Benefits of Metformin in Attenuating the Hallmarks of Aging
老化の特徴を緩和するメトホルミンの利点
Cell Metab.
Published in final edited form as: Cell Metab. 2020 Apr 24;32(1):15–30.
doi: 10.1016/j.cmet.2020.04.001
老化時計に代表される様な老化の本質、そのプロセスも徐々に明らかになってきて色んな知見が蓄積されてきた。じゃあ、次にそれをなんとか逆回転させられないだろうか、という発想は当然あります。
一方で、病気や老化という概念の中にその中間としてのフレイルfrailという概念があります。フレイルは虚弱というのがその語源。つまり、完全に老化して病的な状態でサポートが必要な一歩手前、簡単に言えば健康でもない中間的な存在を示します。
では、そのいわゆるグレーゾーンに相当するフレイル層に対して、果たしてこれを健康に引き戻せるのか、その可能性のあるターゲットとして注目、そこに今回初めてTAME(Targeting Aging by Metformin)と銘打ってメトホルミンという糖尿病のお薬のであるビグアナイド系の薬剤を用いた大規模臨床試験を開始したという話。
メトホルミン投与は65歳から79歳までの3000人を対象としてメトホルミンとプラセボ群の2重盲検ランダムテストが6年間行われているので現在進行中ですが、メトホルミンが一つの老年治療薬として使えるのではないか、また、そこから、抗老化エージェントとしては本質的に何が重要なのか、ということを考察しています。
以下レビューなので割と原文そのままに(重要な文献は残し)。
老化時計のこれまで
まとめ
生物学的老化のプロセスを体系的に分析するため、Lopez-Otin らは、老化科学研究コミュニティで広く受け入れられている 9 つの主要な老化の特徴、すなわち
1) ゲノム不安定性
2) エピジェネティックな変化
3) タンパク質恒常性の喪失
4) 栄養感知の制御不全
5) ミトコンドリア機能不全
6) 細胞老化
7) 幹細胞の枯渇
8) 細胞間コミュニケーションの変化
9) テロメアの消耗 (López-Otín ら、2013 年) を明らかにした。
(これまでにみてきた幾つかの老化時計、老化指標のまとめ。これらに対して抗老化エージェントは効果が出るのか、どう働くのか)
メトホルミンについて
-メトホルミンとその作用、歴史、抗老化作用研究の背景
ヒトでは、メトホルミンは60年以上臨床使用されており、広範囲に研究されており、安全性が高い。血糖値を下げる効果があるため、2型糖尿病に対する第一選択の薬理学的処置として使用されてきた。
メトホルミンは、1957 年にフランスの医師ジャン・スターンによって抗高血糖剤として世界に紹介され、今日では世界中で最も一般的に使用されている医薬品介入の 1 つであり、最も処方されている血糖降下剤となっている。実際、メトホルミンは低血糖そのものを引き起こすのではなく、肝臓のインスリン感受性の改善によって肝臓のグルコース産生を減少させ、その結果として空腹時血糖値が低下する。
また糖尿病という疾患の位置付けからその治療薬は老化や加齢関連疾患の原因となるいくつかの重要な経路に介入する独自の位置にあると言える。
実際に疫学研究では、糖尿病患者と非糖尿病患者の両方において、メトホルミンが加齢に伴う複数の疾患の発症率と全死亡率を低下させる老化治療効果があることが明らかになっている (Campbell et al. 2017、Valencia et al. 2017)。
メトホルミンが糖尿病患者の血糖コントロール以外にも有益な効果を発揮するという疫学的、前臨床的、臨床的証拠から、がんとその再発(Heckman-Stoddard et al. 2017)、心血管疾患(Rena and Lang 2018)、神経変性疾患(Rotermund et al. 2018)、自己免疫疾患(Ursini et al. 2018)、そして最近では全身老化全般(Barzilai et al. 2016、Barzilai 2017)に対する再活用が示唆されている。
また、関連研究では、ほとんどの加齢に伴う癌とアルツハイマー病の発症率が低下することが示唆されており、臨床研究では、メトホルミンを服用している糖尿病患者は非糖尿病患者と比較して認知機能低下と死亡率の低下に効果があることが裏付けられている (Barzilai et al. 2016)。
さらに、複数のモデル生物とヒト細胞株の研究により、メトホルミンが複数の老化メカニズムを標的とする役割が解明されている。マウスと線虫では、メトホルミンは寿命を延ばし、健康寿命のいくつかの指標を改善する。
これまでのところ、主にメトホルミンの抗高血糖作用は、グルコース代謝に対する作用、具体的にはミトコンドリアグリセロリン酸脱水素酵素を阻害することで肝臓の糖新生を抑制し、肝細胞の酸化還元状態を変化させて乳酸とグリセロールからのグルコース形成を減らすことによるものとされている。
一方、メトホルミンによる肝臓のグルコース生成抑制は、糖新生の速度制御酵素であるフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ-1のAMP誘導阻害の結果であることが示されており、これらのメカニズムに加えて、メトホルミンの代謝作用には、腸でのブドウ糖吸収の減少、膵臓ベータ細胞でのインスリン分泌の回復、および程度は低いものの筋肉と脂肪の末梢組織でのインスリンを介したブドウ糖の取り込みの増加が含まれる。
しかしながら、たとえば、メトホルミンの主な作用の 1 つは、ミトコンドリア複合体 I (NADH:ユビキノン酸化還元酵素) の阻害であり、老化プロセスに関与する代謝経路と非代謝経路の両方に複数の下流効果をもたらすが、メトホルミンがミトコンドリア複合体 I を阻害するメカニズムは未だ解明されていない。
このような生物学的老化の基本的な経路を標的とするメトホルミンのメカニズムは完全には解明されていない。
ここでは、細胞株とモデル生物で証明されている生物学的老化の個々の特徴に対するメトホルミンの役割を強調することで、その作用機序を関連付けを試みる(表1、図1)。
(老化の基本的な経路を標的とするメトホルミンのメカニズムは完全には解明されていないものの、一方で明らかにされている老化時計の老化指標との関連でこれまでに蓄積された知見と対比させる)
メトホルミンが老化の個々の特徴を阻む効果
ー老化の特徴の中でメトホルミンの主なターゲットについて
1. 調節不能な栄養素感知
栄養素の利用可能性と感知は、細胞シグナル伝達経路の主要な調節因子である。これらの経路は細胞のエネルギーレベルを決定し、ホルモンおよび栄養素シグナル伝達カスケードと通信して調整し、最適なレベルが達成される正のフィードバックループを誘発する。
しかし、老化に伴い、細胞の代謝恒常性を維持する能力が低下し、生物の老化表現型にさらに寄与する。
長寿個体の遺伝子多型研究とモデル生物の遺伝子操作スクリーニングから特定されている老化を制御し寿命を決定する最も重要な栄養素センサーとシグナル伝達カスケードは、高度に保存された栄養感知システムとして以下の、
①細胞内のグルコースの利用可能性に関してインスリンと同様の反応を引き起こすソマトトロピック軸 (GH/IGF-1)
②高アミノ酸濃度の感知を担う mTOR シグナル伝達
高 AMP レベルを介して低エネルギー状態の感知に関与する AMPK
④高 NAD+ レベルを検出することで低エネルギー状態の感知を補完するサーチュイン
が知られている。
①のGH/IGF-1 軸の方向性の疾患および加齢関連の変化については一貫性がない。しかしながら、多くのヒト研究では、その減衰が加齢関連疾患から保護する可能性があることが示唆されている。インスリン/IGF-1シグナル伝達(IIS)の障害により、一過性のROSシグナルを介してL-プロリン分解と内因性ストレス防御反応が促進され、C. elegans daf-2変異体の寿命が2倍に延びる。
一方、老化と加齢関連疾患では
②のmTORC1をアップレギュレーションし、
③AMPKとサーチュインがmTORシグナル伝達と逆方向に作用する。
つまり、老化状態では
AMPKとサーチュイン ↓
mTORシグナル伝達 ↑
という状態にある。
これに対して、
メトホルミンは、Rag-GTPase 阻害を介して直接的に mTORC1 を阻害し、間接的に REDD1 の上方制御を介して TSC2 活性と AMPK 活性化を介した S6K1 および 4E-BP1-mTORC1 基質のリン酸化を促進してその翻訳を減少させることが示されている(mTORC1↓)。
④また、特に低 NAD+ 濃度では、メトホルミンはSIRT1 の直接活性化因子であることも明らかになっている。
(インスリン/IGF-1シグナル伝達(IIS)の抑制は一概ではない。ある以上の年齢、ヒトでいう65歳以上では抗老化作用を示すあたり難しい)
(メトホルミンの抗老化作用として、AMPK 活性化因子として栄養素感知経路の調節を行い、結果として抗老化作用を示すことはこれまでによく知られている)
(別のレビュー、個体老化、細胞老化研究の最近の進歩 2.4. 老化、寿命制御における mTOR 経路の機能 にこのあたりは大変要領よくまとまっている)
2. 細胞間コミュニケーションの変化
内分泌、神経、神経内分泌経路は、細胞が環境の変化、病原体、組織破壊因子、機械的ストレス因子に効果的に反応するための合図を細胞に提供している。
対して、加齢は、効果的な細胞間接続の全身的な調節不全と、それに伴う反応が細胞間コミュニケーションの維持を阻害する原因となる。
(身体が経験する炎症という現象とそれに対応するサイトカインの盛衰とエイジングは関連する)
加齢に伴う炎症の調節不全の主な結果としては、
慢性で無菌の低レベルの炎症状態で、これは通常、
炎症誘発性サイトカイン分泌 (TNF、IL-6、IL-1β) の一貫した増加、
NF-κB およびインターフェロンシグナル伝達の活性化、
老化細胞とそのセクレトームの負荷の増加、
およびオートファジー反応の変化を伴う。
メトホルミンは炎症性サイトカインを抑制し、NF-κB 経路を阻害する。
いくつかの研究では、メトホルミンがいくつかの重要な免疫調節メカニズムを調整する役割を果たし、代謝パラメータの改善を伴うことが多いことが示唆されていまる。実際に高齢の糖尿病患者では、最近の 5 年間の追跡調査で、メトホルミン単独療法により循環炎症性サイトカインのレベルが低下し、関連する死亡リスクも低下している。直接的な炎症抑制に加えて、体重減少やインスリン代謝および感受性改善におけるメトホルミンの作用は、全身性炎症の軽減にも間接的な影響を及ぼしている。
さらに、
メトホルミンは腸内細菌叢を調整し、代謝をさらに改善し、炎症を軽減する。
腸内細菌叢が炎症反応を効果的に媒介する役割についての証拠が増えている。加齢に伴う微生物のディスバイオーシス(腸内細菌叢の変化)は、炎症、腸管透過性、炎症性サイトカインの放出を促進することが示されていおり、健康な腸内細菌叢は、最適な健康な免疫機能と関連していることが示されている。
メトホルミンは微生物の葉酸を調整し、メチオニン制限を誘導することで老化を遅らせ、寿命を延ばす。
この証拠は、線虫C. elegans で実証されており、最近では、メトホルミンがショウジョウバエの寿命を用量依存的に延長することを示唆しているが、これは無菌株ではなく対照の OP50 E.coli 定着株でのみであり、種を超えてメトホルミン誘発性の寿命延長を媒介する微生物叢の役割を示している。
その後、動物実験で、メトホルミンの糖調節役割は上部小腸の乳酸菌の増加によるものであり、その抗炎症役割は Akkermansia、Bacteroides、Butyricimonas、および Parabacteroides 属の増加と関連していることが明らかになった。
ヒトの糖尿病患者では、メトホルミンは腸内微生物叢の構成を主に短鎖脂肪酸産生微生物にシフトさせることが示された。さらに、糖尿病患者の代謝機能障害を改善するメトホルミンの役割は、B. fragilis の増殖を阻害し、それによって腸のファルネソイド X 受容体 (FXR) シグナル伝達を変化させることによって胆汁酸グリコールソデオキシコール酸 (GUDCA) のレベルを上昇させることと関連していた。
(メトホルミンは腸内細菌叢を安定化させて抗炎症剤として抗老化作用を発現する)
3. ゲノム不安定性
ゲノム不安定性とは、突然変異、インデル、染色体再編成などの多数の DNA 変化により、生涯にわたって遺伝子損傷が蓄積されることを指している。これに対して損傷治癒プロセスが機能し、突然変異などの有害事象を予防しているが老化によりこのシステムに障害が出れば結果としてがんや様々な疾病の原因となる。
メトホルミンにはゲノム不安定性に対抗するいくつかのメカニズムが存在することが知られている。
これまでの研究では、酸化ストレス、DNA損傷およびDNA損傷反応の軽減、毛細血管拡張性運動失調症変異(ATM)タンパク質キナーゼの調節、およびエピジェネティック効果によるメトホルミンのゲノム保護効果が示されている。
マウス胎児線維芽細胞(MEF)では、メトホルミンはROS毒性(reactive oxygen species、活性酸素)を防ぐことで、パラコート関連の内因性ROSレベルおよび関連するDNA損傷を軽減することが示されている。さらに、メトホルミンは用量依存的に ATM タンパク質キナーゼの活性化を防ぎ、それによって ROS と γH2AX (DNA 二本鎖切断とゲノム不安定性の敏感なマーカー) を低下させる。メトホルミンの遺伝毒性保護効果は、ヒトリンパ球、正常および糖尿病ラット、ラットおよびマウスの骨髄細胞、マウス腎細胞において、小核および染色体異常の減少によって実証されている。
2 型糖尿病患者では、メトホルミンは抗酸化反応を誘導し、さらに DNA 塩基除去修復システムにつながる。 DNA 損傷がある場合、メトホルミンは ATM およびチェックポイントキナーゼ 2 も活性化し、それによってヒストン H2AX → γH2AX のセリン 132 をリン酸化して、DNA 二本鎖切断部位に DNA 修復複合体をリクルートする。
さらに、私たちは以前の研究で、高齢者に対する短期的なメトホルミン治療が、骨格筋において BRCA を介した DNA 損傷応答および DNA 修復を誘発することを示した。
これらメトホルミンが酸化損傷を制御し、ゲノム不安定性を緩和する方法については多彩であり、コンセンサスは得られていないが、メトホルミンが DNA 損傷応答および遺伝毒性ストレスに対する保護メカニズムを刺激するという証拠はこのように多く存在する。
(メトホルミンの遺伝毒性保護効果)
4. タンパク質恒常性の喪失
老化、加齢に伴う病状、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、協調的なタンパク質恒常性のネットワークに障害があり、細胞内損傷が蓄積する。
分子レベルで見てみると、分子シャペロン、タンパク質分解システム、調節因子で構成される 2,000 を超えるタンパク質の高度に調節されたネットワークは、安定したプロテオームまたはタンパク質恒常性を維持するために不可欠であるが、プロテオスタシスネットワークの3つの重要な側面、すなわちタンパク質の合成と折り畳み、立体構造の安定性の維持、およびオートファジーを介したタンパク質の分解は、加齢とともに劣化し、タンパク質量の不均衡につながる。
この様なタンパク質恒常性の減衰、喪失による老化促進をサポートするようにモデル生物の研究では、インスリン/IGF-1シグナル伝達、ミトコンドリアETC、強化されたオートファジー、および栄養素感知など、プロテオスタシスを強化する経路内の変化を通じて寿命が延びることが明らかになっている。
メトホルミンはオートファジーを増強し、タンパク質のミスフォールディングを修復する。
メトホルミンのタンパク質恒常性に対する安定化効果は、主に、mTOR シグナル伝達の直接的および間接的な阻害によるオートファジーの増強とタンパク質合成の阻害の結果と考えられている。
神経毒 MPP (パーキンソン病誘発神経毒MPP(1-methyl-4-phenylpyridinium))の活性が上昇した Clk1 変異パーキンソン病マウスモデルでは、メトホルミン治療により、AMPK 依存メカニズムにより、行動障害が回復し、α-シヌクレインの蓄積が減少し、ドーパミン作動性ニューロンと中脳における LC3-II 媒介オートファジーが強化された。
オートファジー関連タンパク質 LAMP-1 および Beclin-1 はメトホルミン治療によってアップレギュレーションされ、心筋細胞における高血糖誘発性アポトーシスを減弱させることが示されている。また、メトホルミンが δ-サルコグリカン欠乏誘発性拡張型心筋症マウス心臓におけるオートファジー反応の増強と ob/ob マウス(肥満マウスモデル)におけるマイトファジー※の増強を誘導することを示唆している。さらに、メトホルミンは AMPK 活性化の下流でロドプシンのミスフォールディングと輸送を救済することも示されている。
※マイトファジー mitophagy
マイトファジーとは、オートファジーを介したミトコンドリアの選択的分解機構
であり、古くなったミトコンドリアの代謝に関与している。 簡単に言えばミトコンドリアを選択的に分解し細胞内を浄化する、細胞の品質管理システムの1つ。この機構によって、ミトコンドリア機能障害が関与する疾患から生体を防御していると考えられている。
(メトホルミンは mTOR シグナル伝達の阻害によるオートファジーの増強、AMPK 活性化を経てタンパク質のミスフォールディングを修復する)
老化の特徴におけるメトホルミンの二次標的
5. ミトコンドリア機能障害
加齢に伴うミトコンドリア機能の低下が、エネルギー恒常性の加齢に伴う調節不全と加齢関連疾患の素因の増加に寄与する可能性があるという長年の研究エビデンスがある。
加齢によるミトコンドリア機能の障害は、いくつかの細胞内外ストレスの結果である。ミトコンドリアは細胞の原動力としての役割に加えて、加齢に伴うミトコンドリアの機能不全が炎症、老化、オートファジー、逆行性核シグナル伝達に影響を及ぼす可能性があるという理解が深まっている。
メトホルミンは、ミトコンドリア複合体 I 阻害を介して酸化ストレスを軽減し、PGC-1α を介してミトコンドリアの生合成を改善する。
ミトコンドリアは、エネルギー恒常性や ROS を介した酸化ストレスとともに、これらの重要な細胞プロセスを制御する上で重要な役割を果たしているため、老化や加齢に伴う疾患や病態に対する魅力的な治療ターゲットであると考えられている。
また、メトホルミンは、ミトコンドリア ETC の複合体 I (NADH:ユビキノン酸化還元酵素) を阻害し、ROS を低下させるか間接的な除去メカニズムによって、ミトコンドリア誘発性の酸化ストレスに直接影響を与える。この阻害は、マクロファージにおけるプロIL1β産生を特異的に阻害することで、抗炎症反応も誘発した。同様に、メトホルミンによる複合体I阻害は、肺胞マクロファージにおけるROS媒介IL-6放出も減少させ、マウスの動脈血栓症を予防する。
肝臓の糖新生の減少は、フラビン結合呼吸鎖結合脱水素酵素であるミトコンドリアグリセロリン酸脱水素酵素(mGPDH)のメトホルミンによる直接阻害と関連していることも実証されており、これが細胞質の酸化還元状態を調節している。
メトホルミンは、肝臓および骨格筋に関連し、ミトコンドリア生合成を誘導する共転写調節因子であるPGC-1αの発現とタンパク質活性を高める。
興味深いことに、in vitro研究では、ミトコンドリア遺伝子発現ネットワークの修復とミトコンドリア形態の回復を介して、加速老化のヒトモデルであるダウン症候群に関連するミトコンドリア機能不全を元に戻すメトホルミンの能力が実証されている。
ヒストンのメチル化とサーチュインの活性化に対する効果に関連して、メトホルミンはSIRT3の上方制御を介して作用することでミトコンドリア生合成を誘導し、細胞老化を遅らせることも示されている。メトホルミンによる SIRT1 の直接活性化は、加齢に伴うミトコンドリア機能不全の抑制に役立つ可能性があるが、逆にこのシステムの障害は、SIRT1 活性の低下によって核コード化ミトコンドリア転写因子 A (TFAM) のダウンレギュレーションが起こり、NAD+ レベルが低下することによると考えられている。
最近、メトホルミンがヒトの動脈付属器組織で心臓保護作用を持つことが、用量依存的に複合体 I、IV、V の活性を軽度に抑制し、スーパーオキシド生成を減少させ、ミトコンドリア透過性遷移孔を減衰させることで解明された (Emelyanova et al. 2019)。
(メトホルミンはミトコンドリア複合体 I を阻害し、PGC-1α 発現を増加させることでミトコンドリア生合成を改善する)
6. 幹細胞の枯渇
加齢に伴い、組織の再生能力は全身的に低下する。幹細胞数の減少と過剰な増殖はいずれも老化表現型を誘発する可能性があるため、幹細胞と前駆細胞の恒常性と再生能力を維持することが不可欠となる。
加齢に伴う幹細胞機能の低下は、造血細胞、腸管幹細胞、衛星細胞、神経幹細胞、毛包細胞、メラノサイト、生殖細胞など、いくつかの幹細胞集団で観察されている。
いくつかの研究では、造血幹細胞と腸幹細胞はヒトだけでなく動物モデル(マウス、ショウジョウバエ属)でも加齢とともに増加することが実証されている。幹細胞と前駆細胞の若返り能力が低下する正確なメカニズムは不明だが、幹細胞老化の一般的なメカニズムは、テロメアの消耗、分子損傷、エピジェネティックドリフト、発達経路の調節不全など、いくつかの細胞内因性および外因性要因によって説明できる。
メトホルミンは幹細胞の若返り能力を誘導し、幹細胞の老化を遅らせる。
幸いなことに、メトホルミンは幹細胞の枯渇を引き起こすいくつかの経路を標的としているため、加齢に伴う幹細胞の枯渇に対処する上でのメトホルミンの役割を理解する根拠が強化されている。
前述のメトホルミンの老化治療効果は、Nrf2を介してGpx7を活性化することで、細胞の消耗を遅らせ、早期老化を防ぎ、それによってヒト間葉系幹細胞の寿命を延ばすことが示されている。メトホルミンが幹細胞の老化を遅らせるという初期の証拠は、ショウジョウバエの中腸腸幹細胞(ISC)で実証されており、AKT / TOR経路を介してDNA損傷と下流の中心体増幅を阻害し、後にオートファジー関連因子であるAtg6によっても媒介されることが判明している。
幹細胞機能におけるメトホルミンの抗老化効果は、ISCに限定されず、他の幹細胞集団にも拡張できる。最近、メスのマウスでメトホルミンが神経幹細胞プールを拡大し、男女ともに神経新生と認知回復を促進することが分かった。興味深いことに、メトホルミンは、オリゴデンドロサイト前駆細胞の若返りおよび分化能力の加齢に伴う調節不全も逆転させ、再髄鞘形成をさらに改善した。メトホルミン誘導性の自己複製能力と神経新生の保持は、前者は転写因子 TAp73 を介して、後者は AMPK 活性化 αPKC-CBP 経路を介して、2 つの異なるメカニズムを介して媒介される。
筋肉では、老化した衛星細胞※※は、活性化されると静止状態と自己複製能力を維持できなくなる。メトホルミン治療は、衛星細胞の活性化を遅らせ、静止した低代謝状態を維持し、それによって幹細胞の数を維持することが示されている。
幹細胞の数と機能を維持することで、加齢に伴う若返り能力の喪失に対抗し、それによって組織の修復を促進することができる。実際にいくつかの例では、メトホルミンは幹細胞の枯渇を標的とし、幹細胞の老化を遅らせ、幹細胞の機能を維持するのに効果的であった。
メトホルミンのこの役割は、再生医療の研究と試験でさらに研究する必要がある。
衛星細胞※※
骨格筋の量と機能の低下は、高齢者にしばしば見られる特徴であり、衛星細胞として知られる骨格筋幹細胞の再生能力の低下と関連している。筋衛星細胞は、筋再生において重要な役割を担っていると考えられている骨格筋を形成する幹細胞で、 通常、筋衛星細胞は静止型とよばれる状態で筋線維の表面上に存在しているが、筋肉の損傷等に応じて活性化し、増殖、分化、融合を通して筋組織を修復する機能を発揮することが知られている。
(メトホルミンは、加齢に伴う幹細胞の枯渇に対処する。特にフレイルで重要な筋肉の減衰に関しても筋衛星細胞の活性化を遅らせ、静止した低代謝状態を維持することで幹細胞の数を維持する)
7. エピジェネティックな変化
DNA およびヒストンのメチル化の変化は、生物学的老化の特徴であり、結果としてアセチル化やリン酸化などのヒストン修飾は、転写の活性化、細胞恒常性の喪失、加齢に伴う代謝低下につながる可能性がある。
DNA およびヒストンのメチル化の状況は加齢とともに変化し、一般的に全体的な低メチル化とプロモーター特異的な高メチル化につながりが、これらの変化は、保存された組織特異的な加齢関連転写変化の決定要因であり、老化の代謝および炎症表現型に寄与している。
メトホルミンは、ヒストン修飾、DNAメチル化、およびmiRNAを介して転写活性を制御する。
エピジェネティックおよび転写変化は、その変更可能な性質のため(可逆的な)、一般的に加齢関連疾患に対する治療介入の効果と健康的な老化の促進を示している。
メトホルミンのAMPK依存性および非依存性メカニズムは、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ (HAT) のリン酸化、クラスIIヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) の阻害、およびSIRT1の活性化を介してヒストン修飾に影響を与えることが観察されている。
また、非糖尿病性 HER2 陽性乳がん患者およびヌードマウスに注入されたヒト乳がん異種移植において、この薬剤は全体的な H3K27me3 レベルを増大させ、脱メチル化酵素 KDM6A/UTX を直接標的とし、さらに、健康な高齢ドナーおよびウェルナー症候群患者の線維芽細胞における全体的な H3K27me3 の加齢関連損失を回復させた。この効果は、ミトコンドリアを欠く Rho0 細胞で証明されているように、メトホルミンのミトコンドリア複合体 I 阻害とは無関係であった。さらに、メトホルミンは、ミトコンドリアの1炭素代謝経路を介して全体的なDNAメチル化を促進し、癌細胞ではH19/S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)軸を介して、代謝エピジェネティック調節因子として作用する。
