書類手続きをし、14日間の隔離が始まったことを告げられた。今、隔離されるアパート(ラックランド・イン)にいるが、1ベッドルーム、1バスルームで、小さなキッチンがついており、リビングルームには椅子が2脚ある。体温が毎日2回測定される。外に出て歩くこともできるが、他の人とは近づくことはできない」
つまり、隔離中でも同じアパートに隔離されている他の乗客と一定の距離を保つ限りは、アパートの敷地内を歩き回る自由が与えられているのだ。
この対応は大丈夫なのだろうか?
「ダイヤモンド・プリンセス号」でも、乗客は、一定時間、デッキに出ることが許され、他の乗客と一定の間隔を開ければ良しとされたが、アメリカのメディアからは、乗客がみなそれを遵守していたかは疑問だという指摘があがっていたからだ。
また、カリフォルニア州のトラヴィス空軍基地内のアパートに隔離されている乗客は14日間の隔離に入ったが、「まだウイルス検査を受けることができていない」と不満を訴えている。
“感染している”乗員19人も船内に留まっている
問題は他にも浮上している。
「グランド・プリンセス号」の場合、乗員は下船させず、船内で隔離されることになったが、感染がわかった19人の乗員もまた、他の1000人を超える乗員(多くがフィリピン人だという)とともに、船内隔離されることになったのだ。
乗員と乗客を切り離す作戦に出たのは、乗客が、多くの部屋を行き来する乗員を通じて感染したと考えられている「ダイヤモンド・プリンセス号」から得た教訓と言えるかもしれないが、果たして、感染した乗員を乗船させたまま、船内隔離していいのか?
感染している乗員も船内隔離する理由について、カーニバル社は「ウイルス検査で陽性だった19人の乗員は、無症状であるから」と話している。
しかし、無症状の感染者も感染力を持っているとする研究報告もある。JAMA(ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション。米国医師会が発行する医学雑誌)に、無症状なため感染していると自覚していない武漢市在住の女性が、安陽市を訪ねた際に会った5人の親族にウイルスを感染させ、発症させたとする研究論文が掲載されているのだ。
再びの「ウイルス培養皿」問題
また、乗員を船内隔離すること自体に問題はないのか? 「グランド・プリンセス号」が、「ダイヤモンド・プリンセス号」同様、アメリカのメディアが呼んでいたところの「ウイルス培養皿」と化す可能性はないのだろうか?
専門家からは「クルーズ船は隔離病棟ではない」「症状を見せていない人は下船させる必要がある」「クルーズ船の環境を考えると、ウイルスが拡散するのは起こりうる事態だ」などの声もあがっている。
サンフランシスコ~メキシコ間の往復クルーズの後、下船した乗客12人の感染も確認され、州衛生当局はこのクルーズに参加した約1500人の乗客の健康観察を行なっている。
「グランド・プリンセス号」は「ダイヤモンド・プリンセス号」とは異なるアプローチを取ってはいるものの、その対応には疑問も感じられる。遅かれ早かれ、その結果は、感染者数や死者数という数字で出てくることになるかもしれない。
飯塚 真紀子
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます