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サイエンスの話 48 老化時計 ⑥

2024-11-29 16:19:33 | 日記
J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2023 Mar 29;78(9):1561–1568. 
doi: 10.1093/gerona/glad095
Mosaic Chromosomal Alterations and Human Longevity
モザイク染色体異常と人間の寿命
PMCID: PMC10460554  PMID: 36988570

体細胞における染色体のモザイク(mosaic chromosome, mCA)
は後天的に上染色体や性染色体に生じた構造変化で、重複、闕失、片親由来の2本の染色体(ヘテロ接合性の消失)の3パターンが知られている。例えば、重複は受精卵で生じた際にはダウン症や18トリソミーなどのパターンがあるがそういうイメージの「体細胞」における染色体変化。当然乗っている遺伝子領域に数量的な変化が生じるために不都合な表現型が生じるのでがんなど遺伝子異常に起因するさまざまな病気とリンクすることが容易に想像される。しかしながら、我々に備わった修復機能がそれを食い止めている。つまり、エラー→修復、正常化を繰り返しながら細胞分裂が行われていることを考えれば、がん細胞などで見出されるモザイク変化はそのシステムの破綻によるものだが、それが断続的に起こり修復されないでいるとそのまま癌に発展するのか、あるいはすでに正常の表現型の段階で生じているが致命的なヒットではないために正常のまま止まるのか、という議論になる。後者の方、正常細胞に生じている変異が蓄積されてその年余の経過の中で不可逆的な表現型をもたらすと仮説を立てるならば、癌や成人病などのいわゆる加齢に伴う疾患においてランダムに体細胞染色体のモザイク変化 mCAが観察されるはずであり、その蓄積が結果としてどういうプロセスで病態をもたらすのか、という興味が出てくる。この文脈から多くの研究結果がこれまでに行われており、加齢がmCAの強いリスク因子であること、mCAは特に造血系腫瘍などさまざまな疾患と関連することなどすでに多くのエビデンスがある。つまり、モザイク染色体異常 (mCA) は、老化、がん、心血管疾患、感染症、および死亡率に関連する構造的変化であることが知られている。
ということで、ここまで加齢にmCAが関連することは明らかであると言えるのだが、その先にある「寿命」に関するデータはこれまでにない。そこで今回の研究ではmCAが人間の寿命と相関するということを初めて示したという内容。

方法及び対象

これまでに百歳以上の人や家族歴が長寿の人における mCA の分布は十分に解明されていない。そこで、ニューイングランド百歳以上の研究 (NECS) の百歳以上の人 2,050 人、その子孫、および 248 人の対照群、および長寿家族研究 (LLFS) の家族歴が長寿の人 3,642 人および配偶者対照群 920 人を対象として体細胞 mCA と年齢、家族歴、加齢関連疾患の発生率、および死亡率との関連性を研究ごとに分析し、メタ分析によって解析した。

(ポイントはこの元になる長寿者とその家系、非家系と言う2つのデータベース構築のための対象。いずれも90年台から2000年代初頭にかけて構築された研究対象群でこれまでに幾つかの研究対象に使用されている)

1 ニューイングランド百歳以上の研究 (NECS) 
概要:ニューイングランド百寿者研究は、ボストン地域の 100 歳以上の人々 (百寿者) を対象とした研究。
この研究は 1994 年に始まり、当初はアルツハイマー病の研究に重点が置かれていた。しかし、他の種類の認知症は一般的であるにもかかわらず、百寿者のほとんどがアルツハイマー病ではないことがすぐに明らかになったため、一部の人が 100 歳まで生きられ、他の人は生きられない理由の解明へと移行した。百寿者は、血小板サイズが大きいなど、生まれつきの利点があるという発見もありました。遺伝子に関する研究では、長寿に関連する主要な遺伝子が 1 つだけ特定された。
研究者は現在、エピジェネティクスを含むより詳細な遺伝子分析を調査しています。以前はハーバード大学で行われていたが、現在はボストン大学で行われ、トム パールズ博士が主導している。2006 年に、派生研究であるニューイングランド スーパー百寿者研究が開始された。
2010 年 7 月、数百人の 100 歳以上の高齢者を対象に遺伝子検査を行った研究で、誰がその年齢に達するかを決定する上で遺伝学が極めて重要な役割を果たしていることが報告された。100 歳以上の高齢者は老化に伴う病気にかかることはほとんどなく、病気から回復する可能性が高い。

2 長寿家族研究 (LLFS) 
概要:LONG LIFE 家族研究 (LLFS) は、国立老化研究所 (NIA) の資金提供による共同研究で、セントルイス、ニューヨーク、ピッツバーグ、ボストンの米国の名門機関とデンマークの SDU が参加している。LLFS は、米国とデンマークの、高齢に達した家族が複数いる家族を調査している。LLFS プロジェクトは、協力機関が研究設計を策定し始めた 2005 年に開始された。2006 年には参加者の募集が開始され、2009 年 6 月まで継続された。
研究の第 1 段階では、LLFS フィールド センターによる合計 4,923 回の訪問が完了した。研究に登録された家族の総数は 535 で、プロバンド世代が 1,499 人、子孫世代が 2,594 人、配偶者対照が 830 人です。 DK では、76 家族から 1,268 人が参加した。

(以前老化研究のために立ち上げたすでにある家系のサンプルを利用した)

(そこには長寿、その子孫、配偶者など遺伝関連のないいわゆるコントロールがセットとして含まれている。NECSとLLFSは類似するサンプルではあるが、NECSは100歳以上のサンプルを多く含んでいる)

(以下これらのセットを対象にmCAの有無を調べてみたという結果)

結果

1 被験者プロファイル

表 1 に、NECS の参加者 2,298 名と LLFS の被験者 4,562 名の主な特徴をまとめた。

・NECS の登録時の平均年齢は 92.0 歳 (SD 15.2 歳)、LLFS の登録時の平均年齢は 70.3 歳 (SD 15.7 歳) だった。

・NECS の被験者の男性は 32% のみであったが、LLFS の被験者の 45% は男性だった。

・両研究とも、参加者のほとんどは白人だった。

・定期的にアルコールを摂取する参加者の割合は、NECS で 9.4%、LLFS で 8% だった。登録時の現喫煙者の割合は、NECS で 0.3%、LLFS で 7.3%だった。

・NECS コホートには 10.8% の対照群が含まれていたが、LLFS には家族歴のない対照群が 20.2% 含まれていた。

2 参加時のゲノム解析結果

血液 DNA のゲノムワイドなジェノタイピングから NECS と LLFS の mCA を検出した。100 Kbase ペアを超える 780 の体細胞 mCA (NECS で 368、LLFS で 412) を選択した (図 1A および B)。

・NECS では、登録時に被験者の 10.8% が少なくとも 1 つの mCA を持ち、9.25% の被験者が少なくとも 1 つの常染色体 mCA を持ち、2.61% が X 染色体に変化を持っていた (表 1)。

・LLFS では、登録時に被験者の 7.04% が少なくとも 1 つの常染色体 mCA を持っていた。
 
・NECS で検出された mCA の大部分は欠失と重複だった (欠失 46%、重複 28%、コピー中立ヘテロ接合性喪失 23%、未確定 3%)。

・LLFS 参加者では、重複とコピー中立ヘテロ接合性喪失がより多く見られた (重複 37%、コピー中立ヘテロ接合性喪失 33%、欠失 29%、未確定 1%)。

3 被験者の有病率と体細胞 mCA 

図 1 は、NECS および LLFS における、年齢が上がるにつれて、少なくとも 1 つの体細胞 mCA が検出された被験者の有病率を示している。

・図 1 パネル 1A に示すように、102 歳まで mCA を持つ NECS 被験者の有病率が増加していることを示していますが、102 歳を超えると、mCA を持つ NECS 被験者の割合は低下している。

・パネル 1B は、102 歳までの LLFS 参加者で同様のパターンを示しているが、102 歳を超える LLFS 参加者の数は少なすぎたため (n = 14)、信頼できる傾向を検出できなかった。

プロットは、すべての年齢層の対照群と比較して、NECS の長寿関連の個人のうち mCA を持つ人の割合が少ないことを示している。

(1A右の年齢別結果では102歳にピークがあり、その後105歳にもう一つピークがあり減少する。 LLFS には 105 歳以上の被験者がいないことから、NECS で発見された傾向を確認することができなかった、つまり、この105歳の2番目のピークに関してははっきり結論できない)

(長寿関連の個人longevity related でmCA を持つ人の割合はコントロールcontrol=青に比し少ない&有病率も低い)

4 回帰分析による家族の長寿と年齢が mCA のリスクに与える影響

結果は表 2 にまとめた。

・NECS の百歳以上の人、百歳以上の人の兄弟姉妹、およびその子孫は、対照群と比較して常染色体 mCA の蓄積が有意に少ないことが示されている (表 2: 相対リスク 0.45、p = .002) が、染色体 X で mCA が検出された被験者の割合に有意差はなかった (補足表 3A)。

(表2 上のNECSLongevity-related)

・LLFS では、長寿家系のメンバーも対照群よりも mCA の蓄積が少なかった (図 1B) が、その差は統計的に有意ではなかった (表 2: 相対リスク 0.90、p = .5831)。

(もう一つの対象であるLLFS では有意差は出なかった)

・メタ分析では、長寿に関連する被験者は対照群と比較して mCA を保有するリスクが統計的に有意に低いことが示された (表 2: 相対リスク 0.64、p = .0147)。このような結果から、2つの研究の結果は非常に類似しており、関連性がより集約することで強化された(表2:リスク比1.36、p = 5.15e-05)。

(LLFS ではおそらくグループの数的問題などから有意差は出なかったものの、メタ解析では強固な関連が示唆された)

5 mCA の発生が NECS および LLFS 参加者の死亡リスクおよびいくつかの一般的な老化関連疾患のリスクにどのように影響するのか(表 3)

mCA と有病率についてみてきたがでは、その個別の疾患に関してはどうか。表 3に関連をまとめた。

表中表記の説明

CVD 心疾患
Cancer がん
Dementia 痴呆
Depression うつ
Diabetes 糖尿
Stroke 脳卒中
Thyroid 甲状腺

結果として、

・NECS と LLFS の両方で、少なくとも 1 つの体細胞 mCA の存在は、死亡のハザードの 6%~7% の増加と関連していたが、研究固有の結果は統計的有意性に達していなかった。
しかしながら、メタ分析によって研究固有の結果を集約したところ、ハザード比の増加は有意差の境界線上だった (ハザード比 1.07、p = .0605)。

・mCA とがんのハザードとの関連のみが LLFS で名目上の統計的有意性に達していた (表 3: ハザード比 1.22、p = .04)。

すべての結果のメタ分析では、mCA により、10% の偽発見率 (FDR) でがんのハザードが 20.4%、認知症のハザードが 25.9% 増加することが示された。

(やはり染色体異常といえばがん、という結論で素直)

6 APOE アレル E2、E3、E4 と mCA の有病率との相関関係 (表 4)

APOE (アポE)には遺伝子によって決まる3つのタイプ(E2, E3, E4)があり,E4を有していることはアルツハイマー病の危険因子であることが確立している。

結果、

・NECS では、APOE E4 アレルのキャリアは E3 キャリアと比較して常染色体 mCA の蓄積リスクが 41.6% 高かった (p = .027) (表 4)。

・NECS では、APOE E2 アレルのキャリアは常染色体 mCA の蓄積リスクが 10.9% 低かったが、関連性は統計的に有意ではなかった (表 4)。NECS データ セットで検出されたすべての mCA タイプ (常染色体および X 染色体) を使用して実行した解析の結果は、補足表 3B (補足図 3B) に示されている。
 
・LLFS では、APOE E4 アレルのキャリアは常染色体 mCA 蓄積のリスクが 37% 増加し (p = .111)、APOE E2 の被験者は常染色体 mCA 蓄積のリスクが 35% 高かった (p = .084)。

・メタ分析では APOE E4 アレルと mCA の関連性のみが強くなり、E4 キャリアは E3 キャリアと比較して常染色体 mCA になるリスクが 40% 高かった (p = .0065)。

(APOE E4 アレルのキャリアは NECS と LLFS の両方で有意に多くの mCA を蓄積したことが示され、APOE は DNA 修復メカニズムの低下を介して mCA 発生メカニズムに寄与している可能性があることが示唆された。対照的に、NECS では、APOE E2 アレルのキャリアは mCA 蓄積のリスクが減少する傾向を示したが、結果は LLFS では再現されなかった。)

7 喫煙および飲酒状況と体細胞の mCA 

NECS と LLFS の両方において、体細胞の mCA 蓄積と現在の喫煙および飲酒状況との間に有意な関連性は見出せなかった!! (補足表 1A)

考察

・超高齢期における mCA の蓄積

高齢化に伴うクローン性体細胞変異の増加はいくつかの研究で報告されており、人間の寿命の終わりにそのようなクローンの存在が不可避であるという仮説が成り立つ。
しかしながら、我々のデータは 100 歳以上の高齢者を多数対象とした初めての研究であり、私たちの分析で最も意外な結果は、mCA を持つ人の有病率が約 102 歳まで高齢になるにつれて増加し、102 歳を超えると横ばいになる傾向があるという観察だった (図 1)。この結果は、同様の非常に高齢の人々のコホートで再現する必要があるが、染色体の変化が人間の極度の長寿と相容れないことを示唆しているとも考えられる。

(mCAは加齢により蓄積するものの、必ずしも寿命を規定する因子ではない、と考えることもできる=斬新)

・家族の長寿が mCA 蓄積に与える影響

100 歳以上の人々とその親族は、家族の長寿がない人々と比較して、mCA の蓄積が少ないことを見い出した。
この結果は、一部の人々における体細胞 mCA の蓄積に対する遺伝的保護の可能性を示唆しており、これは DNA 修復のより優れたメカニズムの結果である可能性がある。クローン造血の遺伝的素因に関するこれまでの研究はこの仮説を支持しているが、73 歳から 94 歳の成人双生児における不確定なクローン造血能に関する最近の研究では、mCA の蓄積に対する遺伝的素因は確認されなかった。

(100 歳以上の人々とその親族は、家族の長寿がない人々と比較して、mCA の蓄積が少ないー102 歳までの重要因子として捉えられるが、102 歳を超えたら影響は少ない、むしろ別の因子か?)

体細胞 mCA の蓄積に対する遺伝的保護の現象についてはさらに調査する必要があり、新しい健康的な老化治療法につながるかもしれない。

・老化関連疾患との関連

これまでの研究と一致して、mCA の蓄積は死亡率と癌に大きく寄与し、男性に多い が、mCA が心血管疾患、糖尿病、脳卒中の発症に大きく寄与していることは確認されなかった。

また、飲酒や喫煙状況と、以前に報告された mCA の発生との関連も見つからなかった。これは、研究参加者の喫煙やアルコール使用の有病率が低かったためである可能性がある。

・APOE の影響

APOE E4 アレルのキャリアは NECS と LLFS の両方で有意に多くの mCA を蓄積したことを示したが、mCA の発生により認知症の発症リスクが 26% 増加する (表 3) ことを考えると、APOE E4、mCA、およびアルツハイマー病の間には関連があると仮定できる。
これまで他の研究では、アルツハイマー病に関連して DNA 修復やその他のエピジェネティック プロセスにおける APOE の示唆的な影響が見つかっているが、APOE は、人間の長寿と関連している遺伝子の 1 つに過ぎない。なので、この研究を他の遺伝子変異と mCA との関連にまで広げていくことは興味深い。

結論

我々の分析では、他の研究で提示された推測に反して、mCA の有病率は 102 歳を超えても増加し続けないことが示されていた。
さらに、家族の長寿を促進する要因は mCA からの保護を与えるようであり、早期死亡に関連する遺伝的要因も mCA の蓄積に関与している可能性がある。
この分析は、ゲノム全体の遺伝子型データを使用して検出できる mCA に限定されており、より小さなサイズの mCA や体細胞変異を含めるように再現および拡張する必要があります。

(この研究のは、遺伝子型アレイのサイズによって制限を受けるのでよりワイドなmCAを含む再検査も興味深い)

私評

90年台にフランスにいた頃勤め先のパスツールからパリ郊外のEvryにあるヨーロッパ有数の大規模ゲノム解析センターであるジェネトンgenethonをもともとパスツール出身だった研究チーフのJ・Weissenbach博士の計らいで利用させてもらいながら肝臓がんの大規模なヘテロ接合性の消失を研究していました。当時の技術では父母由来のアリル2本が1本になる、つまり、2→1という変化を捉えることが限界でその見極めが結構難しかった。
結果としてたくさんの部位に変化を見つけて論文と特許という形に収まったのですが、
当時からずっと気になっていたのは、これって、もしかしてすでに正常部位に生じているのではないか、ということでした。機能上正常細胞であってもいろんな変異が生じてそれを溜め込んでいる、そのうちエッセンシャルな部分にヒットしたらクローン化して暴走する、という仮説。だとすれば、むしろ正常細胞の方にがんや他の病気の芽があり、そこに真実があるのではないか、、、。そんなこんなサイエンスに没頭して寝ても覚めても考えを巡らせたものです。おかげで通勤もメトロ・パスツール pasteur駅から自宅のconventionまでたった3駅間のメトロをしょっちゅう乗り過ごしてしまう、そんな日々を送っていました。今こうしてmCAも正常細胞の老化ということが当たり前のようになっている。
月日の過ぎるのも早いこと、、、サイエンスの進歩もさながら、ちょっぴりノスタルジーも混ざりあって実に感慨深い。


カクテル 47

フレンチ・デビル French devil

コニャックベースのカクテル
「スティンガー 」Stinger
はクリーム・デ・メント(Creme de menthe)とコニャックで作る007にも出てくるような有名なカクテル。
そのアレンジでクリーム・デ・メントをグリーン・ペパーミントに変更すると別のカクテル
「エメラルド」 Emerald
さらにこのエメラルドにレッドペッパーの粉を振りかけるとまた別のカクテル
「デビル」Devil
になります。
ちなみに、コニャックとブルーキュラソー、トニックウォーターの組み合わせは
「フレンチ・エメラルド」 French emerald
(あー、ややこしい、、、)

そこで、これらまとめて味わうために新作チャレンジ。
フレンチ・ブランデーであるコニャックをベースにして、フレンチ・グリーン・ミントリキュールのペパーミントジェット27とトニックウォーターでオリジナルにアレンジ。
題して
「フレンチ・デビル」French devil。
(前置き長い、、、)


コニャック 30ml
グリーン・ミントリキュール10ml
トニックウォーター

氷を入れたグラスにトニックウォーター以外を入れてステアする。その後冷えたトニックウォーターでグラスを満たし、軽くステアする。

エメラルド色で見た目に映えるがミントはやはり主張が強い。
トニックウォーターで甘さも抑えられて爽快な飲み物に仕上がっています。何より、「スティンガー」、「エメラルド」、「デビル」、「フレンチ・エメラルド」全部カクテルして飲んだ気分になれます。

Melissa Morgan  
I Just Dropped By To Say Hello🎵

サイエンスの話 47 老化時計 ⑤

2024-10-28 12:40:38 | 日記
Benefits of Metformin in Attenuating the Hallmarks of Aging
老化の特徴を緩和するメトホルミンの利点

Cell Metab. 
Published in final edited form as: Cell Metab. 2020 Apr 24;32(1):15–30. 
doi: 10.1016/j.cmet.2020.04.001

老化時計に代表される様な老化の本質、そのプロセスも徐々に明らかになってきて色んな知見が蓄積されてきた。じゃあ、次にそれをなんとか逆回転させられないだろうか、という発想は当然あります。
一方で、病気や老化という概念の中にその中間としてのフレイルfrailという概念があります。フレイルは虚弱というのがその語源。つまり、完全に老化して病的な状態でサポートが必要な一歩手前、簡単に言えば健康でもない中間的な存在を示します。

では、そのいわゆるグレーゾーンに相当するフレイル層に対して、果たしてこれを健康に引き戻せるのか、その可能性のあるターゲットとして注目、そこに今回初めてTAME(Targeting Aging by Metformin)と銘打ってメトホルミンという糖尿病のお薬のであるビグアナイド系の薬剤を用いた大規模臨床試験を開始したという話。
 メトホルミン投与は65歳から79歳までの3000人を対象としてメトホルミンとプラセボ群の2重盲検ランダムテストが6年間行われているので現在進行中ですが、メトホルミンが一つの老年治療薬として使えるのではないか、また、そこから、抗老化エージェントとしては本質的に何が重要なのか、ということを考察しています。
以下レビューなので割と原文そのままに(重要な文献は残し)。

老化時計のこれまで

まとめ

生物学的老化のプロセスを体系的に分析するため、Lopez-Otin らは、老化科学研究コミュニティで広く受け入れられている 9 つの主要な老化の特徴、すなわち
 1) ゲノム不安定性
2) エピジェネティックな変化
3) タンパク質恒常性の喪失
4) 栄養感知の制御不全
5) ミトコンドリア機能不全
6) 細胞老化
7) 幹細胞の枯渇
8) 細胞間コミュニケーションの変化
9) テロメアの消耗 (López-Otín ら、2013 年) を明らかにした。

(これまでにみてきた幾つかの老化時計、老化指標のまとめ。これらに対して抗老化エージェントは効果が出るのか、どう働くのか)

メトホルミンについて
-メトホルミンとその作用、歴史、抗老化作用研究の背景

ヒトでは、メトホルミンは60年以上臨床使用されており、広範囲に研究されており、安全性が高い。血糖値を下げる効果があるため、2型糖尿病に対する第一選択の薬理学的処置として使用されてきた。

 メトホルミンは、1957 年にフランスの医師ジャン・スターンによって抗高血糖剤として世界に紹介され、今日では世界中で最も一般的に使用されている医薬品介入の 1 つであり、最も処方されている血糖降下剤となっている。実際、メトホルミンは低血糖そのものを引き起こすのではなく、肝臓のインスリン感受性の改善によって肝臓のグルコース産生を減少させ、その結果として空腹時血糖値が低下する。

 また糖尿病という疾患の位置付けからその治療薬は老化や加齢関連疾患の原因となるいくつかの重要な経路に介入する独自の位置にあると言える。

 実際に疫学研究では、糖尿病患者と非糖尿病患者の両方において、メトホルミンが加齢に伴う複数の疾患の発症率と全死亡率を低下させる老化治療効果があることが明らかになっている (Campbell et al. 2017、Valencia et al. 2017)。

 メトホルミンが糖尿病患者の血糖コントロール以外にも有益な効果を発揮するという疫学的、前臨床的、臨床的証拠から、がんとその再発(Heckman-Stoddard et al. 2017)、心血管疾患(Rena and Lang 2018)、神経変性疾患(Rotermund et al. 2018)、自己免疫疾患(Ursini et al. 2018)、そして最近では全身老化全般(Barzilai et al. 2016、Barzilai 2017)に対する再活用が示唆されている。

 また、関連研究では、ほとんどの加齢に伴う癌とアルツハイマー病の発症率が低下することが示唆されており、臨床研究では、メトホルミンを服用している糖尿病患者は非糖尿病患者と比較して認知機能低下と死亡率の低下に効果があることが裏付けられている (Barzilai et al. 2016)。

 さらに、複数のモデル生物とヒト細胞株の研究により、メトホルミンが複数の老化メカニズムを標的とする役割が解明されている。マウスと線虫では、メトホルミンは寿命を延ばし、健康寿命のいくつかの指標を改善する。

 これまでのところ、主にメトホルミンの抗高血糖作用は、グルコース代謝に対する作用、具体的にはミトコンドリアグリセロリン酸脱水素酵素を阻害することで肝臓の糖新生を抑制し、肝細胞の酸化還元状態を変化させて乳酸とグリセロールからのグルコース形成を減らすことによるものとされている。
 
 一方、メトホルミンによる肝臓のグルコース生成抑制は、糖新生の速度制御酵素であるフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ-1のAMP誘導阻害の結果であることが示されており、これらのメカニズムに加えて、メトホルミンの代謝作用には、腸でのブドウ糖吸収の減少、膵臓ベータ細胞でのインスリン分泌の回復、および程度は低いものの筋肉と脂肪の末梢組織でのインスリンを介したブドウ糖の取り込みの増加が含まれる。

 しかしながら、たとえば、メトホルミンの主な作用の 1 つは、ミトコンドリア複合体 I (NADH:ユビキノン酸化還元酵素) の阻害であり、老化プロセスに関与する代謝経路と非代謝経路の両方に複数の下流効果をもたらすが、メトホルミンがミトコンドリア複合体 I を阻害するメカニズムは未だ解明されていない。

 このような生物学的老化の基本的な経路を標的とするメトホルミンのメカニズムは完全には解明されていない。

 ここでは、細胞株とモデル生物で証明されている生物学的老化の個々の特徴に対するメトホルミンの役割を強調することで、その作用機序を関連付けを試みる(表1、図1)。

(老化の基本的な経路を標的とするメトホルミンのメカニズムは完全には解明されていないものの、一方で明らかにされている老化時計の老化指標との関連でこれまでに蓄積された知見と対比させる)

メトホルミンが老化の個々の特徴を阻む効果
ー老化の特徴の中でメトホルミンの主なターゲットについて

1. 調節不能な栄養素感知

 栄養素の利用可能性と感知は、細胞シグナル伝達経路の主要な調節因子である。これらの経路は細胞のエネルギーレベルを決定し、ホルモンおよび栄養素シグナル伝達カスケードと通信して調整し、最適なレベルが達成される正のフィードバックループを誘発する。

 しかし、老化に伴い、細胞の代謝恒常性を維持する能力が低下し、生物の老化表現型にさらに寄与する。
 長寿個体の遺伝子多型研究とモデル生物の遺伝子操作スクリーニングから特定されている老化を制御し寿命を決定する最も重要な栄養素センサーとシグナル伝達カスケードは、高度に保存された栄養感知システムとして以下の、

①細胞内のグルコースの利用可能性に関してインスリンと同様の反応を引き起こすソマトトロピック軸 (GH/IGF-1)
②高アミノ酸濃度の感知を担う mTOR シグナル伝達
高 AMP レベルを介して低エネルギー状態の感知に関与する AMPK
④高 NAD+ レベルを検出することで低エネルギー状態の感知を補完するサーチュイン

が知られている。

①のGH/IGF-1 軸の方向性の疾患および加齢関連の変化については一貫性がない。しかしながら、多くのヒト研究では、その減衰が加齢関連疾患から保護する可能性があることが示唆されている。インスリン/IGF-1シグナル伝達(IIS)の障害により、一過性のROSシグナルを介してL-プロリン分解と内因性ストレス防御反応が促進され、C. elegans daf-2変異体の寿命が2倍に延びる。

一方、老化と加齢関連疾患では
②のmTORC1をアップレギュレーションし、
③AMPKとサーチュインがmTORシグナル伝達と逆方向に作用する。

つまり、老化状態では
AMPKとサーチュイン ↓
mTORシグナル伝達 ↑
という状態にある。

これに対して、
メトホルミンは、Rag-GTPase 阻害を介して直接的に mTORC1 を阻害し、間接的に REDD1 の上方制御を介して TSC2 活性と AMPK 活性化を介した S6K1 および 4E-BP1-mTORC1 基質のリン酸化を促進してその翻訳を減少させることが示されている(mTORC1↓)。
 
④また、特に低 NAD+ 濃度では、メトホルミンはSIRT1 の直接活性化因子であることも明らかになっている。

(インスリン/IGF-1シグナル伝達(IIS)の抑制は一概ではない。ある以上の年齢、ヒトでいう65歳以上では抗老化作用を示すあたり難しい)

(メトホルミンの抗老化作用として、AMPK 活性化因子として栄養素感知経路の調節を行い、結果として抗老化作用を示すことはこれまでによく知られている)

(別のレビュー、個体老化、細胞老化研究の最近の進歩 2.4. 老化、寿命制御における mTOR 経路の機能 にこのあたりは大変要領よくまとまっている)

2. 細胞間コミュニケーションの変化

 内分泌、神経、神経内分泌経路は、細胞が環境の変化、病原体、組織破壊因子、機械的ストレス因子に効果的に反応するための合図を細胞に提供している。

 対して、加齢は、効果的な細胞間接続の全身的な調節不全と、それに伴う反応が細胞間コミュニケーションの維持を阻害する原因となる。

(身体が経験する炎症という現象とそれに対応するサイトカインの盛衰とエイジングは関連する)

加齢に伴う炎症の調節不全の主な結果としては、
慢性で無菌の低レベルの炎症状態で、これは通常、

炎症誘発性サイトカイン分泌 (TNF、IL-6、IL-1β) の一貫した増加、
NF-κB およびインターフェロンシグナル伝達の活性化、
老化細胞とそのセクレトームの負荷の増加、
およびオートファジー反応の変化を伴う。

メトホルミンは炎症性サイトカインを抑制し、NF-κB 経路を阻害する。

いくつかの研究では、メトホルミンがいくつかの重要な免疫調節メカニズムを調整する役割を果たし、代謝パラメータの改善を伴うことが多いことが示唆されていまる。実際に高齢の糖尿病患者では、最近の 5 年間の追跡調査で、メトホルミン単独療法により循環炎症性サイトカインのレベルが低下し、関連する死亡リスクも低下している。直接的な炎症抑制に加えて、体重減少やインスリン代謝および感受性改善におけるメトホルミンの作用は、全身性炎症の軽減にも間接的な影響を及ぼしている。

さらに、
メトホルミンは腸内細菌叢を調整し、代謝をさらに改善し、炎症を軽減する。

 腸内細菌叢が炎症反応を効果的に媒介する役割についての証拠が増えている。加齢に伴う微生物のディスバイオーシス(腸内細菌叢の変化)は、炎症、腸管透過性、炎症性サイトカインの放出を促進することが示されていおり、健康な腸内細菌叢は、最適な健康な免疫機能と関連していることが示されている。

 メトホルミンは微生物の葉酸を調整し、メチオニン制限を誘導することで老化を遅らせ、寿命を延ばす。

 この証拠は、線虫C. elegans で実証されており、最近では、メトホルミンがショウジョウバエの寿命を用量依存的に延長することを示唆しているが、これは無菌株ではなく対照の OP50 E.coli 定着株でのみであり、種を超えてメトホルミン誘発性の寿命延長を媒介する微生物叢の役割を示している。
その後、動物実験で、メトホルミンの糖調節役割は上部小腸の乳酸菌の増加によるものであり、その抗炎症役割は Akkermansia、Bacteroides、Butyricimonas、および Parabacteroides 属の増加と関連していることが明らかになった。
ヒトの糖尿病患者では、メトホルミンは腸内微生物叢の構成を主に短鎖脂肪酸産生微生物にシフトさせることが示された。さらに、糖尿病患者の代謝機能障害を改善するメトホルミンの役割は、B. fragilis の増殖を阻害し、それによって腸のファルネソイド X 受容体 (FXR) シグナル伝達を変化させることによって胆汁酸グリコールソデオキシコール酸 (GUDCA) のレベルを上昇させることと関連していた。

(メトホルミンは腸内細菌叢を安定化させて抗炎症剤として抗老化作用を発現する)

3. ゲノム不安定性

 ゲノム不安定性とは、突然変異、インデル、染色体再編成などの多数の DNA 変化により、生涯にわたって遺伝子損傷が蓄積されることを指している。これに対して損傷治癒プロセスが機能し、突然変異などの有害事象を予防しているが老化によりこのシステムに障害が出れば結果としてがんや様々な疾病の原因となる。

メトホルミンにはゲノム不安定性に対抗するいくつかのメカニズムが存在することが知られている。

これまでの研究では、酸化ストレス、DNA損傷およびDNA損傷反応の軽減、毛細血管拡張性運動失調症変異(ATM)タンパク質キナーゼの調節、およびエピジェネティック効果によるメトホルミンのゲノム保護効果が示されている。

マウス胎児線維芽細胞(MEF)では、メトホルミンはROS毒性(reactive oxygen species、活性酸素)を防ぐことで、パラコート関連の内因性ROSレベルおよび関連するDNA損傷を軽減することが示されている。さらに、メトホルミンは用量依存的に ATM タンパク質キナーゼの活性化を防ぎ、それによって ROS と γH2AX (DNA 二本鎖切断とゲノム不安定性の敏感なマーカー) を低下させる。メトホルミンの遺伝毒性保護効果は、ヒトリンパ球、正常および糖尿病ラット、ラットおよびマウスの骨髄細胞、マウス腎細胞において、小核および染色体異常の減少によって実証されている。

 2 型糖尿病患者では、メトホルミンは抗酸化反応を誘導し、さらに DNA 塩基除去修復システムにつながる。 DNA 損傷がある場合、メトホルミンは ATM およびチェックポイントキナーゼ 2 も活性化し、それによってヒストン H2AX → γH2AX のセリン 132 をリン酸化して、DNA 二本鎖切断部位に DNA 修復複合体をリクルートする。

 さらに、私たちは以前の研究で、高齢者に対する短期的なメトホルミン治療が、骨格筋において BRCA を介した DNA 損傷応答および DNA 修復を誘発することを示した。

 これらメトホルミンが酸化損傷を制御し、ゲノム不安定性を緩和する方法については多彩であり、コンセンサスは得られていないが、メトホルミンが DNA 損傷応答および遺伝毒性ストレスに対する保護メカニズムを刺激するという証拠はこのように多く存在する。

(メトホルミンの遺伝毒性保護効果)

4. タンパク質恒常性の喪失

 老化、加齢に伴う病状、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、協調的なタンパク質恒常性のネットワークに障害があり、細胞内損傷が蓄積する。

 分子レベルで見てみると、分子シャペロン、タンパク質分解システム、調節因子で構成される 2,000 を超えるタンパク質の高度に調節されたネットワークは、安定したプロテオームまたはタンパク質恒常性を維持するために不可欠であるが、プロテオスタシスネットワークの3つの重要な側面、すなわちタンパク質の合成と折り畳み、立体構造の安定性の維持、およびオートファジーを介したタンパク質の分解は、加齢とともに劣化し、タンパク質量の不均衡につながる。

 この様なタンパク質恒常性の減衰、喪失による老化促進をサポートするようにモデル生物の研究では、インスリン/IGF-1シグナル伝達、ミトコンドリアETC、強化されたオートファジー、および栄養素感知など、プロテオスタシスを強化する経路内の変化を通じて寿命が延びることが明らかになっている。

メトホルミンはオートファジーを増強し、タンパク質のミスフォールディングを修復する。

メトホルミンのタンパク質恒常性に対する安定化効果は、主に、mTOR シグナル伝達の直接的および間接的な阻害によるオートファジーの増強とタンパク質合成の阻害の結果と考えられている。

神経毒 MPP (パーキンソン病誘発神経毒MPP(1-methyl-4-phenylpyridinium))の活性が上昇した Clk1 変異パーキンソン病マウスモデルでは、メトホルミン治療により、AMPK 依存メカニズムにより、行動障害が回復し、α-シヌクレインの蓄積が減少し、ドーパミン作動性ニューロンと中脳における LC3-II 媒介オートファジーが強化された。
 オートファジー関連タンパク質 LAMP-1 および Beclin-1 はメトホルミン治療によってアップレギュレーションされ、心筋細胞における高血糖誘発性アポトーシスを減弱させることが示されている。また、メトホルミンが δ-サルコグリカン欠乏誘発性拡張型心筋症マウス心臓におけるオートファジー反応の増強と ob/ob マウス(肥満マウスモデル)におけるマイトファジー※の増強を誘導することを示唆している。さらに、メトホルミンは AMPK 活性化の下流でロドプシンのミスフォールディングと輸送を救済することも示されている。

※マイトファジー mitophagy
マイトファジーとは、オートファジーを介したミトコンドリアの選択的分解機構
であり、古くなったミトコンドリアの代謝に関与している。 簡単に言えばミトコンドリアを選択的に分解し細胞内を浄化する、細胞の品質管理システムの1つ。この機構によって、ミトコンドリア機能障害が関与する疾患から生体を防御していると考えられている。

(メトホルミンは mTOR シグナル伝達の阻害によるオートファジーの増強、AMPK 活性化を経てタンパク質のミスフォールディングを修復する)

老化の特徴におけるメトホルミンの二次標的

5. ミトコンドリア機能障害

 加齢に伴うミトコンドリア機能の低下が、エネルギー恒常性の加齢に伴う調節不全と加齢関連疾患の素因の増加に寄与する可能性があるという長年の研究エビデンスがある。

 加齢によるミトコンドリア機能の障害は、いくつかの細胞内外ストレスの結果である。ミトコンドリアは細胞の原動力としての役割に加えて、加齢に伴うミトコンドリアの機能不全が炎症、老化、オートファジー、逆行性核シグナル伝達に影響を及ぼす可能性があるという理解が深まっている。

 メトホルミンは、ミトコンドリア複合体 I 阻害を介して酸化ストレスを軽減し、PGC-1α を介してミトコンドリアの生合成を改善する。

  ミトコンドリアは、エネルギー恒常性や ROS を介した酸化ストレスとともに、これらの重要な細胞プロセスを制御する上で重要な役割を果たしているため、老化や加齢に伴う疾患や病態に対する魅力的な治療ターゲットであると考えられている。
 また、メトホルミンは、ミトコンドリア ETC の複合体 I (NADH:ユビキノン酸化還元酵素) を阻害し、ROS を低下させるか間接的な除去メカニズムによって、ミトコンドリア誘発性の酸化ストレスに直接影響を与える。この阻害は、マクロファージにおけるプロIL1β産生を特異的に阻害することで、抗炎症反応も誘発した。同様に、メトホルミンによる複合体I阻害は、肺胞マクロファージにおけるROS媒介IL-6放出も減少させ、マウスの動脈血栓症を予防する。

肝臓の糖新生の減少は、フラビン結合呼吸鎖結合脱水素酵素であるミトコンドリアグリセロリン酸脱水素酵素(mGPDH)のメトホルミンによる直接阻害と関連していることも実証されており、これが細胞質の酸化還元状態を調節している。

 メトホルミンは、肝臓および骨格筋に関連し、ミトコンドリア生合成を誘導する共転写調節因子であるPGC-1αの発現とタンパク質活性を高める。

興味深いことに、in vitro研究では、ミトコンドリア遺伝子発現ネットワークの修復とミトコンドリア形態の回復を介して、加速老化のヒトモデルであるダウン症候群に関連するミトコンドリア機能不全を元に戻すメトホルミンの能力が実証されている。

 ヒストンのメチル化とサーチュインの活性化に対する効果に関連して、メトホルミンはSIRT3の上方制御を介して作用することでミトコンドリア生合成を誘導し、細胞老化を遅らせることも示されている。メトホルミンによる SIRT1 の直接活性化は、加齢に伴うミトコンドリア機能不全の抑制に役立つ可能性があるが、逆にこのシステムの障害は、SIRT1 活性の低下によって核コード化ミトコンドリア転写因子 A (TFAM) のダウンレギュレーションが起こり、NAD+ レベルが低下することによると考えられている。

 最近、メトホルミンがヒトの動脈付属器組織で心臓保護作用を持つことが、用量依存的に複合体 I、IV、V の活性を軽度に抑制し、スーパーオキシド生成を減少させ、ミトコンドリア透過性遷移孔を減衰させることで解明された (Emelyanova et al. 2019)。

(メトホルミンはミトコンドリア複合体 I を阻害し、PGC-1α 発現を増加させることでミトコンドリア生合成を改善する)

6. 幹細胞の枯渇

 加齢に伴い、組織の再生能力は全身的に低下する。幹細胞数の減少と過剰な増殖はいずれも老化表現型を誘発する可能性があるため、幹細胞と前駆細胞の恒常性と再生能力を維持することが不可欠となる。
 加齢に伴う幹細胞機能の低下は、造血細胞、腸管幹細胞、衛星細胞、神経幹細胞、毛包細胞、メラノサイト、生殖細胞など、いくつかの幹細胞集団で観察されている。

 いくつかの研究では、造血幹細胞と腸幹細胞はヒトだけでなく動物モデル(マウス、ショウジョウバエ属)でも加齢とともに増加することが実証されている。幹細胞と前駆細胞の若返り能力が低下する正確なメカニズムは不明だが、幹細胞老化の一般的なメカニズムは、テロメアの消耗、分子損傷、エピジェネティックドリフト、発達経路の調節不全など、いくつかの細胞内因性および外因性要因によって説明できる。

メトホルミンは幹細胞の若返り能力を誘導し、幹細胞の老化を遅らせる。

幸いなことに、メトホルミンは幹細胞の枯渇を引き起こすいくつかの経路を標的としているため、加齢に伴う幹細胞の枯渇に対処する上でのメトホルミンの役割を理解する根拠が強化されている。
前述のメトホルミンの老化治療効果は、Nrf2を介してGpx7を活性化することで、細胞の消耗を遅らせ、早期老化を防ぎ、それによってヒト間葉系幹細胞の寿命を延ばすことが示されている。メトホルミンが幹細胞の老化を遅らせるという初期の証拠は、ショウジョウバエの中腸腸幹細胞(ISC)で実証されており、AKT / TOR経路を介してDNA損傷と下流の中心体増幅を阻害し、後にオートファジー関連因子であるAtg6によっても媒介されることが判明している。
 幹細胞機能におけるメトホルミンの抗老化効果は、ISCに限定されず、他の幹細胞集団にも拡張できる。最近、メスのマウスでメトホルミンが神経幹細胞プールを拡大し、男女ともに神経新生と認知回復を促進することが分かった。興味深いことに、メトホルミンは、オリゴデンドロサイト前駆細胞の若返りおよび分化能力の加齢に伴う調節不全も逆転させ、再髄鞘形成をさらに改善した。メトホルミン誘導性の自己複製能力と神経新生の保持は、前者は転写因子 TAp73 を介して、後者は AMPK 活性化 αPKC-CBP 経路を介して、2 つの異なるメカニズムを介して媒介される。
 筋肉では、老化した衛星細胞※※は、活性化されると静止状態と自己複製能力を維持できなくなる。メトホルミン治療は、衛星細胞の活性化を遅らせ、静止した低代謝状態を維持し、それによって幹細胞の数を維持することが示されている。

 幹細胞の数と機能を維持することで、加齢に伴う若返り能力の喪失に対抗し、それによって組織の修復を促進することができる。実際にいくつかの例では、メトホルミンは幹細胞の枯渇を標的とし、幹細胞の老化を遅らせ、幹細胞の機能を維持するのに効果的であった。

メトホルミンのこの役割は、再生医療の研究と試験でさらに研究する必要がある。

衛星細胞※※
骨格筋の量と機能の低下は、高齢者にしばしば見られる特徴であり、衛星細胞として知られる骨格筋幹細胞の再生能力の低下と関連している。筋衛星細胞は、筋再生において重要な役割を担っていると考えられている骨格筋を形成する幹細胞で、 通常、筋衛星細胞は静止型とよばれる状態で筋線維の表面上に存在しているが、筋肉の損傷等に応じて活性化し、増殖、分化、融合を通して筋組織を修復する機能を発揮することが知られている。


(メトホルミンは、加齢に伴う幹細胞の枯渇に対処する。特にフレイルで重要な筋肉の減衰に関しても筋衛星細胞の活性化を遅らせ、静止した低代謝状態を維持することで幹細胞の数を維持する)

7. エピジェネティックな変化

 DNA およびヒストンのメチル化の変化は、生物学的老化の特徴であり、結果としてアセチル化やリン酸化などのヒストン修飾は、転写の活性化、細胞恒常性の喪失、加齢に伴う代謝低下につながる可能性がある。
 DNA およびヒストンのメチル化の状況は加齢とともに変化し、一般的に全体的な低メチル化とプロモーター特異的な高メチル化につながりが、これらの変化は、保存された組織特異的な加齢関連転写変化の決定要因であり、老化の代謝および炎症表現型に寄与している。

メトホルミンは、ヒストン修飾、DNAメチル化、およびmiRNAを介して転写活性を制御する。

エピジェネティックおよび転写変化は、その変更可能な性質のため(可逆的な)、一般的に加齢関連疾患に対する治療介入の効果と健康的な老化の促進を示している。

 メトホルミンのAMPK依存性および非依存性メカニズムは、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ (HAT) のリン酸化、クラスIIヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) の阻害、およびSIRT1の活性化を介してヒストン修飾に影響を与えることが観察されている。
 また、非糖尿病性 HER2 陽性乳がん患者およびヌードマウスに注入されたヒト乳がん異種移植において、この薬剤は全体的な H3K27me3 レベルを増大させ、脱メチル化酵素 KDM6A/UTX を直接標的とし、さらに、健康な高齢ドナーおよびウェルナー症候群患者の線維芽細胞における全体的な H3K27me3 の加齢関連損失を回復させた。この効果は、ミトコンドリアを欠く Rho0 細胞で証明されているように、メトホルミンのミトコンドリア複合体 I 阻害とは無関係であった。さらに、メトホルミンは、ミトコンドリアの1炭素代謝経路を介して全体的なDNAメチル化を促進し、癌細胞ではH19/S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)軸を介して、代謝エピジェネティック調節因子として作用する。
 メトホルミンは、健常者、糖尿病患者、および癌細胞株(乳癌および大腸癌)において、全体的な DNA メチル化とその下流組織特異的(骨格筋、皮下脂肪組織、末梢血単核細胞)転写プロファイルを直接的に上方制御しるが、これは、メトホルミンの年齢標的化および抗腫瘍役割を反映している。

 メトホルミンは、DNA とヒストンのメチル化に対する効果以外にも、DICER1 と下流の miRNA をアップレギュレーションを行う。
これらの miRNA のいくつかは細胞老化とともに減少するため、メトホルミンには転写と転写後を制御する複数のメカニズムがあることが示唆されているが、最近では、メトホルミンを組み換えヒト成長ホルモン (rhGH) とデヒドロエピアンドロステロン (DHEA) と組み合わせると、健康な成人で 1 年間の治療後、DNA メチル化に基づく生物学的年齢のマーカーである平均「エピジェネティック年齢」が 1.5 歳戻ることが示された。

 メトホルミンのヒストンおよび DNA 修飾を介した転写およびエピジェネティック制御と miRNA への影響に関して、これまでの研究のほとんどは、薬理学的用量を超える用量での細胞株におけるこの制御を調査しており、臨床研究への一般化が制限される可能性がある。
組織および細胞特異的な方法と全身レベルでの薬理学的に関連する用量のにおいて反応をさらに解明することが重要でである。

(エピジェネティックな変化は可逆的であり、一般的に加齢関連疾患に対する治療介入が期待される部分である。そうすると当然その先には抗腫瘍効果も見込まれる)

8. テロメアの消耗

 テロメアは、真核生物の染色体の末端にある高度に保存されたリボ核タンパク質複合体であり、不完全な DNA 複製によって引き起こされる分解から染色体の末端を保護する重要な役割を果たしているが、加齢やストレスにさらされると、これらの領域は特に劣化しやすくなる。
 また、成人細胞ではこの損失を補うためのテロメラーゼが不十分なため、細胞増殖とともに徐々に消耗していく。進行性のテロメア短縮は、生物学的老化や加齢に伴う罹患率、虚弱性、死亡率と関連していることがわかっている。さらに、テロメア短縮は、p53 を介した DNA 損傷応答経路を介して、細胞老化、炎症、ミトコンドリア機能障害を引き起こすことも示されている。

メトホルミンはTERRAを活性化し、テロメア短縮を減らすことが示されている。

 メトホルミンを含む介入がテロメア長に及ぼす影響、特に健康的な老化と寿命の延長に及ぼす影響については、エビデンスはこれまでにほとんどないが、Dimanらは、メトホルミン核呼吸因子1とPGC1-αによって活性化されるAMPKの下流ターゲットが、テロメア反復配列含有RNA(TERRA)を介したヒトテロメア転写の調節因子であることを特定した(Diman et al. 2016)。

 糖尿病患者の場合、メトホルミンを服用していない人と比較して、メトホルミンはテロメア短縮を減らすことも示唆されている。これは、耐糖能やインスリン感受性を改善するメトホルミン単独療法が糖尿病患者の白血球テロメア長の短縮を予防した他の研究と似ている。妊娠糖尿病の母親では、メトホルミン治療により男性の子孫のテロメア短縮が予防された。

(メトホルミンによって活性化されるAMPKの下流ターゲットが、テロメア反復配列含有RNA(TERRA)を介したヒトテロメア転写の調節因子であり、テロメア長の短縮を予防する)

9. 細胞老化 (老化細胞)

 細胞が複製能力に達するか、内部または外部のストレス要因にさらされたときに安定した細胞周期が停止する状態として定義される老化は、老化の主な原因であると言われている。
 最初は Hayflick と Moorehead、最近では Baker らによる独創的な発見により、老化細胞の加齢に伴う蓄積と、高齢になってもそれらの除去後に加齢に伴う組織機能障害が軽減されるという、細胞老化が老化の主な原因であることが明確になった (Hayflick と Moorhead 1961、Baker ら 2011)。

 老化は悪性腫瘍に対する保護メカニズムとして機能し、腫瘍抑制メカニズムとして機能するが、最近の証拠では、老化細胞が SASP に表現型を変化させ、逆説的に腫瘍の増殖を引き起こす可能性があることが示唆されている。

 さらに、加齢によって誘発されるエピジェネティック、タンパク質毒性、遺伝毒性のストレスによる老化細胞の蓄積は、緑内障、白内障、糖尿病、変形性関節症など、多くの加齢関連疾患の原因となることが一般的である。最近では、老化細胞で選択的にアポトーシスを誘導するセノリティック薬※※※が、老化や加齢関連表現型を軽減する大きな可能性と臨床的有用性を示している (Kirkland et al. 2017、Xu et al. 2018、Justice et al. 2019)。

セノリティック薬※※※
「セノリティクス=senolytics」は、「老化=senescence」と、「対抗=lytics」を合わせた言葉で、老化防止を意味する。老化細胞を適切に除去することに成功すれば、健康維持や老化制御などの抗老化効果をもたらすとして、研究・開発が進められている。一般に老化細胞を殺す手法や薬剤の総称。老化細胞のアポトーシス抵抗性をターゲットにしているものが多く、ダサチニブとケルセチンの複合投与は臨床試験が行われている。

メトホルミンは SASP をダウンレギュレーションし、老化細胞の負担を軽減する

 メトホルミンは老化抑制特性を示さないものの、複数の加齢関連機能障害における細胞老化と SASP の抑制に効果的であることが知られている。
 低用量のメトホルミンの慢性投与は、グルタチオンペルオキシダーゼ 7 (GPx7) の Nrf2 媒介アップレギュレーションを介して、SA-β-Gal 染色の減少によって証明されるように、ヒト二倍体線維芽細胞とヒト間葉系幹細胞の老化を遅らせる。メトホルミンの老化治療的役割は、NF-κB の核への移行を阻止することで IκB とそのキナーゼをリン酸化せず、NF-κB 経路を完全に阻害する抗炎症効果によっても媒介される。マウス嗅覚鞘細胞の体外培養におけるメトホルミンによる NF-κB の阻害も、炎症誘発性サイトカインおよび酸化ストレスマーカーの発現低下とともに SA-β-Gal 活性の低下と関連している。

 DICER1 依存性メカニズムでは、メトホルミンはヒト線維芽細胞において p16 および p21 のタンパク質レベル、および IL-6 および IL-8 を含む SASP の特徴の RNA レベルを低下させることが示されている。
 最近、ヒト歯周靭帯細胞において、老化および酸化ストレスに対する保護効果がメトホルミン誘導性オートファジー刺激に関連付けられ、老化のこれら 2 つの特徴の相互関連性を標的とするメトホルミンの役割がさらに強調された。同様に、椎間板変性の in vitro および in vivo モデルでは、メトホルミン治療により AMPK を介したオートファジーがアップレギュレーションされ、髄核細胞の老化が軽減された。

メトホルミンが老化細胞の負担増加と加齢に伴う SASP のアップレギュレーションを軽減することは明らかである。

 酸化ストレスの媒介における Nrf2-Gpx7 活性化、および炎症反応の媒介における NF-κB 阻害を介した SASP 調節因子としての役割は、その老化治療メカニズムの理解を深める一方で、乳がんおよび肝細胞がんの文脈では、低用量メトホルミンがそれぞれ SASP 遺伝子発現シグネチャおよび p53 依存性老化を誘発することが以前に示されている (Williams et al. 2013、Yi et al. 2013)。

 つまり、このように、メトホルミンの細胞老化と SASP に対する効果は状況に依存しており (アポトーシスを誘導することで抗がん作用、炎症を抑制することで抗老化作用)、がん組織の老化促進とは対照的に、老化組織で抗老化反応を誘導するためにメトホルミンを刺激するものが何であるかをさらに理解する必要がある。老化抑制薬の臨床試験の出現により、メトホルミンを他の薬剤と組み合わせて最も効果的に利用して、老化と老化に対する組み合わせ効果を最適化する方法を理解することも重要である。

(メトホルミンのSASP に対する効果は一方向性ではないので注意が必要)


メトホルミンの副作用

 明らかに、メトホルミンの予想外のプラスの副作用には、健康寿命の延長と死亡率の低下が含まれます。最近、肝臓、腎臓、心臓疾患を患う糖尿病患者がメトホルミンを服用しなかった場合、入院と死亡率の減少という恩恵を受けることができたことが明らかになった (Crowley et al. 2017)。

 したがって、メトホルミンの「ブラックボックス」警告は着実に消えつつあり、腎機能が低下した患者への使用の適応がそれほど厳しくないことからもそれがわかる (Bakris and Molitch 2016)。

ほとんどの薬と同様に、メトホルミンでも軽度の副作用が発生する。

軽度の副作用のほとんどには、腹部または胃の痛み、早期の満腹感、食欲減退、下痢などの胃腸の不快感が含まれるが、これらは通常、使用後 1 ~ 2 週間で治まる。下痢が 1 週間以上続く場合 (使用者の約 3%)、薬の使用は中止される。これらの副作用は、線虫やその他の小型生物で証明されているように、腸内細菌叢の急激な変化の結果である可能性がある。
細菌叢の変化は、メトホルミンの慢性使用によるビタミン B12 レベルの低下によっても生じる可能性があるが、そのメカニズムはまだ不明であり、ビタミン B12 の補充が必要な患者はほとんどいない。


 メトホルミン関連乳酸アシドーシス (MALA) と呼ばれる症状は、重度の腎臓病、肝臓病、心臓病などですでに乳酸値が高い患者がメトホルミンを服用しているときに発生することがある。少数の患者は、メトホルミンを服用してすぐに不安、不眠、速い呼吸などの症状を訴えることがあるが、通常は自分で薬を中止する。メトホルミンは乳酸値を上昇させながら正常範囲を維持するのだが、MALA 患者を含む重篤な副作用のある患者は、遺伝的メカニズムに起因するミトコンドリア複合体 1 の阻害に対してより敏感である可能性がある。

 TAME 試験は、前述のすべての理由でメトホルミンの服用を中止した患者を調査し、異なる結果になりやすいかどうかを判断することを目的としている。その生物学的サンプルは、さらなるメカニズム研究に利用できる。
 
 また、メトホルミンは低血糖薬ではないため、その生物学的効果と一致して、糖尿病患者に他の血糖降下薬と併用しない限り、低血糖を引き起こす可能性は低いことを理解することも重要である。
 この様な背景から、糖尿病の適応症以外では、メトホルミンの使用は医師の監督下で臨床試験の文脈でのみ推奨される。


結論と展望

 生物学的老化の特徴を緩和するメトホルミンの有効性は、老化に関与する重要なメカニズム経路を標的とすることができる治療薬としてのメトホルミンの強みと可能性を反映している。

 メトホルミンの代謝効果は、AMPK の活性化による代謝作用と、ミトコンドリア ETC の複合体 I の阻害による酸化作用が主になる。

 mTORC1、PGC1-α、インスリン IGF1 シグナル伝達、SIRT1、NF-κB シグナル伝達、炎症誘発性サイトカインに対する追加的な直接効果があり、それによって 4 つの特徴 (栄養感知の調節不全、細胞間コミュニケーションの変化、ゲノム不安定性、タンパク質恒常性の喪失) をメトホルミンの主なターゲットとして分類できる。

 ミトコンドリア機能、DNA およびヒストンの修飾、幹細胞の若返り、テロメア短縮の防止、老化および SASP のダウンレギュレーションに対する効果は、主なターゲットの下流にあると理解できる (図 2)。

 現在、メトホルミン単独療法および運動などの生活習慣介入との併用療法が、老化の個々の特徴の臨床的および分子的結果に及ぼす反応を評価する臨床試験がいくつか進行中である。これらの臨床試験では特に、フレイル(虚弱性)および関連する炎症性および SASP 候補バイオマーカーに対するメトホルミンの効果、LC3 レベルの測定によるオートファジー促進効果、筋肉サイズの変化、腸内細菌叢による免疫反応の改善、およびインフルエンザワクチンの有効性の測定に取り組んでいる。

 メトホルミンの老化に対する作用を研究する上での制限は、その組織特異性、用量依存性、およびミトコンドリア阻害がメトホルミンの効果に寄与する役割と言える。

 今後の研究により、これらの制限のそれぞれについてさらに詳しく解明される可能性は間違いない。
 しかし、メトホルミンが老化のあらゆる特徴と関連していることを示す証拠が蓄積されるにつれて、メトホルミンがこれらの特徴のいずれかに及ぼす影響は、他のいくつかの老化の特徴の全身的な減衰に直接的な影響を及ぼすことを覚えておくことが非常に重である(図 2)。たとえば、強調したように、オートファジーを標的とすると、ミトコンドリア機能、栄養素の感知、高分子の損傷に影響を与えることが証拠から示唆されている。この考え方に基づいて、一次レベルまたは二次レベルのいずれかで老化を標的とすると、最終的には細胞、組織、システムが若返り、老化の全身生物学に直接影響すると考えられる (図 2)。
 したがって、観察される効果の一部は、全身の若返りを達成した結果であり、薬剤の直接的な標的ではない。実際、ラパログ(mTOR阻害薬の一種。ラパマイシン(シロリムス)とその誘導体であるエベロリムス,テムシロリムスなどラパログと総称される一群がある)やサーチュインなどの他の介入の効果を検討すると、これらも老化の同様の特徴の多くに影響を与えている可能性があることが示されている (Lamming et al. 2013、Grabowska et al. 2017)。

結論

結論として、
ヒトの加齢に伴ういくつかの病状を標的とするメトホルミンの有効性を強調する広範な疫学、基礎科学、臨床データがあり、すでにモデル生物と細胞株の研究は、老化の重要な経路に対するメトホルミンの有益な効果について説得力のある証拠を提供している。
既知の安全性プロファイルとヒトでの長期使用に加えて、メトホルミンは生物学的老化の主要な特徴とその相互接続性を弱めるため、老化に対する非常に魅力的な候補となり、TAME研究はそれを証明することになります。

私評

とても興味深いレビュー。試験中とはいえTAME研究の結果が気になるところですが、メトホルミンは副作用も比較的限られており、モデル動物を含むこれだけのデータがあれば良い結果が出ると思われます。ただし、全てが一方向性に単純なものではなさそうですが、現時点で言えることはオートファジーの促進、炎症の抑制、腸内細菌叢への作用やDNA修復とか科学的根拠が挙げられています。ただ、原点に戻って、もともと糖尿病の治療薬という観点からすれば、栄養素の過剰摂取を控えるというのは基本的にシンプルで有効的なのではないか思うのですがいかがでしょう。



カクテル AKEBI KAKUTERU 46


秋はキノコやフルーツ好きとかにはとても良いシーズンです。

もうそれを口にしたのは何十年も前になります。子供の頃山に行った時に蔓に生えていたのを見た覚えがあります。先日自由が丘の朝市でたまたま見つけたので買って帰って30代のスタッフに見せて
「これは何でしょう?」、、、「紫芋」、「モグラ」、、、いろんな意見が出ました。正解は40代から。やっぱり今の世代には無理もない。

中を開いたらもっとびっくり。


スプーンですくって味見して残りはカクテルに。
お味は、、、まあこんなもんかな。
感想は上品なあっさり味の和菓子テイスト、というところでしょうか。

さて、これを
オードヴィ eau de vie
Massenez Eau-de-Vie Framboise
マスネ オードヴィ フランボワーズ
と合わせてオリジナルカクテルを作ってみました。

マスネ オードヴィ フランボワーズ 20ml
を入れたグラスにあけびAKEBIを入れてマドラーで少し潰す。冷たく冷やしたソーダを注いで完成。

甘すぎず上品で爽やかな秋の味覚というところか。
何と言っても、お陰様でワイワイ盛り上がって面白おかしく過ごせました。

Louis van Dijk
Agnus Dei (Fauré)🎵

サイエンスの話 46 老化時計 ④

2024-09-29 16:38:14 | 日記
The aging skin microenvironment dictates stem cell behavior
加齢に伴う皮膚微小環境が幹細胞の挙動を規定する
PNAS February 24, 2020 117 (10) 5339-5350
https://doi.org/10.1073/pnas.1901720117

老化のプロセスの中で幹細胞はどう影響するのか、という内容。

背景

そもそも、成人の組織には、創傷の修復と適応に不可欠な組織特異的幹細胞 (Stem Cell) が存在し、臓器の劣化は、これらの常在 SC の喪失または系統の偏りに起因することが多いとされている。哺乳類では、中でも、老化した皮膚においては毛周期の顕著な減少と脱毛斑の出現など外見上の変化を伴うため観察しやすいという研究上のメリットがある。そこで、毛包幹細胞 (HFSC)の運命は老化中にどのように変化するのか、老化中に失われるのか、あるいは分化することで新たに抗老化プロセスを担い表皮の運命に変化するのか、さらにはその運命を左右する因子は何なのか探究する。

要旨

単一細胞 RNA シーケンシングを使用して、HFSC 毛包幹細胞の老化過程の変化を調べた。幹細胞の数は減少していたが、老化した HFSC は残存し、そのアイデンティティを維持し、表皮の運命に移行する明らかな兆候は示さなかった。しかし、特に細胞外マトリックス遺伝子で転写変化が顕著に見られ、老化した SC ニッチの深刻な構造的変動を伴っていた。
また、常在免疫細胞、感覚ニューロン、立毛筋など、 SC ニッチ(周辺の非上皮性細胞からなる微小環境)に存在する多くの非上皮細胞タイプで顕著な老化関連の発現変化が認められた。
SC ニッチの各コンポーネントは、毛包HF 再生に影響を与えることが知られているので、若い HFSC を動員してニッチから取り出し、毛包に対する創傷治癒実験を行ったところ、老化した皮膚に移植した場合には創傷治癒ができないことがわかった。しかし、興味深いことに、生体内での移植試験では、若い真皮で支えられた老化した HFSC は HF を再生したが、若い HFSC は老化した真皮と組み合わせると HF を再生できなかった。これらの結果を合わせると、幹細胞とニッチ相互作用の重要性が強調された。
つまり、SC ニッチ微小環境の若さが幹細胞の特性と組織の健康と適応性を決定する上で主要な役割を果たすということがわかった。

(幹細胞は単独で若返りの泉というわけではなく、その周辺にある非上皮性の微小環境=ニッチによって運命付けられ、老化幹細胞と若いニッチを合わせると元来の創傷治癒や抗老化の機能を発揮することができた。すなわち、ニッチが老化過程での幹細胞の働きに大きく影響している)

abbreviations;

SC:  stem cell 幹細胞
SC niche: stem cell niche 幹細胞ニッチー毛包周辺の非上皮細胞群  
niche: ニッチ、microenvironment (微小環境) 
HF: hair follicle 毛包
HFSC: hair follicle stem cell 毛包幹細胞
APM: arrecter pilli muscle 立毛筋

結果

1 老化した皮膚の HFSC は、系統のアイデンティティを維持する

まず、2 歳 (高齢) および 2 か月齢 (若齢) の C57BL/6 マウスの皮膚上皮内の加齢に伴うトランスクリプトームの変化を調査した。休止期 (休止期) の背中の皮膚 HF 毛包に注目した。

皮膚から上皮を解剖した後、FACS を使用して死んだ細胞を取り除き、さらに免疫細胞、メラノサイト、線維芽細胞、および内皮細胞を除外した。次に、皮膚上皮系統が豊富な単一細胞を捕捉し、10X Genomics プラットフォームを使用して単一細胞 RNA シーケンス (scRNA-seq) を実行した。若い皮膚上皮と老化した皮膚上皮の両方から、異なる休止期細胞集団を分離し、確立された系統特異的マーカーを使用して、以下の集団のアイデンティティを区別した(図1A):
バルジHFSC、バルジ基底部の「プライミング」HFSC(毛胚、HG)、皮脂腺、峡部(バルジ腺と皮脂腺の間のHF領域)、漏斗部(表皮に隣接する上部HF領域)、基底上HF細胞、および表皮の基底細胞と基底上細胞(図1BおよびSI付録、図S1)。

(バルジHFSCは若いマウスと高齢マウスと同パターンー毛包幹細胞のマーカーを示した。例えばHFSCマーカーK24(A)とSOX9(B)、EpdSCマーカーKLF5(B)、Epd分化マーカーK10(C)などの発現様式。つまり、その個性は老化した個体でも若くても変わりはなく、いずれも幹細胞としては同等に維持されているのではないかと考えられたー幹細胞としての個性=アイデンティティは保たれていた)

2 老化した HFSC は ECM 遺伝子発現とバルジ構造に顕著な変化を示す

老化したバルジ HFSC はアイデンティティに忠実であったが、老化したトランスクリプトームは若いトランスクリプトームと区別するいくつかの変化が見出された。

最も大きく変化したトランスクリプトは、ECM、基底膜、ECM リモデリング遺伝子、および分泌シグナル伝達因子であった((図 3 A および B、SI 付録、図 S2B、およびデータセット S1 および S2)。

(加齢HFSCsと若年HFSCsの間で有意に変化したECM遺伝子と分泌因子の階層的クラスタリングを示すヒートマップに示されるような大きな差がみいいだされた。赤は発現増加、青は発現減少。マトリソーム(ECM遺伝子)であることに注目)

また、老齢マウスの皮膚の部位に顕著な脱毛が見られることに着目した。
全層免疫蛍光顕微鏡レベルで詳しく調べたところ、若いバルジと老齢バルジの間にはいくつかの明確な構造上の違いが見られた。
つまり、具体的には、第 2 休止期 (つまり、毛周期の第 2 生後休止期) にある若い HF は、明確な 2 つのバルジ構造を示していた (図 3D)。対照的に、高齢の HF では、多くの場合、単一の隆起のみが表示された (図 3D + ムービー)(高齢では膨らみが一つ)。
このように老化バルジ HFSC の数は減少し、存在する HFSC は不活性であるもののほぼ同様の転写活性を示したが、ECM および ECM リモデリング遺伝子の発現に顕著な変化が見られた。
これらの変化は、バルジ ニッチが構造的完全性を維持できないことと相関しており、この現象が老化した皮膚における毛包 の小型化の根底にある可能性がある。

(高齢と若齢の差はバルジにおけるECM および ECM リモデリング遺伝子の発現減少→老化によるバルジ構造の維持困難→脱毛)

3 老化した皮膚の微小環境における多面的な変化

これまでのまとめとして、
加齢に伴う毛髪の薄さの背後にある正確なメカニズムとは関係なく、加齢した HFSC は系統のアイデンティティを維持し、毛周期の休止期には非増殖性の状態を維持していた。

しかし、HFSC による ECM 遺伝子発現の顕著な変化と SC ニッチの構造変化は、微小環境の乱れが加齢に伴う HFSC 活性の低下に関係している可能性を示唆している。
この点、一方で、加齢した真皮線維芽細胞と若い真皮線維芽細胞の間に顕著な機能的差異を示す研究結果が最近数多く報告されている。そこで、HFSC 微小環境の加齢に伴う差異をさらに理解するために、HFSC ニッチの構成要素として関与していると考えられる非上皮細胞を調査した。

・老化したバルジニッチにおける顕著な変化は APM arrecter pilli muscle立毛筋にあった。
通常、APM は上部バルジで HF に接続するが、老化した皮膚では APM がバルジから分離しているように見えた (図 4C)。
APM の付着は、若いバルジの SC によって発現される特殊な ECM 成分であるネフロネクチン (NPNT) に依存している。

( ECM 成分であるネフロネクチンNPNT低下→APM の付着低下→脱毛)

・さらに、CD4+ エフェクター T 細胞集団全体の変化はそれほど有意ではないが、このプール内の制御性 T 細胞 (Treg) のサブセットでは明らかな加齢に伴う減少が見られた (図 4 D および E)。若いマウスでは、Treg が毛周期に刺激を与えるという最近の報告を考慮すると、FOXP3+CD25+CD4+ Treg の加齢に伴う数の減少は特に注目に値する。
したがって、Treg の不足は、加齢に伴う毛周期の低下の重要な要因である可能性がある。

(T 細胞 Treg の不足も関与する可能性)

(幹細胞SCとニッチの間の相互作用で特定したこれらの加齢に伴う変化は、皮膚の老化中の 幹細胞機能低下に直接的または間接的に寄与する可能性がある)

4 創傷修復中の老化した皮膚における HF 再生の欠陥

背景:老化した表皮 SC が全層創傷で表皮を再上皮化しようとすると、修復プロセスが著しく遅れるという報告がある。
したがって、今回は部分層ドレメル創傷モデル partial-thickness dremel wound model に着目した (材料と方法、図 5A)。この方法では、移動して動員された幹細胞 HFSC は系統不忠実状態 (35) に入り、表皮の修復を促進する。
さらに、若いマウスでは、部分層創傷によって誘発されるストレス反応が HF 再生を刺激するため、このモデルは老化した HFSC の効力を試すのに特に魅力的なモデルとなる (図 5A)。

実験:毛髪の再生をよりよく監視するために、まず休止期の若いマウスと老齢マウスの毛を剃り、次に背中の皮膚に部分的な厚さの創傷を施した。
結果:創傷後 2 か月で、若いマウスの創傷のない領域が通常の毛周期を開始したときでさえ (図 5D、若いマウスの白い点線、図 5E、「創傷のない若いマウス」)、老化した皮膚は、創傷の有無にかかわらず、新しい毛皮を再生する兆候をまだ示さなかった (図 5 DとE)

(老化マウスでは、2週間後、2ヶ月後も休止期に入ったままによる創傷治癒が開始されなかった。これは若いマウスでは2週間後から成長期に入り、さらには2ヶ月後に完全に毛で覆われるよう再生している状況と明白に異なったー図 5 BとD)

さらに、創傷修復プロセスの初期段階を調べた。
創傷から 5 日後、老化した HFSC は組織修復を開始したように見えた (SI 付録、図 S3B)。この時点で、HF の表皮と上部はどちらも組織再生の兆候を示していた (SI 付録、図 S3B、矢印)。これらの結果は、老化した HFSC が、表皮の再上皮化を促進する創傷誘発性のシグナルに依然として反応できることを示している。

だが、この結果は加齢に伴う毛髪再生の欠陥は、老化した休止期皮膚は慢性創傷のような状態に似ているという従来の概念と矛盾しているように思われた。脱毛した皮膚領域内の老化した HF 隆起部には HFSC がまだ存在しており (図 1)、創傷により毛髪サイクルを活性化するよう誘導された (図 5C) ことから、老化した HFSC とその初期の増殖性子孫は毛髪再生プログラムを実行する能力に欠陥があるか、持続性が不足して組織再生タスクが停止している可能性があると推測した。

(幹細胞の機能は老化してもそのアイデンティティーは保たれているが、老化すると休止期から動かなくなって機能しにくくなる、その差は何なのか、可能性は2つにひとつ、毛髪再生プログラムが働かない、あるいは働いでも弱くて持続しないかのどちらかと考えて以下に進んだ)

若い HF と同様に、HF は Shh および Wnt10b を発現した(毛周期の誘発に重要であることが知られている既知のマーカー)。
これらは、HF毛包再生および毛髪成長を促進する毛球内の初期の短命な SC 子孫の重要なマーカーであるShh および Wnt10b の発現を調べてみると、若いマウスも老化マウスもいずれも発現していた (図 6A)。
とはいえ、再生のための分子シグナルは開始されていたものの、創傷後 7 日までに再生した老化した HF は短くなっており、これはおそらく次の毛周期のための SC を収容する外毛根鞘細胞が少ないことを反映している。HF はまた成熟度が低く、これは毛幹とそのチャネル (内毛根鞘) への分化に進む毛球内の短命な HFSC 子孫が少ないことを反映している。
内根鞘マーカーGATA3(C、矢頭)および毛幹マーカーHOXC13(D、矢頭)の免疫蛍光観察により、若齢マウスと比較して老化マウスでは、創傷により誘導されたHFの数が減少していることが明らかになった。

これらのデータを総合すると、老化した HFSC は創傷誘発性成長期促進シグナルに反応し、適切な系統分化経路を実行できると思われる増殖性子孫を生成したことがわかる。ただし、毛周期全体にわたって再生を持続的に促進する能力は低下しており、その結果、部分的な厚さの創傷を受けた老齢マウスでは毛皮を再生することができなかった。

(SC 子孫の重要なマーカーであるShh および Wnt10b の発現を調べてみると、若いマウスも老化マウスもいずれも発現していた。ということは、老化した HFSC は毛周期活性化による創傷誘発性成長期促進シグナルの開始点では反応している。しかしながら、その後老化マウスで創傷後の毛包は短くて数も少なかったのは何故か、HFSCの働き、おそらく持続力に問題があったということではないか)

5 若齢 HFSC と老齢 HFSC の本質的な違いは、in vitro 培養によって克服できる

これまでの結果から、創傷誘発性組織再生における老齢 HFSC の能力の低さは、HFSC の本質的な活動の低下、または老齢真皮によって提供される組織微小環境の支持力の低さのいずれかが原因である可能性がある。

これらの可能性を区別するために、まず若齢および老齢皮膚から HFSC を分離し、in vitro でその挙動を調べた (SI 付録、図 S4A)。

実際、若い HFSC と同様に、老化した HFSC は培養中に創傷修復中に見られるものと同様の転写変化を起こした。
これには 表皮遺伝子の活性化、HF 遺伝子のダウンレギュレーション、ストレス特異的遺伝子の誘導が含まれた (SI 付録、図 S4B)。
結果を総合すると、若いHFSCsと老化したHFSCsの間には本質的な違いが存在するが、血清や成長因子を豊富に含むin vitroの培養液では、その違いは持続しないことが示唆された。

つまり、老化した HFSC が体外で系統不忠実状態を再現する能力は、老化した HFSC が本来のバルジ微小環境外で生存するために必要なこのプログラムを実行できるという、以前の体内での観察とよく一致していた。

(老化した幹細胞もアイデンティティーを維持しており、本質的に差がないのでいつでも修復や抗老化に参加して若いそれと同等の働きを示すことができるはずだがーそうならない、両者の大きな違いは何から生じるのかー以下へと続く)

6老化した HFSC は、生体内移植中に新生児真皮によって若返らせることができる

我々の培養研究では、成長を促進する微小環境が、集団内の少なくとも一部の HFSC の固有の加齢関連欠陥を上書きする可能性があることが示唆された。
老化した HFSC 集団全体の適応度を生理学的観点から評価するために、老化した皮膚と若い皮膚から新鮮に分離された FACS 精製 HFSC で移植を行った (図 7A)。

驚くべきことに、
・新生児真皮細胞を移植すると、若い HFSC と高齢 HFSC の両方が、無毛ヌードマウスの受容体で効率的に毛髪を生成した (図 7B)。

・これらの移植片のホールマウント画像では、若い HFSC と高齢 HFSC の両方から形成された多数の HF の存在がさらに明らかになった (図 7 C と D、SI 付録、図 S5)。

・対照的に、若い HFSC も高齢 HFSC も、高齢皮膚真皮の細胞を移植すると毛髪や HF を再生しなかった (図 7 B と D)。

これらの観察結果を総合すると、高齢皮膚微小環境が幹細胞の活動に対する大きな障害であり、さらに、新生児真皮は、毛髪の成長における本来の加齢による違いを克服し、高齢 HFSC を若々しい行動に若返らせることができることを示している。

(幹細胞そのものよりもその微小環境である真皮の細胞群の働きがその機能を左右している)


考察

安静状態では、老化したバルジ HFSC はアイデンティティを維持している

加齢中のバルジの構造変化、ECM

ECM (マトリソーム) 転写物の顕著な加齢関連の変化は、私たちが観察したバルジ構造の変化を考えると興味深い。また、E カドヘリンと Col17a1がバルジの構造と形状を維持する機能を果たす可能性が高いという以前の研究結果をがあり、C elegans では、ECM、特にコラーゲンが、インスリン/IGF1 シグナル伝達および NRF2 転写活性の下流で老化の重要な調節因子であることが報告されている。さらに、ECM はヒトの皮膚の老化中にも変化する。これは、これが生物の老化を調節する保存された経路である可能性があることを示唆している。

・間質BNPと休止期の制御

脱毛した皮膚領域の自然に老化したバルジ HFSC は休止期を維持し、不活性である可能性があることが知られているが、毛周期の休止期が加齢とともに増加しするのは間質 BMP の増加によるところが大きい。その一因は間質 BMP レベルの増加によるもので、BMP シグナル伝達の増加の下流に関係する NFATc1 転写レベルは、脱毛した皮膚の老化したバルジでは有意に変化しないものの、転写後または翻訳後修飾に敏感であり、老化静止表現型に寄与する可能性が示唆されている。

ニッチ構成要素の変化と HFSC とのコミュニケーション

・WNT シグナル伝達が毛周期の誘発に重要であることは既に確立されているが、強力な WNT 阻害剤をコードする Wif1 の上昇レベルは興味深いものであった。

・加齢した HFSC では、ニューロンの神経栄養因子および走化性因子をコードする Bdnf1 転写物のレベルも上昇しており (58)、これがバルジ上部の領域からバルジ自体への感覚ニューロンの誤った配置を説明できる可能性がある。

・ネフロネクチン (Npnt) を含む ECM 遺伝子の変化は、APM arrecter pilli muscle直筋をバルジ ニッチに固定するネフロネクチン:インテグリン軸を考慮すると、APM の混乱に関連している可能性がある。

・老化した皮膚では Treg が減少するという私たちの発見は、皮膚の自然免疫細胞と獲得免疫細胞の両方における加齢に伴う変化のリストに、さらにもう 1 つの要素を追加するものである。HF とそのニッチにおけるこれらの加齢に伴う変化の一部は、疾患関連の脱毛症で起こる変化と類似点があり、HF の小型化と Treg の減少の両方が報告されている。

組織微小環境は SC の本質的な違いを無効にし、老化した HFSC を若返らせる

・私たちの研究結果はニッチ環境が HFSC の行動に与える影響を強調している。

私評

加齢的変化は全身の機能低下の状態を反映しているが、外観にも現れる。その点、皮膚は私たちの体の最外層を覆っており、生物学的年齢を測る上でわかりやすい臓器と言える。具体的な表現系としては創傷治癒遅延や白髪、バリア機能低下による肌の荒れなどなど。皮膚幹細胞は長期的な組織修復機能として自己複製と分化能力を有しているのでその力は皮膚の老化にとって大きな意義を持っている。しかし、今回の論文、数は減少するものの、老化しても幹細胞の性質やポテンシャルは維持されており、いわば若いまま維持されている。その幹細胞が老化しても若い頃同様にスタンバイできているのに対して、周囲の真皮細胞から形成される細胞外マトリックスからなる微小環境(本文中ニッチと呼んでいる)からのシグナルがその機能を決定する重要な組織であるという。
ちょっと端折っていうならば細胞外マトリックスECM成分の老化が幹細胞ひいては皮膚や毛包の老化の原因の一つという言い方もできる。


カクテル 45

ホワイトアレキサンダー white alexander

モーツアルト・ホワイトチョコレートリリキュールとウォッカを同量混ぜてシェイクする。チョコレートリリキュールはそのまま飲んでも美味しいけど案外なところでウォッカとも相性が良いことに気づきます。
お好みでウォッカをブランデーに変えても美味しい(写真はブランデーバージョン)。

ウォッカ  30ml
ホワイトチョコレートリリキュール 30ml
シェイクして注ぐ。

色味からだけでは想像できないようなチョコ味のお酒。甘くて上品。
簡単だし食後にピッタリ。
寒い冬にもリピートしたくなるような一杯。

September In the Rain🎵
Roy Hargrove

サイエンスの話 45 老化時計 ③

2024-08-28 07:04:16 | 日記
前回は長寿者はエピジェネティックにどう定義されるのか、という内容で、長寿者は、老化に逆行して若い人同様の状態を保っている遺伝子群、領域があり、それは機能領域は、細胞接着や免疫さらには精神神経系機能を保つように作用するものだった、という内容でした。

腸ー脳相関とそれを橋渡しする免疫細胞が多くの進化した多細胞生物で突き詰めるとエッセンシャルな部分ですが、そのうち腸内細菌叢は長寿者の解析などですでに明らかなように、抗老化サインが明らかにされている。
また、脳には、前回の論文のように精神神経系機能に関連する遺伝子領域の機能が若く保たれているという報告がある。
そうすると、免疫細胞に関しては、という文脈から今回は長寿者の白血球を調べたら特定の免疫細胞がクローナルと思われる増加を示していた、という内容。

ここでも、
長寿者は百寿者 センテナリアン(centenarian 100歳以上の高齢者)と
スーパー百寿者、スーパーセンテナリアン(supercentenarian 110歳以上の高齢者)
の2種類を定義しています。

驚いたのは、割と最近の数字で100歳以上の高齢者は日本に79000人、これに対してスーパーセンテナリアンとされる 110歳以上の高齢者はわずか141人。110歳の壁はやっぱりすごいんだ、、、かなりびっくり。

Single-cell transcriptomics reveals expansion of cytotoxic CD4 T cells in supercentenarians
単一細胞トランスクリプトーム解析が超高齢者における細胞傷害性CD4 T細胞の増殖を明らかにする
PNAS November 12, 2019 116 (48) 24242-24251 https://doi.org/10.1073/pnas.1907883116


要旨

・スーパーセンテナリアン(110歳以上の高齢者 sc)は加齢関連疾患の発症が遅く、罹患率が低いという特徴があるが、それは免疫系が機能的であることを示唆している。

・7人のスーパーセンテナリアンと5人の若年対照者から得た61,202個の末梢血単核球(PBMC)を用いて、単一細胞トランスクリプトーム解析を行った。

・スーパーセンテナリアンの特徴として、細胞傷害性CD4 T細胞(CD4細胞傷害性Tリンパ球[CTL])の著しい増加が同定された。

・スーパーセンテナリアン人の単一細胞T細胞受容体配列決定により、CD4 CTLが大規模なクローナルに増加しており、それはCD4 T細胞集団全体の15~35%を占めていることが明らかになった。

・CD4 CTLは、CD8 CTLとほぼ同じトランスクリプトームを持っていた。つまり、CD4 CTLがCD4の発現を保持しながらCD8系統の転写プログラムを利用していることを示している。

・実際、スーパーセンテナリアンから抽出したCD4 CTLは、生体外刺激によりIFN-γとTNF-αを産生した。

・本研究により、スーパーセンテナリアンの循環リンパ球にはユニークな特徴があり、これは感染症や疾患に対する免疫応答を持続させることで、並外れた長寿を達成するために不可欠な適応である可能性が明らかになった。


方法・結果

スーパーセンテナリアン7名(SC1-SC7)および対照者5名(CT1-CT5、50代から80代)由来の新鮮なPBMC(末梢血単核球)を、液滴ベースのシングルセルRNAシーケンス技術(10×Genomics) を用いてプロファイリングした。

スーパーセンテナリアンおよび対照群の PBMC の単一細胞トランスクリプトーム プロファイリングを行い、クラスタリングアルゴリズ ムを用いてグループ分けを行ったところ、異なる細胞タイプを表す10の明確なクラスター が見つかった(図1C)。
これを元に、免疫系で重要な役割を果たしているT細胞の中でも
細胞傷害性 T 細胞を 3 つのサブタイプ (CD4 CTL、CD8 CTL、γδ T 細胞) 
に分類した(図1A右の可視化したもの) 。

全体像の比較(図1C)を見ると、左側のSC(スーパーセンテナリアン、スーパー百寿者)では右のコントロールCT(50代から80代の対象者)に比して、TC2T細胞が多く(濃茶)、B細胞(ベージュ)は少なくなっていた。NK細胞(紫)は大きく変わらなかった。

(T細胞は単一細胞トランスクリプトーム解析により2つのグループ、TC1、TC2に分類された。それぞれについては後述していく)

(スーパーセンテナリアンのTC2T細胞が多かった、、というのが入り口)

1 B細胞の著しい減少

細胞表面マーカーを用いたこれまでのFACS解析では、B細胞数はコントロールと比較してスーパーセンテナリアンで有意に減少していた(P = 0.0025)(図2A)。

(抗体産生細胞であるB細胞は減少していた)

2 スーパーセンテナリアンにおける細胞傷害性T細胞の増加

TC1とTC2は、超高齢者と対照者の間でアンバランスだった: TC1は有意に減少し↓(P = 0.0025)、TC2は有意に増加↑した(P = 0.0025)(図3A, B)

(スーパー長寿者では前述のT細胞中のTC1は減少、TC2分画は増加していた^TC2は何なのか、、、以下続く)

さらに詳しくそれら細胞のキャラクターを明らかにするために2つのクラスターを比較し、332の異なる発現遺伝子を同定した。
その結果、
(Seurat)TC2で最も顕著に発現した遺伝子は、細胞傷害性リンパ球の顆粒の構成要素であるNKG7であった。

さらに、最も有意な上位20遺伝子には、GZMH、GZMB、GZMA、PRF1など、パーフォリン/顆粒酵素アポトーシス経路を担う細胞傷害性エフェクター分子をコードする複数の遺伝子が含まれていた(図3CおよびSI Appendix, 図S3B)。

(Seurat:SeuratはscRNA-seqデータ解析を行うRパッケージのことで、scRNA-seqデータの正規化やビジュアライズなどを行う事ができる。)

(TC2は発現した遺伝子プロファイルから、細胞傷害性リンパ球である)

対照的に、(Seurat)TC1はリンパ節転移に必要なCCR7とSELL(CD62Lをコードする)の発現が特徴的であった(SI Appendix, Fig.) これらの遺伝子は通常、ナイーブT細胞とセントラルメモリーT細胞では発現するが、細胞傷害性エフェクターメモリーT細胞では発現しない。

(増加したTC2は細胞傷害性リンパ球のパターンを示しているのに対し、減少したTC1のリンパ球はT細胞の中でもメモリー細胞機能を示すナイーブT細胞とセントラルメモリーT細胞に特徴的)

(スーパーセンテナリアンでは細胞傷害性のTC2が増えているー免疫系は攻撃的)

(Seurat_TC1)の細胞の大部分は、細胞毒性遺伝子を0個か1個発現していた(図3 E, 左)。
細胞傷害性クラスター(Seurat_TC2)では、4つの遺伝子すべてを発現する細胞は超高齢者では豊富であったが、対照群ではまれであり、細胞あたりの細胞傷害性レベルが超高齢者では高い可能性を示している(図3 E、右)。
細胞傷害性T細胞は超高齢者では有意に拡大し(P = 0.0025)、
T細胞の80%に達する個体もあった(図3F)。
これは、細胞傷害性T細胞が全T細胞集団の約10-20%を占めていた対照群とは対照的であった。

(スーパーセンテナリアンにおける細胞傷害性T細胞は多い人ではT細胞の80%だったが、対象群では約10-20%と低かったーその細胞数も多かった)

3 スーパーセンテナリアンにおける細胞傷害性CD4 T細胞の拡大

一般に、細胞傷害性T細胞はCD8+で、非細胞傷害性ヘルパーT細胞はCD4+であり、両者とも二重陽性の胸腺細胞に由来する。
しかしながら、図3Bの分布を見ると、左の緑色の部分がTC2分画で今回SCで増加しているーこれを念頭に、図4Aの分画を重ねてみると、CD8AとBはいずれもTC2の中にある。一方で、CD4はTC1分画ー図3B右のベージュの部分にほぼ一致するものの左側つまりTC2の下の部分にも重なっている。

この解釈は一つ、
攻撃的なTC2細胞群の中にCD4T細胞がいる、ということになる。
また、もう一つのTRDC(T細胞受容体デルタ)図4A右上の方はこれまたTC2細胞群の中にいる。
つまり、TC2分画を構成する細胞群はCD4T細胞とTRDC(T細胞受容体デルタ)細胞群ということが言える。

以上をまとめると、
細胞傷害性T細胞には以下の3つのサブセットが存在することが示唆された。

①CD8細胞傷害性Tリンパ球(CTL)
②CD4 CTL、
③γδT細胞(図4A)

(スーパーセンテナリアンに増加している細胞傷害性T細胞で特徴的なのはCD4 CTL)

そこで、スーパーセンテナリアンにおけるCD4 CTLの拡大を検証するため、
CD3、CD4、CD8、GZMBに対する抗体を用いて、
スーパー長寿者6人(SC1、SC5、SC6、SC7、SC9、SC10)、
セミスーパー長寿者1人(105歳以上;SC8)、対照5人(CT4、CT5、CT6、CT7、CT8)のFACS解析を行った。
全 T 細胞に占める CD4+ GZMB+ 細胞の割合を見ると、スーパー長寿者に増加している細胞傷害性T細胞はCD4+ GZMB+ 細胞 *P < 0.05 だった(図4E SCは緑色、コントロール CTは赤色)

RNA-Seq と FACS 測定によって決定された CD4 CTL の割合の相関をみると、スーパーセンテナリアン SCにおいて増加しているのはCD4 細胞障害性T細胞だということがわかる。

(元来稀なCD4 細胞障害性T細胞がスーパーセンテナリアンで増加している、という発見)

4 T細胞分化過程におけるCD4 CTLの細胞状態の遷移

では次に、
CD4 細胞障害性T細胞は元来ヘルパー機能を発展させて分化していく細胞なので増加しているのはどのあたりの分化レベルのものなのか、どういう機能を持つものなのか、という疑問・興味が出てくる。
以下その答えを探す実験。

T細胞の擬似時間軌跡 Pseudotime trajectory 解析※を試みた。

※擬似時系列解析 Pseudotime analysis Pseudotime trajectory
細胞系譜や細胞分化の推定に経過時間がそれぞれ異なる細胞集団の遺伝子発現を1細胞 レベルで調べ、それらの疑似的な時間経過変化における発 現ダイナミクスを追うための数理モデルが盛んに開発され ている。
例えば、各細胞を他の細胞との発現レベルの差 で重み付けした辺で接続するグラフ構造を考え、発現変化 が最小となるように細胞間を最短で結ぶ経路を疑似時間経 路 (pseudotime trajectory) と呼んでいる(情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report Vol.2020-BIO-61 No.6 2020/3/12 分岐を考慮した時系列シングルセルデータのアラインメントから)。

各細胞には擬似時間として0~12の連続値が割り当てた。
図5A下は、T細胞分化の一般的なスキームを示している。

TN、ナイーブ細胞
TCM※※、セントラルメモリ細胞
TEM※※※、エフェクターメモリ細胞
TEMRA 終末細胞

という分化過程が知られている。

※※セントラルメモリー細胞(Tcm):これらの細胞は主にリンパ組織に限られ、リンパホーミング分子CD62LおよびCCR7を発現する。

※※※エフェクターメモリー細胞(Tem):これらの細胞は、感染防御の第一線で働き、即時型のエフェクター機能を媒介し、循環および非リンパ組織に存在する。リンパホーミング分子CD62LおよびCCR7の発現は低レベル。

終末細胞 (Terma):分化を終えた細胞

結果、
そのトランスクリプトームの変化に基づいて、これらのトラジェクトリーに配置された(図5AおよびSI Appendix, 図S6A)。
これはクラスタリング解析と一致し、TC1(非細胞毒性クラスター)は初期の偽時間に多く分布していたのに対し、TC2(細胞毒性クラスター)は後期の偽時間に多く見られ、2つのクラスターが時間的に明確に分離していることが示された。

(両端の部分、左TC1と右TC2の濃い部分にはっきり分かれるーそれぞれに分化して特殊機能を有する細胞群が存在するのか)

さて、
CCR7はセントラルメモリーT細胞の主要なマーカーであり、エフェクターメモリーT細胞と区別する。
これを用い、図5Bでは、
CCR7発現の急速な減少に続いて、同様の分子CD27とCD28の漸減が観察され(図5B)、初期偽時T細胞がナイーブT細胞とセントラルメモリーT細胞に相当することが示された。

また、
細胞傷害性分子をコードするGZMA、GZMB、PRF1の発現が徐々に増加し、接着分子や遊走分子をコードする転写産物の発現パターンも一致したことから(図5B、SI Appendix、図S6C)、エフェクターメモリーT細胞の分化状態が進行していることが示され、後期偽時間に相当する。

(図5B上 時間と共に下がるのはナイーブT細胞とセントラルメモリーT細胞、一方で下の欄右肩上がりはエフェクターメモリーT細胞が分化していく過程ー合わせると図5Aの下のようなアラインメントとなる)

さらに、
スーパーセンテナリアン(SC)と対照群(CT)の擬似時間に沿ったT細胞の割合をみると、スーパーセンテナリアンでは時間軸が後時間へと移動していて、分化したT細胞が多いことがわかる(図5C)。

次に、
CD4 CTL(n = 5,274)とCD8 CTL(n = 7,643)について擬似時間に沿った全T細胞中のCD4およびCT8 CTLの割合を調べたところ、
CD4 CTLは、CD8 CTLと同様に偽時間の後半に分布しており(図5D)、2つの細胞タイプ間の基本的な機能的相違にもかかわらず、同様の分化過程を示した。

(スーパーセンテナリアンのCD4 CTL細胞傷害性T細胞は、CD8 CTLと同程度多数が、その多くが分化していることがわかるーでは、それは何のために、分化したのかというのが以下)

そして、
CD4およびCD8 CTL間の遺伝子発現の相関について調べると、
CD4 CTLに豊富に存在することが知られている4つの主要な細胞傷害性遺伝子GZMA、GZMB、PRF1、およびNKG7の発現は、CD4 CTLとCD8 CTLの間で擬似時間の後半に沿って同様に増加していた。

(CD4 CTLの4つの特徴的な発現遺伝子パターンを示す細胞は分化後半、つまり、分化したCD4 CTL細胞で多く発現し、まるで細胞傷害性機能を元来持つCD8 CTLのそれと同じ分化度を有しているー増加しているCD4細胞の細胞障害機能はなんらかのターゲットを持って待機している可能性)

しかしながら、
他の2つの主要な細胞傷害性遺伝子GZMHとGNLYの発現は、CD4 CTLとCD8 CTLでわずかに異なるパターンを示した(図5FおよびSI Appendix, 図S6G)。

(おそらくCD4 CTLとCD8 CTLの元来の相違点かもしれないが、CD4 CTLはやや特異化されている度合いが低い、細胞の中に不均一集団がある、という解釈もできる)

また、
他の例外は、2つのキラー細胞レクチン様レセプターをコードするKLRB1とKLRD1であった;すべての時点で、これらの遺伝子の発現はCD4またはCD8 CTLのどちらかで高かった。

(CD4、CD8 CTLいずれかがレクチン様レセプターに対する高い分化応答を示しているー例えば、C型レクチン受容体は細胞外領域に糖を認識するドメインをもつ膜貫通型タンパク質で,真菌や細菌に特徴的な構造を認識する受容体であり、いわゆる病原体に対する免疫応答の発端部分に位置するのは面白い。つまり、推論として、なんらかの免疫刺激を受けてきた結果T細胞が特殊に分化したのか)

まとめると、
CD4 CTLの集団は一見不均一であるが、分化状態は、CD8 CTLと同様に、特徴的な転写パターンによって特徴づけられていた。

(スーパーセンテナリアンでは分化したCD4 CTLが増えていることが発見された。その遺伝子発現パターンはCD8 CTLと元来の同様CD4T細胞と異なり攻撃的なパターンだった)

5 CD4 CTLのクローン拡大

超高齢者においてCD4 CTLが増加するメカニズムを探るため、
CD4 CTLの高レベルが、異なる時点で再現可能かどうかを検討した。

2人の超高齢者(SC1とSC2)から、最初の採血から約1.5年後に新鮮な全血サンプルを再採血し、ネガティブセレクションによってCD4+ T細胞を分離した(図6A)。

結果、
単一細胞トランスクリプトーム・プロファイルは、CD3遺伝子の発現によって特徴づけられるT細胞の高濃縮を確認した(図6BおよびSI Appendix、図S7A)。

CD4 CTLがCD4 T細胞の約62%(SC1)と48%(SC2)を占め、これは同じドナーから採取した最初のサンプルと一致している(図4B)。

この観察結果は、
超高齢者のCD4 CTLは一過性に蓄積されるのではなく、何年にもわたって血液中に存在することを示している。

(変化は一過性のものではないーじゃあ、いつ頃から、何歳くらいから始まったかわかると面白いんだが)

考察

・一般にヘルパー T 細胞と呼ばれる CD4 T 細胞の主な機能は、細胞傷害性分子を使用して標的細胞を直接排除することではなく、さまざまなサイトカインを使用して免疫応答を制御する。
しかし、細胞傷害性特性を持つ CD4 T 細胞、つまり CD4 CTL の存在は、ヒトとマウスで繰り返し報告されている。
ただ、報告されている CD4 CTL の割合は、健康な PBMC (末梢血単球)の全 CD4 T 細胞の数パーセントと一般的に低いが、今回の実験結果ではスーパーセンテナリアンの CD4 CTL 割合のサイズは平均 T 細胞の 25% と多かった (図 4 B および E)。

・増加したCD4CTLの遺伝子発現パターン解析では、GZMA、GZMB、GZMH、PRF1、NKG7 (TIA-1)、GNLY、CD40LG、KLRG1、KLRB1、ITGAL (CD11A) の活性化と、CCR7、CD27、CD28、IL7R の抑制を含む明確な発現プロファイルが観察されたことから、これらが細胞障害性に働くことが示唆される。

増殖した CD4 CTL のヒトにおける生理学的役割は不明だが、最近の単一細胞トランスクリプトーム研究では、ヒト肝細胞癌で腫瘍浸潤 CD4 CTL が特定されている。
さらに、いくつかの研究では、CD4 CTL がマウス モデルで MHC クラス II 依存的に腫瘍細胞を直接殺し、確立された腫瘍を根絶する能力があることが実証される。

・ここで重要なことは、CD8 CTL がほぼすべての細胞に存在するクラス I MHC 分子を認識し、対照的に、CD4 CTL はクラス II MHC 分子を認識するということである。
クラス II MHC 分子は通常、正常な非免疫細胞には存在しないが、腫瘍細胞のサブセットには存在する。
つまり、これは、CD4 CTL が確立された腫瘍に対する腫瘍免疫に寄与し、免疫監視において重要な役割を果たす可能性があり、クラス II MHC 分子を異常に活性化する初期腫瘍細胞を特定して除去するのに役立つことを示している。

(腫瘍免疫、その辺は確かに合理的説明になる)

・CD4 CTL のもう 1 つの潜在的な機能は、抗ウイルス免疫がある。
CD4 CTLとウイルス感染の関連は、CD4 CTLが、繰り返しのウイルス曝露によって引き起こされるクローン増殖を通じて、少なくとも部分的には超高齢者に蓄積していることを示唆している。CD4ヘルパーT細胞からCD4 CTLへの変換の正確な分子メカニズムはまだ不明だが、我々のトランスクリプトームデータは、CD4 CLTとCD8 CTLの遺伝子発現と分化の驚くべき類似性を示しており(図5DとE)、CD4 CTLは細胞表面でのCD4発現を維持しながら、内部でCD8転写プログラムを使用していることを示唆している。

・実際、スーパーセンテナリアンから抽出されたCD4 CTLは、体外刺激によりIFN-γとTNF-αを産生した(図6J)。これは、CD4/CD8系統コミットメントのマスターレギュレーターであるThPOK(別名ZBTB7B)の喪失と、それに伴うCD8系統遺伝子の活性化によって、CD4ヘルパーT細胞がCD4 CTLに再プログラム化できるという以前の知見と一致する。スーパーセンテナリアンにおけるCD4 T細胞の変換による細胞傷害能力の強化は、免疫系が異常細胞や感染細胞をより頻繁に排除する必要がある老化後期への適応である可能性がある。

(ウイルスなど病原体に対しても強いなら、これまた合理的)