メトホルミンは、健常者、糖尿病患者、および癌細胞株(乳癌および大腸癌)において、全体的な DNA メチル化とその下流組織特異的(骨格筋、皮下脂肪組織、末梢血単核細胞)転写プロファイルを直接的に上方制御しるが、これは、メトホルミンの年齢標的化および抗腫瘍役割を反映している。
メトホルミンは、DNA とヒストンのメチル化に対する効果以外にも、DICER1 と下流の miRNA をアップレギュレーションを行う。
これらの miRNA のいくつかは細胞老化とともに減少するため、メトホルミンには転写と転写後を制御する複数のメカニズムがあることが示唆されているが、最近では、メトホルミンを組み換えヒト成長ホルモン (rhGH) とデヒドロエピアンドロステロン (DHEA) と組み合わせると、健康な成人で 1 年間の治療後、DNA メチル化に基づく生物学的年齢のマーカーである平均「エピジェネティック年齢」が 1.5 歳戻ることが示された。
メトホルミンのヒストンおよび DNA 修飾を介した転写およびエピジェネティック制御と miRNA への影響に関して、これまでの研究のほとんどは、薬理学的用量を超える用量での細胞株におけるこの制御を調査しており、臨床研究への一般化が制限される可能性がある。
組織および細胞特異的な方法と全身レベルでの薬理学的に関連する用量のにおいて反応をさらに解明することが重要でである。
(エピジェネティックな変化は可逆的であり、一般的に加齢関連疾患に対する治療介入が期待される部分である。そうすると当然その先には抗腫瘍効果も見込まれる)
8. テロメアの消耗
テロメアは、真核生物の染色体の末端にある高度に保存されたリボ核タンパク質複合体であり、不完全な DNA 複製によって引き起こされる分解から染色体の末端を保護する重要な役割を果たしているが、加齢やストレスにさらされると、これらの領域は特に劣化しやすくなる。
また、成人細胞ではこの損失を補うためのテロメラーゼが不十分なため、細胞増殖とともに徐々に消耗していく。進行性のテロメア短縮は、生物学的老化や加齢に伴う罹患率、虚弱性、死亡率と関連していることがわかっている。さらに、テロメア短縮は、p53 を介した DNA 損傷応答経路を介して、細胞老化、炎症、ミトコンドリア機能障害を引き起こすことも示されている。
メトホルミンはTERRAを活性化し、テロメア短縮を減らすことが示されている。
メトホルミンを含む介入がテロメア長に及ぼす影響、特に健康的な老化と寿命の延長に及ぼす影響については、エビデンスはこれまでにほとんどないが、Dimanらは、メトホルミン核呼吸因子1とPGC1-αによって活性化されるAMPKの下流ターゲットが、テロメア反復配列含有RNA(TERRA)を介したヒトテロメア転写の調節因子であることを特定した(Diman et al. 2016)。
糖尿病患者の場合、メトホルミンを服用していない人と比較して、メトホルミンはテロメア短縮を減らすことも示唆されている。これは、耐糖能やインスリン感受性を改善するメトホルミン単独療法が糖尿病患者の白血球テロメア長の短縮を予防した他の研究と似ている。妊娠糖尿病の母親では、メトホルミン治療により男性の子孫のテロメア短縮が予防された。
(メトホルミンによって活性化されるAMPKの下流ターゲットが、テロメア反復配列含有RNA(TERRA)を介したヒトテロメア転写の調節因子であり、テロメア長の短縮を予防する)
9. 細胞老化 (老化細胞)
細胞が複製能力に達するか、内部または外部のストレス要因にさらされたときに安定した細胞周期が停止する状態として定義される老化は、老化の主な原因であると言われている。
最初は Hayflick と Moorehead、最近では Baker らによる独創的な発見により、老化細胞の加齢に伴う蓄積と、高齢になってもそれらの除去後に加齢に伴う組織機能障害が軽減されるという、細胞老化が老化の主な原因であることが明確になった (Hayflick と Moorhead 1961、Baker ら 2011)。
老化は悪性腫瘍に対する保護メカニズムとして機能し、腫瘍抑制メカニズムとして機能するが、最近の証拠では、老化細胞が SASP に表現型を変化させ、逆説的に腫瘍の増殖を引き起こす可能性があることが示唆されている。
さらに、加齢によって誘発されるエピジェネティック、タンパク質毒性、遺伝毒性のストレスによる老化細胞の蓄積は、緑内障、白内障、糖尿病、変形性関節症など、多くの加齢関連疾患の原因となることが一般的である。最近では、老化細胞で選択的にアポトーシスを誘導するセノリティック薬※※※が、老化や加齢関連表現型を軽減する大きな可能性と臨床的有用性を示している (Kirkland et al. 2017、Xu et al. 2018、Justice et al. 2019)。
セノリティック薬※※※
「セノリティクス=senolytics」は、「老化=senescence」と、「対抗=lytics」を合わせた言葉で、老化防止を意味する。老化細胞を適切に除去することに成功すれば、健康維持や老化制御などの抗老化効果をもたらすとして、研究・開発が進められている。一般に老化細胞を殺す手法や薬剤の総称。老化細胞のアポトーシス抵抗性をターゲットにしているものが多く、ダサチニブとケルセチンの複合投与は臨床試験が行われている。
メトホルミンは SASP をダウンレギュレーションし、老化細胞の負担を軽減する
