芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

報道の自由度と、NHKとBBC

2015年10月30日 | エッセイ

 フランスに本部を置く国境なき記者団は、言論と報道の自由の擁護を目的に、ジャーナリストたちによって作られた非政府組織である。拘束されたジャーナリストの救出運動や亡くなった場合の遺族支援活動、各国の報道・言論規制の監視と警告などを行っている。
 彼等が毎年発表している「世界報道自由度ランキング」によれば、日本は2014年の59位から、今年はさらにランクを下げ61位になった。かつて10位以内に入っていたこともあったが、日本は急速にその言論と報道の自由度を失いつつあると見られているわけだ。
 かつては日本の記者クラブ制度の閉鎖性や、皇室報道の強い制限と空気のような圧力、政治家等の記者会見・質疑応答等における事前の質問内容提出等が批判された。最近は質問内容によって不許可(削除等)も増え、情報量も減ったとされる。
 またメディア内での明らかな事前の「自主」検閲が始まったのである。この自主検閲は、官邸サイドからの要請を受けた広告主と広告代理店から、空気のような圧力の存在があるのだろう。むのたけじ氏の言うように、まず新聞(メディア)が自主検閲を始めるのである。
 また近年日本がランキングを下げている国境なき記者団サイドの理由としては、特定秘密保護法ができたことや、福島原発事故、放射能汚染についての情報統制にも似た小出し情報と政府や東電の隠蔽疑惑と、要人たちの本音に近い戦前回帰熱望の放言や発言と、それを是とする国内に広がりつつある右傾化傾向とそれが作り出す「言葉を閉ざす」空気だろう。ランキングの下落は、国境なき記者団の日本に対する懸念の表明であろう。

 そもそもジャーナリズムというものは、権力を監視し、可能な限りの客観性を持って、それを批判する役割を担うものなのである。

 NHK(日本放送協会)は総務省が許認可権をもつ放送局で、国営ではない。NHKの会長は経営委員会(9人、定員12名)で9人以上の賛成を得て選ばれ、それを総理が承認する。経営委員は官邸や総務省の役人が、御しやすく保守系思想の持ち主を候補としてリストアップし、彼等を衆参両議院が同意し、総理が任命する。そもそも会長候補は官邸や総務省が選ぶ。官邸や総務省が選定し両院で同意し総理が任命した経営委員会で選ばれる会長を総理が承認する。副会長や理事は会長が選任する。何ともややこしく堂々巡りにも聞こえるが、要は全員権力サイドによって選ばれるということである。
 菅官房長官が総務大臣のおり、NHKをはじめ放送局を恫喝した。「放送免許の許認可は総務省が持っていることをお忘れなく」
 イラク戦争でも安保法案でも何でもかんでも、NHKは「不偏不党」をタテマエとし、いっさいのジャーナリズムの批判精神を捨て去らなければならないのだ。端から持ってはいけないのかも知れない。また有事に当たっては政府主導の下に入ることに定められており、政府発表のものをそのまま報道することになっている。
 平時でもNHK内で出世するには政治部がよく、取材のために有力政治家や官邸の懐に飛び込み、彼等から餌をもらうかどうかは知らぬが可愛いペットの九官鳥やオウム、インコとなって彼等の言葉の復唱、広報に徹しなければならない。

 イギリスのBBC(英国放送協会)は公共事業体であり、国営放送である。国王の特許状(ロイヤル・チャーター)を下付される。ここに公的目的、独立性を保証され、さらにBBCトラストや執行部の任務が規定されている。またBBCは放送を管掌する担当大臣と協定書(アグリメント)を取り交わす。BBCは民放と共に情報通信庁(オフコム)の監督下に入り、放送事業に関する規制も受ける。
 BBCトラストは一般視聴者を代表する11人で構成される委員会で、執行部の経営や、報道任務の規定に沿った活動なのかを検証する組織である。彼等はその報道が正確か、不偏不党かを検証するのである。
 トラストの委員は文化・メディア・スポーツ省が広告によって公募し、応募してきた人物を官僚が面接を行い、政権と距離を置く人物かどうか、公正な人柄か、偏った意見を持っていないか等を質疑・考察して選考する。
 委員長(会長)も同省が広告で公募し、同様の面接を行った上で選ぶ。選ばれた人物は、下院の委員会で質疑応答が行われた上で承認され、就任することになる。
 BBCは不偏不党、企業や権力の力を排除し、検閲を断固拒否し、その独立性と報道の客観性を保持する。第二次大戦中もフォークランド戦争でも、決して「わが軍」と呼ばず「英国軍」と呼び、「英国軍の発表によれば…」と客観性を貫いた。イラク戦争にも反対し、政権を強く批判した。これこそがジャーナリズムの本分であり、矜持であろう。
 無論、BBCにも馬鹿な奴はおり、スキャンダルもあり、顰蹙もかった。また政権寄りの記事を書く記者もいようし、失言するキャスターもいよう。偏った番組を作るプロデューサーやディレクターもいるだろう。要は受け手のメディアリテラシーが必要なことは言うまでもない。しかし少なくともBBCには、それを監視し、検証し、自己批判し、是正する組織があるということなのだ。

 かつてNHKは世界から高い評価を受けていた時もあったのである。しかし世界のジャーナリズムはその評価を徐々に下げていった。特に第二次安倍政権誕生以来、彼が選んだNHKの会長や経営委員の放言、暴言と、報道の政権追従姿勢が明らかになって、その評価は決定的になったように思える。
 そういう中で、BBCが日本語ニュースを立ち上げたという。BBCの記者たちは今の世界と、今の日本をどんなふうに伝えるのだろう。


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