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サイエンスの話 47 老化時計 ⑤

2024-10-28 12:40:38 | 日記
Benefits of Metformin in Attenuating the Hallmarks of Aging
老化の特徴を緩和するメトホルミンの利点

Cell Metab. 
Published in final edited form as: Cell Metab. 2020 Apr 24;32(1):15–30. 
doi: 10.1016/j.cmet.2020.04.001

老化時計に代表される様な老化の本質、そのプロセスも徐々に明らかになってきて色んな知見が蓄積されてきた。じゃあ、次にそれをなんとか逆回転させられないだろうか、という発想は当然あります。
一方で、病気や老化という概念の中にその中間としてのフレイルfrailという概念があります。フレイルは虚弱というのがその語源。つまり、完全に老化して病的な状態でサポートが必要な一歩手前、簡単に言えば健康でもない中間的な存在を示します。

では、そのいわゆるグレーゾーンに相当するフレイル層に対して、果たしてこれを健康に引き戻せるのか、その可能性のあるターゲットとして注目、そこに今回初めてTAME(Targeting Aging by Metformin)と銘打ってメトホルミンという糖尿病のお薬のであるビグアナイド系の薬剤を用いた大規模臨床試験を開始したという話。
 メトホルミン投与は65歳から79歳までの3000人を対象としてメトホルミンとプラセボ群の2重盲検ランダムテストが6年間行われているので現在進行中ですが、メトホルミンが一つの老年治療薬として使えるのではないか、また、そこから、抗老化エージェントとしては本質的に何が重要なのか、ということを考察しています。
以下レビューなので割と原文そのままに(重要な文献は残し)。

老化時計のこれまで

まとめ

生物学的老化のプロセスを体系的に分析するため、Lopez-Otin らは、老化科学研究コミュニティで広く受け入れられている 9 つの主要な老化の特徴、すなわち
 1) ゲノム不安定性
2) エピジェネティックな変化
3) タンパク質恒常性の喪失
4) 栄養感知の制御不全
5) ミトコンドリア機能不全
6) 細胞老化
7) 幹細胞の枯渇
8) 細胞間コミュニケーションの変化
9) テロメアの消耗 (López-Otín ら、2013 年) を明らかにした。

(これまでにみてきた幾つかの老化時計、老化指標のまとめ。これらに対して抗老化エージェントは効果が出るのか、どう働くのか)

メトホルミンについて
-メトホルミンとその作用、歴史、抗老化作用研究の背景

ヒトでは、メトホルミンは60年以上臨床使用されており、広範囲に研究されており、安全性が高い。血糖値を下げる効果があるため、2型糖尿病に対する第一選択の薬理学的処置として使用されてきた。

 メトホルミンは、1957 年にフランスの医師ジャン・スターンによって抗高血糖剤として世界に紹介され、今日では世界中で最も一般的に使用されている医薬品介入の 1 つであり、最も処方されている血糖降下剤となっている。実際、メトホルミンは低血糖そのものを引き起こすのではなく、肝臓のインスリン感受性の改善によって肝臓のグルコース産生を減少させ、その結果として空腹時血糖値が低下する。

 また糖尿病という疾患の位置付けからその治療薬は老化や加齢関連疾患の原因となるいくつかの重要な経路に介入する独自の位置にあると言える。

 実際に疫学研究では、糖尿病患者と非糖尿病患者の両方において、メトホルミンが加齢に伴う複数の疾患の発症率と全死亡率を低下させる老化治療効果があることが明らかになっている (Campbell et al. 2017、Valencia et al. 2017)。

 メトホルミンが糖尿病患者の血糖コントロール以外にも有益な効果を発揮するという疫学的、前臨床的、臨床的証拠から、がんとその再発(Heckman-Stoddard et al. 2017)、心血管疾患(Rena and Lang 2018)、神経変性疾患(Rotermund et al. 2018)、自己免疫疾患(Ursini et al. 2018)、そして最近では全身老化全般(Barzilai et al. 2016、Barzilai 2017)に対する再活用が示唆されている。

 また、関連研究では、ほとんどの加齢に伴う癌とアルツハイマー病の発症率が低下することが示唆されており、臨床研究では、メトホルミンを服用している糖尿病患者は非糖尿病患者と比較して認知機能低下と死亡率の低下に効果があることが裏付けられている (Barzilai et al. 2016)。

 さらに、複数のモデル生物とヒト細胞株の研究により、メトホルミンが複数の老化メカニズムを標的とする役割が解明されている。マウスと線虫では、メトホルミンは寿命を延ばし、健康寿命のいくつかの指標を改善する。

 これまでのところ、主にメトホルミンの抗高血糖作用は、グルコース代謝に対する作用、具体的にはミトコンドリアグリセロリン酸脱水素酵素を阻害することで肝臓の糖新生を抑制し、肝細胞の酸化還元状態を変化させて乳酸とグリセロールからのグルコース形成を減らすことによるものとされている。
 
 一方、メトホルミンによる肝臓のグルコース生成抑制は、糖新生の速度制御酵素であるフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ-1のAMP誘導阻害の結果であることが示されており、これらのメカニズムに加えて、メトホルミンの代謝作用には、腸でのブドウ糖吸収の減少、膵臓ベータ細胞でのインスリン分泌の回復、および程度は低いものの筋肉と脂肪の末梢組織でのインスリンを介したブドウ糖の取り込みの増加が含まれる。

 しかしながら、たとえば、メトホルミンの主な作用の 1 つは、ミトコンドリア複合体 I (NADH:ユビキノン酸化還元酵素) の阻害であり、老化プロセスに関与する代謝経路と非代謝経路の両方に複数の下流効果をもたらすが、メトホルミンがミトコンドリア複合体 I を阻害するメカニズムは未だ解明されていない。

 このような生物学的老化の基本的な経路を標的とするメトホルミンのメカニズムは完全には解明されていない。

 ここでは、細胞株とモデル生物で証明されている生物学的老化の個々の特徴に対するメトホルミンの役割を強調することで、その作用機序を関連付けを試みる(表1、図1)。

(老化の基本的な経路を標的とするメトホルミンのメカニズムは完全には解明されていないものの、一方で明らかにされている老化時計の老化指標との関連でこれまでに蓄積された知見と対比させる)

メトホルミンが老化の個々の特徴を阻む効果
ー老化の特徴の中でメトホルミンの主なターゲットについて

1. 調節不能な栄養素感知

 栄養素の利用可能性と感知は、細胞シグナル伝達経路の主要な調節因子である。これらの経路は細胞のエネルギーレベルを決定し、ホルモンおよび栄養素シグナル伝達カスケードと通信して調整し、最適なレベルが達成される正のフィードバックループを誘発する。

 しかし、老化に伴い、細胞の代謝恒常性を維持する能力が低下し、生物の老化表現型にさらに寄与する。
 長寿個体の遺伝子多型研究とモデル生物の遺伝子操作スクリーニングから特定されている老化を制御し寿命を決定する最も重要な栄養素センサーとシグナル伝達カスケードは、高度に保存された栄養感知システムとして以下の、

①細胞内のグルコースの利用可能性に関してインスリンと同様の反応を引き起こすソマトトロピック軸 (GH/IGF-1)
②高アミノ酸濃度の感知を担う mTOR シグナル伝達
高 AMP レベルを介して低エネルギー状態の感知に関与する AMPK
④高 NAD+ レベルを検出することで低エネルギー状態の感知を補完するサーチュイン

が知られている。

①のGH/IGF-1 軸の方向性の疾患および加齢関連の変化については一貫性がない。しかしながら、多くのヒト研究では、その減衰が加齢関連疾患から保護する可能性があることが示唆されている。インスリン/IGF-1シグナル伝達(IIS)の障害により、一過性のROSシグナルを介してL-プロリン分解と内因性ストレス防御反応が促進され、C. elegans daf-2変異体の寿命が2倍に延びる。

一方、老化と加齢関連疾患では
②のmTORC1をアップレギュレーションし、
③AMPKとサーチュインがmTORシグナル伝達と逆方向に作用する。

つまり、老化状態では
AMPKとサーチュイン ↓
mTORシグナル伝達 ↑
という状態にある。

これに対して、
メトホルミンは、Rag-GTPase 阻害を介して直接的に mTORC1 を阻害し、間接的に REDD1 の上方制御を介して TSC2 活性と AMPK 活性化を介した S6K1 および 4E-BP1-mTORC1 基質のリン酸化を促進してその翻訳を減少させることが示されている(mTORC1↓)。
 
④また、特に低 NAD+ 濃度では、メトホルミンはSIRT1 の直接活性化因子であることも明らかになっている。

(インスリン/IGF-1シグナル伝達(IIS)の抑制は一概ではない。ある以上の年齢、ヒトでいう65歳以上では抗老化作用を示すあたり難しい)

(メトホルミンの抗老化作用として、AMPK 活性化因子として栄養素感知経路の調節を行い、結果として抗老化作用を示すことはこれまでによく知られている)

(別のレビュー、個体老化、細胞老化研究の最近の進歩 2.4. 老化、寿命制御における mTOR 経路の機能 にこのあたりは大変要領よくまとまっている)

2. 細胞間コミュニケーションの変化

 内分泌、神経、神経内分泌経路は、細胞が環境の変化、病原体、組織破壊因子、機械的ストレス因子に効果的に反応するための合図を細胞に提供している。

 対して、加齢は、効果的な細胞間接続の全身的な調節不全と、それに伴う反応が細胞間コミュニケーションの維持を阻害する原因となる。

(身体が経験する炎症という現象とそれに対応するサイトカインの盛衰とエイジングは関連する)

加齢に伴う炎症の調節不全の主な結果としては、
慢性で無菌の低レベルの炎症状態で、これは通常、

炎症誘発性サイトカイン分泌 (TNF、IL-6、IL-1β) の一貫した増加、
NF-κB およびインターフェロンシグナル伝達の活性化、
老化細胞とそのセクレトームの負荷の増加、
およびオートファジー反応の変化を伴う。

メトホルミンは炎症性サイトカインを抑制し、NF-κB 経路を阻害する。

いくつかの研究では、メトホルミンがいくつかの重要な免疫調節メカニズムを調整する役割を果たし、代謝パラメータの改善を伴うことが多いことが示唆されていまる。実際に高齢の糖尿病患者では、最近の 5 年間の追跡調査で、メトホルミン単独療法により循環炎症性サイトカインのレベルが低下し、関連する死亡リスクも低下している。直接的な炎症抑制に加えて、体重減少やインスリン代謝および感受性改善におけるメトホルミンの作用は、全身性炎症の軽減にも間接的な影響を及ぼしている。

さらに、
メトホルミンは腸内細菌叢を調整し、代謝をさらに改善し、炎症を軽減する。

 腸内細菌叢が炎症反応を効果的に媒介する役割についての証拠が増えている。加齢に伴う微生物のディスバイオーシス(腸内細菌叢の変化)は、炎症、腸管透過性、炎症性サイトカインの放出を促進することが示されていおり、健康な腸内細菌叢は、最適な健康な免疫機能と関連していることが示されている。

 メトホルミンは微生物の葉酸を調整し、メチオニン制限を誘導することで老化を遅らせ、寿命を延ばす。

 この証拠は、線虫C. elegans で実証されており、最近では、メトホルミンがショウジョウバエの寿命を用量依存的に延長することを示唆しているが、これは無菌株ではなく対照の OP50 E.coli 定着株でのみであり、種を超えてメトホルミン誘発性の寿命延長を媒介する微生物叢の役割を示している。
その後、動物実験で、メトホルミンの糖調節役割は上部小腸の乳酸菌の増加によるものであり、その抗炎症役割は Akkermansia、Bacteroides、Butyricimonas、および Parabacteroides 属の増加と関連していることが明らかになった。
ヒトの糖尿病患者では、メトホルミンは腸内微生物叢の構成を主に短鎖脂肪酸産生微生物にシフトさせることが示された。さらに、糖尿病患者の代謝機能障害を改善するメトホルミンの役割は、B. fragilis の増殖を阻害し、それによって腸のファルネソイド X 受容体 (FXR) シグナル伝達を変化させることによって胆汁酸グリコールソデオキシコール酸 (GUDCA) のレベルを上昇させることと関連していた。

(メトホルミンは腸内細菌叢を安定化させて抗炎症剤として抗老化作用を発現する)

3. ゲノム不安定性

 ゲノム不安定性とは、突然変異、インデル、染色体再編成などの多数の DNA 変化により、生涯にわたって遺伝子損傷が蓄積されることを指している。これに対して損傷治癒プロセスが機能し、突然変異などの有害事象を予防しているが老化によりこのシステムに障害が出れば結果としてがんや様々な疾病の原因となる。

メトホルミンにはゲノム不安定性に対抗するいくつかのメカニズムが存在することが知られている。

これまでの研究では、酸化ストレス、DNA損傷およびDNA損傷反応の軽減、毛細血管拡張性運動失調症変異(ATM)タンパク質キナーゼの調節、およびエピジェネティック効果によるメトホルミンのゲノム保護効果が示されている。

マウス胎児線維芽細胞(MEF)では、メトホルミンはROS毒性(reactive oxygen species、活性酸素)を防ぐことで、パラコート関連の内因性ROSレベルおよび関連するDNA損傷を軽減することが示されている。さらに、メトホルミンは用量依存的に ATM タンパク質キナーゼの活性化を防ぎ、それによって ROS と γH2AX (DNA 二本鎖切断とゲノム不安定性の敏感なマーカー) を低下させる。メトホルミンの遺伝毒性保護効果は、ヒトリンパ球、正常および糖尿病ラット、ラットおよびマウスの骨髄細胞、マウス腎細胞において、小核および染色体異常の減少によって実証されている。

 2 型糖尿病患者では、メトホルミンは抗酸化反応を誘導し、さらに DNA 塩基除去修復システムにつながる。 DNA 損傷がある場合、メトホルミンは ATM およびチェックポイントキナーゼ 2 も活性化し、それによってヒストン H2AX → γH2AX のセリン 132 をリン酸化して、DNA 二本鎖切断部位に DNA 修復複合体をリクルートする。

 さらに、私たちは以前の研究で、高齢者に対する短期的なメトホルミン治療が、骨格筋において BRCA を介した DNA 損傷応答および DNA 修復を誘発することを示した。

 これらメトホルミンが酸化損傷を制御し、ゲノム不安定性を緩和する方法については多彩であり、コンセンサスは得られていないが、メトホルミンが DNA 損傷応答および遺伝毒性ストレスに対する保護メカニズムを刺激するという証拠はこのように多く存在する。

(メトホルミンの遺伝毒性保護効果)

4. タンパク質恒常性の喪失

 老化、加齢に伴う病状、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、協調的なタンパク質恒常性のネットワークに障害があり、細胞内損傷が蓄積する。

 分子レベルで見てみると、分子シャペロン、タンパク質分解システム、調節因子で構成される 2,000 を超えるタンパク質の高度に調節されたネットワークは、安定したプロテオームまたはタンパク質恒常性を維持するために不可欠であるが、プロテオスタシスネットワークの3つの重要な側面、すなわちタンパク質の合成と折り畳み、立体構造の安定性の維持、およびオートファジーを介したタンパク質の分解は、加齢とともに劣化し、タンパク質量の不均衡につながる。

 この様なタンパク質恒常性の減衰、喪失による老化促進をサポートするようにモデル生物の研究では、インスリン/IGF-1シグナル伝達、ミトコンドリアETC、強化されたオートファジー、および栄養素感知など、プロテオスタシスを強化する経路内の変化を通じて寿命が延びることが明らかになっている。

メトホルミンはオートファジーを増強し、タンパク質のミスフォールディングを修復する。

メトホルミンのタンパク質恒常性に対する安定化効果は、主に、mTOR シグナル伝達の直接的および間接的な阻害によるオートファジーの増強とタンパク質合成の阻害の結果と考えられている。

神経毒 MPP (パーキンソン病誘発神経毒MPP(1-methyl-4-phenylpyridinium))の活性が上昇した Clk1 変異パーキンソン病マウスモデルでは、メトホルミン治療により、AMPK 依存メカニズムにより、行動障害が回復し、α-シヌクレインの蓄積が減少し、ドーパミン作動性ニューロンと中脳における LC3-II 媒介オートファジーが強化された。
 オートファジー関連タンパク質 LAMP-1 および Beclin-1 はメトホルミン治療によってアップレギュレーションされ、心筋細胞における高血糖誘発性アポトーシスを減弱させることが示されている。また、メトホルミンが δ-サルコグリカン欠乏誘発性拡張型心筋症マウス心臓におけるオートファジー反応の増強と ob/ob マウス(肥満マウスモデル)におけるマイトファジー※の増強を誘導することを示唆している。さらに、メトホルミンは AMPK 活性化の下流でロドプシンのミスフォールディングと輸送を救済することも示されている。