メトホルミンは老化抑制特性を示さないものの、複数の加齢関連機能障害における細胞老化と SASP の抑制に効果的であることが知られている。
低用量のメトホルミンの慢性投与は、グルタチオンペルオキシダーゼ 7 (GPx7) の Nrf2 媒介アップレギュレーションを介して、SA-β-Gal 染色の減少によって証明されるように、ヒト二倍体線維芽細胞とヒト間葉系幹細胞の老化を遅らせる。メトホルミンの老化治療的役割は、NF-κB の核への移行を阻止することで IκB とそのキナーゼをリン酸化せず、NF-κB 経路を完全に阻害する抗炎症効果によっても媒介される。マウス嗅覚鞘細胞の体外培養におけるメトホルミンによる NF-κB の阻害も、炎症誘発性サイトカインおよび酸化ストレスマーカーの発現低下とともに SA-β-Gal 活性の低下と関連している。
DICER1 依存性メカニズムでは、メトホルミンはヒト線維芽細胞において p16 および p21 のタンパク質レベル、および IL-6 および IL-8 を含む SASP の特徴の RNA レベルを低下させることが示されている。
最近、ヒト歯周靭帯細胞において、老化および酸化ストレスに対する保護効果がメトホルミン誘導性オートファジー刺激に関連付けられ、老化のこれら 2 つの特徴の相互関連性を標的とするメトホルミンの役割がさらに強調された。同様に、椎間板変性の in vitro および in vivo モデルでは、メトホルミン治療により AMPK を介したオートファジーがアップレギュレーションされ、髄核細胞の老化が軽減された。
メトホルミンが老化細胞の負担増加と加齢に伴う SASP のアップレギュレーションを軽減することは明らかである。
酸化ストレスの媒介における Nrf2-Gpx7 活性化、および炎症反応の媒介における NF-κB 阻害を介した SASP 調節因子としての役割は、その老化治療メカニズムの理解を深める一方で、乳がんおよび肝細胞がんの文脈では、低用量メトホルミンがそれぞれ SASP 遺伝子発現シグネチャおよび p53 依存性老化を誘発することが以前に示されている (Williams et al. 2013、Yi et al. 2013)。
つまり、このように、メトホルミンの細胞老化と SASP に対する効果は状況に依存しており (アポトーシスを誘導することで抗がん作用、炎症を抑制することで抗老化作用)、がん組織の老化促進とは対照的に、老化組織で抗老化反応を誘導するためにメトホルミンを刺激するものが何であるかをさらに理解する必要がある。老化抑制薬の臨床試験の出現により、メトホルミンを他の薬剤と組み合わせて最も効果的に利用して、老化と老化に対する組み合わせ効果を最適化する方法を理解することも重要である。
(メトホルミンのSASP に対する効果は一方向性ではないので注意が必要)
メトホルミンの副作用
明らかに、メトホルミンの予想外のプラスの副作用には、健康寿命の延長と死亡率の低下が含まれます。最近、肝臓、腎臓、心臓疾患を患う糖尿病患者がメトホルミンを服用しなかった場合、入院と死亡率の減少という恩恵を受けることができたことが明らかになった (Crowley et al. 2017)。
したがって、メトホルミンの「ブラックボックス」警告は着実に消えつつあり、腎機能が低下した患者への使用の適応がそれほど厳しくないことからもそれがわかる (Bakris and Molitch 2016)。
ほとんどの薬と同様に、メトホルミンでも軽度の副作用が発生する。
軽度の副作用のほとんどには、腹部または胃の痛み、早期の満腹感、食欲減退、下痢などの胃腸の不快感が含まれるが、これらは通常、使用後 1 ~ 2 週間で治まる。下痢が 1 週間以上続く場合 (使用者の約 3%)、薬の使用は中止される。これらの副作用は、線虫やその他の小型生物で証明されているように、腸内細菌叢の急激な変化の結果である可能性がある。
細菌叢の変化は、メトホルミンの慢性使用によるビタミン B12 レベルの低下によっても生じる可能性があるが、そのメカニズムはまだ不明であり、ビタミン B12 の補充が必要な患者はほとんどいない。
メトホルミン関連乳酸アシドーシス (MALA) と呼ばれる症状は、重度の腎臓病、肝臓病、心臓病などですでに乳酸値が高い患者がメトホルミンを服用しているときに発生することがある。少数の患者は、メトホルミンを服用してすぐに不安、不眠、速い呼吸などの症状を訴えることがあるが、通常は自分で薬を中止する。メトホルミンは乳酸値を上昇させながら正常範囲を維持するのだが、MALA 患者を含む重篤な副作用のある患者は、遺伝的メカニズムに起因するミトコンドリア複合体 1 の阻害に対してより敏感である可能性がある。
TAME 試験は、前述のすべての理由でメトホルミンの服用を中止した患者を調査し、異なる結果になりやすいかどうかを判断することを目的としている。その生物学的サンプルは、さらなるメカニズム研究に利用できる。
また、メトホルミンは低血糖薬ではないため、その生物学的効果と一致して、糖尿病患者に他の血糖降下薬と併用しない限り、低血糖を引き起こす可能性は低いことを理解することも重要である。
この様な背景から、糖尿病の適応症以外では、メトホルミンの使用は医師の監督下で臨床試験の文脈でのみ推奨される。
結論と展望
