晴耕シ 雨読書ク

農業と文章、大事にしたいです。この2つで友達できるのがうれしい。

土に帰る…山下惣一さんとの想い出

2023-10-11 02:10:17 | 日記

今年亡くなった山下惣一さんの本を読んでいる。

ひこばえの歌。読み返しのつもりだった。

ところが、 読みだしてしばらくすると、というか、ほとんど読みだしてすぐ、

いや、これは読んでない、と気づいた。

読んでいたのは、最初のぺーじぐらいじゃなかったろうか。

予想に反して以外にシビアな内容の小説だ。

こんな本だったっけ。減反神社は確かに読んだ記憶があるが、それとはだいぶ違う中身だ。ひょっとしたら、実際に経験した事実を書いたのではないか、そうだとすれば、兄弟をはじめ、身近な親戚を批判することになるのではと、いらない心配をする私でありました。

山下さんは誰もが知る農民作家。確か減反神社で直木賞候補にもなった人だ。宮沢賢治以上に現実の農民作家だ。最初に読んだのは高校時代だったろうか。「へーこんな人がいるんだ」と思ったが、しょせん農家でしょ、と文章もそう高級ではないような印象を持っていた。

ところが、今になって、少し本気で農業をしてみると、その偉大さがわかる。

まず文章を書く時間が取れない。時間があっても、きつくて文章を書く気になれない。テレビのほうがずっと楽だ。しかも、私みたいに定年後の仕事と違って、子供を養う現実の厳しさがかかっている。そういう意味では、私の両親も私や弟たちを大学まで出してくれた農業力に感謝するのだが、それにもまして文章を書く時間を作り、文章を生み出す能力に感服するしかない。しかも直木賞候補でしょ。並大抵のことではないよね。

土に生まれて土に帰る。

実は一度だけ、山下さんに会ったことがある。話したことがある。

農協の会合の後、宴席があり、出席されていた山下さんと話す機会をうかがっていた私は、やっとのことで一人になった山下さんに、チャンスと、話しかけに行った。挨拶の後、山下さんの本の話をしていたのではなかろうか。

ところでと、山下さんが問いかけてきた。会場に掛かっていたポスターを指さして「農協は馬鹿じゃないか。母親と娘二人なのに、どうして、僕たち…なんだ?」

このページのみだし画像がそれ。その頃農協が作ったイメージポスターだ。一番左端に組織名が書いてあるから、切り取っているけど…。サブタイトルは「with the nature」とある。

よく聞いてくださいました、と言って、私は説明した。実情を知っていた。

「母子二人ですが、この写真を撮ったのは誰でしょう。そうです、父親なんです。家族なんです。そういう意味での僕たちは…です」

そうか、こりゃ参った、と喜んでくださった。そのあと、私が農業の合間の小説に感嘆していると、「ただ後継ぎがおらんとたい」と話された、この場合の後継は文章を書く農業者の意味だったと思う。

「私がなります」と言いたかったが、そこまでは言えなかった。

でも記憶はあいまいだから、ひょっとしたら、山下さんに向かってほらを吹いていたかもしれない。

でも、このポスター大好きだ。土に生まれて、とは聞いたことあるけど、土に帰るは、ない。

何やかや、ごちゃごちゃ言いなさんな。しょせん人間は土に帰る存在なんだよ、とでも言いたげな感じだ。

だから、「with the nature」かな。とても、いいコピーだ。

農業を表す「agriculture」のカルチャー(文化)は、もともと”耕す”から来ている。その意味も込めて、作ったコピーと写真のポスターだそうだ。

山下さんも気になったから、質問してくれたのだろうと思う。

今となってはいい思い出となったが、農業をしながら小説やエッセイなど、あれだけの本を書かれたのは素晴らしい。並大抵ではできないことだ。爪の赤を煎じて飲ましていただければよかったかなぁ。

でも、私もそうだからわかるけど、百姓のつめは「土」で汚れているもんね。

これは差別ではないです。「ほこり」です。

安らかに  合掌



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