※マイトファジー mitophagy
マイトファジーとは、オートファジーを介したミトコンドリアの選択的分解機構
であり、古くなったミトコンドリアの代謝に関与している。 簡単に言えばミトコンドリアを選択的に分解し細胞内を浄化する、細胞の品質管理システムの1つ。この機構によって、ミトコンドリア機能障害が関与する疾患から生体を防御していると考えられている。

(メトホルミンは mTOR シグナル伝達の阻害によるオートファジーの増強、AMPK 活性化を経てタンパク質のミスフォールディングを修復する)

老化の特徴におけるメトホルミンの二次標的

5. ミトコンドリア機能障害

 加齢に伴うミトコンドリア機能の低下が、エネルギー恒常性の加齢に伴う調節不全と加齢関連疾患の素因の増加に寄与する可能性があるという長年の研究エビデンスがある。

 加齢によるミトコンドリア機能の障害は、いくつかの細胞内外ストレスの結果である。ミトコンドリアは細胞の原動力としての役割に加えて、加齢に伴うミトコンドリアの機能不全が炎症、老化、オートファジー、逆行性核シグナル伝達に影響を及ぼす可能性があるという理解が深まっている。

 メトホルミンは、ミトコンドリア複合体 I 阻害を介して酸化ストレスを軽減し、PGC-1α を介してミトコンドリアの生合成を改善する。

  ミトコンドリアは、エネルギー恒常性や ROS を介した酸化ストレスとともに、これらの重要な細胞プロセスを制御する上で重要な役割を果たしているため、老化や加齢に伴う疾患や病態に対する魅力的な治療ターゲットであると考えられている。
 また、メトホルミンは、ミトコンドリア ETC の複合体 I (NADH:ユビキノン酸化還元酵素) を阻害し、ROS を低下させるか間接的な除去メカニズムによって、ミトコンドリア誘発性の酸化ストレスに直接影響を与える。この阻害は、マクロファージにおけるプロIL1β産生を特異的に阻害することで、抗炎症反応も誘発した。同様に、メトホルミンによる複合体I阻害は、肺胞マクロファージにおけるROS媒介IL-6放出も減少させ、マウスの動脈血栓症を予防する。

肝臓の糖新生の減少は、フラビン結合呼吸鎖結合脱水素酵素であるミトコンドリアグリセロリン酸脱水素酵素(mGPDH)のメトホルミンによる直接阻害と関連していることも実証されており、これが細胞質の酸化還元状態を調節している。

 メトホルミンは、肝臓および骨格筋に関連し、ミトコンドリア生合成を誘導する共転写調節因子であるPGC-1αの発現とタンパク質活性を高める。

興味深いことに、in vitro研究では、ミトコンドリア遺伝子発現ネットワークの修復とミトコンドリア形態の回復を介して、加速老化のヒトモデルであるダウン症候群に関連するミトコンドリア機能不全を元に戻すメトホルミンの能力が実証されている。

 ヒストンのメチル化とサーチュインの活性化に対する効果に関連して、メトホルミンはSIRT3の上方制御を介して作用することでミトコンドリア生合成を誘導し、細胞老化を遅らせることも示されている。メトホルミンによる SIRT1 の直接活性化は、加齢に伴うミトコンドリア機能不全の抑制に役立つ可能性があるが、逆にこのシステムの障害は、SIRT1 活性の低下によって核コード化ミトコンドリア転写因子 A (TFAM) のダウンレギュレーションが起こり、NAD+ レベルが低下することによると考えられている。

 最近、メトホルミンがヒトの動脈付属器組織で心臓保護作用を持つことが、用量依存的に複合体 I、IV、V の活性を軽度に抑制し、スーパーオキシド生成を減少させ、ミトコンドリア透過性遷移孔を減衰させることで解明された (Emelyanova et al. 2019)。

(メトホルミンはミトコンドリア複合体 I を阻害し、PGC-1α 発現を増加させることでミトコンドリア生合成を改善する)

6. 幹細胞の枯渇

 加齢に伴い、組織の再生能力は全身的に低下する。幹細胞数の減少と過剰な増殖はいずれも老化表現型を誘発する可能性があるため、幹細胞と前駆細胞の恒常性と再生能力を維持することが不可欠となる。
 加齢に伴う幹細胞機能の低下は、造血細胞、腸管幹細胞、衛星細胞、神経幹細胞、毛包細胞、メラノサイト、生殖細胞など、いくつかの幹細胞集団で観察されている。

 いくつかの研究では、造血幹細胞と腸幹細胞はヒトだけでなく動物モデル(マウス、ショウジョウバエ属)でも加齢とともに増加することが実証されている。幹細胞と前駆細胞の若返り能力が低下する正確なメカニズムは不明だが、幹細胞老化の一般的なメカニズムは、テロメアの消耗、分子損傷、エピジェネティックドリフト、発達経路の調節不全など、いくつかの細胞内因性および外因性要因によって説明できる。

メトホルミンは幹細胞の若返り能力を誘導し、幹細胞の老化を遅らせる。

幸いなことに、メトホルミンは幹細胞の枯渇を引き起こすいくつかの経路を標的としているため、加齢に伴う幹細胞の枯渇に対処する上でのメトホルミンの役割を理解する根拠が強化されている。
前述のメトホルミンの老化治療効果は、Nrf2を介してGpx7を活性化することで、細胞の消耗を遅らせ、早期老化を防ぎ、それによってヒト間葉系幹細胞の寿命を延ばすことが示されている。メトホルミンが幹細胞の老化を遅らせるという初期の証拠は、ショウジョウバエの中腸腸幹細胞(ISC)で実証されており、AKT / TOR経路を介してDNA損傷と下流の中心体増幅を阻害し、後にオートファジー関連因子であるAtg6によっても媒介されることが判明している。
 幹細胞機能におけるメトホルミンの抗老化効果は、ISCに限定されず、他の幹細胞集団にも拡張できる。最近、メスのマウスでメトホルミンが神経幹細胞プールを拡大し、男女ともに神経新生と認知回復を促進することが分かった。興味深いことに、メトホルミンは、オリゴデンドロサイト前駆細胞の若返りおよび分化能力の加齢に伴う調節不全も逆転させ、再髄鞘形成をさらに改善した。メトホルミン誘導性の自己複製能力と神経新生の保持は、前者は転写因子 TAp73 を介して、後者は AMPK 活性化 αPKC-CBP 経路を介して、2 つの異なるメカニズムを介して媒介される。
 筋肉では、老化した衛星細胞※※は、活性化されると静止状態と自己複製能力を維持できなくなる。メトホルミン治療は、衛星細胞の活性化を遅らせ、静止した低代謝状態を維持し、それによって幹細胞の数を維持することが示されている。

 幹細胞の数と機能を維持することで、加齢に伴う若返り能力の喪失に対抗し、それによって組織の修復を促進することができる。実際にいくつかの例では、メトホルミンは幹細胞の枯渇を標的とし、幹細胞の老化を遅らせ、幹細胞の機能を維持するのに効果的であった。

メトホルミンのこの役割は、再生医療の研究と試験でさらに研究する必要がある。

衛星細胞※※
骨格筋の量と機能の低下は、高齢者にしばしば見られる特徴であり、衛星細胞として知られる骨格筋幹細胞の再生能力の低下と関連している。筋衛星細胞は、筋再生において重要な役割を担っていると考えられている骨格筋を形成する幹細胞で、 通常、筋衛星細胞は静止型とよばれる状態で筋線維の表面上に存在しているが、筋肉の損傷等に応じて活性化し、増殖、分化、融合を通して筋組織を修復する機能を発揮することが知られている。


(メトホルミンは、加齢に伴う幹細胞の枯渇に対処する。特にフレイルで重要な筋肉の減衰に関しても筋衛星細胞の活性化を遅らせ、静止した低代謝状態を維持することで幹細胞の数を維持する)

7. エピジェネティックな変化

 DNA およびヒストンのメチル化の変化は、生物学的老化の特徴であり、結果としてアセチル化やリン酸化などのヒストン修飾は、転写の活性化、細胞恒常性の喪失、加齢に伴う代謝低下につながる可能性がある。
 DNA およびヒストンのメチル化の状況は加齢とともに変化し、一般的に全体的な低メチル化とプロモーター特異的な高メチル化につながりが、これらの変化は、保存された組織特異的な加齢関連転写変化の決定要因であり、老化の代謝および炎症表現型に寄与している。

メトホルミンは、ヒストン修飾、DNAメチル化、およびmiRNAを介して転写活性を制御する。

エピジェネティックおよび転写変化は、その変更可能な性質のため(可逆的な)、一般的に加齢関連疾患に対する治療介入の効果と健康的な老化の促進を示している。

 メトホルミンのAMPK依存性および非依存性メカニズムは、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ (HAT) のリン酸化、クラスIIヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) の阻害、およびSIRT1の活性化を介してヒストン修飾に影響を与えることが観察されている。
 また、非糖尿病性 HER2 陽性乳がん患者およびヌードマウスに注入されたヒト乳がん異種移植において、この薬剤は全体的な H3K27me3 レベルを増大させ、脱メチル化酵素 KDM6A/UTX を直接標的とし、さらに、健康な高齢ドナーおよびウェルナー症候群患者の線維芽細胞における全体的な H3K27me3 の加齢関連損失を回復させた。この効果は、ミトコンドリアを欠く Rho0 細胞で証明されているように、メトホルミンのミトコンドリア複合体 I 阻害とは無関係であった。さらに、メトホルミンは、ミトコンドリアの1炭素代謝経路を介して全体的なDNAメチル化を促進し、癌細胞ではH19/S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)軸を介して、代謝エピジェネティック調節因子として作用する。
 メトホルミンは、健常者、糖尿病患者、および癌細胞株(乳癌および大腸癌)において、全体的な DNA メチル化とその下流組織特異的(骨格筋、皮下脂肪組織、末梢血単核細胞)転写プロファイルを直接的に上方制御しるが、これは、メトホルミンの年齢標的化および抗腫瘍役割を反映している。

 メトホルミンは、DNA とヒストンのメチル化に対する効果以外にも、DICER1 と下流の miRNA をアップレギュレーションを行う。
これらの miRNA のいくつかは細胞老化とともに減少するため、メトホルミンには転写と転写後を制御する複数のメカニズムがあることが示唆されているが、最近では、メトホルミンを組み換えヒト成長ホルモン (rhGH) とデヒドロエピアンドロステロン (DHEA) と組み合わせると、健康な成人で 1 年間の治療後、DNA メチル化に基づく生物学的年齢のマーカーである平均「エピジェネティック年齢」が 1.5 歳戻ることが示された。

 メトホルミンのヒストンおよび DNA 修飾を介した転写およびエピジェネティック制御と miRNA への影響に関して、これまでの研究のほとんどは、薬理学的用量を超える用量での細胞株におけるこの制御を調査しており、臨床研究への一般化が制限される可能性がある。
組織および細胞特異的な方法と全身レベルでの薬理学的に関連する用量のにおいて反応をさらに解明することが重要でである。

(エピジェネティックな変化は可逆的であり、一般的に加齢関連疾患に対する治療介入が期待される部分である。そうすると当然その先には抗腫瘍効果も見込まれる)

8. テロメアの消耗

 テロメアは、真核生物の染色体の末端にある高度に保存されたリボ核タンパク質複合体であり、不完全な DNA 複製によって引き起こされる分解から染色体の末端を保護する重要な役割を果たしているが、加齢やストレスにさらされると、これらの領域は特に劣化しやすくなる。
 また、成人細胞ではこの損失を補うためのテロメラーゼが不十分なため、細胞増殖とともに徐々に消耗していく。進行性のテロメア短縮は、生物学的老化や加齢に伴う罹患率、虚弱性、死亡率と関連していることがわかっている。さらに、テロメア短縮は、p53 を介した DNA 損傷応答経路を介して、細胞老化、炎症、ミトコンドリア機能障害を引き起こすことも示されている。

メトホルミンはTERRAを活性化し、テロメア短縮を減らすことが示されている。

 メトホルミンを含む介入がテロメア長に及ぼす影響、特に健康的な老化と寿命の延長に及ぼす影響については、エビデンスはこれまでにほとんどないが、Dimanらは、メトホルミン核呼吸因子1とPGC1-αによって活性化されるAMPKの下流ターゲットが、テロメア反復配列含有RNA(TERRA)を介したヒトテロメア転写の調節因子であることを特定した(Diman et al. 2016)。

 糖尿病患者の場合、メトホルミンを服用していない人と比較して、メトホルミンはテロメア短縮を減らすことも示唆されている。これは、耐糖能やインスリン感受性を改善するメトホルミン単独療法が糖尿病患者の白血球テロメア長の短縮を予防した他の研究と似ている。妊娠糖尿病の母親では、メトホルミン治療により男性の子孫のテロメア短縮が予防された。

(メトホルミンによって活性化されるAMPKの下流ターゲットが、テロメア反復配列含有RNA(TERRA)を介したヒトテロメア転写の調節因子であり、テロメア長の短縮を予防する)

9. 細胞老化 (老化細胞)

 細胞が複製能力に達するか、内部または外部のストレス要因にさらされたときに安定した細胞周期が停止する状態として定義される老化は、老化の主な原因であると言われている。
 最初は Hayflick と Moorehead、最近では Baker らによる独創的な発見により、老化細胞の加齢に伴う蓄積と、高齢になってもそれらの除去後に加齢に伴う組織機能障害が軽減されるという、細胞老化が老化の主な原因であることが明確になった (Hayflick と Moorhead 1961、Baker ら 2011)。

 老化は悪性腫瘍に対する保護メカニズムとして機能し、腫瘍抑制メカニズムとして機能するが、最近の証拠では、老化細胞が SASP に表現型を変化させ、逆説的に腫瘍の増殖を引き起こす可能性があることが示唆されている。

 さらに、加齢によって誘発されるエピジェネティック、タンパク質毒性、遺伝毒性のストレスによる老化細胞の蓄積は、緑内障、白内障、糖尿病、変形性関節症など、多くの加齢関連疾患の原因となることが一般的である。最近では、老化細胞で選択的にアポトーシスを誘導するセノリティック薬※※※が、老化や加齢関連表現型を軽減する大きな可能性と臨床的有用性を示している (Kirkland et al. 2017、Xu et al. 2018、Justice et al. 2019)。

セノリティック薬※※※
「セノリティクス=senolytics」は、「老化=senescence」と、「対抗=lytics」を合わせた言葉で、老化防止を意味する。老化細胞を適切に除去することに成功すれば、健康維持や老化制御などの抗老化効果をもたらすとして、研究・開発が進められている。一般に老化細胞を殺す手法や薬剤の総称。老化細胞のアポトーシス抵抗性をターゲットにしているものが多く、ダサチニブとケルセチンの複合投与は臨床試験が行われている。

メトホルミンは SASP をダウンレギュレーションし、老化細胞の負担を軽減する

 メトホルミンは老化抑制特性を示さないものの、複数の加齢関連機能障害における細胞老化と SASP の抑制に効果的であることが知られている。
 低用量のメトホルミンの慢性投与は、グルタチオンペルオキシダーゼ 7 (GPx7) の Nrf2 媒介アップレギュレーションを介して、SA-β-Gal 染色の減少によって証明されるように、ヒト二倍体線維芽細胞とヒト間葉系幹細胞の老化を遅らせる。メトホルミンの老化治療的役割は、NF-κB の核への移行を阻止することで IκB とそのキナーゼをリン酸化せず、NF-κB 経路を完全に阻害する抗炎症効果によっても媒介される。マウス嗅覚鞘細胞の体外培養におけるメトホルミンによる NF-κB の阻害も、炎症誘発性サイトカインおよび酸化ストレスマーカーの発現低下とともに SA-β-Gal 活性の低下と関連している。

 DICER1 依存性メカニズムでは、メトホルミンはヒト線維芽細胞において p16 および p21 のタンパク質レベル、および IL-6 および IL-8 を含む SASP の特徴の RNA レベルを低下させることが示されている。
 最近、ヒト歯周靭帯細胞において、老化および酸化ストレスに対する保護効果がメトホルミン誘導性オートファジー刺激に関連付けられ、老化のこれら 2 つの特徴の相互関連性を標的とするメトホルミンの役割がさらに強調された。同様に、椎間板変性の in vitro および in vivo モデルでは、メトホルミン治療により AMPK を介したオートファジーがアップレギュレーションされ、髄核細胞の老化が軽減された。

メトホルミンが老化細胞の負担増加と加齢に伴う SASP のアップレギュレーションを軽減することは明らかである。

 酸化ストレスの媒介における Nrf2-Gpx7 活性化、および炎症反応の媒介における NF-κB 阻害を介した SASP 調節因子としての役割は、その老化治療メカニズムの理解を深める一方で、乳がんおよび肝細胞がんの文脈では、低用量メトホルミンがそれぞれ SASP 遺伝子発現シグネチャおよび p53 依存性老化を誘発することが以前に示されている (Williams et al. 2013、Yi et al. 2013)。

 つまり、このように、メトホルミンの細胞老化と SASP に対する効果は状況に依存しており (アポトーシスを誘導することで抗がん作用、炎症を抑制することで抗老化作用)、がん組織の老化促進とは対照的に、老化組織で抗老化反応を誘導するためにメトホルミンを刺激するものが何であるかをさらに理解する必要がある。老化抑制薬の臨床試験の出現により、メトホルミンを他の薬剤と組み合わせて最も効果的に利用して、老化と老化に対する組み合わせ効果を最適化する方法を理解することも重要である。

(メトホルミンのSASP に対する効果は一方向性ではないので注意が必要)


メトホルミンの副作用

 明らかに、メトホルミンの予想外のプラスの副作用には、健康寿命の延長と死亡率の低下が含まれます。最近、肝臓、腎臓、心臓疾患を患う糖尿病患者がメトホルミンを服用しなかった場合、入院と死亡率の減少という恩恵を受けることができたことが明らかになった (Crowley et al. 2017)。

 したがって、メトホルミンの「ブラックボックス」警告は着実に消えつつあり、腎機能が低下した患者への使用の適応がそれほど厳しくないことからもそれがわかる (Bakris and Molitch 2016)。

ほとんどの薬と同様に、メトホルミンでも軽度の副作用が発生する。

軽度の副作用のほとんどには、腹部または胃の痛み、早期の満腹感、食欲減退、下痢などの胃腸の不快感が含まれるが、これらは通常、使用後 1 ~ 2 週間で治まる。下痢が 1 週間以上続く場合 (使用者の約 3%)、薬の使用は中止される。これらの副作用は、線虫やその他の小型生物で証明されているように、腸内細菌叢の急激な変化の結果である可能性がある。
細菌叢の変化は、メトホルミンの慢性使用によるビタミン B12 レベルの低下によっても生じる可能性があるが、そのメカニズムはまだ不明であり、ビタミン B12 の補充が必要な患者はほとんどいない。


 メトホルミン関連乳酸アシドーシス (MALA) と呼ばれる症状は、重度の腎臓病、肝臓病、心臓病などですでに乳酸値が高い患者がメトホルミンを服用しているときに発生することがある。少数の患者は、メトホルミンを服用してすぐに不安、不眠、速い呼吸などの症状を訴えることがあるが、通常は自分で薬を中止する。メトホルミンは乳酸値を上昇させながら正常範囲を維持するのだが、MALA 患者を含む重篤な副作用のある患者は、遺伝的メカニズムに起因するミトコンドリア複合体 1 の阻害に対してより敏感である可能性がある。

 TAME 試験は、前述のすべての理由でメトホルミンの服用を中止した患者を調査し、異なる結果になりやすいかどうかを判断することを目的としている。その生物学的サンプルは、さらなるメカニズム研究に利用できる。
 
 また、メトホルミンは低血糖薬ではないため、その生物学的効果と一致して、糖尿病患者に他の血糖降下薬と併用しない限り、低血糖を引き起こす可能性は低いことを理解することも重要である。
 この様な背景から、糖尿病の適応症以外では、メトホルミンの使用は医師の監督下で臨床試験の文脈でのみ推奨される。


結論と展望

 生物学的老化の特徴を緩和するメトホルミンの有効性は、老化に関与する重要なメカニズム経路を標的とすることができる治療薬としてのメトホルミンの強みと可能性を反映している。

 メトホルミンの代謝効果は、AMPK の活性化による代謝作用と、ミトコンドリア ETC の複合体 I の阻害による酸化作用が主になる。

 mTORC1、PGC1-α、インスリン IGF1 シグナル伝達、SIRT1、NF-κB シグナル伝達、炎症誘発性サイトカインに対する追加的な直接効果があり、それによって 4 つの特徴 (栄養感知の調節不全、細胞間コミュニケーションの変化、ゲノム不安定性、タンパク質恒常性の喪失) をメトホルミンの主なターゲットとして分類できる。

 ミトコンドリア機能、DNA およびヒストンの修飾、幹細胞の若返り、テロメア短縮の防止、老化および SASP のダウンレギュレーションに対する効果は、主なターゲットの下流にあると理解できる (図 2)。

 現在、メトホルミン単独療法および運動などの生活習慣介入との併用療法が、老化の個々の特徴の臨床的および分子的結果に及ぼす反応を評価する臨床試験がいくつか進行中である。これらの臨床試験では特に、フレイル(虚弱性)および関連する炎症性および SASP 候補バイオマーカーに対するメトホルミンの効果、LC3 レベルの測定によるオートファジー促進効果、筋肉サイズの変化、腸内細菌叢による免疫反応の改善、およびインフルエンザワクチンの有効性の測定に取り組んでいる。

 メトホルミンの老化に対する作用を研究する上での制限は、その組織特異性、用量依存性、およびミトコンドリア阻害がメトホルミンの効果に寄与する役割と言える。

 今後の研究により、これらの制限のそれぞれについてさらに詳しく解明される可能性は間違いない。
 しかし、メトホルミンが老化のあらゆる特徴と関連していることを示す証拠が蓄積されるにつれて、メトホルミンがこれらの特徴のいずれかに及ぼす影響は、他のいくつかの老化の特徴の全身的な減衰に直接的な影響を及ぼすことを覚えておくことが非常に重である(図 2)。たとえば、強調したように、オートファジーを標的とすると、ミトコンドリア機能、栄養素の感知、高分子の損傷に影響を与えることが証拠から示唆されている。この考え方に基づいて、一次レベルまたは二次レベルのいずれかで老化を標的とすると、最終的には細胞、組織、システムが若返り、老化の全身生物学に直接影響すると考えられる (図 2)。
 したがって、観察される効果の一部は、全身の若返りを達成した結果であり、薬剤の直接的な標的ではない。実際、ラパログ(mTOR阻害薬の一種。ラパマイシン(シロリムス)とその誘導体であるエベロリムス,テムシロリムスなどラパログと総称される一群がある)やサーチュインなどの他の介入の効果を検討すると、これらも老化の同様の特徴の多くに影響を与えている可能性があることが示されている (Lamming et al. 2013、Grabowska et al. 2017)。

結論

結論として、
ヒトの加齢に伴ういくつかの病状を標的とするメトホルミンの有効性を強調する広範な疫学、基礎科学、臨床データがあり、すでにモデル生物と細胞株の研究は、老化の重要な経路に対するメトホルミンの有益な効果について説得力のある証拠を提供している。
既知の安全性プロファイルとヒトでの長期使用に加えて、メトホルミンは生物学的老化の主要な特徴とその相互接続性を弱めるため、老化に対する非常に魅力的な候補となり、TAME研究はそれを証明することになります。

私評

とても興味深いレビュー。試験中とはいえTAME研究の結果が気になるところですが、メトホルミンは副作用も比較的限られており、モデル動物を含むこれだけのデータがあれば良い結果が出ると思われます。ただし、全てが一方向性に単純なものではなさそうですが、現時点で言えることはオートファジーの促進、炎症の抑制、腸内細菌叢への作用やDNA修復とか科学的根拠が挙げられています。ただ、原点に戻って、もともと糖尿病の治療薬という観点からすれば、栄養素の過剰摂取を控えるというのは基本的にシンプルで有効的なのではないか思うのですがいかがでしょう。



カクテル AKEBI KAKUTERU 46


秋はキノコやフルーツ好きとかにはとても良いシーズンです。

もうそれを口にしたのは何十年も前になります。子供の頃山に行った時に蔓に生えていたのを見た覚えがあります。先日自由が丘の朝市でたまたま見つけたので買って帰って30代のスタッフに見せて
「これは何でしょう?」、、、「紫芋」、「モグラ」、、、いろんな意見が出ました。正解は40代から。やっぱり今の世代には無理もない。

中を開いたらもっとびっくり。


スプーンですくって味見して残りはカクテルに。
お味は、、、まあこんなもんかな。
感想は上品なあっさり味の和菓子テイスト、というところでしょうか。

さて、これを
オードヴィ eau de vie
Massenez Eau-de-Vie Framboise
マスネ オードヴィ フランボワーズ
と合わせてオリジナルカクテルを作ってみました。

マスネ オードヴィ フランボワーズ 20ml
を入れたグラスにあけびAKEBIを入れてマドラーで少し潰す。冷たく冷やしたソーダを注いで完成。

甘すぎず上品で爽やかな秋の味覚というところか。
何と言っても、お陰様でワイワイ盛り上がって面白おかしく過ごせました。

Louis van Dijk
Agnus Dei (Fauré)🎵

サイエンスの話 46 老化時計 ④

2024-09-29 16:38:14 | 日記
The aging skin microenvironment dictates stem cell behavior
加齢に伴う皮膚微小環境が幹細胞の挙動を規定する
PNAS February 24, 2020 117 (10) 5339-5350
https://doi.org/10.1073/pnas.1901720117

老化のプロセスの中で幹細胞はどう影響するのか、という内容。

背景

そもそも、成人の組織には、創傷の修復と適応に不可欠な組織特異的幹細胞 (Stem Cell) が存在し、臓器の劣化は、これらの常在 SC の喪失または系統の偏りに起因することが多いとされている。哺乳類では、中でも、老化した皮膚においては毛周期の顕著な減少と脱毛斑の出現など外見上の変化を伴うため観察しやすいという研究上のメリットがある。そこで、毛包幹細胞 (HFSC)の運命は老化中にどのように変化するのか、老化中に失われるのか、あるいは分化することで新たに抗老化プロセスを担い表皮の運命に変化するのか、さらにはその運命を左右する因子は何なのか探究する。

要旨

単一細胞 RNA シーケンシングを使用して、HFSC 毛包幹細胞の老化過程の変化を調べた。幹細胞の数は減少していたが、老化した HFSC は残存し、そのアイデンティティを維持し、表皮の運命に移行する明らかな兆候は示さなかった。しかし、特に細胞外マトリックス遺伝子で転写変化が顕著に見られ、老化した SC ニッチの深刻な構造的変動を伴っていた。
また、常在免疫細胞、感覚ニューロン、立毛筋など、 SC ニッチ(周辺の非上皮性細胞からなる微小環境)に存在する多くの非上皮細胞タイプで顕著な老化関連の発現変化が認められた。
SC ニッチの各コンポーネントは、毛包HF 再生に影響を与えることが知られているので、若い HFSC を動員してニッチから取り出し、毛包に対する創傷治癒実験を行ったところ、老化した皮膚に移植した場合には創傷治癒ができないことがわかった。しかし、興味深いことに、生体内での移植試験では、若い真皮で支えられた老化した HFSC は HF を再生したが、若い HFSC は老化した真皮と組み合わせると HF を再生できなかった。これらの結果を合わせると、幹細胞とニッチ相互作用の重要性が強調された。
つまり、SC ニッチ微小環境の若さが幹細胞の特性と組織の健康と適応性を決定する上で主要な役割を果たすということがわかった。

(幹細胞は単独で若返りの泉というわけではなく、その周辺にある非上皮性の微小環境=ニッチによって運命付けられ、老化幹細胞と若いニッチを合わせると元来の創傷治癒や抗老化の機能を発揮することができた。すなわち、ニッチが老化過程での幹細胞の働きに大きく影響している)

abbreviations;

SC:  stem cell 幹細胞
SC niche: stem cell niche 幹細胞ニッチー毛包周辺の非上皮細胞群  
niche: ニッチ、microenvironment (微小環境) 
HF: hair follicle 毛包
HFSC: hair follicle stem cell 毛包幹細胞
APM: arrecter pilli muscle 立毛筋

結果

1 老化した皮膚の HFSC は、系統のアイデンティティを維持する

まず、2 歳 (高齢) および 2 か月齢 (若齢) の C57BL/6 マウスの皮膚上皮内の加齢に伴うトランスクリプトームの変化を調査した。休止期 (休止期) の背中の皮膚 HF 毛包に注目した。

皮膚から上皮を解剖した後、FACS を使用して死んだ細胞を取り除き、さらに免疫細胞、メラノサイト、線維芽細胞、および内皮細胞を除外した。次に、皮膚上皮系統が豊富な単一細胞を捕捉し、10X Genomics プラットフォームを使用して単一細胞 RNA シーケンス (scRNA-seq) を実行した。若い皮膚上皮と老化した皮膚上皮の両方から、異なる休止期細胞集団を分離し、確立された系統特異的マーカーを使用して、以下の集団のアイデンティティを区別した(図1A):
バルジHFSC、バルジ基底部の「プライミング」HFSC(毛胚、HG)、皮脂腺、峡部(バルジ腺と皮脂腺の間のHF領域)、漏斗部(表皮に隣接する上部HF領域)、基底上HF細胞、および表皮の基底細胞と基底上細胞(図1BおよびSI付録、図S1)。

(バルジHFSCは若いマウスと高齢マウスと同パターンー毛包幹細胞のマーカーを示した。例えばHFSCマーカーK24(A)とSOX9(B)、EpdSCマーカーKLF5(B)、Epd分化マーカーK10(C)などの発現様式。つまり、その個性は老化した個体でも若くても変わりはなく、いずれも幹細胞としては同等に維持されているのではないかと考えられたー幹細胞としての個性=アイデンティティは保たれていた)

2 老化した HFSC は ECM 遺伝子発現とバルジ構造に顕著な変化を示す

老化したバルジ HFSC はアイデンティティに忠実であったが、老化したトランスクリプトームは若いトランスクリプトームと区別するいくつかの変化が見出された。

最も大きく変化したトランスクリプトは、ECM、基底膜、ECM リモデリング遺伝子、および分泌シグナル伝達因子であった((図 3 A および B、SI 付録、図 S2B、およびデータセット S1 および S2)。

(加齢HFSCsと若年HFSCsの間で有意に変化したECM遺伝子と分泌因子の階層的クラスタリングを示すヒートマップに示されるような大きな差がみいいだされた。赤は発現増加、青は発現減少。マトリソーム(ECM遺伝子)であることに注目)

また、老齢マウスの皮膚の部位に顕著な脱毛が見られることに着目した。
全層免疫蛍光顕微鏡レベルで詳しく調べたところ、若いバルジと老齢バルジの間にはいくつかの明確な構造上の違いが見られた。
つまり、具体的には、第 2 休止期 (つまり、毛周期の第 2 生後休止期) にある若い HF は、明確な 2 つのバルジ構造を示していた (図 3D)。対照的に、高齢の HF では、多くの場合、単一の隆起のみが表示された (図 3D + ムービー)(高齢では膨らみが一つ)。
このように老化バルジ HFSC の数は減少し、存在する HFSC は不活性であるもののほぼ同様の転写活性を示したが、ECM および ECM リモデリング遺伝子の発現に顕著な変化が見られた。
これらの変化は、バルジ ニッチが構造的完全性を維持できないことと相関しており、この現象が老化した皮膚における毛包 の小型化の根底にある可能性がある。

(高齢と若齢の差はバルジにおけるECM および ECM リモデリング遺伝子の発現減少→老化によるバルジ構造の維持困難→脱毛)

3 老化した皮膚の微小環境における多面的な変化

これまでのまとめとして、
加齢に伴う毛髪の薄さの背後にある正確なメカニズムとは関係なく、加齢した HFSC は系統のアイデンティティを維持し、毛周期の休止期には非増殖性の状態を維持していた。

しかし、HFSC による ECM 遺伝子発現の顕著な変化と SC ニッチの構造変化は、微小環境の乱れが加齢に伴う HFSC 活性の低下に関係している可能性を示唆している。
この点、一方で、加齢した真皮線維芽細胞と若い真皮線維芽細胞の間に顕著な機能的差異を示す研究結果が最近数多く報告されている。そこで、HFSC 微小環境の加齢に伴う差異をさらに理解するために、HFSC ニッチの構成要素として関与していると考えられる非上皮細胞を調査した。

・老化したバルジニッチにおける顕著な変化は APM arrecter pilli muscle立毛筋にあった。
通常、APM は上部バルジで HF に接続するが、老化した皮膚では APM がバルジから分離しているように見えた (図 4C)。
APM の付着は、若いバルジの SC によって発現される特殊な ECM 成分であるネフロネクチン (NPNT) に依存している。

( ECM 成分であるネフロネクチンNPNT低下→APM の付着低下→脱毛)

・さらに、CD4+ エフェクター T 細胞集団全体の変化はそれほど有意ではないが、このプール内の制御性 T 細胞 (Treg) のサブセットでは明らかな加齢に伴う減少が見られた (図 4 D および E)。若いマウスでは、Treg が毛周期に刺激を与えるという最近の報告を考慮すると、FOXP3+CD25+CD4+ Treg の加齢に伴う数の減少は特に注目に値する。
したがって、Treg の不足は、加齢に伴う毛周期の低下の重要な要因である可能性がある。

(T 細胞 Treg の不足も関与する可能性)

(幹細胞SCとニッチの間の相互作用で特定したこれらの加齢に伴う変化は、皮膚の老化中の 幹細胞機能低下に直接的または間接的に寄与する可能性がある)

4 創傷修復中の老化した皮膚における HF 再生の欠陥

背景:老化した表皮 SC が全層創傷で表皮を再上皮化しようとすると、修復プロセスが著しく遅れるという報告がある。
したがって、今回は部分層ドレメル創傷モデル partial-thickness dremel wound model に着目した (材料と方法、図 5A)。この方法では、移動して動員された幹細胞 HFSC は系統不忠実状態 (35) に入り、表皮の修復を促進する。
さらに、若いマウスでは、部分層創傷によって誘発されるストレス反応が HF 再生を刺激するため、このモデルは老化した HFSC の効力を試すのに特に魅力的なモデルとなる (図 5A)。

実験:毛髪の再生をよりよく監視するために、まず休止期の若いマウスと老齢マウスの毛を剃り、次に背中の皮膚に部分的な厚さの創傷を施した。
結果:創傷後 2 か月で、若いマウスの創傷のない領域が通常の毛周期を開始したときでさえ (図 5D、若いマウスの白い点線、図 5E、「創傷のない若いマウス」)、老化した皮膚は、創傷の有無にかかわらず、新しい毛皮を再生する兆候をまだ示さなかった (図 5 DとE)

(老化マウスでは、2週間後、2ヶ月後も休止期に入ったままによる創傷治癒が開始されなかった。これは若いマウスでは2週間後から成長期に入り、さらには2ヶ月後に完全に毛で覆われるよう再生している状況と明白に異なったー図 5 BとD)

さらに、創傷修復プロセスの初期段階を調べた。
創傷から 5 日後、老化した HFSC は組織修復を開始したように見えた (SI 付録、図 S3B)。この時点で、HF の表皮と上部はどちらも組織再生の兆候を示していた (SI 付録、図 S3B、矢印)。これらの結果は、老化した HFSC が、表皮の再上皮化を促進する創傷誘発性のシグナルに依然として反応できることを示している。

だが、この結果は加齢に伴う毛髪再生の欠陥は、老化した休止期皮膚は慢性創傷のような状態に似ているという従来の概念と矛盾しているように思われた。脱毛した皮膚領域内の老化した HF 隆起部には HFSC がまだ存在しており (図 1)、創傷により毛髪サイクルを活性化するよう誘導された (図 5C) ことから、老化した HFSC とその初期の増殖性子孫は毛髪再生プログラムを実行する能力に欠陥があるか、持続性が不足して組織再生タスクが停止している可能性があると推測した。

(幹細胞の機能は老化してもそのアイデンティティーは保たれているが、老化すると休止期から動かなくなって機能しにくくなる、その差は何なのか、可能性は2つにひとつ、毛髪再生プログラムが働かない、あるいは働いでも弱くて持続しないかのどちらかと考えて以下に進んだ)

若い HF と同様に、HF は Shh および Wnt10b を発現した(毛周期の誘発に重要であることが知られている既知のマーカー)。
これらは、HF毛包再生および毛髪成長を促進する毛球内の初期の短命な SC 子孫の重要なマーカーであるShh および Wnt10b の発現を調べてみると、若いマウスも老化マウスもいずれも発現していた (図 6A)。
とはいえ、再生のための分子シグナルは開始されていたものの、創傷後 7 日までに再生した老化した HF は短くなっており、これはおそらく次の毛周期のための SC を収容する外毛根鞘細胞が少ないことを反映している。HF はまた成熟度が低く、これは毛幹とそのチャネル (内毛根鞘) への分化に進む毛球内の短命な HFSC 子孫が少ないことを反映している。
内根鞘マーカーGATA3(C、矢頭)および毛幹マーカーHOXC13(D、矢頭)の免疫蛍光観察により、若齢マウスと比較して老化マウスでは、創傷により誘導されたHFの数が減少していることが明らかになった。

これらのデータを総合すると、老化した HFSC は創傷誘発性成長期促進シグナルに反応し、適切な系統分化経路を実行できると思われる増殖性子孫を生成したことがわかる。ただし、毛周期全体にわたって再生を持続的に促進する能力は低下しており、その結果、部分的な厚さの創傷を受けた老齢マウスでは毛皮を再生することができなかった。

(SC 子孫の重要なマーカーであるShh および Wnt10b の発現を調べてみると、若いマウスも老化マウスもいずれも発現していた。ということは、老化した HFSC は毛周期活性化による創傷誘発性成長期促進シグナルの開始点では反応している。しかしながら、その後老化マウスで創傷後の毛包は短くて数も少なかったのは何故か、HFSCの働き、おそらく持続力に問題があったということではないか)

5 若齢 HFSC と老齢 HFSC の本質的な違いは、in vitro 培養によって克服できる

これまでの結果から、創傷誘発性組織再生における老齢 HFSC の能力の低さは、HFSC の本質的な活動の低下、または老齢真皮によって提供される組織微小環境の支持力の低さのいずれかが原因である可能性がある。

これらの可能性を区別するために、まず若齢および老齢皮膚から HFSC を分離し、in vitro でその挙動を調べた (SI 付録、図 S4A)。

実際、若い HFSC と同様に、老化した HFSC は培養中に創傷修復中に見られるものと同様の転写変化を起こした。
これには 表皮遺伝子の活性化、HF 遺伝子のダウンレギュレーション、ストレス特異的遺伝子の誘導が含まれた (SI 付録、図 S4B)。
結果を総合すると、若いHFSCsと老化したHFSCsの間には本質的な違いが存在するが、血清や成長因子を豊富に含むin vitroの培養液では、その違いは持続しないことが示唆された。

つまり、老化した HFSC が体外で系統不忠実状態を再現する能力は、老化した HFSC が本来のバルジ微小環境外で生存するために必要なこのプログラムを実行できるという、以前の体内での観察とよく一致していた。

(老化した幹細胞もアイデンティティーを維持しており、本質的に差がないのでいつでも修復や抗老化に参加して若いそれと同等の働きを示すことができるはずだがーそうならない、両者の大きな違いは何から生じるのかー以下へと続く)

6老化した HFSC は、生体内移植中に新生児真皮によって若返らせることができる

我々の培養研究では、成長を促進する微小環境が、集団内の少なくとも一部の HFSC の固有の加齢関連欠陥を上書きする可能性があることが示唆された。
老化した HFSC 集団全体の適応度を生理学的観点から評価するために、老化した皮膚と若い皮膚から新鮮に分離された FACS 精製 HFSC で移植を行った (図 7A)。

驚くべきことに、
・新生児真皮細胞を移植すると、若い HFSC と高齢 HFSC の両方が、無毛ヌードマウスの受容体で効率的に毛髪を生成した (図 7B)。

・これらの移植片のホールマウント画像では、若い HFSC と高齢 HFSC の両方から形成された多数の HF の存在がさらに明らかになった (図 7 C と D、SI 付録、図 S5)。

・対照的に、若い HFSC も高齢 HFSC も、高齢皮膚真皮の細胞を移植すると毛髪や HF を再生しなかった (図 7 B と D)。

これらの観察結果を総合すると、高齢皮膚微小環境が幹細胞の活動に対する大きな障害であり、さらに、新生児真皮は、毛髪の成長における本来の加齢による違いを克服し、高齢 HFSC を若々しい行動に若返らせることができることを示している。

(幹細胞そのものよりもその微小環境である真皮の細胞群の働きがその機能を左右している)


考察

安静状態では、老化したバルジ HFSC はアイデンティティを維持している

加齢中のバルジの構造変化、ECM

ECM (マトリソーム) 転写物の顕著な加齢関連の変化は、私たちが観察したバルジ構造の変化を考えると興味深い。また、E カドヘリンと Col17a1がバルジの構造と形状を維持する機能を果たす可能性が高いという以前の研究結果をがあり、C elegans では、ECM、特にコラーゲンが、インスリン/IGF1 シグナル伝達および NRF2 転写活性の下流で老化の重要な調節因子であることが報告されている。さらに、ECM はヒトの皮膚の老化中にも変化する。これは、これが生物の老化を調節する保存された経路である可能性があることを示唆している。

・間質BNPと休止期の制御

脱毛した皮膚領域の自然に老化したバルジ HFSC は休止期を維持し、不活性である可能性があることが知られているが、毛周期の休止期が加齢とともに増加しするのは間質 BMP の増加によるところが大きい。その一因は間質 BMP レベルの増加によるもので、BMP シグナル伝達の増加の下流に関係する NFATc1 転写レベルは、脱毛した皮膚の老化したバルジでは有意に変化しないものの、転写後または翻訳後修飾に敏感であり、老化静止表現型に寄与する可能性が示唆されている。

ニッチ構成要素の変化と HFSC とのコミュニケーション

・WNT シグナル伝達が毛周期の誘発に重要であることは既に確立されているが、強力な WNT 阻害剤をコードする Wif1 の上昇レベルは興味深いものであった。

・加齢した HFSC では、ニューロンの神経栄養因子および走化性因子をコードする Bdnf1 転写物のレベルも上昇しており (58)、これがバルジ上部の領域からバルジ自体への感覚ニューロンの誤った配置を説明できる可能性がある。

・ネフロネクチン (Npnt) を含む ECM 遺伝子の変化は、APM arrecter pilli muscle直筋をバルジ ニッチに固定するネフロネクチン:インテグリン軸を考慮すると、APM の混乱に関連している可能性がある。

・老化した皮膚では Treg が減少するという私たちの発見は、皮膚の自然免疫細胞と獲得免疫細胞の両方における加齢に伴う変化のリストに、さらにもう 1 つの要素を追加するものである。HF とそのニッチにおけるこれらの加齢に伴う変化の一部は、疾患関連の脱毛症で起こる変化と類似点があり、HF の小型化と Treg の減少の両方が報告されている。

組織微小環境は SC の本質的な違いを無効にし、老化した HFSC を若返らせる

・私たちの研究結果はニッチ環境が HFSC の行動に与える影響を強調している。

私評

加齢的変化は全身の機能低下の状態を反映しているが、外観にも現れる。その点、皮膚は私たちの体の最外層を覆っており、生物学的年齢を測る上でわかりやすい臓器と言える。具体的な表現系としては創傷治癒遅延や白髪、バリア機能低下による肌の荒れなどなど。皮膚幹細胞は長期的な組織修復機能として自己複製と分化能力を有しているのでその力は皮膚の老化にとって大きな意義を持っている。しかし、今回の論文、数は減少するものの、老化しても幹細胞の性質やポテンシャルは維持されており、いわば若いまま維持されている。その幹細胞が老化しても若い頃同様にスタンバイできているのに対して、周囲の真皮細胞から形成される細胞外マトリックスからなる微小環境(本文中ニッチと呼んでいる)からのシグナルがその機能を決定する重要な組織であるという。
ちょっと端折っていうならば細胞外マトリックスECM成分の老化が幹細胞ひいては皮膚や毛包の老化の原因の一つという言い方もできる。


カクテル 45

ホワイトアレキサンダー white alexander

モーツアルト・ホワイトチョコレートリリキュールとウォッカを同量混ぜてシェイクする。チョコレートリリキュールはそのまま飲んでも美味しいけど案外なところでウォッカとも相性が良いことに気づきます。
お好みでウォッカをブランデーに変えても美味しい(写真はブランデーバージョン)。

ウォッカ  30ml
ホワイトチョコレートリリキュール 30ml
シェイクして注ぐ。

色味からだけでは想像できないようなチョコ味のお酒。甘くて上品。
簡単だし食後にピッタリ。
寒い冬にもリピートしたくなるような一杯。

September In the Rain🎵
Roy Hargrove

サイエンスの話 45 老化時計 ③

2024-08-28 07:04:16 | 日記
前回は長寿者はエピジェネティックにどう定義されるのか、という内容で、長寿者は、老化に逆行して若い人同様の状態を保っている遺伝子群、領域があり、それは機能領域は、細胞接着や免疫さらには精神神経系機能を保つように作用するものだった、という内容でした。

腸ー脳相関とそれを橋渡しする免疫細胞が多くの進化した多細胞生物で突き詰めるとエッセンシャルな部分ですが、そのうち腸内細菌叢は長寿者の解析などですでに明らかなように、抗老化サインが明らかにされている。
また、脳には、前回の論文のように精神神経系機能に関連する遺伝子領域の機能が若く保たれているという報告がある。
そうすると、免疫細胞に関しては、という文脈から今回は長寿者の白血球を調べたら特定の免疫細胞がクローナルと思われる増加を示していた、という内容。

ここでも、
長寿者は百寿者 センテナリアン(centenarian 100歳以上の高齢者)と
スーパー百寿者、スーパーセンテナリアン(supercentenarian 110歳以上の高齢者)
の2種類を定義しています。

驚いたのは、割と最近の数字で100歳以上の高齢者は日本に79000人、これに対してスーパーセンテナリアンとされる 110歳以上の高齢者はわずか141人。110歳の壁はやっぱりすごいんだ、、、かなりびっくり。

Single-cell transcriptomics reveals expansion of cytotoxic CD4 T cells in supercentenarians
単一細胞トランスクリプトーム解析が超高齢者における細胞傷害性CD4 T細胞の増殖を明らかにする
PNAS November 12, 2019 116 (48) 24242-24251 https://doi.org/10.1073/pnas.1907883116


要旨

・スーパーセンテナリアン(110歳以上の高齢者 sc)は加齢関連疾患の発症が遅く、罹患率が低いという特徴があるが、それは免疫系が機能的であることを示唆している。

・7人のスーパーセンテナリアンと5人の若年対照者から得た61,202個の末梢血単核球(PBMC)を用いて、単一細胞トランスクリプトーム解析を行った。

・スーパーセンテナリアンの特徴として、細胞傷害性CD4 T細胞(CD4細胞傷害性Tリンパ球[CTL])の著しい増加が同定された。

・スーパーセンテナリアン人の単一細胞T細胞受容体配列決定により、CD4 CTLが大規模なクローナルに増加しており、それはCD4 T細胞集団全体の15~35%を占めていることが明らかになった。

・CD4 CTLは、CD8 CTLとほぼ同じトランスクリプトームを持っていた。つまり、CD4 CTLがCD4の発現を保持しながらCD8系統の転写プログラムを利用していることを示している。

・実際、スーパーセンテナリアンから抽出したCD4 CTLは、生体外刺激によりIFN-γとTNF-αを産生した。

・本研究により、スーパーセンテナリアンの循環リンパ球にはユニークな特徴があり、これは感染症や疾患に対する免疫応答を持続させることで、並外れた長寿を達成するために不可欠な適応である可能性が明らかになった。


方法・結果

スーパーセンテナリアン7名(SC1-SC7)および対照者5名(CT1-CT5、50代から80代)由来の新鮮なPBMC(末梢血単核球)を、液滴ベースのシングルセルRNAシーケンス技術(10×Genomics) を用いてプロファイリングした。

スーパーセンテナリアンおよび対照群の PBMC の単一細胞トランスクリプトーム プロファイリングを行い、クラスタリングアルゴリズ ムを用いてグループ分けを行ったところ、異なる細胞タイプを表す10の明確なクラスター が見つかった(図1C)。
これを元に、免疫系で重要な役割を果たしているT細胞の中でも
細胞傷害性 T 細胞を 3 つのサブタイプ (CD4 CTL、CD8 CTL、γδ T 細胞) 
に分類した(図1A右の可視化したもの) 。

全体像の比較(図1C)を見ると、左側のSC(スーパーセンテナリアン、スーパー百寿者)では右のコントロールCT(50代から80代の対象者)に比して、TC2T細胞が多く(濃茶)、B細胞(ベージュ)は少なくなっていた。NK細胞(紫)は大きく変わらなかった。

(T細胞は単一細胞トランスクリプトーム解析により2つのグループ、TC1、TC2に分類された。それぞれについては後述していく)

(スーパーセンテナリアンのTC2T細胞が多かった、、というのが入り口)