私評

前回のゲノムの修飾にしてもそれ自体が原因なのか結果なのかわからない。
ただ、これはとても感覚的にだけれども生まれ持った因子というのは絶対あるんじゃないかと、誰もが思う。実際長生きの家系はあるし、逆に古典的なところで言えばリ・フラウメニ(Li-Fraumeni)症候群のような家族性にがんを多発する遺伝症候群による短命家系もある。
 さておき、スーパーセンテナリアンではやはり免疫系が強かった。きちんと言えば、特徴的なのはCD4ヘルパーT細胞がCD4 CTLが増加し、それがクローナルに増殖している可能性が示唆された。この結果は大変面白い。なぜなら、通常免疫細胞がクローナルに増殖する過程というのは抗原というターゲットに呼応する場合であり、110歳まで応答を引き起こしているのは何か、別の言い方をすれば、長寿に良い抗原刺激があるのか、それは何か、興味深い。この点に関して、文中にちょっと触れられているレクチン様レセプターが一つのヒントかもしれない。レクチン様レセプターは真菌や細菌に特徴的な構造を認識する受容体なので、そうした外部からの免疫刺激を受けてきた結果、特徴的なCD4 CTLの増加に寄与していると考えればそれをヒントとして捉えることもできる。実際に我々多細胞生物も常に多種多様な多くの細菌、例えば腸内細菌などと共生しており、切っても切り離せない関係にある。こうした共生関係には常に情報交換(クロストーク)が存在するので日常の中で自然免疫という一つの機能的部分を構成する一要素となっているとも言えるだろうし、その長年における蓄積の結果というのが多細胞生物にとっても大変重要なことは容易に想像できる。
 さらに具体的に言えば、腸管を介して身体の免疫に作用する重要な因子といえばやはり食べ物である。食物の中に良い自然免疫を惹起する抗原があるのではないか、と想像してしまう。長寿と食物のきっちりした統計はありそうでない。でも、世界中でいわゆる長寿の地域はいくつも知られている。当然サルディニアなどでは遺伝子も濃縮されているだろうが、食物で言えば長寿の食べ物として豆類、全粒の穀類、家庭菜園の野菜、豆類、ナッツ類の摂取が多い傾向にある。https://www.asahi.com/relife/article/14836033 
例えば、全粒の穀類とは日本でいえば玄米、玄米において白米と比較して多い成分とは、、、そうしたものに多く含まれる、クロストークに関連する存在として知られている成分もすでにあるし色々と想像が膨らむ。



カクテル 44

アフリカン クイーン african queen

「アフリカの女王」という名のバナナとオレンジの甘くて濃い風味がサバンナを思い起こさせる。実際バナナリキュールがオレンジのツンとした感じを和らげてくれる。辛口のお酒群の中にあって割とこってりした甘さがウリのカクテル。

クレーム・ド・バナーヌ 20ml
ホワイト・キュラソー  20ml
オレンジ・ジュース   20ml
シェークしてグラスに注ぐ。



夕日を思わせるオレンジ色。アフリカ、、サハラ、映画カサブランカのイメージ、砂漠の焼けた感じ、うーん、なかなかのロマンだなあ、、、、といきたいところだが、この夏なんか東京の方がアフリカより暑いんじゃないか、とブツブツ言っている自分がいる。

Things We Did Last Summer 🎵
Roy Hargrove Quintet

サイエンスの話 44 老化時計 ②

2024-07-24 07:06:16 | 日記
日本人の長寿者をピックアップし、対象として20~80歳の健康であることが明らかな人(非高齢者)とその加齢に伴うメチル化などのエピジェネティックな変化を大規模にスクリーニングし、比較することで、加齢変化の重要な因子とされている部位や程度を明らかにし、より正確なエピジェネティック時計を作成できないか、また長寿者はエピジェネティックにどう定義されるのか、という内容の論文。

Epigenetic profile of Japanese supercentenarians: a cross-
sectional study
日本人スーパーシニアのエピジェネティック・プロファイル:横断的研究
https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanhl/PIIS2666-7568(23)00002-8.pdf

www.thelancet.com/healthy-longevity Vol 4 February 2023
Lancet Healthy Longev 2023; 4: e83–90  See Comment page e57


ちなみに、
長寿者はセンテナリアン(centenarian 百寿者 100歳以上の高齢者)と
スーパー百寿者、スーパーセンテナリアン(supercentenarian スーパー百寿者 110歳以上の高齢者)の2種類(110歳の節目はやはり偉大)。


結論

・多くの特徴的な加齢に伴う変化を見つけた。

・長寿者は、非高齢者に比してそれらの変化に逆行して若い人同様の状態を保っているエピジェネティックな遺伝子群、領域があった。

・それらの機能領域は、細胞接着や免疫さらには精神神経系機能を保つように作用するものが含まれていた。

・このようなデータは基づき、より正確なエピジェネティック時計を示すことができる。


方法、対象

2013年5月20日~2016年3月31日に募集した
非高齢者421例(女性231例[55%]、男性190例[45%];年齢範囲20~78歳)と、
2001年1月20日~2018年4月17日に募集した
百寿者とスーパー百寿者94例(女性66例[70%]、男性28例[30%];年齢範囲101~115歳)。

 参加者の全血DNAメチル化プロファイルを評価し、回帰分析によって性特異的および非特異的な第一世代エピジェネティッククロックを作成し、個人のエピジェネティック年齢を算出し、年齢加速を評価した。
また、エピゲノムワイド線形回帰分析およびANOVAにより、非高齢者における年齢に関連するCpG部位をスクリーニングした。

続いて、百寿者とスーパー百寿者のどのCpG部位が、非百寿者から得られた加齢に関連する知見に従ったDNAメチル化パターンを有し、どのCpG部位がそうでないかを調べた。
さらに、濃縮解析とタンパク質間相互作用ネットワーク解析を用いて、百寿者と超高齢者におけるメチル化亢進あるいはメチル化亢進CpG部位の特徴を明らかにした。

エピゲノムワイド関連解析ではさらに、百寿者とスーパー百寿者は、がん関連遺伝子と精神神経関連遺伝子に濃縮された557のCpG部位について調べた。


結果

百寿者とスーパー百寿者のDNAメチル化プロファイルの特徴づけ

・男女差

性特異的EWASにより、女性では3731箇所、男性では7525箇所の年齢関連CpG部位が同定された。女性では1217箇所[33%]が正の関連、2514箇所[67%]が負の関連であり、男性では1071箇所[14%]が正の関連、6454箇所[86%]が負の関連であった(図3A-D)。

両性における年齢関連CpG部位2109個(408個[19%]が正、1701個[81%]が負)のうち、3個(1%未満)を除くすべてのCpG部位が、性と細胞組成で調整した非性特異的EWASによって再現され(付録2 p 13)、これらの年齢-CpG関係は細胞組成や性には影響されないことが確認された。

(見出した年齢関連CpG部位保ほぼ全部が年齢-CpG関係に性差はない)

・加齢に関連するCpG部位、関連しないCpG

加齢に関連するCpG部位(posHypo)の約60%はCpGアイランドにあり、加齢に関連しないCpG部位(negHyperとnegHypo)の70%はオープンシー領域(遺伝子調節領域や遺伝子間)にあった(付録2 p27)。

また遺伝子アノテーションの割合も、2つのCpGグループ間で異なっていた。正の相関を持つCpGサイトは、負の相関を持つCpGサイトと比較して、エクソンに位置する頻度が高く、遺伝子間領域に位置する頻度は低かった。

(多分に機能と関連していそうだ)

エンリッチメント解析

有意にメチル化過剰またはメチル化過剰であったCpG部位を選択した。
これらの結果から、4つのCpGカテゴリーを定義した: 

1. 100 歳以上の人で年齢と負の関連があり、100 歳以上の人と超 100 歳以上の人で高メチル化されているもの (negHyper と呼ぶ)

2. 100 歳以上の人で年齢と正の関連があり、100 歳以上の人と超 100 歳以上の人で高メチル化されているもの (posHyper と呼ぶ)

3. 100 歳以上の人で年齢と正の関連があり、100 歳以上の人と超 100 歳以上の人で低メチル化されているもの (posHypo と呼ぶ)

4. 100 歳以上の人で年齢と負の関連があり、100 歳以上の人と超 100 歳以上の人で低メチル化されているもの (negHypo と呼ぶ)



ここはポイントなので
メチル化ー抑制化、脱メチル化、非メチル化ー活性化と簡略化して、
筆者らの定義する上記4つのカテゴリーと方向性、長寿者(百寿者とスーパー百寿者)の結果をシンプルに簡略して書き換えて見ると、

    非高齢者       想定される変化  長寿者の結果
                       非高齢者に対し(作用)
1 negHyperー老化に伴うメチル化⬇︎ー活性化   逆 (抑制)
2 posHyperー老化に伴うメチル化⬆︎ー抑制化   順 (抑制)
3 posHypo ー老化に伴うメチル化⬇︎ー活性化    順 (活性)
4 negHypo ー老化に伴うメチル化⬆︎ー抑制化    逆 (活性)



本文に戻り、
それぞれのエンリッチメント解析の結果は、

⑴細胞接着に関連した遺伝子グループ 
(エピジェネティック変化の結果として長寿群で活性化される遺伝子)

posHypo CpG部位は細胞接着に関連したグループで濃縮されていた(付録2 p15)。

癌遺伝子 (長寿で抑制化)

癌遺伝子は、隣接するnegHyper CpG部位を持つ遺伝子(近傍で)に過剰に発現していた(付録2 p 28)。

免疫関連遺伝子 (長寿で活性化)

免疫関連遺伝子は、百寿者や超百寿者においてさらに脱メチル化された、負の年齢関連CpG部位(negHypoカテゴリー;付録2 p28)において過剰に発現していた。

CD44抗原 (長寿で抑制化)

negHyper遺伝子のタンパク質間相互作用ネットワーク解析では、6つのネットワークが形成された(付録2 p27)。最も大きなネットワークは51のタンパク質で構成され、CD44抗原の中心性が最も高かった。

cd44ネットワークの反対側にあるハブタンパク質 (長寿で活性化)

ネットワークの反対側にあるハブタンパク質(例えば、AUTS2、CNTNAP2、ITPR1、NRXN1)は、隣接するタンパク質とともに、注意欠陥多動性障害、運動失調症、自閉症スペクトラム障害、双極性障害、知的障害、統合失調症など、多くの精神神経疾患に関与している。 
百寿者の推定年齢は暦年齢よりも若いこと、とくにCD44 を中心としたがん関連遺伝子とCNTNAP2 などの認知機能にかかわる遺伝子群のエピゲノム状態が若い人と同程度に維持されていることがわかった。

 プロトカドヘリンβ  (長寿で活性化)     

クラスターposHypo遺伝子については、神経細胞接着に機能するプロトカドヘリンβクラスターに属するタンパク質の1対にのみ相互作用が見つかった(付録2 p27)。

TGF-βシグナル伝達に関連する3つのタンパク質のネットワーク 
(長寿で活性化)  

百寿者において脱メチル化が亢進している遺伝子の蛋白質間相互作用解析とその結果超高齢者(negHypoカテゴリー)では、TGF-βシグナル伝達に関連する3つのタンパク質のネットワークが示された: 
SMAD7はTGF-βシグナル伝達を阻害し、ACVR1はSMAD7を活性化し、TAB2はTGF-β刺激によって受容体複合体から遊離され、TGF-βシグナルを下流に伝達するTAK1を活性化する(付録2 p27)。
したがって、百寿者と超百寿者におけるこれらのCpG部位のDNAメチル化の減少は、SMAD7のアップレギュレーションと関連している。

(長寿群では、抗炎症反応に関与し、健康的な老化に寄与することが知られているTGF-βシグナルだが、TGF-βに関連する遺伝子に代表されるCpG部位について、若いエピジェネティックな状態、つまり、非高齢者と同様のDNAメチル化プロファイルを示し、実際にアップレギュレーションされていると考えられる。)

(綺麗な結果)

考察

・百寿者とスーパー百寿者のエピジェネティック年齢が、彼らの年代よりも著しく低いことを示している。しかし、これらのエピジェネティックな年齢が生物学的年齢を反映しているかどうかは、今後検証されなくてはならない。

・健康的な長寿が、エピジェネティックな老化を遅らせることに依存するのか、それともベースラインのDNAメチル化状態が若いことに依存するのかが、次の関心事であろう。


私評

老化に影響するのはエピジェネティックな変化だけではないものの、最初の老化時計の提案者が2013年にエピジェネティックから指摘したことから重要な因子の一つであることは間違いない。

現時点ではエピジェネティック時計は最良の老化時計であると考えられており、今回のデータを見ても細胞骨格を強化する因子や接着因子、TGFなどの免疫系が活性化方向に、癌遺伝子系は抑制方向に、若者と同じように長寿者で働いていることは、ガンなど寿命に大きく関わる病気に抵抗する能力が高いことが読み取れてとても納得できる。

また、その機能損失が精神神経疾患に関与することが知られるハブ遺伝子群の動向も老化のフェノタイプとしての脳神経系の老化という観点からこれに合致している。

そもそもメチル化の変化は後天的にも生じる変化であり、そうした意味では可逆的で、巻き戻すことが理論上可能だが、メチル化・脱メチル化が起きる場所が今回もわかるようにゲノム上に膨大に存在し、両方向に動くので単純に薬剤でそれらを抗老化の方向に変えるということはとても難しい。あとは、考察にもあるように、もともとそういう抗老化システムを持っているのか、後から獲得したのか、いまは不明。

ということで、現状日常の生活の中で特に習慣になっている食事、睡眠、気分などメンタル、、どうすれば良い方向に働いてくれそうか、じっくり見直してみられるのも良いのではないでしょうか。

カクテル 43

プリシア・ミスティア・キミア Puricia Mistia Kimia

果実のリキュール3種類。
オンザロック


Puricia は梅をブランデー漬けして作られるフランスのリキュール。ソーダ割りにするともろ普通の梅酒。

Mistia は同じくマスカットのリキュール。マスカットジュースぽくて美味しい。
いずれもそのままの味が個性的なのでソーダ割りで軽く飲みたいときや、あるいはお酒があまり強くない人向けという表現もできるかもしれません。

Kimia はキンカンのリキュール。
これはなかなか想像つかない味。基本は柑橘系なので他と同様に甘酸っぱいのですが、どれとも違う奥深さがあります。言い方を変えれば、ほかの2つのように個性が突出していないので何にでも合う。トニックウォーターを使ったKimiaトニックとか、ジンやウォッカで割ってとかいくつか知られているものがあります。
でもって、ここはサラッと簡単にソーダ割りで。


暑い夏の日にも最適。
見た目も涼しそうでしょう。


You Make Me Feel so Young ♫
Emilie-Claire Barlow