Blog ©ヒナ ─半径5メートルの毎日から見渡す世界

ラテンアメリカでの日々(1999〜)、さいたま市(2014〜北浦和:2021〜緑区)での日記を書いています。

マヤ系先住民衣装の著作権

2007年10月02日 | 2005年からの過去のブログ(旧名:「グァテマラから」)

 グァテマラに限らずラテンアメリカいや途上国全般でそうだろうが、ここに著作権というものは「ない」。だから露天市場は楽しい。ソニーのプレーステーション2の偽物が十数ドルで売っている。パカっと開けるとそこにはスーパーファミコンのカセット(の偽物)を差すスロットが。「世界のソニー」のみならず任天堂にも一緒にケンカを売る根性を称えたい。

 そういや昔、ニカラグアの首都マナグアで、道路の脇でオッサンがズラーっとブタの蚊取り線香を入れるやつを売っていた。その茶色の瀬戸モノのドテっ腹にはNIKEのマーク。売れ行きが全然違うと言っていた。どうでもいい。話をもどそう。

 

 グァテマラ中部高地にチチカステナンゴという地方都市がある。“先住民の村を観光する”というときの筆頭に挙がる街だ。毎週、日・木にはデッカイ市場が立ち、先住民たちの開くきらびやかな民芸市にドッと観光客が訪れる。

 さて、この市場に行ったら少し人混みから離れてみよう。ポツンと離れた裏路地なんかでガヤガヤと先住民女性が集まっているのを見つける。彼女らが漁っているのは、山積みにされたカラーコピーである。いったい何をやっているのだろうか。

 

 女性の先住民衣装には二つのタイプがあると以前書いた。「本当の意味」での伝統衣装であるウィピルと工場製のブラウスだ。前者はスペイン征服前から各々の村で固有な柄を持ち、一枚一枚手織りで織る非常に高価なもので、後者は、市販の布に適当に刺繍を施したブラウスで、前者の十分の一程度の値段である。

 後者のブラウスはウィピルのように村によって柄が異なるのではなくむしろその逆である。つまり目まぐるしい流行の変化があるのだ。今年は黒地のスカートが流行だ、去年は明るい色のラインを一本真ん中に入れたのが流行だ、動物の柄の刺繍が、花の柄の刺繍が、といった具合である。

 

 先のコピーはこれなのだ。つまり、コピーには刺繍の柄がカラーでプリントしてある。細かいものは拡大した目が強調されており、どのように刺繍すればいいかわかる。そしてこのコピーの下にはキチンとC(マルC)のマークまで付いて、このデザインを考案したものの名前が書いてある。一枚3ドルから4ドル。下層先住民階級の日給くらいである。これを買えばその柄の刺繍を施した衣服を売ってよい。違反すれば数ヶ月分の月給に等しい罰金が科される。つまりこれは著作権の権利書なのだ。

 

 ディズニーですらクレームを付ける気も失せるほど似ていない、気味が悪いとしか言いようのないミッキーマウスのメリーゴーランドが、サーカスとともにグァテマラを回っている。そのお祭りの明けた朝イチの人混み離れた裏路地で、先住民の伝統衣装をめぐる著作権を地域の権力による管理ネットワークが守っているのだ。

 

 そしてこの柄の「有名デザイナー」は、ナカタの調査によればサン・ホァン・コマラーパ村の出身者が多い。グァテマラで先住民素朴画で有名な三つの村のうちの最古のものである。この何とも奇妙な“先住民伝統衣装の最新ファッションデザイナー”とでも言いえよう実にアヤシイ職業に、私たちはグァテマラのマヤ系先住民が辿ってきたもうひとつの歴史的水脈を感じ取るのである。

 

 

 

 

 

  


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