1 B細胞の著しい減少

細胞表面マーカーを用いたこれまでのFACS解析では、B細胞数はコントロールと比較してスーパーセンテナリアンで有意に減少していた(P = 0.0025)(図2A)。

(抗体産生細胞であるB細胞は減少していた)

2 スーパーセンテナリアンにおける細胞傷害性T細胞の増加

TC1とTC2は、超高齢者と対照者の間でアンバランスだった: TC1は有意に減少し↓(P = 0.0025)、TC2は有意に増加↑した(P = 0.0025)(図3A, B)

(スーパー長寿者では前述のT細胞中のTC1は減少、TC2分画は増加していた^TC2は何なのか、、、以下続く)

さらに詳しくそれら細胞のキャラクターを明らかにするために2つのクラスターを比較し、332の異なる発現遺伝子を同定した。
その結果、
(Seurat)TC2で最も顕著に発現した遺伝子は、細胞傷害性リンパ球の顆粒の構成要素であるNKG7であった。

さらに、最も有意な上位20遺伝子には、GZMH、GZMB、GZMA、PRF1など、パーフォリン/顆粒酵素アポトーシス経路を担う細胞傷害性エフェクター分子をコードする複数の遺伝子が含まれていた(図3CおよびSI Appendix, 図S3B)。

(Seurat:SeuratはscRNA-seqデータ解析を行うRパッケージのことで、scRNA-seqデータの正規化やビジュアライズなどを行う事ができる。)

(TC2は発現した遺伝子プロファイルから、細胞傷害性リンパ球である)

対照的に、(Seurat)TC1はリンパ節転移に必要なCCR7とSELL(CD62Lをコードする)の発現が特徴的であった(SI Appendix, Fig.) これらの遺伝子は通常、ナイーブT細胞とセントラルメモリーT細胞では発現するが、細胞傷害性エフェクターメモリーT細胞では発現しない。

(増加したTC2は細胞傷害性リンパ球のパターンを示しているのに対し、減少したTC1のリンパ球はT細胞の中でもメモリー細胞機能を示すナイーブT細胞とセントラルメモリーT細胞に特徴的)

(スーパーセンテナリアンでは細胞傷害性のTC2が増えているー免疫系は攻撃的)

(Seurat_TC1)の細胞の大部分は、細胞毒性遺伝子を0個か1個発現していた(図3 E, 左)。
細胞傷害性クラスター(Seurat_TC2)では、4つの遺伝子すべてを発現する細胞は超高齢者では豊富であったが、対照群ではまれであり、細胞あたりの細胞傷害性レベルが超高齢者では高い可能性を示している(図3 E、右)。
細胞傷害性T細胞は超高齢者では有意に拡大し(P = 0.0025)、
T細胞の80%に達する個体もあった(図3F)。
これは、細胞傷害性T細胞が全T細胞集団の約10-20%を占めていた対照群とは対照的であった。

(スーパーセンテナリアンにおける細胞傷害性T細胞は多い人ではT細胞の80%だったが、対象群では約10-20%と低かったーその細胞数も多かった)

3 スーパーセンテナリアンにおける細胞傷害性CD4 T細胞の拡大

一般に、細胞傷害性T細胞はCD8+で、非細胞傷害性ヘルパーT細胞はCD4+であり、両者とも二重陽性の胸腺細胞に由来する。
しかしながら、図3Bの分布を見ると、左の緑色の部分がTC2分画で今回SCで増加しているーこれを念頭に、図4Aの分画を重ねてみると、CD8AとBはいずれもTC2の中にある。一方で、CD4はTC1分画ー図3B右のベージュの部分にほぼ一致するものの左側つまりTC2の下の部分にも重なっている。

この解釈は一つ、
攻撃的なTC2細胞群の中にCD4T細胞がいる、ということになる。
また、もう一つのTRDC(T細胞受容体デルタ)図4A右上の方はこれまたTC2細胞群の中にいる。
つまり、TC2分画を構成する細胞群はCD4T細胞とTRDC(T細胞受容体デルタ)細胞群ということが言える。

以上をまとめると、
細胞傷害性T細胞には以下の3つのサブセットが存在することが示唆された。

①CD8細胞傷害性Tリンパ球(CTL)
②CD4 CTL、
③γδT細胞(図4A)

(スーパーセンテナリアンに増加している細胞傷害性T細胞で特徴的なのはCD4 CTL)

そこで、スーパーセンテナリアンにおけるCD4 CTLの拡大を検証するため、
CD3、CD4、CD8、GZMBに対する抗体を用いて、
スーパー長寿者6人(SC1、SC5、SC6、SC7、SC9、SC10)、
セミスーパー長寿者1人(105歳以上;SC8)、対照5人(CT4、CT5、CT6、CT7、CT8)のFACS解析を行った。
全 T 細胞に占める CD4+ GZMB+ 細胞の割合を見ると、スーパー長寿者に増加している細胞傷害性T細胞はCD4+ GZMB+ 細胞 *P < 0.05 だった(図4E SCは緑色、コントロール CTは赤色)

RNA-Seq と FACS 測定によって決定された CD4 CTL の割合の相関をみると、スーパーセンテナリアン SCにおいて増加しているのはCD4 細胞障害性T細胞だということがわかる。

(元来稀なCD4 細胞障害性T細胞がスーパーセンテナリアンで増加している、という発見)

4 T細胞分化過程におけるCD4 CTLの細胞状態の遷移

では次に、
CD4 細胞障害性T細胞は元来ヘルパー機能を発展させて分化していく細胞なので増加しているのはどのあたりの分化レベルのものなのか、どういう機能を持つものなのか、という疑問・興味が出てくる。
以下その答えを探す実験。

T細胞の擬似時間軌跡 Pseudotime trajectory 解析※を試みた。

※擬似時系列解析 Pseudotime analysis Pseudotime trajectory
細胞系譜や細胞分化の推定に経過時間がそれぞれ異なる細胞集団の遺伝子発現を1細胞 レベルで調べ、それらの疑似的な時間経過変化における発 現ダイナミクスを追うための数理モデルが盛んに開発され ている。
例えば、各細胞を他の細胞との発現レベルの差 で重み付けした辺で接続するグラフ構造を考え、発現変化 が最小となるように細胞間を最短で結ぶ経路を疑似時間経 路 (pseudotime trajectory) と呼んでいる(情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report Vol.2020-BIO-61 No.6 2020/3/12 分岐を考慮した時系列シングルセルデータのアラインメントから)。

各細胞には擬似時間として0~12の連続値が割り当てた。
図5A下は、T細胞分化の一般的なスキームを示している。

TN、ナイーブ細胞
TCM※※、セントラルメモリ細胞
TEM※※※、エフェクターメモリ細胞
TEMRA 終末細胞

という分化過程が知られている。

※※セントラルメモリー細胞(Tcm):これらの細胞は主にリンパ組織に限られ、リンパホーミング分子CD62LおよびCCR7を発現する。

※※※エフェクターメモリー細胞(Tem):これらの細胞は、感染防御の第一線で働き、即時型のエフェクター機能を媒介し、循環および非リンパ組織に存在する。リンパホーミング分子CD62LおよびCCR7の発現は低レベル。

終末細胞 (Terma):分化を終えた細胞

結果、
そのトランスクリプトームの変化に基づいて、これらのトラジェクトリーに配置された(図5AおよびSI Appendix, 図S6A)。
これはクラスタリング解析と一致し、TC1(非細胞毒性クラスター)は初期の偽時間に多く分布していたのに対し、TC2(細胞毒性クラスター)は後期の偽時間に多く見られ、2つのクラスターが時間的に明確に分離していることが示された。

(両端の部分、左TC1と右TC2の濃い部分にはっきり分かれるーそれぞれに分化して特殊機能を有する細胞群が存在するのか)

さて、
CCR7はセントラルメモリーT細胞の主要なマーカーであり、エフェクターメモリーT細胞と区別する。
これを用い、図5Bでは、
CCR7発現の急速な減少に続いて、同様の分子CD27とCD28の漸減が観察され(図5B)、初期偽時T細胞がナイーブT細胞とセントラルメモリーT細胞に相当することが示された。

また、
細胞傷害性分子をコードするGZMA、GZMB、PRF1の発現が徐々に増加し、接着分子や遊走分子をコードする転写産物の発現パターンも一致したことから(図5B、SI Appendix、図S6C)、エフェクターメモリーT細胞の分化状態が進行していることが示され、後期偽時間に相当する。

(図5B上 時間と共に下がるのはナイーブT細胞とセントラルメモリーT細胞、一方で下の欄右肩上がりはエフェクターメモリーT細胞が分化していく過程ー合わせると図5Aの下のようなアラインメントとなる)

さらに、
スーパーセンテナリアン(SC)と対照群(CT)の擬似時間に沿ったT細胞の割合をみると、スーパーセンテナリアンでは時間軸が後時間へと移動していて、分化したT細胞が多いことがわかる(図5C)。

次に、
CD4 CTL(n = 5,274)とCD8 CTL(n = 7,643)について擬似時間に沿った全T細胞中のCD4およびCT8 CTLの割合を調べたところ、
CD4 CTLは、CD8 CTLと同様に偽時間の後半に分布しており(図5D)、2つの細胞タイプ間の基本的な機能的相違にもかかわらず、同様の分化過程を示した。

(スーパーセンテナリアンのCD4 CTL細胞傷害性T細胞は、CD8 CTLと同程度多数が、その多くが分化していることがわかるーでは、それは何のために、分化したのかというのが以下)

そして、
CD4およびCD8 CTL間の遺伝子発現の相関について調べると、
CD4 CTLに豊富に存在することが知られている4つの主要な細胞傷害性遺伝子GZMA、GZMB、PRF1、およびNKG7の発現は、CD4 CTLとCD8 CTLの間で擬似時間の後半に沿って同様に増加していた。

(CD4 CTLの4つの特徴的な発現遺伝子パターンを示す細胞は分化後半、つまり、分化したCD4 CTL細胞で多く発現し、まるで細胞傷害性機能を元来持つCD8 CTLのそれと同じ分化度を有しているー増加しているCD4細胞の細胞障害機能はなんらかのターゲットを持って待機している可能性)

しかしながら、
他の2つの主要な細胞傷害性遺伝子GZMHとGNLYの発現は、CD4 CTLとCD8 CTLでわずかに異なるパターンを示した(図5FおよびSI Appendix, 図S6G)。

(おそらくCD4 CTLとCD8 CTLの元来の相違点かもしれないが、CD4 CTLはやや特異化されている度合いが低い、細胞の中に不均一集団がある、という解釈もできる)

また、
他の例外は、2つのキラー細胞レクチン様レセプターをコードするKLRB1とKLRD1であった;すべての時点で、これらの遺伝子の発現はCD4またはCD8 CTLのどちらかで高かった。

(CD4、CD8 CTLいずれかがレクチン様レセプターに対する高い分化応答を示しているー例えば、C型レクチン受容体は細胞外領域に糖を認識するドメインをもつ膜貫通型タンパク質で,真菌や細菌に特徴的な構造を認識する受容体であり、いわゆる病原体に対する免疫応答の発端部分に位置するのは面白い。つまり、推論として、なんらかの免疫刺激を受けてきた結果T細胞が特殊に分化したのか)

まとめると、
CD4 CTLの集団は一見不均一であるが、分化状態は、CD8 CTLと同様に、特徴的な転写パターンによって特徴づけられていた。

(スーパーセンテナリアンでは分化したCD4 CTLが増えていることが発見された。その遺伝子発現パターンはCD8 CTLと元来の同様CD4T細胞と異なり攻撃的なパターンだった)

5 CD4 CTLのクローン拡大

超高齢者においてCD4 CTLが増加するメカニズムを探るため、
CD4 CTLの高レベルが、異なる時点で再現可能かどうかを検討した。

2人の超高齢者(SC1とSC2)から、最初の採血から約1.5年後に新鮮な全血サンプルを再採血し、ネガティブセレクションによってCD4+ T細胞を分離した(図6A)。

結果、
単一細胞トランスクリプトーム・プロファイルは、CD3遺伝子の発現によって特徴づけられるT細胞の高濃縮を確認した(図6BおよびSI Appendix、図S7A)。

CD4 CTLがCD4 T細胞の約62%(SC1)と48%(SC2)を占め、これは同じドナーから採取した最初のサンプルと一致している(図4B)。

この観察結果は、
超高齢者のCD4 CTLは一過性に蓄積されるのではなく、何年にもわたって血液中に存在することを示している。

(変化は一過性のものではないーじゃあ、いつ頃から、何歳くらいから始まったかわかると面白いんだが)

考察

・一般にヘルパー T 細胞と呼ばれる CD4 T 細胞の主な機能は、細胞傷害性分子を使用して標的細胞を直接排除することではなく、さまざまなサイトカインを使用して免疫応答を制御する。
しかし、細胞傷害性特性を持つ CD4 T 細胞、つまり CD4 CTL の存在は、ヒトとマウスで繰り返し報告されている。
ただ、報告されている CD4 CTL の割合は、健康な PBMC (末梢血単球)の全 CD4 T 細胞の数パーセントと一般的に低いが、今回の実験結果ではスーパーセンテナリアンの CD4 CTL 割合のサイズは平均 T 細胞の 25% と多かった (図 4 B および E)。

・増加したCD4CTLの遺伝子発現パターン解析では、GZMA、GZMB、GZMH、PRF1、NKG7 (TIA-1)、GNLY、CD40LG、KLRG1、KLRB1、ITGAL (CD11A) の活性化と、CCR7、CD27、CD28、IL7R の抑制を含む明確な発現プロファイルが観察されたことから、これらが細胞障害性に働くことが示唆される。

増殖した CD4 CTL のヒトにおける生理学的役割は不明だが、最近の単一細胞トランスクリプトーム研究では、ヒト肝細胞癌で腫瘍浸潤 CD4 CTL が特定されている。
さらに、いくつかの研究では、CD4 CTL がマウス モデルで MHC クラス II 依存的に腫瘍細胞を直接殺し、確立された腫瘍を根絶する能力があることが実証される。

・ここで重要なことは、CD8 CTL がほぼすべての細胞に存在するクラス I MHC 分子を認識し、対照的に、CD4 CTL はクラス II MHC 分子を認識するということである。
クラス II MHC 分子は通常、正常な非免疫細胞には存在しないが、腫瘍細胞のサブセットには存在する。
つまり、これは、CD4 CTL が確立された腫瘍に対する腫瘍免疫に寄与し、免疫監視において重要な役割を果たす可能性があり、クラス II MHC 分子を異常に活性化する初期腫瘍細胞を特定して除去するのに役立つことを示している。

(腫瘍免疫、その辺は確かに合理的説明になる)

・CD4 CTL のもう 1 つの潜在的な機能は、抗ウイルス免疫がある。
CD4 CTLとウイルス感染の関連は、CD4 CTLが、繰り返しのウイルス曝露によって引き起こされるクローン増殖を通じて、少なくとも部分的には超高齢者に蓄積していることを示唆している。CD4ヘルパーT細胞からCD4 CTLへの変換の正確な分子メカニズムはまだ不明だが、我々のトランスクリプトームデータは、CD4 CLTとCD8 CTLの遺伝子発現と分化の驚くべき類似性を示しており(図5DとE)、CD4 CTLは細胞表面でのCD4発現を維持しながら、内部でCD8転写プログラムを使用していることを示唆している。

・実際、スーパーセンテナリアンから抽出されたCD4 CTLは、体外刺激によりIFN-γとTNF-αを産生した(図6J)。これは、CD4/CD8系統コミットメントのマスターレギュレーターであるThPOK(別名ZBTB7B)の喪失と、それに伴うCD8系統遺伝子の活性化によって、CD4ヘルパーT細胞がCD4 CTLに再プログラム化できるという以前の知見と一致する。スーパーセンテナリアンにおけるCD4 T細胞の変換による細胞傷害能力の強化は、免疫系が異常細胞や感染細胞をより頻繁に排除する必要がある老化後期への適応である可能性がある。

(ウイルスなど病原体に対しても強いなら、これまた合理的)