生物学的老化の特徴を緩和するメトホルミンの有効性は、老化に関与する重要なメカニズム経路を標的とすることができる治療薬としてのメトホルミンの強みと可能性を反映している。
メトホルミンの代謝効果は、AMPK の活性化による代謝作用と、ミトコンドリア ETC の複合体 I の阻害による酸化作用が主になる。
mTORC1、PGC1-α、インスリン IGF1 シグナル伝達、SIRT1、NF-κB シグナル伝達、炎症誘発性サイトカインに対する追加的な直接効果があり、それによって 4 つの特徴 (栄養感知の調節不全、細胞間コミュニケーションの変化、ゲノム不安定性、タンパク質恒常性の喪失) をメトホルミンの主なターゲットとして分類できる。
ミトコンドリア機能、DNA およびヒストンの修飾、幹細胞の若返り、テロメア短縮の防止、老化および SASP のダウンレギュレーションに対する効果は、主なターゲットの下流にあると理解できる (図 2)。
現在、メトホルミン単独療法および運動などの生活習慣介入との併用療法が、老化の個々の特徴の臨床的および分子的結果に及ぼす反応を評価する臨床試験がいくつか進行中である。これらの臨床試験では特に、フレイル(虚弱性)および関連する炎症性および SASP 候補バイオマーカーに対するメトホルミンの効果、LC3 レベルの測定によるオートファジー促進効果、筋肉サイズの変化、腸内細菌叢による免疫反応の改善、およびインフルエンザワクチンの有効性の測定に取り組んでいる。
メトホルミンの老化に対する作用を研究する上での制限は、その組織特異性、用量依存性、およびミトコンドリア阻害がメトホルミンの効果に寄与する役割と言える。
今後の研究により、これらの制限のそれぞれについてさらに詳しく解明される可能性は間違いない。
しかし、メトホルミンが老化のあらゆる特徴と関連していることを示す証拠が蓄積されるにつれて、メトホルミンがこれらの特徴のいずれかに及ぼす影響は、他のいくつかの老化の特徴の全身的な減衰に直接的な影響を及ぼすことを覚えておくことが非常に重である(図 2)。たとえば、強調したように、オートファジーを標的とすると、ミトコンドリア機能、栄養素の感知、高分子の損傷に影響を与えることが証拠から示唆されている。この考え方に基づいて、一次レベルまたは二次レベルのいずれかで老化を標的とすると、最終的には細胞、組織、システムが若返り、老化の全身生物学に直接影響すると考えられる (図 2)。
したがって、観察される効果の一部は、全身の若返りを達成した結果であり、薬剤の直接的な標的ではない。実際、ラパログ(mTOR阻害薬の一種。ラパマイシン(シロリムス)とその誘導体であるエベロリムス,テムシロリムスなどラパログと総称される一群がある)やサーチュインなどの他の介入の効果を検討すると、これらも老化の同様の特徴の多くに影響を与えている可能性があることが示されている (Lamming et al. 2013、Grabowska et al. 2017)。
結論
結論として、
ヒトの加齢に伴ういくつかの病状を標的とするメトホルミンの有効性を強調する広範な疫学、基礎科学、臨床データがあり、すでにモデル生物と細胞株の研究は、老化の重要な経路に対するメトホルミンの有益な効果について説得力のある証拠を提供している。
既知の安全性プロファイルとヒトでの長期使用に加えて、メトホルミンは生物学的老化の主要な特徴とその相互接続性を弱めるため、老化に対する非常に魅力的な候補となり、TAME研究はそれを証明することになります。
私評
とても興味深いレビュー。試験中とはいえTAME研究の結果が気になるところですが、メトホルミンは副作用も比較的限られており、モデル動物を含むこれだけのデータがあれば良い結果が出ると思われます。ただし、全てが一方向性に単純なものではなさそうですが、現時点で言えることはオートファジーの促進、炎症の抑制、腸内細菌叢への作用やDNA修復とか科学的根拠が挙げられています。ただ、原点に戻って、もともと糖尿病の治療薬という観点からすれば、栄養素の過剰摂取を控えるというのは基本的にシンプルで有効的なのではないか思うのですがいかがでしょう。
カクテル AKEBI KAKUTERU 46
秋はキノコやフルーツ好きとかにはとても良いシーズンです。
もうそれを口にしたのは何十年も前になります。子供の頃山に行った時に蔓に生えていたのを見た覚えがあります。先日自由が丘の朝市でたまたま見つけたので買って帰って30代のスタッフに見せて
「これは何でしょう?」、、、「紫芋」、「モグラ」、、、いろんな意見が出ました。正解は40代から。やっぱり今の世代には無理もない。

中を開いたらもっとびっくり。

スプーンですくって味見して残りはカクテルに。
お味は、、、まあこんなもんかな。
感想は上品なあっさり味の和菓子テイスト、というところでしょうか。
さて、これを
オードヴィ eau de vie
Massenez Eau-de-Vie Framboise
マスネ オードヴィ フランボワーズ
と合わせてオリジナルカクテルを作ってみました。

マスネ オードヴィ フランボワーズ 20ml
を入れたグラスにあけびAKEBIを入れてマドラーで少し潰す。冷たく冷やしたソーダを注いで完成。
甘すぎず上品で爽やかな秋の味覚というところか。
何と言っても、お陰様でワイワイ盛り上がって面白おかしく過ごせました。
Louis van Dijk
Agnus Dei (Fauré)🎵