私評

前回のゲノムの修飾にしてもそれ自体が原因なのか結果なのかわからない。
ただ、これはとても感覚的にだけれども生まれ持った因子というのは絶対あるんじゃないかと、誰もが思う。実際長生きの家系はあるし、逆に古典的なところで言えばリ・フラウメニ(Li-Fraumeni)症候群のような家族性にがんを多発する遺伝症候群による短命家系もある。
 さておき、スーパーセンテナリアンではやはり免疫系が強かった。きちんと言えば、特徴的なのはCD4ヘルパーT細胞がCD4 CTLが増加し、それがクローナルに増殖している可能性が示唆された。この結果は大変面白い。なぜなら、通常免疫細胞がクローナルに増殖する過程というのは抗原というターゲットに呼応する場合であり、110歳まで応答を引き起こしているのは何か、別の言い方をすれば、長寿に良い抗原刺激があるのか、それは何か、興味深い。この点に関して、文中にちょっと触れられているレクチン様レセプターが一つのヒントかもしれない。レクチン様レセプターは真菌や細菌に特徴的な構造を認識する受容体なので、そうした外部からの免疫刺激を受けてきた結果、特徴的なCD4 CTLの増加に寄与していると考えればそれをヒントとして捉えることもできる。実際に我々多細胞生物も常に多種多様な多くの細菌、例えば腸内細菌などと共生しており、切っても切り離せない関係にある。こうした共生関係には常に情報交換(クロストーク)が存在するので日常の中で自然免疫という一つの機能的部分を構成する一要素となっているとも言えるだろうし、その長年における蓄積の結果というのが多細胞生物にとっても大変重要なことは容易に想像できる。
 さらに具体的に言えば、腸管を介して身体の免疫に作用する重要な因子といえばやはり食べ物である。食物の中に良い自然免疫を惹起する抗原があるのではないか、と想像してしまう。長寿と食物のきっちりした統計はありそうでない。でも、世界中でいわゆる長寿の地域はいくつも知られている。当然サルディニアなどでは遺伝子も濃縮されているだろうが、食物で言えば長寿の食べ物として豆類、全粒の穀類、家庭菜園の野菜、豆類、ナッツ類の摂取が多い傾向にある。https://www.asahi.com/relife/article/14836033 
例えば、全粒の穀類とは日本でいえば玄米、玄米において白米と比較して多い成分とは、、、そうしたものに多く含まれる、クロストークに関連する存在として知られている成分もすでにあるし色々と想像が膨らむ。



カクテル 44

アフリカン クイーン african queen

「アフリカの女王」という名のバナナとオレンジの甘くて濃い風味がサバンナを思い起こさせる。実際バナナリキュールがオレンジのツンとした感じを和らげてくれる。辛口のお酒群の中にあって割とこってりした甘さがウリのカクテル。

クレーム・ド・バナーヌ 20ml
ホワイト・キュラソー  20ml
オレンジ・ジュース   20ml
シェークしてグラスに注ぐ。



夕日を思わせるオレンジ色。アフリカ、、サハラ、映画カサブランカのイメージ、砂漠の焼けた感じ、うーん、なかなかのロマンだなあ、、、、といきたいところだが、この夏なんか東京の方がアフリカより暑いんじゃないか、とブツブツ言っている自分がいる。

Things We Did Last Summer 🎵
Roy Hargrove Quintet

サイエンスの話 44 老化時計 ②

2024-07-24 07:06:16 | 日記
日本人の長寿者をピックアップし、対象として20~80歳の健康であることが明らかな人(非高齢者)とその加齢に伴うメチル化などのエピジェネティックな変化を大規模にスクリーニングし、比較することで、加齢変化の重要な因子とされている部位や程度を明らかにし、より正確なエピジェネティック時計を作成できないか、また長寿者はエピジェネティックにどう定義されるのか、という内容の論文。

Epigenetic profile of Japanese supercentenarians: a cross-
sectional study
日本人スーパーシニアのエピジェネティック・プロファイル:横断的研究
https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanhl/PIIS2666-7568(23)00002-8.pdf

www.thelancet.com/healthy-longevity Vol 4 February 2023
Lancet Healthy Longev 2023; 4: e83–90  See Comment page e57


ちなみに、
長寿者はセンテナリアン(centenarian 百寿者 100歳以上の高齢者)と
スーパー百寿者、スーパーセンテナリアン(supercentenarian スーパー百寿者 110歳以上の高齢者)の2種類(110歳の節目はやはり偉大)。


結論

・多くの特徴的な加齢に伴う変化を見つけた。

・長寿者は、非高齢者に比してそれらの変化に逆行して若い人同様の状態を保っているエピジェネティックな遺伝子群、領域があった。

・それらの機能領域は、細胞接着や免疫さらには精神神経系機能を保つように作用するものが含まれていた。

・このようなデータは基づき、より正確なエピジェネティック時計を示すことができる。


方法、対象

2013年5月20日~2016年3月31日に募集した
非高齢者421例(女性231例[55%]、男性190例[45%];年齢範囲20~78歳)と、
2001年1月20日~2018年4月17日に募集した
百寿者とスーパー百寿者94例(女性66例[70%]、男性28例[30%];年齢範囲101~115歳)。

 参加者の全血DNAメチル化プロファイルを評価し、回帰分析によって性特異的および非特異的な第一世代エピジェネティッククロックを作成し、個人のエピジェネティック年齢を算出し、年齢加速を評価した。
また、エピゲノムワイド線形回帰分析およびANOVAにより、非高齢者における年齢に関連するCpG部位をスクリーニングした。

続いて、百寿者とスーパー百寿者のどのCpG部位が、非百寿者から得られた加齢に関連する知見に従ったDNAメチル化パターンを有し、どのCpG部位がそうでないかを調べた。
さらに、濃縮解析とタンパク質間相互作用ネットワーク解析を用いて、百寿者と超高齢者におけるメチル化亢進あるいはメチル化亢進CpG部位の特徴を明らかにした。

エピゲノムワイド関連解析ではさらに、百寿者とスーパー百寿者は、がん関連遺伝子と精神神経関連遺伝子に濃縮された557のCpG部位について調べた。


結果

百寿者とスーパー百寿者のDNAメチル化プロファイルの特徴づけ

・男女差

性特異的EWASにより、女性では3731箇所、男性では7525箇所の年齢関連CpG部位が同定された。女性では1217箇所[33%]が正の関連、2514箇所[67%]が負の関連であり、男性では1071箇所[14%]が正の関連、6454箇所[86%]が負の関連であった(図3A-D)。

両性における年齢関連CpG部位2109個(408個[19%]が正、1701個[81%]が負)のうち、3個(1%未満)を除くすべてのCpG部位が、性と細胞組成で調整した非性特異的EWASによって再現され(付録2 p 13)、これらの年齢-CpG関係は細胞組成や性には影響されないことが確認された。

(見出した年齢関連CpG部位保ほぼ全部が年齢-CpG関係に性差はない)

・加齢に関連するCpG部位、関連しないCpG

加齢に関連するCpG部位(posHypo)の約60%はCpGアイランドにあり、加齢に関連しないCpG部位(negHyperとnegHypo)の70%はオープンシー領域(遺伝子調節領域や遺伝子間)にあった(付録2 p27)。

また遺伝子アノテーションの割合も、2つのCpGグループ間で異なっていた。正の相関を持つCpGサイトは、負の相関を持つCpGサイトと比較して、エクソンに位置する頻度が高く、遺伝子間領域に位置する頻度は低かった。

(多分に機能と関連していそうだ)

エンリッチメント解析

有意にメチル化過剰またはメチル化過剰であったCpG部位を選択した。
これらの結果から、4つのCpGカテゴリーを定義した: 

1. 100 歳以上の人で年齢と負の関連があり、100 歳以上の人と超 100 歳以上の人で高メチル化されているもの (negHyper と呼ぶ)

2. 100 歳以上の人で年齢と正の関連があり、100 歳以上の人と超 100 歳以上の人で高メチル化されているもの (posHyper と呼ぶ)

3. 100 歳以上の人で年齢と正の関連があり、100 歳以上の人と超 100 歳以上の人で低メチル化されているもの (posHypo と呼ぶ)

4. 100 歳以上の人で年齢と負の関連があり、100 歳以上の人と超 100 歳以上の人で低メチル化されているもの (negHypo と呼ぶ)



ここはポイントなので
メチル化ー抑制化、脱メチル化、非メチル化ー活性化と簡略化して、
筆者らの定義する上記4つのカテゴリーと方向性、長寿者(百寿者とスーパー百寿者)の結果をシンプルに簡略して書き換えて見ると、

    非高齢者       想定される変化  長寿者の結果
                       非高齢者に対し(作用)
1 negHyperー老化に伴うメチル化⬇︎ー活性化   逆 (抑制)
2 posHyperー老化に伴うメチル化⬆︎ー抑制化   順 (抑制)
3 posHypo ー老化に伴うメチル化⬇︎ー活性化    順 (活性)
4 negHypo ー老化に伴うメチル化⬆︎ー抑制化    逆 (活性)



本文に戻り、
それぞれのエンリッチメント解析の結果は、

⑴細胞接着に関連した遺伝子グループ 
(エピジェネティック変化の結果として長寿群で活性化される遺伝子)

posHypo CpG部位は細胞接着に関連したグループで濃縮されていた(付録2 p15)。

癌遺伝子 (長寿で抑制化)

癌遺伝子は、隣接するnegHyper CpG部位を持つ遺伝子(近傍で)に過剰に発現していた(付録2 p 28)。

免疫関連遺伝子 (長寿で活性化)

免疫関連遺伝子は、百寿者や超百寿者においてさらに脱メチル化された、負の年齢関連CpG部位(negHypoカテゴリー;付録2 p28)において過剰に発現していた。

CD44抗原 (長寿で抑制化)

negHyper遺伝子のタンパク質間相互作用ネットワーク解析では、6つのネットワークが形成された(付録2 p27)。最も大きなネットワークは51のタンパク質で構成され、CD44抗原の中心性が最も高かった。

cd44ネットワークの反対側にあるハブタンパク質 (長寿で活性化)

ネットワークの反対側にあるハブタンパク質(例えば、AUTS2、CNTNAP2、ITPR1、NRXN1)は、隣接するタンパク質とともに、注意欠陥多動性障害、運動失調症、自閉症スペクトラム障害、双極性障害、知的障害、統合失調症など、多くの精神神経疾患に関与している。 
百寿者の推定年齢は暦年齢よりも若いこと、とくにCD44 を中心としたがん関連遺伝子とCNTNAP2 などの認知機能にかかわる遺伝子群のエピゲノム状態が若い人と同程度に維持されていることがわかった。

 プロトカドヘリンβ  (長寿で活性化)     

クラスターposHypo遺伝子については、神経細胞接着に機能するプロトカドヘリンβクラスターに属するタンパク質の1対にのみ相互作用が見つかった(付録2 p27)。

TGF-βシグナル伝達に関連する3つのタンパク質のネットワーク 
(長寿で活性化)  

百寿者において脱メチル化が亢進している遺伝子の蛋白質間相互作用解析とその結果超高齢者(negHypoカテゴリー)では、TGF-βシグナル伝達に関連する3つのタンパク質のネットワークが示された: 
SMAD7はTGF-βシグナル伝達を阻害し、ACVR1はSMAD7を活性化し、TAB2はTGF-β刺激によって受容体複合体から遊離され、TGF-βシグナルを下流に伝達するTAK1を活性化する(付録2 p27)。
したがって、百寿者と超百寿者におけるこれらのCpG部位のDNAメチル化の減少は、SMAD7のアップレギュレーションと関連している。

(長寿群では、抗炎症反応に関与し、健康的な老化に寄与することが知られているTGF-βシグナルだが、TGF-βに関連する遺伝子に代表されるCpG部位について、若いエピジェネティックな状態、つまり、非高齢者と同様のDNAメチル化プロファイルを示し、実際にアップレギュレーションされていると考えられる。)

(綺麗な結果)

考察

・百寿者とスーパー百寿者のエピジェネティック年齢が、彼らの年代よりも著しく低いことを示している。しかし、これらのエピジェネティックな年齢が生物学的年齢を反映しているかどうかは、今後検証されなくてはならない。

・健康的な長寿が、エピジェネティックな老化を遅らせることに依存するのか、それともベースラインのDNAメチル化状態が若いことに依存するのかが、次の関心事であろう。


私評

老化に影響するのはエピジェネティックな変化だけではないものの、最初の老化時計の提案者が2013年にエピジェネティックから指摘したことから重要な因子の一つであることは間違いない。

現時点ではエピジェネティック時計は最良の老化時計であると考えられており、今回のデータを見ても細胞骨格を強化する因子や接着因子、TGFなどの免疫系が活性化方向に、癌遺伝子系は抑制方向に、若者と同じように長寿者で働いていることは、ガンなど寿命に大きく関わる病気に抵抗する能力が高いことが読み取れてとても納得できる。

また、その機能損失が精神神経疾患に関与することが知られるハブ遺伝子群の動向も老化のフェノタイプとしての脳神経系の老化という観点からこれに合致している。

そもそもメチル化の変化は後天的にも生じる変化であり、そうした意味では可逆的で、巻き戻すことが理論上可能だが、メチル化・脱メチル化が起きる場所が今回もわかるようにゲノム上に膨大に存在し、両方向に動くので単純に薬剤でそれらを抗老化の方向に変えるということはとても難しい。あとは、考察にもあるように、もともとそういう抗老化システムを持っているのか、後から獲得したのか、いまは不明。

ということで、現状日常の生活の中で特に習慣になっている食事、睡眠、気分などメンタル、、どうすれば良い方向に働いてくれそうか、じっくり見直してみられるのも良いのではないでしょうか。

カクテル 43

プリシア・ミスティア・キミア Puricia Mistia Kimia

果実のリキュール3種類。
オンザロック


Puricia は梅をブランデー漬けして作られるフランスのリキュール。ソーダ割りにするともろ普通の梅酒。

Mistia は同じくマスカットのリキュール。マスカットジュースぽくて美味しい。
いずれもそのままの味が個性的なのでソーダ割りで軽く飲みたいときや、あるいはお酒があまり強くない人向けという表現もできるかもしれません。

Kimia はキンカンのリキュール。
これはなかなか想像つかない味。基本は柑橘系なので他と同様に甘酸っぱいのですが、どれとも違う奥深さがあります。言い方を変えれば、ほかの2つのように個性が突出していないので何にでも合う。トニックウォーターを使ったKimiaトニックとか、ジンやウォッカで割ってとかいくつか知られているものがあります。
でもって、ここはサラッと簡単にソーダ割りで。


暑い夏の日にも最適。
見た目も涼しそうでしょう。


You Make Me Feel so Young ♫
Emilie-Claire Barlow

サイエンスの話 43 老化時計 ①

2024-06-28 09:15:21 | 日記
タイトルしか見ていないけれど
「九十歳。何がめでたい」
という最近の映画が面白いらしい。
連想するに、確かに齢をとれば確かに誕生日もだんだん憂鬱になるのはよくわかる。でも、よく考えてみると90歳にになるということはその前に80歳になっているわけだし、その前に70歳になっているわけだし、、、そこまで生きられない人だって大勢いるわけであって、、それはそれで良いじゃないか、、、でも、、、やっぱり、歳の数の多い少ないだけじゃないよな、人生は、、、などと考え出すとまたぐるっと回って振り出しに。確かに、外来などではカルテにある年齢とだいたい相応なのだけれども、たまに実年齢より非常に若い人、逆の人、いろいろお目にかかることができる。それが見た目だけではなく臓器の働きなど身体の中身もそうであれば健康や寿命という問題に関係してくるかなり重要な要因となりうる。

そうした背景から、暦年齢とは異なる「生物学的年齢」という概念。
生物学的年齢は、暦年齢よりも身体的健康状態や死亡率をより正確に反映している。科学者たちはこの10年間、体内にあるマーカーを測定して生物学的年齢を割り出す、「老化時計(エイジング・クロック)」と呼ばれるツールを開発してきた。
つまり、現状のデータを入力すればそこから死因や余命を推定できるという時計が作成されるというロジック。
しかし、人間社会は多種多様であり、生活も行動も皆違うので的確な時計による生物学的年齢の算出は難しい。

そこで、今回の論文、AIの進化バージョンである深層学習(ディープラーニング)モデルを駆使して、多層のニューラルネットワークを用いて特徴表現を重ね合うことで、全体像を構築した、一種のアルゴリズムを構築したより正確な「老化時計(エイジング・クロック)」を作成したらとても的確なものができたよ、という内容。

※ 深層学習(ディープラーニング)モデルは、入力から出力への複雑な関係を表現できる多層のニューラルネットワーク(ヒトの神経組織におけるニューロン形成を模したシステムー後述)。ニューロンの層を多く重ねることで、入力データの抽象的で豊富な特徴表現を学習することができる。この特徴表現を利用して、画像認識や機械翻訳など、人間並み以上の判断が可能となり、高度な分析能力が得られる。
 
例えば、具体的には、画像認識の場合、低い層ではエッジや色、テクスチャといった単純な特徴を、高い層では顔や車などのパーツを認識します。多層のニューラルネットワークによってこれらの特徴表現が階層的に構築され、画像全体の意味を理解できるようになる。音声認識や自然言語処理にも応用されている。深層学習(ディープラーニング)によって、従来の人工知能では不可能だった高度な認識と判断が実現しできる。

(分子生物学以外は専門外なので今回は訳注が多くなります)

Deep learning-based prediction of one-year mortality in Finland is an accurate but unfair aging marker
フィンランドにおけるディープラーニングに基づく1年死亡率予測は、正確だが不公平な老化マーカーである
    
Published: 24 June 2024
Nature Aging (2024)Cite this article

要旨

個人の虚弱性を示す短期的な死亡リスクは、老化のマーカーとして機能する。これまでの老化時計エイジング・クロックは、年代または長期的な死亡率を予測することに重点を置いていた。短期死亡率を予測する加齢時計は不足しており、そのアルゴリズム的な公平性は未検証のままである。我々は、フィンランド人口の全国縦断データ(FinRegistry; n = 540万)を用いて、1年死亡率を予測するディープラーニングモデルを開発した。
曲線下面積(AUC)は0.944を達成し、年齢と性別のみを含むベースラインモデル(AUC = 0.897)を上回った。モデルは、訓練データにはなかったコロナウイルス疾患2019を含め、さまざまな死因によく一般化した(50の死因のうち45の死因でAUC>0.800)。
人口統計学的属性によって性能にばらつきがあり、若い女性が最も良好な結果を示し、高齢男性が最も悪い結果を示した。
広範な予測公平性分析により、不利なグループ間の格差が浮き彫りになり、公衆衛生介入への公平な統合への課題が提起された。
われわれのモデルは短期的な死亡リスクを正確に同定し、集団全体の老化マーカーとして機能する可能性がある。

※曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)とROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve,ROC )
ROC曲線は検査や診断薬の性能を評価する統計手法に用いられるもので2次元のグラフに表し、異常と正常を区別するカットオフポイントごとに真陽性率(=TPF)と偽陽性率(=FPF)を計算し、縦軸にTPF、横軸にFPFをとった平面にプロットして線で結んで表す。ROC曲線を作成した時に、グラフの下の部分の面積を曲線下面積AUC(Area Under the Curve)とよぶ。AUCは0から1までの値をとり、値が1に近いほど判別能が高いことを示す。判別能がランダムであるとき、AUC = 0.5となる。

(AUCは今回非常に多く使用されるパラメーターで非常に大切。簡単に言えばAUCはシステムの判別能力の指標)

背景

老年期の死に至るメカニズムと生物学的不均一性の増大の原因を解明することは、依然として老化研究の中心的な問題であり、個人の老化状態(生物学的年齢)を測定することは、この疑問に取り組むための重要なステップである。

分子老化時計は、生物学的年齢を測定する主要な手段である。
分子老化時計は当初、様々なオミックスデータを活用することにより、年代を予測するために開発され、この目的では顕著な精度を示した。
しかし、老化メカニズムを理解する上でより適切な課題である、年代を超えた死亡率を予測する能力については、控えめな結果しか得られていない。その後の世代の分子老化時計は、バイオマーカーと死亡率データを用いて生物学的年齢を予測するよう特別に訓練されてきた。

オミックスデータ
細胞内で遺伝子を発端に様々な化学反応や活性が起こるが、それぞれの分子レベルで区切った一定の集合を総体(オーム、-omeと命名されている具体的にはゲノム Genomeやトランスクリプトーム Transcriptome、プロテオームProteome、メタボローム Metabolome、インタラクトーム Interactome、セローム Cellomeなどと呼ばれる、様々な網羅的な分子情報をまとめた情報、知識、集合のこと)、総合してオミックスと呼ぶ。
オミックス情報は、それぞれの集合レベルをシステム制御の概念で繋ぐ複数の分子情報のネットワークとして考えることができるので、生命を分子的ネットワークのシステムとして理解する上で重要。

(ここに至る背景としては、そもそも歴史的に老化時計の提唱者がエピジェネティックマーカーのパターン変化が老化に大きく影響するのではないか、といういくつかの知見を発見しことから、人の生物学的年齢を推定するにはエピジェネティックマーカーを追え、というブームが起きた。その発展系の一つがオミックスデータというゲノムのみならずもっと包括的なデータを組み込んだものに相当する。)

老化の軌跡のばらつきを説明する上で老化時計が有用であることは言うまでもないが、平均余命と死亡リスクを決定することは、公衆衛生、医学研究、政策立案にとって依然として基本である。
短期死亡リスクのある個人を正確に特定することは、リスク低減のための介入を計画する上で極めて重要である。短期死亡予測は、終末期医療の質を高めると同時に、医療資源配分を最適化してコストを最小化する上で大きな価値を持つ。

(なんかこういう発想はその先が怖い気もするが、、あくまで研究として)

機械学習における最近の進歩は、デジタル化された医療・社会経済情報が集団レベルで広く利用できるようになったことと相まって、患者の将来の健康軌跡を予測し、医療上の意思決定を支援するアルゴリズムの開発に道を開いた。公正なアルゴリズムというのは、先天的または後天的な属性に基づき、いかなる個人またはグループに対しても偏りや選好を示すべきではない。

ディープラーニング(DL)モデルは、膨大な量のデータを活用することができ、前処理や特徴工学を最小限に抑えることができる。
DLモデルの明確な利点は、個人の縦断的な履歴を分析できることであり、社会経済的情報だけでなく、受診を含むさまざまなイベント間の経過時間を考慮することができる。
一方で、これまでのDLアルゴリズムが不公正である例もあり、特に、社会的に不利な立場にある個人に対して性能が低い場合、彼らは医療を受ける上でより高い障壁に直面している可能性があり、その結果、より多くのデータの欠測や、最終的に予測を歪める測定誤差が生じて、結果、予測モデルの成績が悪かったこともある。

(これまでのDLアルゴリズムの利点と弱点について)

そこで、今回の研究では、フィンランドのすべての住民の1年死亡率を、包括的で全国的な複数カテゴリーの情報を用いて正確に予測し、健康状態、地理的位置、社会経済的特徴に従って定義された異なるグループ内で、予測精度がどのように異なるかを評価することを目的とした。この目的を達成するために、我々は最先端のDLモデルを開発した。

これまでに開発された老化時計や、電子カルテ、環境・生活習慣要因、バイオマーカーのデータを用いた死亡率予測に焦点を当てた研究とは対照的に、我々は3つの重要な革新を導入した。

(今回の新しく作成したDLアルゴリズムの特徴ー3つの革新性)

第一に、フィンランドの全人口を対象とすることでサンプルサイズを大幅に拡大し、確認バイアスを軽減した。

(やはり統計はnで勝負。フィンランドの人口は5.4 million。)

第二に、全国的な登録から得られた包括的で質の高いデータを取り入れ、これまでにない縦断的な予測因子のカテゴリーを活用した。特に注目すべきは、これまでの研究では限定的であった、広範な社会経済的情報である。

(8,000 features spanning up to 50 years という膨大な数の因子を解析に投入し、540万人という移民を除けば割と均一な社会構成のほぼ全国民を解析することで非常に精度の高いシステム構築を目指した)

第三に、我々は、瞬時の死亡リスクを予測できるスコアは、長期的な死亡予測モデルと比較して、老化メカニズムについてより深い洞察を提供する可能性があるという仮説を立てた。
というのも、これまでのオミックスデータを用いた先行研究では、死亡事例が限られているため、短期的な死亡率の頑健な予測因子をトレーニングすることが困難であった。
われわれは、国のデータベースから数百万人から縦断的(longitudinal 時間経過を追って)に収集した広範な医学的、社会人口統計学的、地理的データを用いて、短期(1年)死亡率を予測するためのデジタル老化時計を開発した。
分子老化時計の概念に沿うように、われわれのアプローチは、分子マーカーとは対照的に、医療・福祉システムからの二次的な電子データの使用を反映して、デジタル老化マーカーまたは時計と呼んでいる。しかし、我々のモデルが死亡率予測に重点を置いていることを考慮すると、死亡率予測に重点を置いているのではなく、死亡率予測に重点を置いているのである。

(瞬時のあるいは短期の死亡リスクーここでは解析から1年以内と定義しているーが、要するに、老化から死亡に至るまでのいわゆるエッセンスはそこに凝集されている、それで老化時計アルゴリズムの作成には十分ではないかと考えた。)

われわれは、数百万人から縦断的に収集した広範な医学的、社会人口統計学的、地理的データを用いて、短期(1年)死亡率を予測するためのデジタル老化時計を開発した。分子老化時計の概念に沿うように、われわれのアプローチは、分子マーカーとは対照的に、医療・福祉システムからの二次的な電子データの使用を反映しさせた老化時計である。
つまり、分子マーカーではなく、医療および福祉システムからの二次電子データを使用していることを反映し、モデルは年齢推定ではなく死亡率予測に重点を置いているため、デジタル死亡率マーカーという用語の方が正確かもしれない。

最終的に、われわれの研究は、これまで達成できなかった詳細なレベルでの差別化された予測を可能にした。例えば、不利な立場にある個人を特定するために詳細な経済データを活用し、老化と死亡率時計に内在する公平性の側面についての理解を深めた。

(これまでの分子生物学的なアプローチではない点を強調、結果としてより良い時計ができた)

結果

アルゴリズム作成の対象、方法ならびに
調査対象者、データ、モデル

FinRegistry (https://www.finregistry.fi/)は、フィンランドの全人口の健康状態や社会人口統計学的データへのアクセスを提供する、包括的な登録ベースのデータリソースである。このリソースの特徴は、医療機関の受診、健康状態、投薬、外科手術、人口統計学的特徴、福祉給付、年金、詳細な社会経済情報など、データカテゴリーの幅が広いことである(データソースの詳細な説明は補足情報にある)。特筆すべきは、これらの情報の中には1970年代までさかのぼる数十年にわたるものもあることである。死因登録は、死亡事象と死因(COD)に関する包括的な情報を提供しているため、本研究と特に関係が深い。

FinRegistryは、2010年1月1日時点でフィンランドに居住するすべての個人と、その両親、配偶者、子供、兄弟姉妹を対象としている。本研究では、2020年1月1日時点で生存し、移住していないすべての個人を対象とした(n = 5,364,032、詳細な研究概要は図1a)。我々の目的は1年以内の全死因死亡率を予測することであり、この期間内に死亡する人は約1%である。予測の一般化可能性を確保するため、トレーニング、検証、テストには連続する3年間を考慮した。具体的には、トレーニングでは2018年、検証では2019年、テストでは2020年の死亡率を予測した。このようなシフトにより、検証期間とテスト予測期間は、トレーニング中のモデルにとって「未経験」のままであることが保証された(図1b)。コロナウイルス感染症2019(COVID-19)のパンデミックは2020年に医療システムを混乱させた。したがって、この年を予測に使用することは、モデルの頑健性を評価するための厳密な「ストレステスト」となった。

モデルを構築するために、我々は固定時間的特徴と縦断的特徴の両方を使用した(図1c)。モデルの構築には、時間経過とともに固定された特徴と縦断的特徴の両方を使用した (図 1c)。
縦断的特徴では、異なるイベント間の期間に関する時間的情報を保持しながら、登録簿に表示されたとおりにコード化された記録を使用しました。
時間経過とともに固定された特徴は、基本的な人口統計情報など、個人の生涯を通じて一定である情報を取得するためにのみ使用された。
両タイプの特徴を組み合わせることで、各個人の動的特徴と静的特徴の両方を捉え、予測を向上させた。全体として、我々は8,620の特徴を含み、そのうち90は時間的に固定され、8,530は縦断的であった。


※縦断(的)研究(longitudinal study, longitudinal survey)とは、医学研究、社会科学、生物学におけるの研究形式の一種で、同一の変数(人など)を短期間または長期間に亘って繰り返し観察する(つまり、縦断的データを用いる)研究デザインである。観察研究の一種であることが多いが、縦断的無作為化試験として構成されることもある。

(まあこの辺は大掴みに、さらっと行きましょう、、、)

さらに、
経時的な事象間の複雑な相互作用を捉えるために、
ゲート型リカレントユニットを持つリカレントニューラルネットワーク(RNN)を使用した(図1d)。

リカレントニューラルネットワーク(Recurrent neural network, RNN)


ニューラルネットワーク (人工ニューラルネットワークまたは ANN とも呼ばれる) は、人間の脳に似た層構造内で相互接続されたノードまたはニューロンを使用して学習を行う適応システムであり、このネットワーク内には循環が存在する。つまり、ユニットの出力が何らかの経路で自身へ再び入力する場合、これを回帰型ニューラルネットワーク、回帰のないネットワーク(順伝播型ニューラルネットワーク; Feed-Forward Network; FFN)と呼ぶ。循環してフィードバックするので自動調整し、学習してより複雑なタスクが実行できるようになる。

RNNは、患者の健康履歴をモデル化するのに有効であり、臨床イベントの予測において、トランスフォーマーなどの他の逐次DLモデルと同等の性能を実証している。

(引用論文の内容:臨床データに人工知能手法を適用したRNNは臨床歴の疾患コードのシーケンスで機械学習モデルをトレーニングし、膵臓癌発生の予測をした結果、36 か月以内のがん発生の場合、最良のモデルのパフォーマンスは (AUC) 曲線下面積 = 0.88 であった。結果、膵臓癌を早期に検出することでリスクの高い患者に対する現実的な監視プログラムを設計する能力が向上、寿命と生活の質が向上できそうだ。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37156936/)

続いて、より単純なベースラインモデルに対して我々のDLモデルを評価するために、死亡率の予測因子として年齢と性別のみを含むロジスティック回帰モデルを使用した。

(比較対象としてベースラインモデル base line modelと呼ぶ単純化したものを用いた)

モデルのパフォーマンス

RNNモデルには290万個の学習可能なパラメータが含まれ、二値分類において0.944(95%信頼区間(CI)=0.942-0.946)の受信者動作特性曲線下面積(AUC)を達成し、年齢と性別のみに依存したベースラインモデルを上回った(AUCは0.897(95%CI=0.894-0.899);図3a)。さらに、RNNモデルは、予測値と真のラベルの間の平均二乗誤差(MSE)が低いことが示すように、優れたキャリブレーションを示した(図3b)。RNNモデルは、ベースラインモデルよりも高い精度-再現曲線下面積(AUPRC)を達成した(0.223対0.119;図3c)。AUPRCはクラス不均衡の程度に影響され、我々の研究で観察されたように、クラス不均衡が大きい状況では低くなると予想されることは注目に値する。

※二価値分類 または二項分類(Binary classification)は、オブジェクトの集合を個々のオブジェクトがある特定の属性を持つかどうかで2種類にグループ分けする分類作業である。 二値分類、2クラス分類とも呼ばれ、多クラス分類において分類先のクラス数が2の場合と考えることができる。

・RNNモデルは、テストデータセットで発生した全死亡の69.5%を高リスク群と予測したのに対し、ベースラインモデルの予測は全死亡の49.6%であった。全体として、RNNモデルは、中リスクグループと高リスクグループの区別において、ベースラインモデルを上回った。

CODと年齢に応じたモデル性能

医学的および社会経済的に関連する異なるグループにわたるモデルの頑健性をテストするために、まず、異なる死因(causes of death, COD)と年齢に基づくグループを検討した。我々は2つの異なるアプローチをとった。

1つ目のアプローチは、母集団全体における特定のサブグループの予測可能性または同定可能性を評価するグループ同定である。
第二のアプローチは、集団の特定のサブグループ内での予測性能を、同じ集団の別のサブグループ(例えば、特定の年齢層)と相対的に比較する集団分化である。

群同定法を用いて、50の異なるCOD(5例以下の症例数が不十分であったため、5つのCODを除外した;図4a)にわたる死亡率予測を比較した。異なるCODの頻度は大幅に異なり、外部COD(事故や自殺など)の1%未満から、最も一般的なCOD、すなわち虚血性心疾患と認知症のそれぞれ15.8%と18.8%までであった(図4aの右端)。RNNモデルはCOD全体で良好な予測性能を示し、50COD中45CODで0.8以上のAUCを達成した。事故と暴力に関連するCODの予測性能は、病気に関連するCODよりも大幅に低かった(平均AUCはそれぞれ0.761と0.939)。それにもかかわらず、RNNモデルは、特に事故と暴力に関連するCODについて、平均AUCが0.11向上し、ベースラインモデルを大幅に上回った(図4aの水色のバー)。RNNモデルは、学習データにCOVID-19による死亡がないため、COVID-19による死亡を予測するようには設計されていなかったが、0.956という高いAUCを達成した。

※群同定法 Subgroup identification Method
国際調査データにおける国・地域による 「違い」を見出すための統計的方法。サブグループ(subgroup) 通常の回帰分析を用いたときに得られる国・地域 によらない「共通要因」による解釈に対して,国・地域による「独自要因」の要素を加えることが期待される。
(例えば,景観評価の国際比較研究に おいて「景観の美しさ」に対する満足度を応答とし,説明 変数として「ゴミが落ちているか否か」を考察することを 考える時、ゴミが落ちていることで景観の美しさ が損なわれると感じる度合いは国・地域で異なるかもしれ ない.。そこで、空気が悪い、ゴミが多い、臭わない、騒音、歩きやすい、混雑している、障害物が多いなど共通するサブグループの要因を多く解析してよりデータに普遍性を持たせることができる)

続いて、
RNNモデルもベースラインモデルも、高齢で発生したCODの予測に優れていた。例えば、平均年齢87.9歳で認知症により死亡した人は、両方のモデルによりよく予測された(RNNとベースラインについて、それぞれAUC = 0.989と0.971)。逆に、RNNモデルは、若年者に発生したCODを予測するのに大幅に優れていた。例えば、自殺(平均年齢=46.3)は、ベースラインモデルと比較して、RNNによって大幅に良好に予測された(AUC=0.702対AUC=0.539)。全体として、死亡時の平均年齢は、ベースラインモデルのAUCの違いに寄与する主要因であった(R2 = 0.992)が、RNNモデルではこの関連は弱かった(R2 = 0.809)。興味深いことに、各CODの有病率と予測性能の間には明確な関係はなく、まれなCODと一般的なCODの両方が高いAUCを達成した(ベースラインモデルとRNNモデルでは、それぞれR2 = 0.091と0.057)。

COD予測可能性が年齢と強い相関を示したため、モデル性能と死亡時年齢の関係をさらに明示的に検討した。グループ同定アプローチ(図4b)とグループ分化アプローチ(図4c)の両方を用いて、この関係を詳細に調べ、各アプローチを比較した。

まず、グループ同定アプローチを使って、年齢とは関係なく、全人口の中で特定の年齢群内で死亡した個人をモデルがどの程度同定できるかを調べた。結果はCOD解析の結果と同じで、RNNモデルもベースラインモデルも、高年齢層でより良い予測を示した。RNNモデルは、特に若い個体の群において、顕著に優れた結果を示した(図4b)。

(老年層も若い層でもAUCが高い。基本nが少ない若年層でもより有効であった。)

次に、グループ分化のアプローチを用い、症例と対照を特定の年齢群に限定してモデル性能を評価した(図4c)。

グループ識別タスクとは対照的に、RNNモデルの予測性能は年齢が高いほど低下し、若い男性よりも若い女性の方が高い性能を示した。
ベースラインモデルでは、最も年齢幅が広く、症例と対照の年齢差の制御が十分でない若い年齢群を除き、各年齢ビンにおいて、性能はランダム推測レベル(AUC ~0.50)であった。
各年齢グループ内で症例と対照の年齢と性別を正確にマッチングさせた後、ベースラインモデルは、RNNモデルではなく、すべての年齢グループでランダム推測レベルのパフォーマンスを示した(Extended Data 図1c)。

(特に年齢群別ではベースラインモデルに比し圧倒的に良いパフォーマンスが示された)

予測の公平性

地理的な場所、月々の年金水準、その他の社会人口統計学的変数に基づく個人のグループ間でモデルのパフォーマンスを比較することで、予測の公平性を検討した。

まず、異なる地域の自治体間でRNNモデルのパフォーマンスを比較した。異なる地域の自治体間で予測性能に顕著なばらつきがあることが分かり、AUCは0.881から0.964の範囲であった(図5a)。例えば、6つの地域自治体からなる北部ラップランド地方では、フィンランドの他の地域と比較して低い予測性能が観察された(AUC = 0.924 対 0.939、P = 0.002)。隣接する自治体間でも大きな違いが見られた。例えば、Pohjois-SatakuntaとLuoteis-Pirkanmaaは、地理的に近いにもかかわらず、モデルの性能は有意に異なっていた(AUC = 0.964 対 0.890、P < 0.001)。人口密度とAUCの間には正の相関(r = 0.23、P = 0.05)が観察されたため、この違いは人口密度によって部分的に説明された。観測されたAUCのばらつきが、モデルの地理情報の認識によって影響を受けたかどうかを判断するために、地理的特徴を含まないRNNモデルを再トレーニングしたが、やはりパフォーマンスには同様の違いが観測された(拡張データ図1b)。ベースラインモデルは、RNNモデルと比較して、異なる地域の自治体間で予測性能のばらつきが大きかった(AUCのs.d.は0.027対0.016;図5b)。

(ベースラインモデルよりは優れていたが、フィンランド国内で地域によってAUCがばらついた。なぜなのか、、、考察で述べられている理由を推察している。)

第二に、2020年の平均年金月額の水準に関して、われわれの死亡率予測モデルの公平性を調査した。老齢厚生年金を選んだのは、老齢厚生年金が現役時代の収入に基づくものであり、特に死亡者の多い高齢者において重要だからである。分析対象を65歳以上に絞ったのは、この年齢層が2020年の死亡者数の85%を占め、この年齢層の93%が老齢年金を受給しているからである。RNNモデルの年金水準とAUCの間には明確な正の関係があり、年金が高いほどAUCは高くなった(例えば、月額0~246€の年金ではAUC=0.824、月額2,463~30,000€以上の年金ではAUC=0.874、P<0.001)。ベースラインモデルでは、このような関係は観察されなかった(図5c)。同様の結果は、各年金ビン内で年齢と性別のマッチングを行った場合(拡張データ図2a-c)、および年金の特徴を除いたモデルを再トレーニングした場合(拡張データ図2d)にも観察された。感度(真陽性率(TPR))と特異度(真陰性率(TNR))の分析から、年金額が大きくなるにつれてAUCが増加するのは、主にTNRの増加によるものであることがわかった(つまり、予測区間中に死亡しなかった個人をよりよく識別できる;図5d)。

また、異なる年金群におけるAUCに影響を与えたかどうかも調べた(図5e)。より高い年金群の個人は、より多くの社会経済的記録を持つ傾向があったが、医療記録数と全体的な記録数は年金区分が高い個人は、社会経済的記録が多い傾向があったが、医療記録の数と全体の記録数は、異なる年金区分内でも同様だった。

(一つの属性としての年金の高低による比較。より高い年金群の個人は、より多くの社会経済的記録を持つ傾向がある、軌跡が追いやすいという背景から行ってみた。年金額が大きくなるにつれてAUCが増加した。つまり、このモデルではより高額年金受給者の老化判定に役立つ。)

第3に、公正さに関する分析を、4つの敏感な属性と保護され ている属性に拡大した(図5g)。その結果、未婚、移民、精神疾患、低年金など、センシティブ・グループ(弱者サイド)とプロテクト・グループのAUCは、それらのグループよりも有意に低いことがわかった(図5f;すべての比較でP<0.002)。また、社会的に不利なグループと有利なグループ内で年齢と性別をマッチングさせた後、同じ比較を行ったが、移民の有無を除いて観察された効果は変わらなかった(Extended Data図2e)。さらに、複数の敏感グループと保護グループに同時に属すると、RNNのAUCはかなり悪化した(図5f)。

(未婚、移民、精神疾患、低年金という属性に関してはいずれもベースラインモデルよりもより良く有意差を持って検出した。考察で述べられている理由を推察)

考察

本研究では、フィンランド全人口の1年全死因死亡率を予測するために、全国的で質の高い多カテゴリーのデータセットを用い、これまで不可能であった詳細なレベルで予測値のばらつきと公平性を調査した。われわれの予測スコアは、短期(1年)死亡率を予測するために特別に設計されたデジタル老化時計と解釈することができる。

このモデルは強力な予測能力を示し(AUC = 0.944、95% CI = 0.942-0.946)、より単純なベースラインモデルを凌駕するほどよく較正された。特筆すべきは、事故や暴力による死亡を予測する場合、我々のモデルはベースラインモデルよりも大幅に改善したことである。我々は、社会経済的特徴を含めることが、このような一見外在的なCODの予測に役立ったのではないかと推測している。

最も強力な死亡予測因子である年代による影響を取り除いた後でも、我々のモデルは0~60歳の男性で0.769、女性で0.822のAUCを達成した(Extended Data Fig.1c)。
このように、年代を超える予測性能は、生物学的年齢のデジタルマーカーとしての我々のモデルの可能性を示唆している。これに比べ、虚弱指数、DNAメチル化、テロメア長などの生物学的年齢のマーカーは、死亡率予測において低いパフォーマンスしか示さない。
興味深いことに、われわれのモデルは、男性に比べて、若い女性でより強い予測性能を示したが、高齢の女性ではそうではなかった。若い女性では、男性に比べて、部分的には出産のために医療との接触が多いことが観察されたので(Extended Data Fig.5)、このことが男性では得られない予測情報を提供しているのではないかと推測される。

年代をコントロールした後、我々のモデルの性能は、高齢者において徐々に低下した。高齢になると、生物学的および環境的な変化をさまざまな速度や程度で経験するため、人々は互いに異なるようになる。そのため、運動能力、セルフケア能力、通常の活動を行う能力、痛みや不快感、不安や抑うつといった機能的能力のばらつきが大きくなる。さらに、ダメージの増大と回復力の低下が組み合わさることで、死亡につながる有害事象の閾値が低くなる可能性がある。高齢者の間にかなりの異質性が存在するため、短期的に死亡する人とそうでない人のデータの区別がつきにくくなり、予測の正確さが損なわれる。

生物医学とヒト遺伝学の分野では、モデルの公正さについて広く研究されているが、ほとんどの研究では、敏感で保護された属性に関する情報が不足している。電子カルテは民族や民族グループに関する十分な情報を提供するが、その他の社会経済的特性は利用できないことが多い。この制限により、ほとんどの研究では、主に民族性、民族グループ、年齢、性別に基づく公平性の考察に焦点が当てられている。私たちの研究は、マルチレベルの、敏感な、保護された属性を含む、複数の属性にまたがる公平性を包括的に評価することで、新たな境地を開くものである。我々は、北欧社会で高く評価されているいくつかの属性を選択した。

地理的平等、所得、配偶者の有無、移民の有無の平等、メンタルヘルス診断の汚名返上など、北欧社会で高く評価され、より広範に適用可能な属性をいくつか選んだ。これらの属性すべてにおいて、RNNモデルを用いた場合、不利な立場にあるグループのモデル性能が有意に悪いことがわかったが、ベースラインモデルでは、いずれも有意な差は見られなかった。

敏感な属性や保護された属性とみなされるものを含むいくつかの要因は、人口密度の高い地域と比較して、人口密度の低い地域の間で均等に分布しているわけではない。例えば、先行研究では、人口密度の低い地域ほど医療の質が低いことが示唆されており、このことは、人口密度の高い地域と低い地域の間に潜在的な影響があることを示している。

 センシティブな属性(社会的に弱者サイド)とプロテクトされた属性(守られているサイド)において、不利な立場にあるグループの予測モデルの性能が低い理由を説明するために、さまざまな仮説が提唱されている。

1つ考えられる説明は、不利な立場にあるグループの症例数が少ないため、モデルトレーニング時の検出力が低いというものである。
もうひとつの説明は、不利な立場にある人は医療との接触が少なく、医療の質も低いため、データの欠落や測定誤差が生じ、最終的に予測に歪みが生じるというものである。社会的に有利なグループと不利なグループの間の年齢と性別の違いも、予測性能の観察された違いの根本的な要因である可能性がある。

 我々は、毎月の年金水準によるAUCの違いを分析することで、これらすべての仮説を徹底的に調査したが、ばらつきの原因を特定することはできなかった。年金情報をモデルに含めても、また年金群間の年齢や性別の分布の違いによっても、結果は変わらなかった。年金額が高い人ほど社会経済的な記録の数が多いことが観察されたが、予測性能に大きく寄与する医療記録の数は、年金額の異なるビン間で同程度であった。1つの可能性として、より高い年金を受け取ることは、異質性とエントロピーの減少と関連していることが考えられる。つまり、より高い年金を受給している個人は、死亡率予測に対する様々な特徴の寄与という点で、より互いに類似している可能性がある。このことはまた、対照間の異質性が減少しているために、症例(すなわち、翌年中に死亡した個人)がより際立っている可能性があることを意味する。これによって、モデルは症例と対照をよりよく区別できるようになり、より正確な予測につながる可能性がある。

(例えば、ヨーロッパ人の感覚からしてバカンスを定期的にたくさん、しっかり取るというのはちょっとしたステータスなのでり高い年金を受給している個人はその行動パターンが類似してくるということ。そうした均一性を持つ母集団からは、モデル解析には良いデータが得られやすい。)

我々の研究にはいくつかの限界がある。
第一に、フィンランド以外ではモデルを検証していないため、他国での再現の必要性を強調している。特に、フィンランドは貧困率が比較的低く、ジニ指数が低いことからわかるように社会経済的不平等であることを考えると、各国の社会経済的に不利なグループに対する予測の公平性を評価することは貴重であろう。
 第二に、我々のモデルには、生物学的・遺伝学的マーカー、自己報告によるライフスタイル情報、その他疫学研究で一般的に入手可能だが全国的に収集されていないデータが欠けている。これらのマーカーを統合すれば、モデルの性能がさらに向上する可能性がある。
 第三に、RNN以外のDLモデルアーキテクチャは考慮しなかったが、より単純なモデル、すなわち、ペナルティ付きロジスティック回帰とXGBoostを使用した。以前の研究では、RNNは、臨床イベントの予測において、他の逐次DLモデルと同等の性能を持つことが示された。
 第四に、公平性の分析のほとんどは、65歳以上の個人と、限られた数の敏感な属性と保護された属性に限定された。特に、我々の母集団で観察されたかなりの重複を考慮すると、感受性の高い属性と保護される属性の最適なセットが何であるべきかは、現在のところ不明である。人工知能(AI)ベースのモデルの公平性を評価すべき広く利用可能な属性を特定するためには、社会科学者や法律の専門家を含む学際的アプローチが必要かもしれない。

結論

結論として、本研究は、短期死亡リスクを正確に予測し、デジタル老化時計を導出するために、DLがいかに縦断的な多カテゴリーの全国情報を効果的に活用できるかを実証した。このモデルは、さまざまなCOD(死因)にわたって良好な結果を示した。われわれは、全国規模での公平性の綿密な検証を行い、複数の感受性の高い指標において、不利な立場にある人々の間でモデルの性能が有意に低いことを明らかにした。

(タイトルにある、「正確だが不公平な老化マーカーである」というのはこの点、すなわち「不利な立場にある人々の間でモデルの性能が有意に低い」を示している。なので、筆者たちの未練はバイオマーカーを組み込めばもう少し精度が上がりその辺り違ってくるかもしれない、と考察している。)

私評

一般的な問診票のように、既往歴、年齢、身長、体重、タバコ、お酒、食事内容やストレス、運動、睡眠、、から始まって、さらには今回あるように職業、未婚、移民、精神疾患、低年金などいろんなデータを入力したら、例えば、あなたは今現在生物学的年齢は〇〇歳です。でもって、3年後に膵臓癌のリスクが何%あります、5年後は認知症何%です、、、ついでに寿命はいつまですよ、とか弾き出してくれるAIのアルゴリズムを探求しているという研究。翻って、じゃあ、理想的にはこういう食事、こういう生活スタイル、家族構成、検診は何年ごとにするのが良い、とか予防策を提示してくれるというのが次のステップ。
さらに進化すれば若い人にはあなたの運動神経ではバイクは乗らないように、海、川に近寄らないように、、、などアドバイスしてくれるようになるかもしれない。AIの真骨頂とも言える分野だから案外近未来ではないでしょうか。
まあ、正直なところ川柳風に言うなら、
「ありがたくもあり、ありがたくもなし。」という感じ。


カクテル 42

イデアル (アイデアル) Ideal

グレープフルーツジュースはウォッカと非常に相性が良い。
ここではジンとベルモットに加えて、、、というとピンとくるのは、
それってマティーニだから言ってみればマティーニをベースにしたカクテル。

ドライジン  30ml
ドライベルモット  15ml
マラスキーノ  3dash
グレープフルーツジュース  15ml

シェークし、グラスに注ぐ。

なので、甘くない。酒飲みの愛好する基本中の基本である辛口だが、一方で、マティーニみたいにドライすぎず、そのまま飲んだら喉が焼ける感じやひっくり返りそうになることもなく、かなりマイルドな仕上がり。
まさに程よく飲める理想的 ideal なカクテルです。


Moon River♫
Peter Nordahl Trio